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2018-4h(一般)生徒理科研究論文の書き方

Seitonorika 2018-4, 2018年7月23日掲載, ダウンロードPdf

(一般)生徒理科研究論文の書き方

生徒の理科研究所
〒623-0342 京都府綾部市金河内町奥地22, uketuke@seitonorika.jp

要旨:生徒理科研究論文の書き方を、ホームページ「生徒の理科研究所」(https://seitonorika.jp)にある「生徒の理科」創刊のあいさつ、論文投稿規定、生徒理科研究法を修正・加筆して作成した。ここでは、論文原稿作成法について論文の各構成要素別に詳細に解説した。さらに、論文作成時に必ず問題となる、論文出版に必要な新規性、研究倫理の遵守、考察における研究結果の意義の書き方、について説明した。
類別:一般  分野:その他  キーワード:

目次
①論文を読んで論文の構成を学ぶ
②生徒理科研究論文には新規性が必要
③生徒理科研究に求められる新規性とは何か
④研究倫理の遵守
⑤論文原稿作成法
⑥考察では、新規の研究結果の「意義」を議論する

1. 論文を読んで論文の構成を学ぶ

♦生徒は理科の勉強法は知っていても、研究論文を書いた経験はほとんどありません。そこで論文作成に取り組むには、まず、「論文とは何か」について前もってイメージ(見通し)を得ておく必要があります。そのためのもっとも有効な方法はすでに発表された論文を読むことです。日本学生科学賞の最近の受賞論文(「生徒の理科」ホームページ「関連情報」参照)を読むとよいでしょう。論文の構成には未熟さがありますが、研究そのものはしっかりしており、論文に必要な要素のほとんどが書かれています。各自で読むだけでなく、教師による授業指導やグループ講読会により、論文の構成と科学的論理の展開方法について理解を深めます。1編だけでなく、3~5編の論文を読むことにより、そこに見られる科学論文の基本的なパターンと論理展開を理解することができます。大学の研究室ゼミのように、生徒自身による論文紹介を行うのも効果的でしょう。
♦論文講読においては、つぎのことに注目しましょう。
①論文発表は、授業単位を取得したり、コンクールで賞をとったり、大学入試を有利にしたりするためにあるのではなく、研究成果を社会的に公表・記録し、科学の発展と人々の幸福の増進に貢献するためにあります。論文出版により初めて研究成果は人々のものになり社会の財産になります。
②科学論文は読者に内容を効果的に伝えるために、一定の様式に従って書かれています。すなわち、論文は、表題(タイトル)、著者名、要旨、はじめに、材料と方法、結果、考察、謝辞、引用文献、図の説明、図表からなっています。
③表題(タイトル)は読者が内容をすぐに理解できるように具体的で正確な言葉をもちいて短くあらわされています。
④要旨は研究目的と結論を短くまとめたものです。論文検索に適切にかかるように、多くの情報量を含むように書かれています。
⑤「はじめに」には研究を行う理由が説明されています。文献引用による既知情報のまとめ、新規性のある課題・疑問の提起、研究結果・結論の概要からなります。
⑥材料と方法には、研究の対象・用いた材料・調査地、実験・調査方法が、同じ分野の研究者なら追試できるように書かれています。
⑦結果には、図表や計算式にもとづき、実験・調査・理論計算の結果とそこから論理的に導かれる結論が説明されています。
⑧考察では、結果・結論をまとめた上で、その新規性の説明と、学問的社会的意義についての著者の考えが文献引用と研究結果に基づき説明・議論されています。
♦日本学生科学賞受賞論文には、論文構成については未熟なものが含まれています。すなわち、上の各要素に正確に分けられていなかったり、構成に混乱があったり、一部が欠けていたりしているものがあります。しかし、ほぼ上の要素がそろっています。これを用いてそれぞれの部分がどの要素に該当するのか仕分けする練習を行い、論文の構成要素を理解することがまず重要です。つぎに実験・調査とその結果から導かれる結論の間にある厳密な論理的関係を理解することが重要です。各実験・調査がどのような疑問を解決するために行われたのか、実験・調査はその疑問に答えるために適切に計画・実施されているか、実験・調査結果から導かれる結論は論理的に正しいか、あいまいな推論や思い込みがまじっていないか、その結論は最初に提起した疑問の答えとなっているか、などを検討します。さらに、著者は研究の新規性をどのように主張しているか、また、研究の結果・結論の新規性の意義をどのように主張しているか、を検討し理解を深めます。こうした論文講読から得られる知識は、研究結果を解釈したり、論文を書いたりするときに役立ちます。

