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論文出版をめざす生徒理科研究法 | 生徒の理科研究所

1. 論文を読んで研究とは何かを学ぶ
2. 論文出版をめざす生徒理科研究には新規性が必要  ♦
生徒理科研究に求められる新規性とは何か  ♦過去の研究の追試・教科書にある法則の検証・物理定数の測定等にも新規性が必要

3. 研究計画の作成
  ♦新規性と実感可能性のある研究課題をたてる  ♦科学的論理性に貫かれた研究計画をつくる  ♦研究計画をパワーポイントに入れて発表会を行う  ♦適切な対照実験区・対照調査区の設置  ♦高価な分析機器や実験装置がないときの対策  ♦研究の意義、研究結果の新規性の意義とは?
4. その他生徒理科研究に重要なこと
  ♦研究倫理の遵守  ♦ 実験調査の安全な実施  ♦現象の体験・観察と実験・調査技術の習得  ♦実験・調査結果の再現性と統計処理 

5. 中間報告書の作成と発表会(作成中)  ♦中間報告会のためのパワーポイントファイルの作成  ♦生徒理科研究会のためのポスターの作成
6. 論文作成(作成中)  ♦論文執筆のためのパワーポイントファイルの作成  ♦論文の執筆
♦「考察」に何を書けばよいのか?  ♦論文発表に必要とされる研究データ量は?
7. 指導教師には「新規性」の評価と科学的論理の指導、論文の仕上げがもとめられる

1. 論文を読んで研究とは何かを学ぶ

♦生徒は理科の勉強は知っていても、理科研究の経験はほとんどありません。そこで研究に取り組むには、まず、「研究とは何か」について前もってイメージ(見通し)をつくっておく必要があります。そのためのもっとも有効な方法は論文を読むことです。日本学生科学賞の最近の受賞論文(「関連情報」ページ参照)を読むとよいでしょう。論文の構成には未熟さがありますが、研究そのものはしっかりしているものばかりです。各自が読むだけでなく、論文講読演習として、教師による授業指導やグループ講読会により、論文の構成と科学的論理展開法への理解を深めます。大学での研究室ゼミのように、生徒自身による論文紹介を行うのも効果的です。各人が1編だけでなく数編の論文を読み、基本パターンと多様性を理解することが大切です。
♦まず論文を概観しながらつぎのことを確認しましょう。①論文は、研究成果を社会的に公表・記録し、科学の発展と社会に貢献するために書かれたものです。授業単位を取得したり、コンクールで賞をとったり、大学入試を有利にしたりするためにあるのではありません。論文を出版・公表して初めて研究成果は人々のものになり社会の財産になります。②科学論文は読者に効果的に内容を伝えるために、一定の様式に従って書かれています。すなわち、論文は、研究課題(テーマ)、著者名、要旨、はじめに、材料と方法、結果、考察、謝辞、引用文献からなっています。③研究課題(テーマ)は読者が内容をすぐに理解できるように具体的で正確な言葉をもちいて短くあらわされています。④要旨には研究の概要と結論が短くまとめて書かれています。⑤「はじめに」には研究を論文発表する理由、すなわち、文献引用による既知情報のまとめと、新規の課題・問い(疑問)の提起、研究結果と結論の概要が説明されています。⑥材料と方法には、研究の対象・用いた材料・調査地、実験・調査方法・データの取り方、データ処理のしかたが、同じ分野の研究者なら追試できるように書かれています。⑦結果では、まず、実験・調査・理論計算の結果が図・写真・表・グラフや計算式にもとづき説明され、さらにそこから論理的に導かれる結論が説明されています。⑧考察では、結果・結論をまとめた上で、その新規性と学問的社会的意義についての著者の考えが、先行研究や関連情報を引用しながら説明・議論されています。
♦論文は正確に読む、分析的に読む、批判的に読みます。具体的なポイントは以下の4点です。①まず最初に論文の構成要素を理解できるようになることが重要です。論文のどの部分が上記論文要素のどれに該当するのか仕分けし、各要素の内容を上記説明に従い分析・確認する練習を行いましょう。先に述べたとおり、日本学生科学賞受賞論文には、各要素に正確に分けられていなかったり、構成に混乱があったり、一部が欠けていたりしているものもあるので、そのことも分かるようになりましょう。②つぎに、提起された問い(疑問)と実験・調査法、結果と結果から導かれる結論との間にある厳密な論理的関係を理解することが重要です。各実験がどのような問い(疑問)を解決するために行われたのか、実験はその問いに答えるために適切に計画・実施されているか、実験結果から導かれる結論は論理的に正しいか、あいまいな推論や思い込みがまじっていないか、その結論は最初に提起した問いの答えとなっているか、などを検討します。この時、仮に実験結果が別のものになった場合には結論はどのように変化するのかや、疑問に答えるためにもっと別の実験・調査はないか、などを考えることも重要です。③さらに、著者は研究の新規性をどのように主張しているか、研究の結果・結論の意義をどのように主張しているか、をみんなで議論しながら検討すると理解が深まります。④最後に、研究方法のレベルと研究に必要な労力を検討します。研究方法のレベルは、中学から高校3年生までの理科教科書やこれまでの生徒理科研究の範囲にあるか、あるいは高校レベルを大きく超える特殊なものかを検討します。研究に必要な労力は、その研究を行うのにどれだけの人数と時間が必要とされるかを検討します。そして、自分たちでもそのつもりで取り組めば同様の研究が可能か否か、どのようにしたら同等の研究をすることができるかについてみんなで議論しましょう。
♦論文講読から得られる知識や思考能力は、研究課題を考えたり、研究計画を立てたり、実験をしたり、実験結果を解釈したり、論文を書いたりするときに役立ちます。理科研究法や科学的思考法を一般論として説明するだけでは、理科研究経験のない生徒にはほとんど理解できません。具体的事例を用いた論文講読演習により、はじめて知識や能力は身に付きます。ここで重要なことはレベルの高い生徒理科研究論文を読むことです。レベルの低い論文では効果はありません。その意味で日本学生科学賞の受賞論文は適切です。部活であれば毎月一編の論文を読む、探究活動の授業であれば合計で数編の論文を読むことをすすめます。効果的な少人数教育のためには大学院学生等の教育補助者の役割も期待されます。
*英語で書かれた一般研究(大学院レベル)の通常論文(full paper)です。参考にしてください。
・Akagawa H., Hara Y., Togane Y., Iwabuchi K., Hiraoka T., Tsujimura H. (2015):
The role of the effector caspases drICE and dcp-1 for cell death and corpse clearance in the developing optic lobe in Drosophila. Dev Biol. 404(2):61-75. DOI:10.1016/j.ydbio.2015.05.013
・Nagano H., Fukudome A., Hiraguri A., Moriyama H. and Fukuhara T. (2014): Distinct substrate specificities of Arabidopsis DCL3 and DCL4. Nucleic Acid Research 42: 1845-1856.DOI:10.1093/nar/gkt1077
・Sekimura T., Fujihashi Y., Takeuchi Y. (2014):
A model for population dynamics of the mimetic butterfly Papilio polytes in the Sakishima Islands, Japan. J Theor Biol. 361:133-40. DOI:10.1016/j.jtbi.2014.06.029


2. 論文出版を目指す生徒理科研究には新規性が必要

♦論文出版を目指す研究には新規性が必要です。新規性のない研究は論文にすることができません。したがって、論文出版をめざす研究では、研究の当初から新規な結果をもとめて取り組むことが必要です。すなわ ち、研究課題を選定したり研究計画を策定したりするときから、新規な結果を得る見通しがあるか否かを検討しなければなりません。これはいわゆる探究活動との大きな違いです。探究活動は、日常生活の中で疑問に思ったこと、あるいは教科書学習の中で興味や疑問を持ったことを情報収集したり実験したりして詳しく調べてみよう、あるいは自分で実際に確かめてみようというもので、新規性を問うことがないからです。したがって、論文出版をめざす研究を行うには、新規性とは何か、新規な結果とはどのようなものをいうのかという、新規性に関する考察が必須です。

