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論文発表をめざす生徒理科研究法 | 生徒の理科研究所

第1章  論文を読んで研究とは何かを学ぶ (第1章Pdfファイル 3ページ
第2章 生徒理科研究には新規性が必要である (第2章Pdfファイル 
11ページ はじめに 1.生徒理科研究に求められる新規性とは何か 2.過去の研究の追試・教科書にある法則の検証・物理定数の測定等にも新規性が必要 3.よくある質問と答え

第3章 研究計画作成法
 (第3章Pdfファイル 16ページ
1. 新規性と実感可能性があり研究方法のしっかりした研究課題をたてる 新規性のある研究課題をたてる 実感可能性のある研究課題をたてる 高校生にふさわしいレベルの研究課題を立てる 時間と労力にあう研究課題をたてる
2. 科学的論理性に貫かれた研究計画をつくる 問い(疑問)の設定 実験・調査計画の策定 因果関係の実証(証明)に用いたれる論理 帰納法ー因果関係の推測や仮説の定立に用いられる論理 理論研究の論理 対照実験・比較実験とデータ収集研究 問いと実験・調査計画と結論の論理性 仮説より問いが重要である 多数の問いと実験・調査計画を立てて深く研究する 科学的論理性に貫かれた研究計画をつくる
3. 実験・調査結果の再現性と統計処理 実験・調査計画の再現性 必要な実験例数 統計的仮設検定
4.
研究計画をパワーポイントに入れて発表会を行う 研究計画の文書化 研究計画発表会
5.よくある質問と答え
(解説文)生徒理科研究のための科学的論理Pdfファイル 6ページ) 1.因果関係の証明(実証)のための論理 2.因果関係の連鎖を証明するための論理 3.帰納法-新規仮説の定立に用いられる論理 4.理論研究の論理 5.検索の論理

第4章 実験・調査の実施と中間報告書の作成法
第4章Pdfファイル 9ページ1.実験・研究の安全な実施 2.研究倫理の遵守 3.実験ノートをつける 4.実験・調査手順の確認と技術の習熟 5.実験・調査計画(方法)の再検討と変更 6.薬品・機器の購入と研究経費 7.高価な分析機器や実験装置がない時の対策 8.中間報告書の作成 9.中間報告会
第5章 ポスターと投稿論文の作成法 (第5章Pdfファイル 20ページはじめに 1. 論文原案の作成 2.口頭発表 3.ポスターの作成法 4. 投稿論文作成の準備 5.投稿論文の作成法 6.図・表の作成法 7. 研究の「意義」、研究結果の新規性の「意義」とは? 8.「考察」には何を書けばよいのか? 9. 一般科学論文の例 10.よくある質問と答え
第6章 指導教師と学校に求められること第6章Pdfファイル 5ページ) はじめに 1.指導教師には「新規性」の評価と科学的論理の指導 2.論文の仕上げと出版 3.学校には特色研究分野の確立と研究環境の整備が求められる 4.特色研究分野の立ち上げは学校の支援の下に指導教師自らが研究に取り組んで行う 5.おわりに


第1章 論文を読んで研究とは何かを学ぶ (Pdfファイル  4ページ)

生徒は理科の勉強は知っていても、理科研究の経験はほとんどありません。そこで研究に取り組むには、まず、「研究とは何か」について前もってイメージ(見通し)をつくっておく必要があります。そのためのもっとも有効な方法は論文を読むことです。日本学生科学賞(読売新聞社)(*1)の最近の受賞論文を読むとよいでしょう。論文の構成には未熟さがありますが、研究そのものはしっかりしているものばかりです。各自が読むだけでなく、論文講読演習として、教師による授業指導やグループ講読会により、論文の構成と科学的論理展開法への理解を深めます。大学での研究室ゼミのように、生徒自身による論文紹介を行うのも効果的です。各人が1編だけでなく数編の論文を読み、基本パターンと多様性を理解することが大切です。

 *1 日本学生科学賞(読売新聞社)https://event.yomiuri.co.jp/jssa/ 受賞論文のpdfファイルが「理科自由研究データベース」(御茶ノ水女子大学)http://sec-db.cf.ocha.ac.jp/ でweb公開されています。

まず論文を概観しながらつぎのことを確認しましょう。①論文は、研究成果を社会的に公表・記録し、科学の発展と社会に貢献するために書かれたものです。授業単位を取得したり、コンクールで賞をとったり、大学入試を有利にしたりするためにあるのではありません。論文を出版・公表して初めて研究成果は人々のものになり社会の財産になります。②科学論文は読者に効果的に内容を伝えるために、一定の様式に従って書かれています。すなわち、論文は、研究課題(テーマ)、著者名、要旨、はじめに、材料と方法、結果、考察、謝辞、引用文献からなっています。③研究課題(テーマ)は読者が内容をすぐに理解できるように具体的で正確な言葉をもちいて短くあらわされています。④要旨には研究の概要と結論が短くまとめられています。⑤「はじめに」には研究を論文発表する理由と研究目的、すなわち、文献引用による既知情報のまとめと、新規の課題・問い(疑問)の提起、研究結果と結論の概要が説明されています。⑥材料と方法には、研究対象・材料・調査地、実験・調査方法・データの取り方、データ処理のしかたが、同じ分野の研究者なら追試できるように書かれています。⑦結果では、まず、実験・調査・理論計算の結果が図・写真・表・グラフや計算式にもとづき説明され、さらにそこから論理的に導かれる結論が説明されています。⑧考察では、結果・結論を短くまとめた上で、その新規性と学問的社会的意義についての著者の考えが、先行研究や関連情報を引用しながら説明・議論されています。

論文は正確に読む、分析的に読む、批判的に読みます。具体的なポイントは以下の4点です。①まず論文の構成要素を理解できるようになることが重要です。論文のどの部分が上記論文要素のどれに該当するのか仕分けし、各要素の内容を上記説明に従い分析・確認する練習を行いましょう。先に述べたとおり、日本学生科学賞受賞論文には、各要素に正確に分けられていなかったり、構成に混乱があったり、一部が欠けていたりしているものもあるので、そのことも分かるようになりましょう。②つぎに、提起された問い(疑問)と実験・調査法、結果と結果から導かれる結論との間にある厳密な論理的関係を理解することが重要です。各実験・調査がどのような問い(疑問)を解決するために行われたのか、実験・調査はその問いに答えるために適切に計画・実施されているか、実験・調査結果から導かれる結論は論理的に正しいか、あいまいな推論や思い込みがまじっていないか、その結論は最初に提起した問いの答えとなっているか、などを検討します。この時、仮に実験・調査結果が別のものになった場合には結論はどのように変化するのか、疑問に答えるためにもっと別の実験・調査はないか、などを考えることも重要です。③第3に、研究の新規性と結果・結論の意義に対する理解と検討が重要です。著者は研究の新規性をどのように主張しているか、研究の結果・結論の新規性の意義をどのように主張しているか、その主張が適切かあるいは別の考え方も成り立つのかを検討します。また、この研究をさらに発展させるためにはどのような新規性のある問いあるいは研究が考えられるかをみんなで議論すれば理解が深まります。④最後に、研究方法のレベルと研究に必要な労力を検討します。研究方法のレベルは、中学から高校3年生までの理科教科書やこれまでの生徒理科研究の範囲にあるか、あるいは高校レベルを大きく超える特殊なものかを検討します。研究に必要な労力は、その研究を行うのにどれだけの人数と時間が必要とされるかを検討します。そして、自分たちでもそのつもりで取り組めば同様の研究が可能か否か、どのようにしたら同等の研究をすることができるかについてみんなで議論しましょう。