2. 生徒理科研究論文には新規性が必要

♦論文には新規性が必要です。新規性のない研究は論文にすることができません。これはいわゆる探究活動や夏休み自由研究の報告書との大きな違いです。探究活動や自由研究は、日常生活の中で興味や疑問を持ったこと、あるいは教科書学習の中で興味や疑問を持ったことを情報収集したり実験したりして詳しく調べようというもので、いわば個人的な疑問を解決するための活動です。したがって、探究活動や自由研究は、その疑問の答えが生徒にとって未知であれば成り立つ活動で、その報告書に新規性は不要です。しかし、科学研究は違います。それは、社会的な疑問を解決する活動です。個人ではなく社会的に未知なことがらを明らかにして、研究・論文出版によって社会的な知を増やす活動です。したがって、研究論文の作成には、新規性とは何か、すなわち、(社会的には)どのような疑問が存在するのか、新規な結果とはどのようなものをいうのかという、新規性に関する考察が必須です。

3.生徒理科研究に求められる新規性とは何か

♦新規性とは既知情報に対する新規性です。大学以上のレベルの一般研究における論文には全世界的・全歴史的視野での既知情報に対する新規性が暗黙の前提として求められます。しかし、生徒理科研究の場合は、全世界的・全歴史的レベルの新規性は求められません。また、一律の基準もありません。では生徒理科研究に必要な新規性とはどのようなものでしょうか。以下は、生徒の理科研究所が提案する、生徒理科研究のための新規性の考え方です。
♦生徒理科研究の論文出版は、新規性の最低限のレベルとして、「日本語で行われる高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性」を条件とします。また、その他の既知情報を参照した場合は、さらに、その参照情報を超える新規性が求められます。そして、論文にはどのような範囲で調べたところ新規なのかを明確に述べることを求めます。以上の新規性についての考え方は、生徒理科研究という特殊性を踏まえた提案です。
♦「高校・中学・小学の理科教育を超える」とは、高校・中学の理科教科書と標準的な参考書に書かれていないこと、書かれているがその証拠・適用範囲・具体例が示されていないこと、教科書等に書かれていること以外の証拠・適用範囲・具体例などのことを指します。自ら使っている教科書だけでなく、所属学科・コースの違いに関係なく中学から高校3年生までの全理科教科書です。標準的な参考書とは高校の授業補助教材としてよく用いられる「~図録」、「図説~」、「~総合資料」などです。これらすべてをチェック・参照必須情報とします。
♦「これまでの生徒理科研究を超える」とは、これまでに発表された生徒理科研究の記録にはない内容であることです。これまでに発表された生徒理科研究の記録として、「生徒の理科」誌および日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社)と理科研究論文集(静岡県理科教育協議会)、科学の芽賞受賞論文(筑波大学)をチェック・参照必須情報とします(「関連情報」ページ参照)。後者3つは残念ながら査読有り論文誌ではありませんがどれも審査を経た受賞論文であり、長文概要(論文)が掲載されているのでチェック・参照必須情報とします。これまでの生徒理科研究の長文概要・論文としては、この他に全国高等学校総合文化祭自然科学部門論文集(会場配布)と、つくばScience Edge 要旨集(会場配布)、および「未来の科学者との対話」(神奈川大学)があります。しかし、これらは現在のところ無料web公開されていない、あるいは審査を経た論文ではないという理由でチェック・参照必須情報とはしません。各自が必要に応じて利用します。なお、1ページ以内の発表要旨はその短さのためチェック・参照すべき記録とはしません。
♦教科書やこれまでの生徒理科研究以外の情報として、理科教育関係団体・学会の論文誌(「生徒の理科」ホームページの「関連情報」参照)、大学レベルの教科書・専門書、自然科学諸分野の入門書・専門書・論文誌、その他一般web情報等があります。これらは研究課題の立案、研究計画の作成、研究結果の考察に有用な情報です。しかし、これらは生徒理科研究論文ではない、日本語で書かれていない、または、無料web公開されていないという理由で、チェック・参照必須情報とはしません。各自が必要に応じて利用します。なお、大学教員等(研究者)に口頭で教えてもらった時には必ず関係文献を紹介してもらい、その文献を参照情報とします。このようなチェック・参照必須情報以外の論文・書籍等を参照した場合には、その参照情報を超える新規性が論文には必要です。ここで、「超える」とは、参照情報に書かれていないこと、書かれているがその証拠・適用範囲・具体例が示されていないこと、参照情報に書かれていること以外の証拠・適用範囲・具体例などのことを指します。