生徒理科研究に求められる新規性とは何か

♦新規性とは既知情報に対する新規性です。大学以上のレベルの一般研究においては、論文出版には全世界的・全歴史的視野での既知情報に対する新規性が暗黙の前提として求められます。しかし、生徒理科研究の場合は、全世界的・全歴史的レベルの新規性は求められません。また、一律の基準もありません。しかし、最低限のレベルとして、「日本語で行われる高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性」が必要です。また、その他の既知情報を参照する場合は、その参照情報を超える新規性も必要です。そして、論文にはどのような範囲で調べたところ新規なのかを「はじめに」とその他必要な個所で明確に述べることが求められます。この条件は、生徒理科研究の特殊性を踏まえた工夫です。
*ここで述べる新規性は生徒の理科研究所の提案する生徒理科研究に必要な新規性です。「生徒の理科」誌への論文投稿に必要とされます。
♦「高校・中学・小学の理科教育を超える」とは、高校・中学・小学の理科教科書(小学5年生から高校3年生までの全理科教科書)と標準的な参考書に書かれていないこと、書かれているがその証拠・適用範囲・具体例が示されていないこと、教科書等に書かれていること以外の証拠・適用範囲・具体例などのことを指します。自ら使っている教科書だけでなく、所属学科・コースの違いに関係なく小学5年生から高校3年生までの全理科教科書をチェックします。標準的な参考書とは高校の授業補助教材としてよく用いられる「~図録」、「図説~」、「~総合資料」などです。
♦「これまでの生徒理科研究を超える」とは、これまでに発表された生徒理科研究論文にはない内容であることです。ここで、これまでに発表された生徒理科研究論文の記録として、「生徒の理科」誌および日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社)と理科研究論文集(静岡県理科教育協議会)、科学の芽賞受賞論文(筑波大学)をチェック・参照必須情報とします(「関連情報」ページ参照)。すなわち、「これまでの生徒理科研究を超える」とは、上記チェック・参照必須情報にある生徒理科研究論文には書かれていないこと、書かれているがその証拠・適用範囲・具体例が示されていないこと、書かれていること以外の証拠・適用範囲・具体例などのことを指します。
*チェック・参照必須情報は、①信頼性の担保、②無料web公開、③2ページ以上の情報量を条件に選びました。先にあげた4つのうち、後者3つは残念ながら査読有り論文誌ではありませんがどれも審査を経た受賞論文集であり、長文概要(論文)が無料web公開されているのでチェック・参照必須情報とします。これまでの生徒理科研究の長文概要・論文としては、この他に全国高等学校総合文化祭自然科学部門論文集(会場配布)と、つくばScience Edge 要旨集(会場配布)、および「未来の科学者との対話」(神奈川大学)があります。しかし、これらは現在のところ無料web公開されていない、あるいは審査を経た論文ではないという理由でチェック・参照必須情報とはしません。各自が必要に応じて利用することとします。また、1ページ以内の研究発表会要旨はその短さのため参照すべき記録とはしません。ここに挙げたもののほかにチェック・参照必須情報とすべき論文誌等があればご連絡ください、検討します。
♦教科書やこれまでの生徒理科研究以外の情報として、理科教育関係団体・学会の論文誌(関連情報のページ参照)、大学レベルの教科書・専門書、自然科学諸分野の入門書・専門書・論文誌、その他一般web情報等があります。これらは研究課題の立案や研究計画の作成に有用な情報です。しかし、これらは生徒理科研究論文ではない、日本語で書かれていない、または、無料web公開されていないという理由で、「生徒の理科」のチェック・参照必須情報とはしません。各自が必要に応じて利用することとします。なお、大学教員等(研究者)に口頭で教えてもらう時には必ず関係文献を紹介してもらい、その文献を参照情報とします。
♦高校より高いレベルの教科書情報を望む生徒は、物理チャレンジ・オリンピック、化学オリンピック、生物学オリンピック、地学オリンピックのための推薦書籍(「関連情報」ページ参照)を利用するとよいでしょう。大学1~2年生レベルの教科書です。高校教科書に書かれている内容がより詳しく丁寧に書かれている場合が多くあります。しかし、これらはチェック・参照必須情報ではありません。あくまでより高いレベルの教科書情報にもとづいて研究したいと望む生徒が必要に応じて利用するものとします。
♦研究計画の作成においては、高校・中学・小学の理科教育とチェック・参照必須情報を調べ、自らの研究に関係する情報は必ず引用しながら、これまでに何が分っているのかを説明し、つぎに、既知情報と区別しながら自らの研究の新規性、すなわち、何を新しく明らかにしようとするのかを説明します。チェック・参照必須情報でない論文・書籍等の場合でも、その情報を研究に利用・参照するときには引用するとともに、その情報と区別しながら自らの研究の新規性をのべます。結果的に、どんな場合にも自らの研究には引用情報を超える新規性、すなわち、引用情報には書かれていないこと、書かれているがその証拠・適用範囲・具体例が示されていないこと、書かれていること以外の証拠・適用範囲・具体例などの新規性が必要です。
♦生徒理科研究のレベルで、全世界的・全歴史的な視野での既知情報に対する新規性を求めることは非現実的です。多くの専門論文誌は無料web公開されておらず、学会に入会したり、購読料を支払ったりしなければ見られません。電子ファイル化されていない文献もたくさんあります。そしてこれら論文の多くは英語その他の外国語で書かれています。これらの文献は、科学文献データベース(ほとんどのものが有料)で検索したり、各分野の総説や関係論文の引用文献にあたることにより、はじめてその存在がわかります。その調べ方は大学で学びますが、一般的にはその分野の研究者(大学教員)でなければわかりません。生徒理科研究のレベルでは自分達の知らない大きな世界があることを自覚しているだけでよいでしょう。大学ではまず専門分野について高校までとは比較にならない体系的で深い知識を学びます。最新のさまざまな実験・調査方法やデータ処理法を学びます。また、教養としてさまざまな社会の現状やしくみについて学びます。その結果、みなさんの視野は格段に広がり、科学の世界にも、技術の世界にも、また、社会的にも多くの解明すべき疑問や解決すべき課題、実現すべき夢があることを知るでしょう。その上で研究室に所属し、特定分野の専門研究に従事します。生徒の皆さんはそのときにこそ全世界的・全歴史的視野に立った先端研究に取り組むことになります。楽しみにしていましょう。
*科学文献データベース 生物学(Biological Abstracts、英語)、化学(Chemical Abstracts Service、英語)、医学・生命科学(PubMed、無料・英語)、物理学、地学、数学、日本で発行される科学技術情報(J-STAGE、日本語・英語)、日本農林水産業(AgriKnowledge、日本語)
♦生徒理科研究発表会で見られる現在の生徒研究の共通した弱点の一つが、新規性のあいまいさです。発表会が探究活動の報告会ではなく、研究発表会あるいは論文発表会であるためには、研究の新規性に関する明瞭な説明が必要です。そして、研究の新規性の説明責任は第一に発表者(研究を行ったもの)自身にあります。研究計画策定の段階から研究の新規性を明確にして研究を行い、研究発表会等ではどのような範囲で調べたところ新規なのかを明瞭に記述・述べるようにしましょう。なお、(大学以上の)一般研究論文では「どの範囲で調べたところ新規である」などと書いたものはほとんどありません。しかし、誤解してはいけません。一般研究では全世界的・全歴史的な新規性が当然の前提とされているからです。「全世界的・全歴史的」な新規性がない場合やその確認ができない場合は必ず「どの範囲での新規性なのか」を述べなければなりません。
♦生徒理科研究の新規性の判断の基準となる既知情報の範囲を上記のように明確に規定することにより、研究開始時に必要な情報収集の範囲が生徒や教師の手の届く範囲となります。その結果、既知情報の大海に溺れることなく、生徒・教師は研究課題の新規性を自らが判断できるようになり、既知情報と比較しながら、自分なりの独自の視点や方法をもちいた研究課題を工夫する余裕が生じます。この余裕は創造性ある研究課題の設定に重要なものです。
♦また、生徒理科研究論文に新規性とこれまでの生徒理科研究論文の引用とを求めることにより、生徒理科研究は論文の積み重ねにより次第に発展するものとなります。すなわち研究史が生じます。その結果、各論文には生徒理科研究の発展にどのような点で貢献したのかという研究史における位置づけと評価が生じます。こうして、一般の科学研究が全世界的全歴史的視野での科学研究の発展をめざすのと同様に、高校・中学生徒の理科研究は生徒理科研究の発展をめざすものとなります。