論文講読から得られる知識や思考能力は、研究課題を考えたり、研究計画を立てたり、実験をしたり、実験結果を解釈したり、論文を書いたりするときに役立ちます。理科研究法や科学的思考法を一般論として説明するだけでは、理科研究経験のない生徒にはほとんど理解できません。具体的事例を用いた論文講読演習により、はじめて知識や能力は身に付きます。ここで重要なことはレベルの高い生徒理科研究論文を読むことです。レベルの低い論文では効果はありません。その意味で日本学生科学賞の受賞論文は適切です。部活であれば毎月一編の論文を読む、探究活動の授業であれば少なくとも数編の論文を読むことをすすめます。効果的な少人数教育のためには大学院学生等の教育補助者の役割も期待されます。

最後に、英語で書かれた一般研究(大学院博士課程レベル)の通常論文(full paper)を紹介します(*2)。論文がどのようなものであるのかを理解するための参考にしてください。

 *2 大学院博士課程レベルの通常論文。Google検索でDOI番号または論文のタイトルを入れるとpdfファイルをダウンロードするためのホームページが出ます。
 Akagawa H., Hara Y., Togane Y., Iwabuchi K., Hiraoka T., Tsujimura H. (2015): The role of the effector caspases drICE and dcp-1 for cell death and corpse clearance in the developing optic lobe in Drosophila. Dev Biol. 404(2):61-75. DOI:10.1016/j.ydbio.2015.05.013
   Nagano H., Fukudome A., Hiraguri A., Moriyama H. and Fukuhara T. (2014): Distinct substrate specificities of Arabidopsis DCL3 and DCL4. Nucleic Acid Research 42: 1845-1856. DOI:10.1093/nar/gkt1077
   Sekimura T., Fujihashi Y., Takeuchi Y. (2014): A model for population dynamics of the mimetic butterfly Papilio polytes in the Sakishima Islands, Japan. J Theor Biol. 361:133-40. DOI:10.1016/j.jtbi.2014.06.029


第2章 生徒理科研究には新規性が必要である (Pdfファイル 11ページ)

はじめに

研究には新規性が必要です。新規性のない研究は論文発表することができません。なぜなら、論文は研究成果の社会的公表により既知情報に新規情報をつけ加え、科学を発展させるためのものだからです。したがって、論文発表をめざす研究では、研究の当初から新規な結果をもとめて取り組むことが必要です。すなわち、研究課題を選定したり研究計画を策定したりするときから、新規な結果を得る見通しを検討し、得られるようにすすめなければなりません。ここがいわゆる探究活動との大きな違いです。探究活動は、日常生活の中で疑問に思ったこと、あるいは教科書学習の中で興味や疑問を持ったことを情報収集したり実験したりして詳しく調べてみよう、あるいは自分で実際に確かめてみようというもので、新規性を問うことがないからです。したがって、論文発表をめざす研究を行うには、新規性とは何か、新規な結果とはどのようなものをいうのかという、新規性に関する考察が必須です。ここでは、生徒理科研究に求められる新規性について生徒の理科研究所の考え方を詳細に明らかにします。

生徒理科研究に求められる新規性とは何か

新規性とは既知情報に対する新規性です。大学以上のレベルの一般研究においては、論文発表には全世界的・全歴史的視野での既知情報に対する新規性が暗黙の前提として求められます。しかし、生徒理科研究の場合には、全世界的・全歴史的レベルの新規性は求められません。また、一律の基準もありません。しかし、最低限のレベルとして、「日本語で行われる高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性」が必要です。また、「その他の既知情報を参照する場合は、その参照情報を超える新規性」も必要です。そして、「論文にはどのような範囲で調べたところ新規なのかを「はじめに」とその他必要な個所で明確に述べる」ことが求められます。この条件は、生徒理科研究の特殊性を踏まえた工夫です(*1)。

 *1 ここで述べる新規性は生徒の理科研究所の提唱する生徒理科研究に必要な新規性で、「生徒の理科」誌 https://seitonorika.jp/ への論文投稿に必要とされます。

図1 生徒理科研究に必要な新規性と発表条件

「高校・中学・小学の理科教育を超える」とは、高校・中学・小学の理科教科書(小学5年生から高校3年生までの全理科教科書)と標準的な参考書に書かれていない内容であること、あるいは、教科書等に書かれている法則等について教科書等に書かれているもの以外の証拠・適用範囲・具体例を新たに示すことを指します。自ら使っている教科書だけでなく、所属学科・コースの違いに関係なく小学5年生から高校3年生までの全理科教科書をチェックします。標準的な参考書とは高校の授業補助教材としてよく用いられる「~図録」、「図説~」、「~総合資料」などです。

「これまでの生徒理科研究を超える」とは、これまでに発表された生徒理科研究論文にはない内容であることです。ここで、これまでに発表された生徒理科研究論文の記録として、「生徒の理科」誌(*2)および日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社*3)と理科研究論文集(静岡県理科教育協議会*4)、科学の芽賞受賞論文(筑波大学*5)をチェック・参照必須情報とします(*6)。すなわち、「これまでの生徒理科研究を超える」とは、上記チェック・参照必須情報にある生徒理科研究論文には書かれていない内容であること、あるいは論文に書かれている法則等について論文には書かれていない証拠・適用範囲・具体例を新たに示すことを指します。