♦高校より高いレベルの教科書情報を望む生徒には、物理チャレンジ・オリンピック、化学オリンピック、生物学オリンピック、地学オリンピックのための推薦書籍(「生徒の理科」ホームページの「関連情報」参照)を利用するとよいでしょう。大学1~2年生レベルの教科書です。高校教科書に書かれている内容がより詳しく丁寧に書かれている場合が多くあります。しかし、これらはチェック・参照必須情報とはしません。あくまでより高いレベルの教科書情報にもとづいて研究したいと望む生徒が必要に応じて利用するものとします。
♦論文作成においては、上記のチェック・参照必須情報のすべてを調べ、自らの研究に関係する情報は必ず引用しながら、これまでに何が分っているのかを説明し、つぎに、既知情報と区別しながら自らの研究の新規性、すなわち、何を新しく明らかにしたのかを説明します。また、チェック・参照必須情報以外の論文・書籍等を参照し利用したときには、論文に引用するとともに、その情報と区別しながら自らの研究の新規性をのべます。すなわち、どんな場合にも自らの研究には既知情報を超える新規性が必要です。繰り返しますが、ここで「超える」とは、書かれていないこと、書かれているがその証拠・適用範囲・具体例が示されていないこと、書かれていること以外の証拠・適用範囲・具体例などのことを指します。
♦生徒理科研究のレベルで、全世界的・全歴史的な視野での既知情報に対する新規性を求めることは非現実的です。日本語でグーグル検索して出てくる情報やJ-Stageで検索して得られる情報だけが全世界的・全歴史的レベルの既知情報だと勘違いしてはいけません。多くの専門論文誌は無料web公開されておらず、学会に入会したり、購読料を支払ったりしなければ見られません。電子ファイル化されていない文献もたくさんあります。そしてこれら論文の多くは英語その他の外国語で書かれています。これらの文献は、科学文献データベース(ほとんどのものが有料)で検索したり、各分野の総説や関係論文の引用文献にあたったりすることにより、はじめてその存在がわかります。その調べ方は大学で学びますが、一般的にはその分野の研究者(大学教員)でなければわかりません。生徒理科研究のレベルでは自分達の知らない大きな世界があることを自覚しているだけでよいでしょう。大学ではまず専門分野について高校までとは比較にならないほど体系的で深い知識を学びます。最新のさまざまな実験・調査方法やデータ処理法を学びます。また、さまざまな社会の現実やしくみについて学びます。その結果、みなさんの視野は格段に広がり、科学の世界にも、技術の世界にも、また、社会的にも多くの解決すべき(取り組む価値のある)課題があることを知るでしょう。その上で研究室に所属し、特定分野の専門研究に従事します。生徒の皆さんはそのときにこそ全世界的・全歴史的視野に立った先端研究に取り組むことになります。
♦生徒理科研究の新規性の判断基準となる既知情報の範囲をこのように明確に規定することにより、論文作成に必要な情報収集の範囲が生徒・教師の手の届く範囲となります。その結果、既知情報の大海に溺れることなく、生徒・教師は研究課題の新規性を自ら判断し、主張できるようになります。また、既知情報と比較しながら、自分なりの独自の視点や工夫を主張したり、研究の意義を議論したりする余裕ができます。この余裕は創造性ある研究に重要なものです。
♦また、生徒理科研究論文に新規性とこれまでの生徒理科研究論文の引用とを求めることにより、生徒理科研究は論文の積み重ねにより次第に発展するものとなります。すなわち研究史が生じます。その結果、各論文には生徒理科研究の発展にどのような点で貢献したのかという研究史における位置づけと評価が生じます。こうして、一般の科学研究が全世界的全歴史的視野での科学研究の発展をめざすのと同様に、高校・中学生徒の理科研究は生徒理科研究の発展をめざすものとなります。