過去の研究の追試、教科書にある法則・実験の検証、物理定数の測定等にも新規性が必要

♦追試・法則の検証・定数の測定の場合にも、研究結果を論文として出版するには新規性が必要です。新規性のないものは論文にはできません。したがって自分の研究のどの点に新規性があるのか、よく考えて主張することが必要です。以下はその具体例です。
♦過去に報告のある研究の追試の場合、研究結果が先行研究と異なった時は新規性がありますが、同じ結果になった場合は新規性はありません。しかし過去の研究と異なる範囲・条件や異なる材料について、あるいは異なる方法を用いて同様の研究を行い、過去の研究より精度の高い結果を得た場合、過去の研究と同様の結論をえたがそれにより結論が成り立つ範囲・条件・対象を広めた場合、過去の研究とは異なる結論を得ることにより過去の結論が成り立つ範囲・条件・対象を限定した場合、あるいは過去の研究の範囲・条件・材料から外れた場合にはどのような違いが出るのかを明らかにした場合、これらの研究には新規性があります。
♦教科書にある法則・実験の検証や追試の場合、教科書にある範囲・条件・対象について同じ方法で実験して予測された通りの結果を得たばあい、それだけでは新規性はありません。しかし、教科書に載っていない範囲・条件・対象・方法の場合は、その法則・実験が成り立つ新しい範囲・条件・対象・方法を明らかにしたという新規性が主張できます。一方、特定の範囲・条件・対象・方法において法則が成り立たなかった場合あるいは一定の誤差が生じた場合は、法則・実験の成り立つ範囲・条件・対象・方法を限定したことになり、その研究は新規性を持ちます。まれに教科書と同じ条件・範囲・対象・方法で実験をしても教科書とは異なる結果を得ることがあります。この場合、教科書の記述がそのままでは正しくない可能性があり新規性を主張できます。すなわち、既知の法則・実験の検証は、その正しさを確認することよりも、誤りや不十分さの発見、成り立つための条件の明確化にこそ価値があります。結果の解釈においては、既知の法則・実験に合う部分よりも外れる部分に注目することが大切です。
♦「過去の偉大な実験」や「典型的な実験」あるいはその「追試実験」として教科書に紹介されているが具体的な実験方法の記述がないものについて、自分で工夫して実験方法を確立したり独自の装置を作製して追試を行い、過去の研究と同様の結果を得た場合、結果自体には新規性はありませんが、「実験方法の工夫・独自装置の作成」という点を新規性として主張することができます。この場合、実験方法の工夫・独自装置の作成の意義、たとえばこの方法・装置をもちいてどのような新規の研究が可能となるのかなどを述べることが必要です。また、まれに間違いのない条件・範囲・対象・方法で実験をしても教科書とは異なる結果を得ることがあります。この場合、教科書の記述がそのままでは正しくない可能性があり新規性を主張できます。
♦物理定数等(山の高さ・惑星の大きさ・色の濃さ・音の大きさ・物の形・数などを含む)の測定実験の場合、既知の方法や既存の装置を用いて測定し、既知の測定値に近い結果を得ても新規性はありません。しかし、自分なりの工夫を加えた実験方法や装置により測定した場合には、「自分なりの工夫を加えた実験方法や装置」に新規性を主張することができます。この場合、この方法・装置の測定値の精度や使用条件を明らかにし、その意義、たとえば、この方法・装置を用いてどのような新規の研究が可能となるのかなどを述べることが必要です。


3. 研究計画の作成

新規性と実感可能性があり、研究方法のしっかりした研究課題をたてる

♦研究課題の設定において重要なことは、「新規性」、「実感可能性」、「研究方法のレベルと必要な労力」です。
♦まず重要なことは新規性です。「他人と違うこと・他人が気が付かないこと」や「先人と違うこと・やっていないこと」を研究します。「他人と違う」ためには独自性を出すとよいでしょう。独自の実験系をつくる、独自の調査地を持つ、あるいは、独自の材料・対象・方法を選ぶなどです。地域的に特殊な対象・問題から課題をみつけることもよいアイデアです。
♦研究課題を探すもっとも現実的でよい方法は教科書の中から探す方法です。ここでいう教科書とは小学5年生から高校3年生までのすべての理科教科書です。多くの高校生が研究課題を決める高校1年生のものではありません。自分の興味のある、あるいは得意な分野を選び、教科書に何が書かれていて何が書かれていないのかを考えながら、見出し・写真・図を見たり本文を読んだりして新規性のある独自課題を考えます。とくに、教科書にある「実験」や「探求活動」の中から興味のあるものを選び、そこに書かれている実験(測定)方法を用いて独自性と新規性のある研究課題を考えるのがよい方法です。同じ実験(測定)方法で、「より細かく緻密に調べる、より広い・異なる範囲を調べる、異なる材料や現象を研究対象にする」ことにより教科書には書かれていない新しい特徴・傾向を見つけたり、法則の成り立つ範囲を拡大あるいは限定したりすることができます。また、同様の実験を「別の条件や違う環境」で行ったり、「別の実験と組み合わせて」行ったりすると他の現象との関係性を明らかにすることができます。さらに教科書にある実験を行う過程で発見した教科書には説明されていない現象を研究することもよい考えです。研究課題は新規性だけでなく、おもしろさや意義も考えて選びましょう。すなわち、その独自性に誇りを持ってとりくめる課題がすばらしいです。教科書と同じ実験(測定)方法を用いると多くの利点があります。教科書やその解説書に実験(測定)方法の詳細や注意点が説明されているので、事故や間違いを避けることができます。典型的な実験結果が掲載されているので、自分の実験(測定)技術の確かさを確認することができます。また、実験装置・器具・薬品が授業用としてすでにある場合は、研究経費を少なく済ますことができるかもしれません。
♦教科書だけ見ていても興味を持てる研究課題が見つからない場合は、日常生活の中から探すのがよい方法です。日常生活で見たり利用したりしているものの中には、そのしくみやはたらきを知らないものが無数にあるはずです。大型スーパー・ホームセンター・家電店・ドラグストア・デパートなどに行って商品を見て回りましょう。また、博物館・動物園・植物園・水族館に行くのも刺激的です。野山や町中を歩くのもよい方法です。そこで目にするものを、「なぜ」、「どのようなしくみで」、「どのようにして作ったのか」、「どこから持ってきたのか」などの疑問(問い)を考えながら改めてよく観察すると、多くの研究課題が浮かんできます。ここで重要なことは、いくら興味ある課題であっても、それを研究して問い(疑問)に答える方法(研究方法)を知らなければ研究することはできないことです。したがって、興味をもった複数の課題の中から、小学5年生から高校3年生までの理科教科書の実験・探究活動あるいは過去の生徒理科研究(「関連情報」ページ参照)にある研究方法を用いて研究することができる課題を探すと、研究方法のしっかりしたよい課題に行き当たるでしょう。
♦他者がどのような研究課題に取り組んでいるのかを知ることも、研究課題を決めるのに参考になります。自分の興味のある分野、あるいは得意な分野で、これまでにどのような生徒理科研究が行われて来たのかを、日本科学賞受賞論文(「関連情報」ページ参照)から選び、読みましょう。具体的な研究課題の立て方や、研究方法が参考になります。この際忘れてはならないことは、過去の研究とは異なる研究、新規性のある研究課題を考え出すことです。上の「教科書の中から探す」で述べた方法を参考に、新規性のある研究課題を定めます。
♦部活などで先輩の先行研究を継承・発展させる場合や、他のグループによる先行研究がある研究課題に取り組む場合は、先行研究をのりこえる「工夫」が必要です。この場合も、「より細かく緻密に調べる、より広い・異なる範囲を調べる、あるいは異なる材料・現象を研究対象にする」などして新しい特徴・傾向を見つけたり、「現象のことなる側面を調べる、別の実験方法・分析方法で調べる」などしてより深い解析を行ったり、「別の条件・違う環境」でおこなって他のこととの関係性を研究したりすることにより、「新規性」のある研究を行うことができます。
♦こうしてあげた研究課題候補について、先に述べた「新規性」を検討します。小学5年生から高校3年生までの全理科教科書や標準的な参考書にあたったり、チェック・参照必須情報である過去の生徒理科研究をチェックしたりして、①研究課題候補に関係する情報や研究にはどのようなものがあるのか、②何がわかっており、何がわかっていないのか、③研究課題候補がどの様な点で新規性があるかのを具体的に詳細に明らかにします。教科書・参考書・過去の生徒理科研究に有用な情報がない場合は、チェック・参照必須情報以外の入門書・専門書・論文等を参照しなければなりません。その場合は、その参照情報をもこえる新規性が必要になることを忘れてはいけません。こうした新規性の検討の結果、当初の研究課題候補と同様のものが教科書・参考書や、先行研究・その他参照情報にすでにある場合には、研究課題の変更が必要です。しかし、当初のアイデアと同じものがあるからと言ってそれを捨ててしまう必要はありません。むしろ上手に変更することにより、その先を行く研究になったり、より独創性の高い研究になることがよくあります。チャンスだと思い徹底的に考えて工夫しましょう。
♦ここで各研究課題候補について、その研究課題あるいは関係する分野を研究する意義を2~3行で簡潔に明らかにしておきましょう。ここでいう意義とは、学問的(生徒理科研究における)意義や社会的(人間生活の向上、生命の尊重、自然環境の保護における)意義です。教科書・参考書や先行研究にあたり、関係する情報を詳細に把握した後では、その研究の意義を述べることは比較的容易でしょう。研究の意義に個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は含めません。下の「研究の意義の節」参照。
♦研究課題を定める上で次に重要なことは、「実感可能性」です。自分がその対象・現象を繰り返し観察・体験し十分味わうことができる課題、目の前になくてもありありとその現象・対象をおもい描くことができる課題を選ぶことです。「自分が興味を持ったことを研究しよう」とよく言われますが、ただ言葉を聞いてちょっと興味をもっただけのことを研究してはいけません。言葉でしか理解できないことを研究することは不可能です。興味を持って考え続けられること、実感をもってとらえられること、繰り返し観察・体験し味わうことのできることを課題とすべきです。そして、研究を始めたら(あるいは、研究計画を作るときは)、まず最初に、問題の対象・現象を何回も体験・観察し、味わうことが大切です。頭の中だけで考えたり、字面だけ見て考えたりしてはいけません。注意深い体験・観察をくりかえすと、さまざまな「新規」のアイディアや疑問(問い)がわいて来るはずです。
♦研究課題を定めるうえで最後に重要なことは「研究方法のレベル」と「必要な労力」です。論文出版をめざす研究は、「すくなくとも高校で可能なレベルの科学的に信頼できる方法」で、「高校生レベルにふさわしい徹底的な実験的追究が」がなされることが必要です(「論文査読」ページ参照)。生徒理科研究発表会の発表の中には、研究課題は面白くても研究方法のレベルが低かったり、徹底的な実験的追究に欠けていたりして、小学生の夏休み自由研究程度あるいはそれにもおよばないのもがあります。また、課題に対する理解が研究課題として取り上げるレベルに至っていなかったり、科学研究できる部分とできない部分が正しく切り分けられてないために科学研究により答えが得られる課題となっていなかったりするものもあります。「高校生にふさわしいレベルの科学的研究方法や実験的追究」がない、あるいは、それを考え出すことができない課題は研究課題にすることはできません。小学5年生から高校3年生までの理科教科書や過去の生徒理科研究を参考にして高校生にふさわしいレベルの研究が行える研究課題を選択しましょう。しかし、このことは高校のレベルを大きく超える最新の研究方法や高価な実験装置を利用した研究がよいといっているのではありません。小学5年生から高校3年生までの理科教科書や過去の生徒理科研究にある方法、あるいはそれを少し発展させた方法を駆使して、創造性ある、あるいは、鋭く切り込んだ研究を行うのがもっともよい方法です。大学レベルの本格的な研究方法はそれを専門とする大学に進学すればだれでも普通に経験することができるので、個人的に世界的レベルの一般研究に取り組んでいる特別な生徒以外は、高校生があえてチャレンジする必要はないでしょう。
♦「必要な労力」は、その研究を行うのに必要な人数、日数・時間です。研究は教科書実験のように手順に沿ってやれば一定時間後に必ずデータが得られるわけではありません。予定した通りに進まない、失敗してやり直しをする、様々な実験条件を試行錯誤して適切な条件を探し当てるなど、多くの労力が必要です。研究をやり遂げるには、研究に必要な労力と自分たちが準備できる労力との間のマッチングが必要です。一般に投入労力の少ない研究はたいしたものにはなりません。データ量の多い通常の論文(full paper、図表7個以下)の出版を目標とするなら、分野や研究課題にもよりますが、研究計画の作成から論文投稿・出版受理までの取り組みに2年間(1日2~3時間を140日)程度かけることが必要でしょう。データ量の少ない短報(short report、図表3個以下)ならその半分以下でも可能です。自分たちが準備できる時間・人数はどれだけかを検討し、必要なら研究課題を縮小し、完結可能な研究課題にする必要があります。あるいは、取り組む生徒数を増やしたり、先輩から後輩へと同一課題を引継いだりする必要があります。ただし、これには指導教師の強い情熱と指導力が必要です。この点で、部活で取り組む場合は研究時間・人数の点でも、先輩から後輩への引継ぎの点でも、指導教師の情熱の点でも、論文出版をめざす研究が可能です。
♦ 実際には、いくつかの研究課題候補を挙げ、それらについて、「新規性」・「意義」、「実感可能性」、「研究方法のレベル」と「必要な労力」を具体的に検討して最終的に2-3個の研究課題候補を定めます。