 *2 「生徒の理科」誌 https://seitonorika.jp/
 *3 日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社) https://event.yomiuri.co.jp/jssa/ 受賞論文のpdfファイルが「理科自由研究データベース」(御茶ノ水女子大学)http://sec-db.cf.ocha.ac.jp/ でweb公開されている。
 *4 理科研究論文集(静岡県理科教育協議会)https://gakusyu.shizuoka-c.ed.jp/science/ronnbunshu/top.htm
 *5 科学の芽賞受賞論文(筑波大学)http://www.tsukuba.ac.jp/community/kagakunome/shyo_list.html
 *6 チェック・参照必須情報は、①信頼性の担保、②無料web公開、③2ページ以上の情報量を条件に選びました。先にあげた4つのうち、後者3つは残念ながら査読有り論文誌ではありませんがどれも審査を経た受賞論文集であり、長文概要(論文)が無料web公開されているのでチェック・参照必須情報とします。これまでの生徒理科研究の長文概要・論文としては、この他に全国高等学校総合文化祭自然科学部門論文集(会場配布)と、つくばScience Edge 要旨集(会場配布)、および「未来の科学者との対話」(神奈川大学)があります。しかし、これらは現在のところ無料web公開されていない、あるいは審査を経た論文ではないという理由でチェック・参照必須情報とはしません。各自が必要に応じて利用することとします。また、1ページ以内の研究発表会要旨はその短さのため参照すべき記録とはしません。ここに挙げたもののほかにチェック・参照必須情報とすべき論文誌等があれば生徒の理科研究所にご連絡ください、検討します。

さらに、「その他の既知情報を参照する場合は、その参照情報を超える新規性」が必要です。すなわち、その参照情報にある生徒理科研究論文には書かれていない内容であること、あるいは論文に書かれているもの以外の証拠・適用範囲・具体例を新たに示すことが必要です。

「その他の既知情報」としては、理科教育関係団体・学会の論文誌(*7)、大学レベルの教科書・専門書、自然科学諸分野の入門書・専門書・論文誌、その他一般web情報等があります。これらは研究課題の立案や研究計画の作成に有用な情報です。しかし、これらは生徒理科研究論文ではない、日本語で書かれていない、または、無料web公開されていないという理由で、生徒理科研究のチェック・参照必須情報とはしません。各自が必要に応じて利用する「その他の既知情報」とします。なお、大学教員等(研究者)に口頭で教えてもらう時には必ず関係文献を紹介してもらい、その文献を参照情報とします。

*7 生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp 「関連情報」参照

また、物理チャレンジ・オリンピック、化学オリンピック、生物学オリンピック、地学オリンピックのための推薦書籍(*8)もチェック・参照必須情報とはしません。高校より高いレベルの教科書情報にもとづいて研究したいと望む生徒が必要に応じて利用する「その他の既知情報」とします。これら推薦著書は、大学1~2年生レベルの教科書です。高校教科書に書かれている内容がより詳しく丁寧に説明されている場合が多くあります。

*8 生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp 「関連情報」参照

論文発表等における研究の新規性の説明においては、高校・中学・小学の理科教科書等とチェック・参照必須情報を調べ、自らの研究に関係する情報は必ず引用しながら、まずこれまでに何が分っていて何が分かっていないのかを説明し、つづいて既知情報と区別しながら自らの研究の新規性、すなわち、新しく何を明らかにしようとするのかを説明します。また、チェック・参照必須情報でない「その他の既知情報」を研究に参照・利用するときにはその情報(論文・書籍等)を引用するとともに、その情報と区別しながら自らの研究の新規性をのべます。結果的に、どんな場合にも自らの研究には引用情報を超える新規性が必要です。さらに、「はじめに」とその他必要な個所で「どのような範囲で調べたところ新規なのか」を明確に述べます。

生徒理科研究のレベルで、全世界的・全歴史的な視野での既知情報に対する新規性を求めることは非現実的です。多くの専門論文誌は無料web公開されておらず、学会に入会したり、購読料を支払ったりしなければ見られません。未だに電子ファイル化されていない文献もたくさんあります。しかもこれら論文の多くは英語その他の外国語で書かれています。これらの文献は、科学文献データベース(ほとんどのものが有料*9)で検索したり、各分野の総説や関係論文に当たったりすることにより、はじめてその存在がわかります。その調べ方は大学で学びますが、一般的にはその分野の研究者(大学教員)でなければわかりません。また、世界的レベルでは研究の発展が急速なため、研究開始時に新規性があっても結果の発表時に新規性があるとは限りません。たとえばショウジョウバエ研究ではアメリカで行われる学会で毎年約1000件の論文が発表されます。生徒理科研究のレベルでは自分達の知らない大きな世界があることを自覚しているだけでよいでしょう。

*9 科学文献データベース 生物学(Biological Abstracts、英語)、化学(Chemical Abstracts Service、英語)、医学・生命科学(PubMed、無料・英語)、物理学、地学、数学、日本で発行される科学技術情報(J-STAGE、日本語・英語)、日本農林水産業(AgriKnowledge、日本語)

大学ではまず専門分野について高校までとは比較にならない体系的で深い知識を学びます。最新のさまざまな実験・調査方法やデータ処理法を学びます。また、教養としてさまざまな社会の現状やしくみについて学びます。その結果、みなさんの視野は格段に広がり、科学の世界にも、技術の世界にも、また、社会的にも多くの解明すべき疑問・課題や、実現すべき夢があることを知るでしょう。その上で研究室に所属し、特定分野の専門研究に従事します。生徒の皆さんはそのときにこそ全世界的・全歴史的視野に立った先端研究に取り組むことになります。楽しみにしていましょう。

生徒研究発表会で見られる現在の生徒理科研究の共通した弱点の一つが、新規性のあいまいさです。発表会が探究活動の報告会ではなく、研究発表会あるいは論文発表会であるためには、研究の新規性に関する明瞭な説明が必要です。そして、研究の新規性の説明責任は第一に発表者(研究を行ったもの)自身にあります。研究計画策定の段階から研究の新規性を明確にして研究を行い、研究発表会等ではどのような範囲で調べたところ新規なのかを明瞭に記述・述べるようにしましょう。なお、(大学以上の)一般研究論文では「どの範囲で調べたところ新規である」などと書いたものはほとんどありません。しかし、誤解してはいけません。一般研究では全世界的・全歴史的な新規性が当然の前提とされているからです。「全世界的・全歴史的」な新規性がない場合やその確認ができない場合は必ず「どの範囲での新規性なのか」を述べなければなりません。

生徒理科研究の新規性の判断基準となる既知情報の範囲を上記のように明確に規定することにより、研究開始時に必要な情報収集の範囲が生徒・教師の手の届く範囲となります。その結果、既知情報の大海に溺れることなく、研究課題の新規性を生徒・教師自らが判断できるようになり、既知情報と比較しながら、自分なりの独自の視点や方法をもちいた研究課題を工夫する余裕が生じます。この余裕は創造性ある研究課題の設定に重要なものです。