4.研究倫理の遵守

研究倫理に反する「研究」は社会的には研究とは認められず、研究論文として発表することはできません。以下の条件を満たす研究のみ、論文として発表することができます。ホームページで詳しく調べてチェックします。
①研究倫理(「科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―」)を遵守している。
②遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、「遺伝子組換え生物等規制法」、「動物実験等の実施に関するガイドライン」、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」、「個人情報保護法」を遵守している。
③著者または著者の所属組織が営利企業や団体・個人等から研究資金・実験機器の提供・その他の援助・便宜を受けた場合(利益相反)、そのことによって研究の客観性・公正性がゆがめられていない。
④論文に、第3者の権利を不当に侵害する、または、財産に不当に損害をあたえる情報、または、その可能性がある情報を含んでいない。また、生徒理科研究論文としての発表にはふさわしくないと判断される内容を含まない。

5.論文原稿作成法

①論文は本文と図・表に分けて作成します。本文は、マイクロソフトのWord(または相当ワープロソフト)を用いて作成します。論文原稿用紙はA4版とし、段組みは1段、字の大きさは12ポイントとします。図・表については後に記します。
②論文本文の文体は、「である」調とし、常用漢字、現代仮名使いで書きます。学術用語は教科書や文部科学省学術用語集等に従います。
③論文本文は、「表題」、「著者名と所属先・所属先住所」、「責任著者名と連絡先・勤務先・勤務先住所」、「要旨」と「分野・追加キーワード」、「はじめに」、「材料と方法」、「結果」、「考察」、「謝辞」、「役割分担」、「利益相反」、「引用文献」、「(英文)表題・著者名・要旨」、「図の説明」の順で書きます。結果と考察をいっしょにして「結果と考察」としても結構です。結論というセクションはありません。
④論文本文の原稿の1ページ目に、表題、全著者名、各著者の所属先と所属先住所、責任著者名、責任著者のメールアドレス、責任著者の電話番号、責任著者のFAX番号、責任著者の現在の勤務先名、責任著者の現在の勤務先住所を書きます。
⑤「表題(タイトル)」は簡潔で論文の内容と結論が読者に伝わるものにします。人目を引くだけで情報量の少ないものは避けます。特定の生物を研究材料とした場合は、「表題」にその学名(属名 種名)を斜字で入れます。(例)カイコ(Bombyx mori)。
⑥「著者名」は、実際に研究を行った生徒と研究指導者(学校教員または塾講師等)の名前とします。著者名は研究への貢献度の高い者から順番に並べます。最後の著者名は責任著者とします。「所属先」は、その研究が行われた学校または塾等の名称とします。ただし、所属学校以外の機関(塾等)で研究を行った場合の生徒の所属先は、その機関の名称と所属学校の名称との両方とします。
⑦「責任著者」は、日常的に研究を指導し、論文内容に責任を持つことのできる研究指導者(学校教員または塾講師等)で、論文出版にかかわる一切の実務に責任を負う者とします。
⑧論文本文の2ページ目には、要旨・分野・追加キーワードを書き、つづけて以降の本文を書きます。