科学的論理性に貫かれた研究計画をつくる

♦次は、各研究課題候補について、具体的な研究計画を立てます。ここで重要なことは科学的な論理性に貫かれた研究計画を立てることです。研究計画には、①「研究課題の設定」、②明らかにしようとする「問い(疑問)の設定」、③問い(疑問)に答えるための「実験・調査計画(材料と方法)と想定される結果」の作成、④「結果から導かれる結論」の作成の4つが必要です。この4つはどれかを先に行わねばならないということはありません。どれからはじめても結構です。とりあえず思い浮かんだアイディアからはじめて、行きつ戻りつ考えていくうちに4つは同時に定まります。具体的な実験・調査計画(材料と方法)のない研究課題は無意味だし、明らかにすべき問い(疑問)のない実験・調査計画(材料と方法)は無意味だし、結果と結論のでない実験・調査計画(材料と方法)は無意味だし、研究課題のない問い(疑問)は無意味だからです。いずれにせよ、最終的にこれら4つは科学的論理性に貫かれたもとのなっていなければなりません。互いに整合性のないバラバラなものであってはなりません。なお、実験・調査計画(材料と方法)とは、実験・調査の対象・材料、具体的な実験・調査手順、データの採り方、データの処理方法のことです。この手順・方法により実験・調査が行われ、結果は表・グラフ・写真・数式などで表わされます。最後に結果に基づき結論が論理的に導かれます。科学研究では、このような実験・調査計画のことを「材料と方法」と呼びます。
♦研究計画の作成においてまず最初に行うことは「問い(疑問)の設定」です。教科書にはまず「仮説を立てる」としていますが、これは間違いです。「仮説」でななく「問い(疑問)」が重要です。代表的な「問い(疑問)」は、「~かもしれない・~ではないか・~に違いない?」というyes/no疑問です。「問い(疑問)」にはこの他に、「なぜ(why)?、どのようなしくみで(how)?、何が・何を(what)?、どのような(what)?、いつ(when)?、どの程度(how)?、どちら(which)?、どこ(where)?」のWH疑問が含まれます。「問い(疑問)」はこれらの内、どれでも結構です。考えられる疑問をできるだけ多く出します。その中で最初にとりくむ疑問を選び、それに答えるための実験・研究計画(方法)を作ります。すでに先行研究がある場合は新規性のある問い(疑問)が必要であることを忘れてはいけません。前に述べた「先行研究をのりこえる工夫」を参考に新規性のある問い(疑問)を考えましょう。なお、科学研究においては、「問い(疑問)~に答えること」あるいは「問い(疑問)~を明らかにすること」を研究目的と言います。したがって、「この研究の研究目的は何か」は、「この研究の問いは何か」と同じ意味です。言葉を替えれば、「この研究の研究目的」とは「この研究で明らかにしようとすること」ともいえます。「研究目的」は研究の学問的・社会的意義や応用目的のことではないので、誤解しないようにしましょう。
♦「問い(疑問)」が思い浮かばない時は、課題の対象・現象を自分の眼で繰り返し観察・体験するのがよい方法です。眼前になくてもありありとその現象・対象をおもい描くことができるまで徹底的に観察・体験しましょう。観察しながら、「なぜ(why)?、どのようなしくみで(how)?」の問いを深く考ると、「ああではないか、こうではないか」といった、多くのアイデア「問い(疑問)」が湧いてくるはずです。様々な異なる視点からできるだけ多くの疑問を出しましょう。なお、WH疑問の内、「なぜ(why)?」と「どのようなしくみで(how)?」は新規の具体的なアイディア(yes/no疑問)を考え出すのに役立つ特に重要な疑問で、研究の原動力となる疑問です。研究計画作成時だけでなく、研究実施中にも、結果をまとめるときにも繰り返し問いかけましょう。「問い(疑問)」が思い浮かばない時の対策のもう一つは、類似の課題にとりくんだ先行研究(論文)を参照することです。問題の現象・対象に対し他者がどのような「疑問(問い)」を提起し研究に取り組んだかを知れば、きっと自らの「疑問(問い)」を見つけることができるはずです。
♦つぎは具体的な「実験・調査計画(方法)と想定される結果」、「結果から導かれる結論」の策定です。この時、1つの実験・調査計画(方法)で複数の疑問に答えようとしてはいけません。問い(疑問)1つずつに対してそれぞれ「実験・調査計画(方法)と想定される結果」、「結果から導かれる結論」を作りましょう。まず「実験・調査計画(方法)」です。前述の「研究課題の新規性」の検討で調べた教科書実験・先行研究や関連情報を参考に、「問い(疑問)」に答えることのできる「実験・調査計画(方法)」を考えます。「想定される結果」は表・グラフ・写真・数式などで表します。どのような表・グラフ・写真・数式等になるのか、具体的な結果を想定します。この時、それぞれの実験・調査計画(方法)について必ず複数の異なる(対立する)結果を想定し、どの結果がえられれば何が言え、何が言えないのか、別の結果が得られれば、何が言え、何が言えないのかを明らかにし、複数の異なる(対立する)「結果」と「結論」を想定します。
♦この段階で重要なことは、「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と「結果から導かれる結論」とのあいだの論理的一貫性です。したがって、最初に「問い(疑問)」にたいする答え「結論」を考え、その「結論」を導くための「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考えても結構です。あるいは逆に、最初に「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考え、それに合わせて、「問い(疑問)」と「結果から導かれる結論」を考えても構いません。重要なことは、「実験・調査」の「結果」から論理的に導かれる「結論」が「問い(疑問)」に対する答えとなっていることです。「結論」が、「問い(疑問)」の答えとなっていない場合、あるいは論理に不十分性がある場合は、「実験・調査計画(方法)」の変更・追加、あるいは、「問い(疑問)」の変更が必要です。。「最後に「研究課題」を、策定した「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と「結論」に対応する適切な表現に変更して、研究計画は一応の完成となります。
♦「問い(疑問)」に答えることのできる「実験・調査計画(方法)」を考え出せない場合は、その「問い(疑問)」は現時点では研究することができません。このときは「問い(疑問)」を変更する、あるいは、「研究課題」そのものを変更する以外にありません。
♦なお、上に述べた「問い(疑問)に対する答え(結論)がたとえばこれ」、または、「答え(結論)はこれかもしれない・これではないか」として挙げる予想される結論を「~である」のように断定型で述べた文(命題)を「仮説」といいます。一部の教科書には、予想される実験・調査結果のことを仮説としていますが、これは間違いです。仮説は問い(疑問)たいする予想される答え(結論)のことを言います。繰り返しになりますが、「仮説」を特定の既知情報に合うものだけに絞ろうとしてはいけません。むしろ、「これかもしれないし、あれかもしれない」と複数の異なる(対立する)「仮説」あるいは新規の「仮説」を考え出す発想の自由さにこそ創造性は宿ります。なお、教科書では研究課題の設定につづいて、仮説を設定するとしていますが、これは不適切です。必要なのは、問い(疑問)を設定することです。上の仮説の説明の通り、仮説ではYes/No質問しか問い(疑問)として設定できませんが、問い(疑問)とすれば、より広くWH質問を問い(疑問)として設定することができるからです。また、研究には、後の研究のための基礎データをそろえたり、Yes/No質問(あるいは仮説)を導いたりするための観察・記載・調査研究など(仮説生成型研究という)も含まれるからです。