また、生徒理科研究論文に新規性とこれまでの生徒理科研究論文の引用とを求めることにより、生徒理科研究は論文の積み重ねにより次第に発展するものとなります。すなわち研究史が生じます。その結果、各論文には生徒理科研究の発展にどのような点で貢献したのかという研究史における位置づけと評価が生じます。こうして、一般の科学研究が全世界的・全歴史的視野での科学研究の発展をめざすのと同様に、高校・中学生徒の理科研究は生徒理科研究の発展をめざすものとなります。

過去の研究の追試、教科書にある法則・実験の検証、物理定数の測定等にも新規性が必要

追試・法則の検証・定数の測定の場合にも、研究結果を論文として発表するには新規性が必要です。新規性のないものは論文にはできません。したがって自分の研究のどの点に新規性があるのかをよく考えて主張することが必要です。以下はその具体例です。

過去に報告のある研究の追試の場合、研究結果が先行研究と異なった時は新規性がありますが、同じ結果になった場合は新規性はありません。しかし過去の研究と異なる範囲・条件や異なる材料について、あるいは異なる方法を用いて同様の研究を行い、過去の研究より精度の高い結果を得た場合、過去の研究と同様の結論を得たがそれにより結論が成り立つ範囲・条件・対象を広めた場合、過去の研究とは異なる結論を得ることにより過去の結論が成り立つ範囲・条件・対象を限定した場合、あるいは過去の研究の範囲・条件・材料から外れるとどのような違いが出るのかを明らかにした場合、これらの研究には新規性があります。

教科書にある法則・実験の検証や追試の場合、教科書にある範囲・条件・対象について同じ方法で実験して予測された通りの結果を得た場合、それだけでは新規性はありません。しかし、教科書に載っていない範囲・条件・対象・方法の場合は、その法則・実験が成り立つ新しい範囲・条件・対象・方法を明らかにしたという新規性が主張できます。一方、特定の範囲・条件・対象・方法において法則が成り立たなかった場合あるいは一定の誤差が生じた場合は、法則・実験の成り立つ範囲・条件・対象・方法を限定したことになり、その研究は新規性を持ちます。まれに教科書と同じ条件・範囲・対象・方法で実験をしても教科書とは異なる結果を得ることがあります。この場合、教科書の記述がそのままでは正しくない可能性があり新規性を主張できます。すなわち、既知の法則・実験の検証は、その正しさを確認することよりも、誤りや不十分さの発見、成り立つための条件の明確化にこそ価値があります。結果の解釈においては、既知の法則・実験に合う部分よりも外れる部分に注目することが大切です。

「過去の偉大な実験」や「典型的な実験」として教科書に紹介されているが具体的な実験方法の記述がないものについて、自分で工夫して実験方法を確立したり独自の装置を作製したりして追試を行い、過去の研究と同様の結果を得た場合、結果自体には新規性はありませんが、「実験方法の工夫・独自装置の作成」を新規性として主張することができます。この場合、実験方法の工夫・独自装置の作成の意義、たとえばこの方法・装置をもちいてどのような新規の研究が可能となるのかなどを述べることが必要です。また、まれに間違いのない条件・範囲・対象・方法で実験をしても教科書とは異なる結果を得ることがあります。この場合、教科書の記述がそのままでは正しくない可能性があり新規性を主張できます。

物理定数等(山の高さ・惑星の大きさ・色の濃さ・音の大きさ・物の形・数などを含む)の測定実験の場合、既知の方法や既存の装置を用いて測定し、既知の測定値に近い結果を得たとしても新規性はありません。しかし、自分なりの工夫を加えた実験方法や装置により測定した場合には、「自分なりの工夫を加えた実験方法や装置」に新規性を主張することができます。この場合、この方法・装置の測定値の精度や使用条件を明らかにし、その意義、たとえば、この方法・装置を用いてどのような新規の研究が可能となるのかなどを述べることが必要です。

よくある質問と答え

①研究論文に必要な新規性について、「日本語で行われる高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性」とするとのことだが、このように考えるに至った理由は何か。

(答え)一般に研究論文には新規性が必要です。論文はこれまでの科学では知られていない事柄を明らかにし、科学を発展させるために社会に発表するものだからです。したがって、(大学以上のレベルの)一般研究では全世界的・全歴史的視野での新規性が暗黙の前提として求められます。しかし、そのような新規性は現実的ではないとして、何らかの限定された範囲内(例えば日本国内あるいは特定の対象や応用目的)での新規性でもって論文発表している分野もあります。一般論としては範囲が広すぎては情報が多すぎて議論・論証が困難だし、狭すぎては広範な興味を得られません。この範囲をいかに的確に設定して新規性と現実性を両立させ関係分野の研究の発展に貢献するのかは、研究者や論文誌出版者の知恵の絞りどころです。

先述のとおり、生徒理科研究論文には建前としても全世界的・全歴史的レベルの新規性は不要です。また、一律の基準も設定できません。しかし、最低限のレベルとして、「日本語で行われる高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性」と、「その他既知情報を参照する場合はその参照情報をも超える新規性」が必要だと考えます。そして、「論文にはどのような範囲で調べたところ新規なのかを明確に述べる」ことを求めます。この条件は、生徒理科研究が主に高校生が行う研究で、大学以上の一般研究ではないという特殊性を踏まえた工夫です。

新規性の必要条件を以上のようにした理由は、第1に「新規性」を高校教師・生徒でも手の届く現実的な範囲にはっきりと定めることにより、一般研究とは異なる生徒理科研究の独自性を確立したいからです。これにより、その分野を専門とする大学教員(研究者)にしか論文の新規性を判断できないという現状を打破し、何が新規で何が新規でないのか、高校の生徒・教師ならだれでも同じ立場に立って自由に議論し判断できるようになります。また、生徒・教師が目的意識をもって新規性ある独創的な研究課題を提案できるようになります。

第2に「論文コンクールの受賞論文だけがすばらしい」という現状を打破し、「新規性」があり論理的に間違いなく書かれた生徒理科研究論文はすべてすばらしいこと、社会的に公表・記録する価値があること、また、その著者である生徒・教師は生徒理科研究においてはその分野の最前線(日本一)に立っていることを生徒・教師に知ってほしいからです。これにより生徒は現代科学が無数の研究論文の積み上げにより成り立ち、進められていることを理解するでしょう。

第3に生徒理科研究に発展史を生じさせたいからです。これまでの生徒理科研究をこえる論文の公表・記録とその引用を積み重ねると、論文の蓄積にともない生徒理科研究に発展史が生じるに違いありません。発展史が生じれば、各論文はその中で評価・意義づけされるようになります。その結果、生徒理科研究は探求能力の向上という生徒個人にとっての意義だけでなく、生徒理科研究の発展という社会的意義を持つことになります。そして、生徒・教師は理科研究を通じて生徒理科研究の発展に貢献できるようになります。