⑨「要旨」は、研究目的と結論を中心に論文を400字以内にまとめた文章です。論文検索にかかるように情報量の多い文章とします。「分野」は、関係する高校理科系科目名の1つを、生物、化学、物理、地学、数学、農業、生活、工業、その他の中から選んで書きます。「追加キーワード」には論文検索向けに論文内容を適切に表す重要語句で「表題」と「要旨」に含まれない語句を4個以内書きます。
⑩「はじめに」には研究理由と研究目的と結論を書きます。研究理由には、意義・関連情報・先行研究などの背景情報とこの研究の新規性(必要性)とを書きます。特に、これまでに何がわかっていて、何がわかっていないのかをはっきりと書き、自らの論文が生徒理科研究論文の新規性基準をクリアしていることを示します。研究目的には、この研究で明らかにしようとする疑問と実際に行おうとする実験・調査を書きます。最後に研究の結論を簡潔に書きます。個人的な体験や関心・動機など主観的な内容はそのままの形では書きません。
⑪「材料と方法」には、研究の対象や材料、実験方法、用いた薬品、装置、データ処理方法等を書きます。研究対象、材料、重要な薬品と装置などは一般的名称ではなく製品名、型番、製造会社名も書き、同分野の研究者なら追試できるように書きます。ただし、前節③および④に抵触する場合は適切な表現方法で書きます。遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子組換え生物等規制法、動物実験等の実施に関するガイドライン、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、個人情報保護法を遵守していることを記します。
⑫「結果」は、読者に分かるように整理し、いくつかの節に分けて書きます。複数の実験・調査・計算を行ったときは、各実験・調査毎に、目的・結果・明らかになったこと(結論)を一まとめにしながら、順を追って書きます。実験は、結果の再現性を十分に確認し、その旨を例数を含めて論文に記載します。 数値データは適切な統計的仮説検定を行い、その結果を論文に記載します。実験・調査には適切な対照実験を行い、その結果を論文に記します。因果関係の実証は実験区と対照区との比較法により行います。論理は、証拠に基づき、演繹(仮説演繹)・帰納・仮説推量の違いに注意して適切に展開します。ネガティブデータ(「~とはならなかった」と「~ではない」との違いに注意)の解釈には注意します。考えを述べるときは、確信の程度があいまいな「考えられる」はできるだけさけます。「~である」「~を示した・~を証明した」「たぶん~だろう」「~を示唆する」「~の可能性がある」「~かもしれない」「~を支持する・~と一致する」「~を否定できない・~と矛盾しない」「~を否定する・~と矛盾する」など、確信の程度の明瞭な表現で書きます。
⑬「考察」には、まずこの研究の結論(すなわち、研究結果のまとめと、「はじめに」で提起した疑問に対する結果にもとづく回答と)を書きます。つぎに、研究結果・結論の新規性について、一般情報や先行研究等を引用しながらどのような点が新規なのかを説明し、さらに、新規な結果・結論の学問的な意義、すなわちその結果から導かれる(推測される)新しい考え方等についての議論を書きます。また、新規の結果・結論のもつ社会的意義についてもあれば書きます。さらに、研究目的に直接関係しなくても、研究過程で明らかになった新規の情報や疑問についても書くことができます。ここでも「結果」に記したように、論理と、考えの述べ方に注意します。