♦一つの「研究課題」の下にさまざまな複数の「問い(疑問)」を提起し、それぞれの「問い(疑問)」に対応する「実験・調査計画(方法)」を作ることを常に考えましょう。それには、「なぜ(why)」疑問と「どのようなしくみで(how)」疑問とが役立ちます。研究が発展するにつれて「問い(疑問)」も増え、それに対応した「実験・調査計画(方法)」も増え、実験・調査結果に基づく「結論」も増えることになります。特に、ある方法を用いて実験を行い明瞭な結果と答えが得られた場合はチャンス(幸運)です。明瞭な答えの得られる実験方法は多くはないからです。この時は、同じ方法を用いて可能なさまざまな実験を考え、問題の現象を徹底的に深く明らかにしましょう。この徹底性が、他者の追随をゆるさない研究をすすめるためのコツです。
♦こうして研究計画の作成が終われば、各研究課題候補のおもしろさや発展性が理解できるようになり、どれを選ぶのかは自然と決まるでしょう。研究計画の作成は「創造」過程そのもので、重要な研究過程です。よく考えながら、あるいは様々な人と議論しながらアイディアを膨らませ、わくわくして実験に取り組めるような計画を立てましょう。
♦研究計画を立てる時、さまざまな先行研究や、専門書、ネット情報等を参考にすれば、より深い知識をもとに研究計画を立てることができます。しかし、その時には、参考にした情報を超える新規性が研究に必要となることを忘れてはいけません。専門書にすでに書かれていることをただ再現するだけの実験は研究とはいえません。

研究計画をパワーポイントに入れて発表会を行う

♦研究計画作成の最後の段階は、作成した研究計画をPowerPointに入れ、文書化することです。文章は箇条書きとします。研究計画の発表会を行うのもよいでしょう。
♦研究計画書は次の手順で作成します。(「論文投稿」ページの「投稿原稿作成法」を参照)
①表題ページ 研究課題と、生徒名、生徒の所属先、指導教師名、指導教師の所属先をかきます。
②研究目的ページ この研究で明らかにしようとする「疑問(問い)」(1~2行程度)と、「実験・調査計画の概略」(1~2行程度)を書きます。先にも述べたように科学研究でいう「研究目的」とは、「問い(疑問)~を明らかにすること」です。したがって、研究目的は「疑問(問い)~を明らかにする」とかきます。「仮説」は書きません。「実験・調査計画の概要」と「問い(疑問)~を明らかにすること」とをあわせて「研究目的」ということもよくあります。なお、一つの研究課題のもとに複数の実験・調査計画がある場合は、研究目的ページに、研究目的全体をまとめる「研究目的」(1~2行)を書き、その下に各実験・調査計画に対応する「研究目的」を箇条書きで書きます。
③実験・調査計画(材料と方法)ページ 実験・調査計画を具体的・詳細に書きます。研究の対象や材料、実験方法、用いる薬品、装置、データのとり方と処理方法等を書きます。なお、複数の実験・調査を行うときは、各実験・調査ごとに、③④⑤をセットで書きます。③④⑤は先に述べた「研究計画を立てる」のセクションに対応します。
④想定結果ページ 実験・調査から想定される結果を写真(この段階では手書き図)、表、グラフなどで表します。必ず、1つの実験・調査に複数の異なる(対立する)結果を想定します。
⑤想定結論ページ 各想定結果について、どの結果が得られれば何が言え、何が言えないのか、別の結果が得られれば何が言え、何が言えないのかという「想定結論」を文章で表します。「想定結論」は、研究目的にあげた「疑問」に対する想定される「答え」となっていなければなりません。異なる想定結果毎に、ことなる想定結論を書きます。なお、科学論文では、「はじめに」で提起した疑問(問い)と、研究結果のまとめと、疑問(問い)に対する結果にもとずいた「結論」のことを「要旨」といいます。
⑥想定考察ページ この研究で明らかになる新規性について説明し、その学問的意義や社会的意義を書きます。複数の実験・調査計画を含む場合は、考察(総合)ぺーじとし、再度、各計画について「想定される結論」を箇条書きし、その下に、研究全体で明らかになる新規性と意義を書きます。
⑦「はじめに」ページ この研究を行う理由を書きます。まず、この研究で問題にする材料・現象を1-2行で紹介し、研究課題の学問的・社会的意義を1-2行で延べます。つづいて、先行研究と関連情報にもとづきこの研究の研究課題と疑問(問い)の新規性(必要性)を説明します。特に、これまで何がわかっており、何が分っていないのか、この研究で新しく何を明らかにするのかについて説明します。新規性のレベル(どのような範囲を調べたところ新規なのか)を明瞭に述べましょう。このページは、先に述べた「新規性」のセクションと「研究課題を立てる」と「疑問(問い)の設定」のセクションに対応します。個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は書きません。生徒理科研究発表会では「はじめに」に「仮説」を書いているものをよく見かけますが、前述どおりこれは誤りです。「はじめに」には「疑問(問い)」を書きます。
⑧最後に、スライドの順序を変えて①⑦②③④⑤⑥とします。
♦研究計画が出来上がると、再度、研究計画の科学的論理性のチェックを行います。研究計画全体を見て、「研究課題」「疑問(問い)」「新規性の説明」「研究・調査計画」「想定される結果」「想定される結論」「想定される考察」が一貫した科学的論理で貫かれているか否かを検討します。問題があれば、直します。これで、一応の研究計画は完成です。
♦研究計画の発表会を行いましょう。発表は長くても12分程度におさめ、質疑応答時間を十分にとって他者の意見を聞きます。スライドの間違い、研究計画の修正・追加すべき箇所、より詳しく勉強すべき箇所、より丁寧に説明すべき箇所等を見つけることが大切です。発表会でしゃべるだけでも問題点に気が付きます。発表を聞いてくれた他者の質問や出された意見をもとに、スライド内容や話す内容を改善します。最後に、発表会の準備でもう一つ重要なことは聴く人の知識レベルを想定して発表内容や方法を準備することです。使用する専門用語のレベル、中心的に話す内容、話し方を相手に合わせて変えます。知識レベルの高い人には、専門用語を多用して詳しく話せば、正確で詳しい内容を伝えることができます。しかし、知識レベルの低い人にはそれでは伝わりません。専門の大学教員や高校教師に話す場合、同学年の他生徒や専門外の教師に話す場合など、聞く人のことをよく考えて準備します。専門知識のある聞き手には専門用語をもちいて伝えると、正確な内容で多くの情報を伝えることができます。しかし、専門知識のない人には、専門用語が多いと話が伝わりません。一般的には難しい内容を易しい言葉をもちいて正確に伝える発表がすぐれた発表です。