生徒理科研究の発展には、一般公開された良質の生徒理科研究論文情報の拡大と蓄積が重要です。「生徒の理科」誌の出版はそのための一つの取り組みです。生徒理科研究論文の無料web公開には、論文の質・信頼性の担保と、「重複投稿の禁止」、「知的所有権」への適切な対応が重要です。生徒理科研究の発表会・論文コンクールに取り組む諸団体がこの問題を適切に解決し、質と信頼性の担保された論文情報の公開と共有に参加されることを期待します。

②教科書にある「実験」や「探究活動」と同じ実験方法で対象や材料を変えたり条件を変えたりするだけで新規な研究となるなら、新規性のある研究課題は無数にあるように思えるが、それでよいのか。

(答え)それで結構です。新規性のある研究課題は無数に考えることができます。たとえば、全世界の現在知られている維管束植物は約27万種とされています。このすべてについて光合成産物がデンプンか否かをしらべていくと、それだけで27万個の研究が成り立ちます。しかし、この内、これまでに調べられたものはごく一部にすぎません。われわれは一部のものを調べた結果から、その他もたぶん同じだろうと推測しているだけです。じつは、この推測の論理が科学法則です。したがって、これまでに報告されていない植物を調べて既知の科学法則が成り立つことを明らかにすれば、科学法則はより固いものになります。一方、調べたところ既知の科学法則とは異なることが分かれば、既知とは別のタイプの植物もあることが分かります。すなわち、科学法則を新しい段階に発展させることになります。したがって、これまでに調べられていない植物を調べることはそれだけで新規性のある意義のある研究です。

しかし、ただ同じことを延々と何万回も繰り返して調べるだけが科学かと問われれば、「いいえ」と答えます。人間が理解したいと思う現象は無数です。しかし、人間が科学研究にさける労力・時間・経費には限度があります。そこから、人間は、同じ研究を行うならただ個別的事実を収集・記録するのではなく、一部の既知情報から全体を推測する論理を考え出したり、ことなる側面・現象・レベル(現象の現れる対象の大きさのちがい)を調べて、論理でその間をつなぐことにより自然全体を理解しようとしてきました。すなわち、自然を限られた既知情報と科学的推論により法則的・体系的に理解するという方法です。ここから、科学研究の世界では、同じ新規性のある研究でも、既知のものとはことなる側面・現象・レベルを調べる研究、あるいは、既知情報からは予想できないこと・事例を明らかにする研究はより新規性が高く、価値が高いと評価されます。この評価の程度の違いが「新規性のレベル」の違いです。大学以上の一般研究における論文出版ではこの「新規性のレベル」が厳しく問われます。ニュースなどに出てくる評価の高い(有名な)論文誌は特にそうです。

一方、過去のものと同じことを別の対象で行ったというだけの研究は「銅鉄主義」として低い評価しかあたえられず、普通(無名)の論文誌にしか掲載されません。しかし「何が銅鉄主義で何が銅鉄主義でないのか」、すなわち「なにに価値があり、なにに価値がないのか」は研究者(論文誌編集者)の主観(カン)によるところも多く、客観的・絶対的基準は定められません。10年前には見向きもされなかった研究が、今や重要な意義ある研究として注目されることもよくあります。また、現実の科学の歴史では「銅鉄主義」とよばれる研究から偶然に思いもよらぬ新発見がもたらされ、科学が発展してきたというのも事実です。

したがって、生徒理科研究でも「新規性」と「研究の意義」の説明は求められますが、「新規性のレベルの違い」で論文発表・出版の可否は問われるべきではありません。「新規性」に合理性があればすべて発表・出版の価値があります。すなわち、生徒理科研究には新規性の高い論文が歓迎されますが、「銅鉄主義」論文も同様に歓迎されます。

③新規性があれば研究として成り立つことはわかったが、かといって同じ実験を延々と対象・材料を変えて行うのは意欲をそがれるし、生徒も興味を持たないのではないか。

(答え)その通りです。新規性があるからと言って同様の実験を対象・材料を変えながら延々と行って論文発表するのでは、研究を行う生徒・教師も面白くないし、発表論文を読む読者も興味を持たなくなるでしょう。そこで、研究を行う者の対応策としては、単に対象・材料が過去のものと異なるというだけでなく、新規性に何らかの意味づけをする工夫をします。たとえば先の光合成産物の調査研究を例にとると、まず、教科書どおりジャガイモの葉を調べて光合成産物がデンプンであることを証明します。そして、他の根菜ではどうかとして人参など数種の葉を調べて最初の論文を書きます。次に、これと比較して葉野菜ではどうかとしてレタスなど数種をしらべて論文を書きます。さらに、樹木ではどうかとしてカキなど数種をしらべる、針葉樹ではどうかとして杉など数種を調べる、単子葉植物ではどうかとしてイネなど数種を調べる、乾燥地の植物ではどうかとしてサボテンなど数種をしらべる、さらに藻類ではどうかとしてワカメなど数種を調べるなどなど、分類や生態のことなる種類に調査範囲を広げていくと多くの論文が書け、しかも、データが増えれば増えるほど面白い研究となります。また、春の若葉、夏の青葉、秋の紅葉など季節変化や成長による光合成産物の変化を調べても新規性に新しい意味づけができます。要は新規性に意味を与えることで見え方が大きく変わり、論文の価値も変わります。意味づけの方法は研究者の工夫しだいです。これこそがその研究者の想像性であり、創造性です。

④教科書にある法則の検証で教科書と同じ条件・範囲・対象・方法で実験をしても教科書とは異なる結果を得た場合は新規性を主張できる、あるいは、結果の解釈では法則に合う部分よりも外れる部分に注目することが大切だとあるが、この考え方だと、生徒の実験操作の間違いやデータ処理のまちがいを新規な結果としてしまう可能性があるのではないか。

(答え)確かにその可能性はあります。実験開始後しばらくの間は、実験操作の不手際や操作ミス、データ処理の間違い、実験材料(動植物)取り扱い技術の未熟さなどにより、法則とはことなる結果、既知情報に合致しない結果、あるいはブレの大きい結果が得られることがよくあります。このような初期エラーは、実験を繰り返して慣れていく中で次第に解消していきます。このような時は、初期に得たデータは捨て、実験操作にしっかり慣れてから取った信頼できるデータを正式の結果として採用します。