⑭「謝辞」には、研究の遂行や論文作成で協力を受けた人に対する謝辞を書きます。たとえば、研究材料の提供、実験器具の貸与、研究場所の提供、助言、情報提供、論文のチェックなどです。また、研究経費や論文出版料の支援・割引を受けた場合は、その支援人物・団体等の名称を書きます。「役割分担」には、著者毎に名前と役割を書きます。役割は「研究企画」・「材料準備」・「実験実施」・「技術指導」・「データ処理」・「図表作成」・「論文作成」など簡潔な言葉で書きます。
⑮「利益相反」には、この研究課題に関して著者または著者の所属組織が営利企業または営利追求団体や個人からうけた援助・便宜について書きます。ない場合は「なし」と書きます。
⑯論文は、一般的に明らかなことや先行研究等で明らかにされていることはすべて引用元を明らかにしながら書きます。研究結果には、著者がこの研究で明らかにしたことあるいはあらたに提起した考え方を書きます。考察等で一般的に明らかなことや先行研究を引用するのは、自らの主張を説明するために引用するのであって、一般情報の解説であってはいけません。あいまいな伝聞や引用元の不明なことがらについては科学情報としては引用しません。 「出典(引用元)」は本文中に「著者名(発表年)」を記入することにより示します。ただし、著者が3名以上の場合の著者名は「第1著者名ほか」とします。著者名は姓だけを書きます。
(本文中での引用のし方)
――――この変化は常温では起こらない(村辻・下野ほか,2018)。
――――村辻ほか(2010)はこの現象を――――――
⑰インターネット上のホームページは重要な情報源です。しかし、そこから得られる情報の取り扱いには注意が必要です。インターネット上にある情報は基本的には原文献にまでさかのぼり、正式の引用を行います。査読のない紙誌に発表された報告や論文は、その信頼性には注意が必要ですが引用できます。一方、著者や責任者が特定できないインターネットや紙誌の情報は信頼できる科学情報とみなすことはできません。根拠データの示されないブログ・ツイッター等の記事やホームページ情報は根拠ある科学情報としては引用できません。しかし、あいまいなインターネット情報を研究・調査対象として調査する場合はその限りではありません。この時は、その情報は調査結果であって、参照情報・文献とはしません。
⑱「引用文献」には、本文中に引用したすべての情報の文献情報を書きます。本文中に引用しなかった文献は書きません。文献情報の書き方は引用文献の種類により異なります。論文誌に掲載された論文の場合は、全著者名、発行年、論文の表題、掲載論文誌名、巻(号)、ページを書きます。単行本の場合は、著者名、発行年、本の表題、出版社名を書きます。編集(監修)本に掲載された論文の場合は、論文著者名、発行年、論文(章)の表題、編集(監修)者名、本の表題、出版社名、論文ページを書きます。教科書や参考書は単行本と同様に書きます。web論文誌やweb書籍の場合は、一般の論文誌や書籍と同様に書き、最後にDOI(デジタルオブジェクト識別子)(ある場合のみ)を書きます。論文コンテスト受賞論文の場合は、著者名、コンテスト実施年、論文の表題、コンテスト名、受賞名を書きます。一般のwebページの記事の場合は、記事著者名(ページ責任者・団体名)、(発行年または最終更新日)、記事表題(ページ表題)、サイト名、サイト責任者名(団体・会社名)、ページアドレス(http://)、アクセス日時を書きます。具体的な書き方は、下の例を参考にしてください。なお、単なる投稿サイトのweb記事や、記事著者名(ページ責任者・団体名)とサイト責任者名(団体・会社名)のないweb記事は引用することはできません。どんな引用の場合も、著者名には全員の氏名を書きます。
(「引用文献」での書き方)
―論文誌に掲載された論文の場合―