適切な対照実験・対照調査区の設置
高価な分析機器や実験装置がないときの対策

♦大学とは異なり高校・中学は教育機関であり、高価な分析機器や装置がないのが普通です。しかし、研究の中で、どうしても一定の分析装置や設備が必要になることがあります。そのときには、2つの方法しかありません。1つは、そのような設備をもっている大学や研究機関に依頼して実験をしてもらう、もう1つは、専門の会社等に依頼して分析等をしてもらうことです。大学の主要な任務は研究と(大学)教育と思われがちですが、実は社会貢献ももう一つの重要な任務です。実際、多くの大学の理念を調べるとほとんど(たぶん、すべて)の大学が社会貢献を挙げています。生徒理科研究の支援はこの社会貢献の重要な内容です。コネや有力な紹介者の有無は関係ありません。最寄りの大学に問い合わせてみてください。快く対応してくれる大学は多くあると思います。国公立・私立を問わずにです。専門の会社等は料金を払って分析等を依頼するもので、ホームページ等からさがすとよいでしょう。論文には、「材料と方法」に方法とともに依頼先を必ず記載します。無料でお願いした場合はさらに「謝辞」に書きます。有料で依頼した場合は「謝辞」に書く必要はありません。
♦もう1つは、理科教育系の雑誌やこれまでの生徒理科研究の報告書、あるいはインターネット等で紹介されている情報をもとに簡易型装置を手作りすることです。手作りすると、装置の性能はいまいちかもしれませんが、研究目的に必要な精度があればこれで十分で、研究の結論にあやまりは出ません。自分で装置をつくると、研究は格段に自由になるし原理も理解でます。この場合は、装置作製のための情報源は必ず論文に引用し、さらに自分で工夫した部分がある場合は、論文にそのことを書きます。これまでに発表のないはじめての簡易型装置の場合は、その作製自体が論文になるかもしれません。

研究の「意義」、研究結果の新規性の「意義」とは?

♦意義とは、すでに価値が認められている他のこととの関係性をさします。したがって意義を書くとは、すでに価値が認められている他のこととどのような関係があるのかを述べることになります。では、すでに価値が認められていることとはなにか。一般に、科学論文において共有される価値とは、学問(科学・技術)の内容的発展、人間生活の向上、生命の尊重、自然環境の保護の4つです。したがって、一般的に言えば、研究の意義や新規の研究結果の意義を述べるとは、それが学問の内容的発展にどのように役立つのか、人間生活の向上にどのように役立つのか、生命の尊重にどのように役立つのか、あるいは自然環境の保護にどのように役立つのかを説明することです。だだし、生徒理科研究の場合は、学問の内容的発展にどのように役立つのかは、生徒理科研究の内容的発展にどのように役立つのかと言いかえることができます。すなわち、これまでの生徒理科研究になにを付け加えたのか、どのような修正の必要性を指摘したのか、あるいは、今後の生徒理科研究にどのような影響を与えるのかをのべることになります。なお、このほかによくある意義の説明は、「将来の研究計画のための基礎データをとる、あるいは実験・調査方法を確立あるいは習得する」など、将来の研究のための準備を強調するものがあります。これは研究の初期段階の途中発表などによく見られるものです。しかし、その準備研究自体に独立した意義がなく、その結果を用いて本来の研究に取り組まなければ意味がない場合は、研究発表会での発表はできますが、論文出版の意義とすることはできません。
♦現在の生徒理科研究発表会や論文コンクールで、研究あるいは新規の研究結果の学問的(生徒理科研究における)意義を述べている発表はほとんどありません。あるのは受賞論文に対する審査委員の講評だけです。研究の意義は、まず第一に研究を行ったもの(あるいは発表者)自身が述べることです。研究の意義を考え、自ら主張できるようになりましょう。


4. 生徒理科研究指導の上で重要なこと

実験・調査の安全な実施

実験・調査を安全に行うこと、事故を起こさないこと、廃液処理などで環境汚染を起こさないことなどは、理科研究を進めるうえでも、生徒教育のためにも極めて重要です。以下の書籍を紹介します。
①理科の実験安全マニュアル 左巻健男・山本明利・石島秋彦・西潟千明 東京図書
②第7版 実験を安全に行うために 化学同人編集部 化学同人
③新版 続実験を安全に行うために 化学同人編集部 化学同人
この他に、多くの大学が独自の「安全マニュアル」を作成し、実験研究の安全確保と社会責任を果たすことに取り組んでいます。いくつかの大学がweb上に公開しているので、これも参考になります。

研究倫理の遵守

♦「研究」が社会的に研究として認められるためには、研究倫理に従うことが不可欠です。研究倫理に反する「研究」は研究発表会で発表することも研究論文として出版することもできません。「生徒の理科」誌では以下の条件を満たす研究のみ、論文として受け付けます。
①研究倫理(「科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得ー」)を遵守している。また、中等教育における研究倫理:基礎編(一般財団法人 公正研究推進協会)を参考にしてください。*ただし、「中等教育における研究倫理:基礎編」は、「生徒理科研究に必要な新規性と、チェック・参照必須情報」に関して「生徒の理科」とは考え方が異なるので、この点については注意が必要です。
②遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子伝子組換え生物等規制法動物実験等の実施に関するガイドライン人を対象とする医学系研究に関する倫理指針個人情報保護法を遵守している。
③著者または著者の所属組織が営利企業等から援助・便宜を受けた場合(利益相反)、そのことによって研究の客観性・公正性がゆがめられていない。
④論文に、第3者の権利を不当に侵害する、または、財産に不当に損害をあたえる情報、または、その可能性がある情報を含んでいない。また、編集部が生徒理科研究論文としての出版にはふさわしくないと判断する内容を含まない。

現象の体験・観察と実験・調査技術の習得
実験・調査結果の再現性と統計処理

♦実験・調査には再現性が必要です。再現性が低い結果は信用できません。実験・調査ではまず再現性をチェックします。最低3回は同じ実験を行い、再現性をチェックしましょう。再現性が低い、あるいは、ない場合は、まず再現性の出る実験調査条件・方法を考えましょう。様々な方法・条件を試し、再現性が確保されるようになってから、正式のデータを採るための実験を行います。
♦計測値を比較するような実験では、最低5例、できたら10例の計測値を得る必要があります。(脊椎動物をもちいて行う実験で、実験によりその動物を殺さざるを得ない場合には、最低例数で行います)。グループ内の計測値のバラつきが少なく、グループ間の計測値に明らかな差がある場合は、この例数で計測値を比較できます。しかし、グループ内の計測値のバラつきが大きい場合、あるいは、グループ間の計測値に大きな差がないは場合には、20例あるいはそれ以上の計測値が必要です。例数の最終的な決定は次項で述べる統計処理の結果で決めます。
♦実験・調査結果を数値で得て、その平均値や出現頻度、分離比率、バラつきの程度などを比較して、差の有無、増減、変化傾向、分散などを議論するときには、実験の例数とともに数値結果の統計処理(仮説検定)が必要です。特に生物分野ではこれがなければ何もいうことができません。平均値の有意差検定、発生頻度(個体数)の有意差検定、分離比率(合計が1となるもの)の有意差検定、分散検定などがよく使われます。残念ながら高校では習わないかもしれません。指導教師または大学教員にお聞きください。「生物統計学」の教科書をあたれば勉強できます。また、変化傾向の分析には、回帰直線、相関係数などを用いる必要があります。理屈は難しいですが、計算は専用ソフトがあるので簡単です。研究指導教師の方々には、統計処理方法を修得してほしいと思います。わからなければ、関連分野の大学教員にたずねるのがよい方法です。実際的なマニュアルとして以下の書籍を紹介します。
①Rによる統計的検定と推定 内田治・西澤英子 オーム社
②Rによるノンパラメトリック検定 内田治 オーム社
③すぐわかる統計処理の選び方 石村貞夫・石村光資郎 東京図書
♦測定値が予想と異なり中間的であったり、バラつき大きかったりする時、統計的仮説検定では「有意差なし」となる場合があります。この「有意差なし」の正確な意味は「このデータで有意差ありということはできない、あるいは、このデータは有意差がなくても説明できる」です。「有意差なし」の結果を「有意差がないことが証明された」ととると間違うことがあります。調査例数を増やすと有意差ありとなる場合や、実験条件をすこし変える(整理する)と有意差ありとなる場合がしばしばあるからです。


5. 中間報告書の作成と発表会(作成中)

中間報告会のためのパワーポイントファイルの作成

生徒理科研究会のためのポスターの作成


6. 論文作成(作成中)

論文執筆のためのパワーポイントファイルの作成

論文の執筆

論文の「考察」には何を書けばよいのか?