しかし、法則や既知情報と異なる結果が繰り返し出つづける場合もあります。このような時はそもそもの実験方法・データ処理法が計画段階から間違っている可能性があります。まず、計画が適切か否かを慎重に検討します。同じ実験を行ったという既知情報があれば、それと同様の実験を行い、同じ結果が得られるか否かを調べるのも解決策の一つです。しかし、実験方法・データ処理法が適切なのに、どうしても既知情報あるいは法則から予想されるものとは異なる結果が得られる場合は新規な結果と判断しなければなりません。このような新規性は突然、思いもよらない方向からやってくるので、なかなか受け入れられません。しかし、既知情報や法則にこだわりすぎると、せっかくの新発見のチャンスを逃すことになります。このような時は生徒だけに任せず指導教師が自ら実験を行って納得できるまで確かめるのも現実的な解決策の一つです。ともかく、このような時にはあいまいにせず徹底的に取り組みましょう。目の前に展開する思いもよらない実験結果を新発見だと認めるには勇気が必要です。既知情報と教科書にある法則だけから現象を解釈するのは何の苦労も心配もいりません。しかし、既知情報と教科書がいつも真理だとは限りません。新発見の女神はリスクをとる勇気のない人にはほほえんでくれないことを銘記すべきです。

⑤論文発表に必要な新規性を「高校・中学・小学の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性」とすると、生徒理科研究が教科書内容に関係するテーマに偏ってしまい、生徒の自由な発想や疑問にもとづく面白い研究がなくなるのではないか。

(答え)いいえ、そのようには考えません。まず、論文発表に必要とされるのは「理科教育と過去の生徒理科研究を超える新規性」なので教科書内容に関係しないテーマを研究することは可能です。そして、その研究が一旦論文発表されると、以後はそれを超える生徒理科研究が続くことになります。こうして、生徒理科研究は教科書内容を超えて様々な方向へ発展することが可能です。しかし、教科書内容に関係しない研究テーマの方が面白いという評価には賛成できません。教科書内容に関係しないテーマは、多くの場合、応用分野(工学・農学・医学・薬学・環境科学・健康スポーツ科学など)の研究テーマです。基礎科学分野にとりくむ学校教師や大学教員には面白いと映るかもしれませんが、社会的には既知情報にあふれた普通の分野です(たぶん基礎分野よりはるかに多くの研究があります)。そして、生徒は、当然、その分野の文献を参照しながら研究することになります。この場合、生徒にはやはり「その他情報を参照する場合は、その内容をも超える新規性」が求められ、この事情は教科書内容に近い研究を行う場合と同じです。特別視すべきものではありません。生徒の理科研究所は、むしろ教科書内容に近い分野で多くの生徒理科研究が行われることを歓迎します。小学から高校まで理科教育を受けてきた生徒がそこから得た知識を生かして研究を行い、理科教育内容をより深く理解したり豊かに発展させたりすることは素晴らしいことだと考えるからです。したがって、理科教科書に近い分野であってもその他の分野であっても同じように面白いと考えます。

⑥教科書等とチェック・引用必須情報にある過去の生徒理科研究論文、および、研究に参照したその他文献だけを新規性を主張するための超えるべき既知情報とすると、専門書や一般研究論文等ですでに明らかにされている研究と同様の研究が新規な生徒理科研究として論文出版される可能性があるが、それでよいのか。

(答え)それでよいと考えます。一般研究ですでに明らかにされていることが新規性ある生徒理科研究論文として発表・出版されることは十分にあり得ることで、問題はありません。

このようなことが起こる原因は、生徒理科研究論文に求められる新規性のレベルが一般研究とは異なることにあります。生徒理科研究に必要な新規性が一般研究と同じであればこの問題は生じません。しかし、前述のように生徒理科研究に一般研究と同じ全世界的・全歴史的な新規性を求めることは現実的ではありません。生徒理科研究にはそれにふさわしい独自の新規性の規定が必要です。したがって、質問のような事態は避けられません。この事態を避けようとすれば生徒理科研究の独自性を失ってしまいます。

この問題と関係して、「インターネットで調べると容易に見つかる」とか、「日本語で書かれているから分かるはず」などの理由で一部の一般研究論文をチェック・引用必須情報に加えてはどうかとの意見がありますが、それはできません。新規性の規定は生徒理科研究の存立意義にかかわることで、生徒理科研究と一般研究の違いをあいまいにすることはできないからです。また、一般研究論文は原則的に英語出版することが求められており、早晩、英語となる可能性があります。日本語で書かれた一部の一般研究論文だけを特別視する理由はありません。

しかし、この新規性の規定は、チェック・引用必須情報以外を無視してよいとしているわけではありません。チェック・引用必須情報以外の論文は、「その他の参照情報」という扱いになります。すなわち、その評価と取り扱いは読者の判断に任されます。読者がその論文・情報を自分の研究に参照するなら引用する必要があります。しかし、知らない場合、または、知ったとしても参照しない場合は引用しなくて結構です。

⑦生徒理科研究には新規性の独自の規定が必要なことは分かったが、一方で、一般研究論文や専門書を無視してもよいとなると、これら論文や専門書に対するリスペクト(敬意)を欠くことにならないか。

(答え)ならないと考えます。生徒理科研究論文の発表・出版には、「小学・中学・高校の理科教育とこれまでの生徒理科研究を超える新規性と、その他既知情報を参照したときはそれをも超える新規性」が必要ですが、これとともに、発表論文の「はじめに」およびその他必要な個所で「どのような範囲で調べたところ新規なのかを明確に述べること」が必要です。これにより、その論文のいう「新規性」は一般研究の全世界的・全歴史的新規性とは異なることを明確にします。すなわち、調査範囲以外に同様の内容の先行研究がすでにある可能性を排除しないことを明言します。

また、前述の通り、チェック・引用必須情報以外の情報を自分の研究に参照する場合は論文に引用する必要があるとして、先行研究に対するリスペクトを求めています。

⑧論文を発表しようとしている最中に、偶然、他者により同様の内容の論文が査読有り論文誌等に出版される場合が考えられるが、この場合、他者の研究とは全く独立して行ってきた研究であっても、「これまでの生徒理科研究を超える新規性」に該当せず、論文発表はできなくなるのか。

(答え)他者の論文出版日と自分の論文投稿日の期間の長さによります。研究内容にもよりますが、一般に他者の論文出版日より1年以上遅ければ、完全に独立に行われた研究とは見なされず新規性はないと見なされます。しかし、数か月以内なら、独立に並行して行われた研究として新規性が認められる場合があります。この場合、後に出る論文は先に出た論文を引用してこの事情を書き添えることになります。しかし、同様の内容といっても独立に行われたのなら細部には違いがあるはずです。多くのデータが重なり新規性のレベルは下がりますが、違う部分を新規性として論文発表することになります。実は、科学研究においてこのような事態はしばしば起こります。多くの研究課題(テーマ)は自分が思いついたときには、同じアイディアを他者も思いつき、独立して研究を行う場合は十分にありうることです。そのために、科学者は見えぬ競争相手に負けまいとして、研究をできるだけ早く進め、論文発表しようとします。これが研究の先陣争いです。この争いで自分の研究者としての評価や出世するか否かが決まったり、ノーベル賞をとれるか否かが決まったりするとなると十分納得のいく話です。生徒理科研究の場合でも自分が最初の発見者となるのか、2番手の追試者となるのかは大きな違いです。