村辻理男,村辻秀雄(2018):あたらしい細胞観察法,生徒理科研究,16-31.
―単行本の場合―
村辻理男(2018):あたらしい細胞観察法,生徒の理科出版.
―編集本に掲載された論文の場合―
村辻理男(2016):あたらしい細胞観察法,これからの生徒理科研究 村辻理科子(編),生徒の理科出版,56-85.
―論文コンテストの受賞論文の場合―
村辻理男(2017):新しい細胞観察法,第3回学生理科研究コンテ,優秀賞.
―一般のwebページの場合―
生徒の理科研究所(2016):「生徒の理科」とは,生徒の理科研究所,一般社団法人生徒の理科研究所, https://seitonorika.jp/kenkyusyotop/journaltop/,2018年7月11日.
⑲「(英文)表題・著者名・要旨」は、前記の表題・著者名・要旨の英訳です。
⑳「図の説明」は、図の下につける表題と説明です。図の説明は、「図」のファイルには入れずに、本文の最後に「図の説明」としてまとめて書きます。図1、図2というように図に通し番号をつけ、各図について表題と説明を書きます。図に入れた矢印や記号の説明も書きます。表の表題と説明は「表」のファイルに表の一部として書き入れます。
(21)「図・表」は、各図・表について出版論文に載せる時の大きさで作成します。図には(写真やグラフ、模式図、数式)を含みます。出版論文の用紙サイズはA4版、段組みは2段となるので、この段幅、ページ幅を考慮しながら図・表の大きさを決めます。
(22)図・表の合計数は、7個以下とします。図・表の数が多い時は複数のものを1つの組図にまとめ、合計数を7個以下とします。図と表を合わせて1つの組図とすることもできます。
(23)グラフの作成にはExel、写真の処理はPhotoshopまたは相当の画像処理ソフト、模式図の作成はPowerpoint、表の作成はExelを用いると便利です。すべて出版論文に載せる時の大きさで作成します。これらで作成した原図をPowerpointの「デザイン・ページ設定・スライドサイズA4・スライド縦(19cmx27.5cm)」のページにはりつけ、矢印や記号を入れたり、複数の図を組み合わせたりして最終的な図を完成します。 各図・表はべつべつのPowerpointページに作成します。図・表に入れる字・線の大きさと太さは、論文印刷時の大きさ・太さを考えてきめます。
(24)最後にPowerpointファイルから解像度300dpiのJPEGファイルを作成します。windowsパソコンでは通常の保存では解像度300dpiのJPEGファイルを作成することはできません。A4版で作成したPowerpointファイルから解像度300dpiのJPEGファイルを作成する方法はつぎのとおりです。A4版(19cmx27.5cm)で作成したPowerpointの図を、「デザイン・ページ設定・スライドサイズ設定」で「ユーザー設定・幅76cmx高さ110cm」に設定変更して4倍に拡大し、さらにこの図・表を「表示・ズーム」で25%に設定して縮小し、ほぼA4サイズとします。この状態で文字サイズなどを調整して図を修正・完成し、「名前を付けて保存」で「JPEGファイル」「現在のスライド」で保存します。このJPEGファイルをPhotoshopに取り込み、「イメージ・画像解像度」の「ドキュメントのサイズ」を幅19cm、高さ27.52cm、解像度300pixel/inchと設定するとA4版、解像度300dipのJPEGファイルができます。ここで図・表の部分だけを適切な大きさに切り取り、新しい図を作りJPEGで保存すると目的の300dpiの図のファイルとなります。