♦論文投稿のページにあるように、「考察」には、まず、①研究の結論(すなわち、研究結果のまとめと、「はじめに」で提起した問い(疑問)に対する結果にもとづいた回答と)を書きます。つぎに、②研究結果の新規性について、一般情報や先行研究等を引用しながら説明し、つづいて今回の研究結果の学問的意義、すなわちそこから導かれる新しい考え方等についての議論を書きます。さらに、この新規な結果が人間生活の向上や生命の尊重、自然保護にどのような点で貢献する可能性があるのかを議論することもできます。
♦生徒研究発表会でよくみかける間違いは、「回答」とそれに続く議論の部分です。本来なら、「はじめに」で提起した疑問に対する著者としての回答を「結果に基づいて」書くべきです。ところが、結果にもとづく回答をせずに、教科書や専門書の既知情報に基づいて「仮説」・「結果」・「回答」の正しさを論証しようとすることです。特に、結果があいまいで確かな「回答」ができないときなどによくみられます。自分の得た結果が間違いであると主張している場合さえあります。しかしこの態度は誤りです。真理は教科書や既知情報にあるのではなく、目の前の実験結果にあります。実験結果から仮説あるいは既知情報の真偽を判断するのが実験・調査の目的です。実験・調査を行う前から何が真理か分かっているのならその実験・調査は行う必要はありません。どんな実験結果であっても、まずは、目の前の実験結果にしっかりと向き合いましょう。
♦結果が明瞭でそこから明確な回答(結論)が得られた場合には、まず、その回答(結論)を書きます。そして、結果・結論と既知情報を慎重に照らし合わせ、今回の研究結果のどの部分が既知情報と一致し、どの部分が新規なのかを検討し、結果・結論の新規性を正確に明らかにします(新規性の詳細な議論は「論文出版をめざす生徒理科研究には新規性が必用」を参照)。さらに、この新規な結果・結論が既知情報にどんな新しい内容を付け加えるのか、あるいは、既知情報にどんな修正を求めるのか、さらに、どんな新しい研究課題を提起するのかを議論し、この研究の学問的意義を明らかにします。
♦一方、結果が当初の期待と異なりあいまいで(値が中間的、または、バラつきが大きく)確かな回答ができないなら、「結果の値が中間的またはバラつきが大きくで確かな回答ができない」と書きましょう。そして、つづく「議論」では、その原因は何かを議論します。値が中間的またはバラつきの大きさの原因が、実験・調査の方法・計画に問題があると考える場合は、明確な結果・回答を得ることができる方法・計画を考察します(この場合は、実験・調査をやり直します。論文出版はできません)。もう一つの可能性は、値の中間的あるいはバラつきの大きさの原因が、対象とする現象と問い(疑問)の内容との関係の低さあるいは無関係による場合です。この場合は、対象とする現象が問い(疑問)の内容と部分的にしか関係しない、あるいは、無関係であると考察します(この場合は新規の結果である可能性があります)。
♦前項「実験・調査結果の再現性と統計処理」にあるように、測定値が予想と異なり中間的であったり、バラつき大きかったりする時、統計的仮説検定では「有意差なし」となる場合があります。この「有意差なし」の正確な意味は「このデータで有意差ありということはできない、あるいは、このデータは有意差がなくても説明できる」です。「有意差なし」の結果を「有意差がないことが証明された」ととると間違うことがあります。調査例数を増やすと有意差ありとなる場合や、実験条件をすこし変える(整理する)と有意差ありとなる場合がしばしばあるからです。特に「有意差あり」を証明すべき仮説として追究している場合には、仮説をすててしまうのか、例数を増やしたり実験条件を整理したりするなどしてさらに追究するのかの判断は慎重に行います。
♦以上のような考察方法は、結果・結論が当初想定した仮説と一致した場合でも異なった場合でも同じです。忘れてはならないことは、実験・調査で求めるべきは「仮説」に一致した結果ではなく、「仮説」の真偽を判断できる、あるいは、「問い」に答えることのできる、明瞭な結果です。また、研究の価値は、結果・結論の新規性の中にあります。仮説の正しさではありません(詳細な議論は「科学的論理性に貫かれた研究計画をつくる」参照)。以上の議論からわかるように、実験・調査は、信頼できる明瞭な「結果」こそ命です。再現性のない結果や未熟な技術によるデータのバラつきをそのまま結果として採用していては、新発見はできません。実験においては、再現性が出るようになるまで、実験・調査方法の工夫と試行錯誤、技術の習得を行うことが重要です。

論文発表に必要とされる研究データ量は?

♦研究のデータ量は、分野や研究課題によりことなります。また、これまでの生徒理科研究の程度や、1人で行うのか数人のグループで共同研究をするのかによって異なります。さらに、新しく設定した課題に取り組むのか、それとも先輩が行ってきた研究を引き継ぐのかによっても異なります。当然、研究を行う人にもよります。したがって一概に基準を決めることはできません。しかし、ごく一般的に言えば、高校生活3年間で自分の名前の入った論文を1つ出版することができれば素晴らしいと思います。
♦実際の研究への取り組みは、高校生には他にもやるべきことがたくさんあるので、それとのバランスが重要です。研究論文はデータを小分けした浅いものより、深く徹底的に研究したものに価値があります。ここから考えれば、一般論文(full paper、図表7個以下)なら研究計画の作成から論文投稿までの取り組みに2年間(1日2~3時間を140日)程度かけたデータ量が標準で、短報(short report、図表3個以下)はその半分以下でも可能でしょう。重要なことは、新規性と意義のある疑問に対する明解な回答(結論)があるか否かです。実験をそつなく無難にとりまとめただけの実験報告書は論文ではありません。ちなみに、大学の理系学部の4年生は、大学院進学のための受験勉強や就職活動の時期を除いても、7~8か月間は週5日間・毎日6~8時間(1日6~8時間を150日)かけて卒業論文研究に取り組みます。これに比べれば、高校・中学生徒が行う研究は軽いといえます。全世界的・全歴史的視野での本格的な研究は大学ではじめて可能です。また、本格的な技術の習得や設備の使用は大学ではじめて可能になります。したがって、高校生は大学進学のための勉強をおろそかにせず、バランスをとりながら生徒理科研究に取り組みましょう。
*英語で書かれた一般研究(大学院レベル)の通常論文(full paper)です。参考にしてください。
・Akagawa H., Hara Y., Togane Y., Iwabuchi K., Hiraoka T., Tsujimura H. (2015): The role of the effector caspases drICE and dcp-1 for cell death and corpse clearance in the developing optic lobe in Drosophila. Dev Biol. 404(2):61-75. DOI:10.1016/j.ydbio.2015.05.013
・Nagano H., Fukudome A., Hiraguri A., Moriyama H. and Fukuhara T. (2014): Distinct substrate specificities of Arabidopsis DCL3 and DCL4. Nucleic Acid Research 42: 1845-1856.DOI:10.1093/nar/gkt1077
・Sekimura T., Fujihashi Y., Takeuchi Y. (2014): A model for population dynamics of the mimetic butterfly Papilio polytes in the Sakishima Islands, Japan. J Theor Biol. 361:133-40. DOI:10.1016/j.jtbi.2014.06.029
♦なお、一部の論文コンクールでは一年間に行った研究データだけを発表するという条件を課しているものがありますが、「生徒の理科」誌ではこの考え方を取りません。数年にわたって行った研究でも、先輩から継続してきた研究でもOKです。「生徒の理科」は研究成果を評価し、社会的に公表・記録するための論文誌で、研究を行った生徒の個人的能力を評価・」順序づけし表彰するための論文コンテストではないからです。また、大学入学後に高校で行った研究を論文にすることもできます。研究のほとんどの部分が高校時代に行われており、研究指導者が高校教師等であれば「生徒の理科」誌に論文投稿できます。その際の所属は研究を行った高校等で現在の所属(大学)ではありません。(一般研究論文でも、著者の所属はその研究が行われた時の所属組織を記載します。)