⑨多くのSSH校が配布している生徒研究報告書に掲載された論文は引用する必要はないのか。そこに掲載された研究と同様の研究が別の者により新規の研究として査読有り論文誌に発表・出版される場合が考えられるがそれでよいのか。

(答え)それでよいと考えます。SSH校の生徒研究報告書に掲載された論文の引用は義務ではありません。また、その後に別の者が同様の研究を査読有り論文誌に発表・出版してもやむを得ません。

なぜならSSH校生徒研究報告書は一般web公開されていない、査読有り論文誌ではないという2点で生徒理科研究のチェック・引用必須情報にはあたらないからです。同報告書は一部の高校へのみ配布されるものでだれでも見ることのできるweb公開ではありません。また、報告書の論文は明確な基準に基づく査読を経た原著論文ではないという点で、信頼性の担保された査読有り論文誌への掲載とはみなすことができません。したがって公開性と信頼性の2点でチェック・引用必須情報とはみなされません。

しかし、全く無視されるわけではありません。同報告書の論文は、「その他の参照情報」という扱いになります。前述のとおり、その評価と取り扱いは読者の判断に任されます。

同様の事情は一般研究でもよくみられます。大学に提出され、学内発表会で紹介される卒業論文や修士論文は他者により引用されることはありません。さらに、国内学会や国際学会でいくらポスター発表や口頭発表を重ねていても、その論文が査読有り論文誌に掲載されなければ他者に引用されることはありません。その後、他者によってほとんど同じ研究が査読有り論文誌に発表されることがあります。このとき自分の研究結果を見たのではないかと疑っても詮無いことです。もし自分の論文が他者に無視されたくないのなら、web公開された査読有り論文誌に発表・出版すべきです。ともかく研究の新規性(Originality)はより早く査読有り論文誌に発表したものに有ります。この場合、より有名な論文誌に掲載されたということでも賞をもらったということでもないことに注目しましょう。

⑩「査読有り論文誌でないと正式の発表論文と見なされず論文にも引用されない」といいながら、他方で一部の論文コンクールに提出された論文(審査資料)をチェック・引用必須情報として引用すべきだというのは矛盾ではないのか。

(答え)そのとおり矛盾です。この矛盾は生徒理科研究の現状を反映した矛盾で、生徒理科研究の発展の中でしか解決しません。

一般に査読有り論文誌でないと正式の発表論文とは見なされません。しかし、現状では、生徒理科研究論文のほとんどは査読有り論文誌には発表されていません。したがって、現状では信頼性が担保された正式の論文はほとんどない、すなわち引用すべき生徒理科研究論文はないということになります。一方で、多くの生徒理科研究論文が論文コンクールに提出され、審査の結果、優秀と判断された論文の一部はweb公開されています。この中には、現在の生徒理科研究の中でトップクラスの優れた論文が含まれています。これらの論文は査読を経た論文ではないが、過去および現在の生徒理科研を代表する論文であり、現状ではチェック・引用必須情報としてその研究成果を継承・引用するのが適切だと考えます。しかし、将来、生徒理科研究論文の多くが査読有り論文誌に掲載・発表されるようになれば、この事情は変化するでしょう。

⑪チェック・引用必須情報になっている多くの生徒理科研究論文は査読を経た論文ではない。したがって内容に誤りが含まれている可能性がある。また、参照した一般研究論文や専門書でも誤りやいいすぎがある可能性がある。それなのに、これらを正しい情報として引用しなければならないとすると問題が生じるのではないか。

(答え)「引用」の意味の誤解です。「理科教科書等や関係するチェック・引用必須情報の論文は引用すべきである」とは、その内容が正しいものとして引用すべきだという意味ではありません。無視してはならない、言及すべきだということです。すなわち、正しいものとして肯定的に引用してもよいし、間違いだとして批判的に引用してもよい。しかし、無視してはならないという意味です。

このとき、考慮すべきは査読有り論文誌に掲載された論文か否かです。査読有り論文誌に発表された論文は著者らの正式の発表として肯定的にも否定的にも引用すべきです。また、査読有り論文誌ではなくても社会的影響力のある情報(例えば教科書や専門書など)は、やはり肯定的にも否定的にも引用すべきです。しかし、査読有り論文誌以外の情報で、影響力も小さいものをあえて引用して否定的に評価するのは適切ではありません。なぜなら、その情報が正式の発表ではなく、研究途上の報告でありその後変化する可能性があったり、あるいは、うまくいかなくて途中で中止した研究であったりする可能性があるからです。ここから、生徒理科研究の発表会要旨集や研究報告集は引用すればよい、あるいは引用されればよいという言うものではないことが分かります。

⑫SSH校生徒研究報告書や一般web情報など、査読有り論文誌以外の論文等を引用必須文献ではない、あるいは引用しなくてもよいとすると、その論文の全体または一部をそっくりコピーして自分の論文に用いてもよいということにはならないか。

(答え)いいえ、なりません。引用は論文の新規性(Originality)に関係する概念であり、一方、コピーは論文の著作権に関する概念です。これら両者は異なる概念です。新規性に関する考え方はこれまでに説明したとおりです。社会的に公表されている科学著作物について、その内容を参照するときは、引用をして新規性(Originality)を明確にしながら述べることを求めるものです。一方、著作権は人間の創作物に生じる権利です(*10)。したがって、SSH校生徒研究報告書であっても、研究発表会のポスターであっても、口頭発表であっても、一般web情報であっても、あるいは、個人的なメモ書きであっても著作権はあります。また、著作権が生じるのはその創作物が作成された時点であって、どこかに登録するとか発表するとかしなくても生じます。そして、その創作物を他者が利用するには創作者の許可が必要です。しかし、科学論文等では、科学的知見自身は人間の創作物ではないので、文章の「内容」、すなわち記述された「事実」や「データ」には著作権は生じません。著作権は「内容」ではなく「表現のし方」に生じます。さらに、事実を記述する「文章表現」やデータを示す「図・表」であっても、それが著者の個性を表現するものではなく一般的・定式的なもの、あるいは正確を期すために必要なものであれば、他者のものを自己の論文等に必要最小限そのままの形で使用しても著作権侵害にはなりません。(しかし、この場合、記述された内容には新規性があるので、他者のものを用いるときには「引用」が必要です。)