6.考察では、新規の研究結果の「意義」を議論する

♦考察では、結果・結論をまとめた後、既知情報(高校・中学の教科書・参考書の内容、過去の生徒理科研究、その他参照情報等)と比較しながら、結果・結論の特徴や、どこに新規性があるのかを説明し、最後にその発見の意義について議論します。意義とは、すでに価値が認められている他のこととの関係性をさします。したがって意義を議論するとは、すでに価値が認められている他のこととどのような関係があるのかを議論することになります。では、すでに価値が認められていることとはなにか。一般に、科学論文において共有される価値とは、学問(科学・技術)の内容的発展、人間生活の向上、生命の尊重、自然環境の保護の4つです。したがって、一般的に言えば、新規の研究結果の意義を議論するとは、それが学問の内容的発展にどのように役立つのか、人間生活の向上にどのように役立つのか、生命の尊重にどのように役立つのか、あるいは自然環境の保護にどのように役立つのかを説明することです。だだし、生徒理科研究の特殊性から、「学問の内容的発展にどのように役立つのか」は、「生徒理科研究の内容的発展にどのように役立つのか」と言いかえることができます。すなわち、これまでの生徒理科研究になにを付け加えるのか、どのような修正の必要性を指摘するのか、あるいは、今後の生徒理科研究にどのような発展性を与えるのかなどを議論します。
♦では、議論するとは何か。一つの立場からのみ述べるのではなく、「ああでもない、こうでもない」あるは「ああではないか、こうではないか」というように、さまざまな考えかた、あるいは対立する立場から検討しつつ、著者の主張を述べていくことを指します。研究結果だけでなく、研究中に気が付いたこと、高校・中学の教科書・参考書の内容、過去の生徒理科研究、その他参照情報などを引用しながら議論します。
♦現在の多くの生徒理科研究論文には、結論(何が分かったか)は書かれているが考察がないという欠点があります。多くの論文が、実験結果から結論を導く過程を考察と呼んでいるだけで、結果・結論に既知情報と比べてどのような新規性があるのか、あるいは、その新規性が科学研究のなかでどのような意義を持つのかを議論しているものはほとんどありません。大学以上の一般研究では、論文の考察で研究結果の学問的意義を述べることは非常に重要です。研究結果・結論がどのような点で新規なのか、その新規性は現在の科学になにを付け加えるのか、どのような修正をもたらすのか、どのような可能性を切り開くのかなどの議論は研究の価値を決める必須の議論だからです。この議論を通じて、個々の研究は単にデータとしてだけでなく、科学の発展をささえる研究の一つとしての位置づけ(評価)を得ることとなります。生徒理科研究論文に研究結果の意義についての議論がない原因の一つは、生徒理科研究が個人的な知をめざす探究活動なのか、社会的な知をめざす研究なのか、という意見の違いの存在です。単なる探究活動だというなら、その研究が学問的にどのような意義があるのかを議論する必要はありません。そもそも論文出版する必要もありません。しかし、生徒理科研究が研究だというなら、どのように学問の発展に貢献するのかを明らかしなければなりません。生徒理科研究のチェック・参照必須情報を「日本語で行われる高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究」と明確に定めることにより、このチェック・参照必須情報に比べて、自分たちの研究結果・結論がどのような点で新規なのか、その新規性は現在の生徒理科研究になにを付け加えるのか、どのような修正をもたらすのか、どのような可能性を切り開くのかを議論することが可能となります。多くの生徒理科研究論文が考察で生徒理科研究の発展における意義を語り、生徒理科研究の発展に積極的に貢献するようになることを期待します。
♦なお、上記のほかによくある意義の説明として、「将来の研究のための基礎データをとる、あるいは実験・調査方法を確立あるいは習得する」など、将来の研究のための準備を強調するものがあります。これは研究の初期段階の途中発表や、どこかの研究機関で入門的実習を受けたときの報告書によく見られるものです。この場合、その準備研究自体に一般的な、あるいはその後の研究からは独立した、新規の意義がある場合は論文出版の価値があります。しかし、その結果を用いて本来の研究に取り組まなければ意味がない場合は、研究発表会での発表はできても、論文出版の意義とすることはできません。

本文章は、ホームページ「生徒の理科研究所」(https://seitonorika.jp)の「生徒の理科」創刊のあいさつ、論文投稿規定、生徒理科研究法の文章を修正・加筆して作成した。