7. 指導教師には「新規性」の評価と科学的論理の指導、論文の仕上げが求められる

♦生徒理科研究において指導教師の役割は重要です。多くの生徒にとって研究活動は初めてのことなので、研究活動のすべての段階で教師のていねいな指導が重要です。まず第1に、指導教師には研究管理者として安全の確保と研究倫理の遵守の指導が重要です。しかし、それだけで生徒を放置しておいては研究指導者とは言えません。研究の発展を目指して、生徒ともに研究に取組むことが研究指導者には求められます。研究指導の中で特に重要なのが研究の新規性の評価・検討と、科学的論理の指導と信頼性の確保、論文の仕上げです。また、指導教師と学校には独自研究指導分野(テーマ)の確立が求められます。
♦最初に重要なのが新規性の評価・検討です。新規性は研究の核心です。しかし、通常の授業では経験することのない活動です。「新規性」を語るには、小・中・高校の理科教科書と主要な参考書の内容や過去の生徒理科研究についての体系的で広範な知識とその批判的評価能力が必要ですが、これを生徒にいきなり求めることはできません。「関係する分野について、高校3年生までの教科書と主要な参考書に何が書かれ何が書かれていないのか、過去の生徒理科研究で何が明らかにされ何が明らかにされていないのか。研究課題の新規性はどこにあるのか、あるいは、どこに焦点を当てれば新規性を主張できるのか。研究課題の意義は何か。」については、教師が率先して考え、明らかにすることが求められます。そして生徒にも研究の新規性を自ら確認できるようにすることが重要です。生徒だけにまかせておけば、生徒は研究の核心を理解しないまま通常の実験実習のようにすごしたり、多くの夏休み自由研究のように新規性に無関心な単なる探究活動を行うことになりかねません。ここで重要なことは、指導教師に求められるのは研究課題の新規性と意義を明らかにすることであって、専門書や先行研究を調べ上げ研究開始前に前もって結論(研究結果)を得ておくことではないということです。研究活動は通常の授業でおこなう学生実験ではありません。研究をつうじて自ら未知の問題の解明に取り組むことです。指導教師が研究開始前に猛勉強して研究の結論(あるいは研究結果)を先行研究や専門書の中から探し出したとたんに、その研究は新規性のない既知情報の追試になってしまいます。結果的に、研究課題(研究計画)の再検討に追い込まれかねません。なぜなら、生徒理科研究には「小学から高校3年生までの理科教育とこれまでの生徒理科研究」を超える新規性が必要なだけでなく、その他の情報(文献)を参照した場合はその情報をも超える新規性が必要だからです。*詳しくは、「論文出版をめざす生徒理科研究には新規性が必要」を参照。
♦次に重要なことは研究における「科学的論理の指導と信頼性の確保」です。生徒の自主性にまかすといって間違った論理や信頼性のないものを放置しておいてはいけません。しっかり指導する必要があります。理科研究に初めて取り組んだ生徒研究発表によくみられる過ちを挙げます。
①一つは、「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と「結果から導かれる結論」のあいだの論理的整合性の欠如です。「実験・調査計画」が「問い(疑問)」答えられるものになっていない、「結論」が「結果」から論理的に導かれるものになっていない、「結論」が「問い(疑問)」の答えになっていない、などです。これら3つの間の科学的論理性を生徒とともに繰り返しチェックしましょう。この点は研究教育の重要なポイントです。生徒に科学的論理にもとづく思考方法とは何かを教える重要なチャンスです。
②第2は、大学レベルの高度な実験装置や方法を用いているが、実験計画の不十分さや装置・方法の理解不足のために結果の解釈(すなわち結論)に誤りがあったり、ただ教科書や専門書の内容を確認しているだけであったりする研究発表がありることです。生徒理科研究の目的は実験装置の操作法や実験方法の体験ではありません。高度な実験装置や方法を用いてより高いレベルの研究(「問い」の解明)に挑戦すること自体はよいことですが、大学に進学すれば普通に体験できることを高校・中学でいち早く体験させることがレベルの高い良い研究ではありません。重要なことは高度な装置・方法の使用そのものではなく、それを用いて答えようとする「問い」と結果から導かれる「結論」の科学的論理性と新規性であることを忘れてはいけません。高度な実験装置や方法を用いる時には、その作動原理と使用方法、およびデータの正しい読み方の訓練・習得が必要です。むしろ、生徒理科研究では教科書実験で用いる程度の(あるいはそれより少し高度な)装置・方法や実験器具を上手に駆使して新規性のある独創的な研究を展開するのが知恵の見せ所です。
③第3に、研究材料の扱いや装置の操作に習熟せずに信頼性の疑わしいものを実験結果としている場合があることです。生徒理科研究は、授業中の教科書実験ではありません。物理・化学・生物・地学のどの分野でも対象とする現象の詳細な観察と、実験手順や装置操作の十分な習熟が重要です。それがなければ信頼性のあるデータは得られません。生物の研究では、まず最初に、材料とする「植物」・「動物」の緻密な観察と良好な栽培・飼育技術の確立が重要です。枯れかけの植物や死にかけの動物を用いた実験データを信頼することはできません。
♦第4に重要ことは論文の仕上げです。指導教師には責任著者として研究結果を論文出版するという責任があります。研究のとりまとめでは、まず、研究結果を何枚かのスライドにまとめてポスター発表や口頭発表を行います。この段階までは適切な指導のもとに生徒自身が行うのが重要です。次は、研究結果をきちっとした文章で記述された論文にまとめる段階です。「生徒の理科」の論文投稿ページの論文原稿作成法にもとづき論文を執筆します。ポスターや口頭発表に比べ、論文に求められる論理と表現の正確性・厳密性は格段に厳しく、生徒には容易なことではありません。しかし、教育的観点からは不十分でも生徒自身に最初の草稿を書かせることが重要です。そして、生徒の書いた論文草稿を生徒と議論しながら校閲・改善します。この過程は研究結果の明解な文章表現法や科学的・批判的考察法の重要な教育機会です。実験に密着している生徒と一歩離れてみることのできる指導教員との議論から、新しい解釈や新しいアイディアがでてくることもよくあります。こうして生徒による論文執筆の段階が終わります。最後は、研究指導者であり責任著者である教師が再度、論文のデータと、科学的論理、文章表現を徹底的にチェックして投稿原稿を仕上げます。教師による仕上げがなければ、研究成果の査読有り論文誌への出版はほとんど不可能でしょう。繰り返します。生徒理科研究の成果を論文に仕上げて出版する最終責任は指導教師に有ります。論文出版は研究成果の社会的公表と記録により生徒理科研究の発展に貢献するために行うもので、生徒の個人的能力の評価と表彰を目的とする論文コンクールとは異なるからです。
♦さらに、長期的に見て指導教師と学校に求められることは特色研究分野(テーマ)の確立です。生徒理科研究を通じて生徒にどれだけのものを与えられるかは、研究環境と指導教師の力量に大きく依存しています。研究環境としては学校に少なくとも教科書実験をごまかしなく行えるだけの実験設備・装置・器具・薬品が必要です。また、具体的に生徒理科研究を進めるためには研究テーマに沿ったこまごましたノウハウとそれを実現するための実験器具・薬品等(またはそのための予算)を備える必要があります。教師の力量としては指導分野について、小・中・高校の理科教育とこれまでの生徒理科研究や関連する専門情報の把握、研究ノウハウの蓄積、研究指導能力の研鑽が必要です。しかし、教育を主たる任務としてきた高校ではこれらの実現は容易なことではありません。現実的には、総花的な分野(テーマ)設定をやめ、科目ごとに生徒の興味の傾向、分野の現代性と発展性・将来性、地域の特徴、協力大学の存在などを考慮して少数分野(テーマ)を選び、時間をかけて特色研究分野として育てる取り組みが必要でしょう。
♦最後に、少人数に分かれて研究に取組む際には研究グループの結束と開放性の適切なバランスが重要です。研究グループの指導教師と生徒は結束・協力して研究に取組みます。しかし、研究グループは必ずしもいつも研究の発展に向けて一致して取り組めるとは限りません。研究は長い取組みです。生徒各人の意思を尊重したグループ分けは結束・協力の前提として必要ですが、それだけでなく、グループ間研究交流会や他校との研究交流会などを設け、他者との研究交流や意見交換をつうじた開放性と広い視野の確保が重要でしょう。