*10 Wikipedia 著作権 https://ja.wikipedia.org/wiki/著作権/ 参照

著作権は論文に何の表示がなくても生じます。しかし、その利用のし方には2種類あり、表示記号で区別されます。©ライセンスとCCライセンスの2種類です。たとえば、© All right reservedと表示があれば、すべての利用方法について権利を主張し、他者が利用するには著作権者の許可が必要です。他方、CC BY NCと表示があれば、一定の条件下(この場合は、BYは著作権者名の表示、NCは非営利)では自由使用を認めるが、それ以外の使用については著作権者の許可が必要です。現在、多くの論文誌は©ですが、「生徒の理科」誌はCCです(*11,12)。

論文発表・出版の場合には、新規性と著作権のどちらも尊重しなければなりません。

*11生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp/ 「生徒の理科」生徒論文投稿規定 参照
*12 Wikipedia クリエイティブ・コモンズ・ライセンス https://ja.wikipedia.org/wiki/クリエイティブ・コモンズ・ライセンス/ 参照

Ver2. 2020年8月30日


第3章 研究計画作成法 (Pdfファイル 16ページ)

1.新規性と実感可能性があり、研究方法のしっかりした研究課題をたてる

研究課題の設定において重要なことは、「新規性」と「実感可能性」、「研究方法のレベル」、「必要な時間と労力」です。

新規性のある研究課題をたてる

最初に重要なことは新規性です。「他人と違うことこと」や「先人がやっていないこと」を研究します。「他人と違う」ためには独自性を出すとよいでしょう。独自の実験系をつくる、独自の調査地を持つ、あるいは、独自の材料・対象・方法を選ぶなどです。地域的に特殊な対象・問題から課題をみつけることもよいアイディアです。

研究課題を探すもっとも現実的でよい方法は教科書の中から探す方法です。ここでいう教科書とは小学5年生から高校3年生までのすべての理科教科書です。多くの高校生が研究課題を決める高校1年生のものではありません。自分の興味のある、あるいは得意な分野を選び、教科書に何が書かれていて何が書かれていないのかを考えながら、見出し・写真・図を見たり本文を読んだりして新規性のある独自課題を考えます。とくに、教科書にある「実験」や「探求活動」の中から興味のあるものを選び、そこに書かれている実験(測定)方法(あるいはそれを少し発展させた方法*1)を用いて独自性と新規性のある研究課題を考えるのがよい方法です。同じ実験(測定)方法で、「より細かく緻密に調べる、より広い・異なる範囲を調べる、異なる材料や現象を研究対象にする」ことにより教科書には書かれていない新しい特徴・傾向を見つけたり、法則の成り立つ範囲を拡大あるいは限定したりすることができます。また、同様の実験を「別の条件や違う環境」で行ったり、「別の実験と組み合わせて」行ったりすると他の現象との関係を明らかにすることができます。さらに教科書にある実験を行う過程で発見した教科書には説明されていない現象を研究することもよい考えです。

*1 教科書に書かれた方法を少し発展させた方法とした理由は次の通りです。教科書実験の一部には授業時間内に終えることができる、全員が実施できる、あるいは実験機器の購入費用を低く抑えるなどの理由で、定量性のない方法や応用性・発展性に欠ける方法を用いたものがあります。このような方法では研究の可能性が大きく制限され、新規性あるいは創造性ある研究の実施が困難になったり、繰り返し行う実験あるいは測定回数の多い実験が困難になったりします。このような場合には、より一般性のある方法や簡便かつ精度高く測定できる方法(分析機器)を用いる必要があります。将来的には教科書中に授業用の方法の他に、生徒理科研究のためのより一般的で応用性・発展性のある方法も紹介されるべきだと考えます。

教科書と同じ実験(測定)方法を用いると多くの利点があります。教科書やその解説書に実験(測定)方法の詳細や注意点が説明されているので、事故や間違いを避けることができます。典型的な実験結果が掲載されているので、自分の実験(測定)技術の確かさを確認することができます。また、実験装置・器具・薬品が授業用としてすでにある場合は、研究経費を少なく済ますことができるかもしれません。

研究課題は新規性だけでなく、おもしろさや意義も考えて選びましょう。すなわち、その独自性に誇りを持ってとりくめる課題がすばらしいです。

教科書だけ見ていても興味を持てる研究課題が見つからない場合は、日常生活の中から探すのがよい方法です。日常生活で見たり利用したりしているものの中には、そのしくみやはたらきを知らないものが無数にあるはずです。大型スーパー・ホームセンター・家電店・ドラグストア・デパートなどに行って商品を見て回りましょう。また、博物館・動物園・植物園・水族館に行くのも刺激的です。野山や町中を歩くのもよい方法です。そこで目にするものを、「なぜ」、「どのようなしくみで」、「どのようにして作ったのか」、「どこから持ってきたのか」などの問い(疑問)を考えながら改めてよく観察すると、多くの研究課題が浮かんできます。ここで重要なことは、いくら興味ある課題であっても、研究により問い(疑問)に答える方法(研究方法)を知らなければ研究することはできないことです。したがって、興味をもった複数の課題の中から、小学5年生から高校3年生までの理科教科書の実験・探究活動あるいは過去の生徒理科研究(チェック・参照必須情報*2)にある研究方法を用いて研究できる課題を探すと、研究方法のしっかりしたよい課題に行き当たるでしょう。

*2 チェック・参照必須情報 このシリーズ「生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照。

他者がどのような研究課題に取り組んでいるのかを知ることも、研究課題を決めるのに参考になります。自分の興味のある分野、あるいは得意な分野で、これまでにどのような生徒理科研究が行われて来たのかを、日本学生科学賞受賞論文(*3)を読み、調べましょう。具体的な研究課題の立て方や、研究方法が参考になります。この際忘れてはならないことは、過去の研究と同じ研究を行うのではなく、過去の研究とは異なる研究、新規性のある研究課題を考え出すことです。上の「教科書の中から探す」で述べた方法を参考に、新規性のある研究課題を定めます。

*3日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社) https://event.yomiuri.co.jp/jssa/ 受賞論文のpdfファイルが「理科自由研究データベース」(御茶ノ水女子大学)http://sec-db.cf.ocha.ac.jp/ でweb公開されている。

部活などで先輩の先行研究を継承・発展させる場合や、他のグループによる先行研究がすでにある研究課題に取り組む場合は、先行研究をのりこえる「工夫」が必要です。この場合も、「より細かく緻密に調べる、より広い・異なる範囲を調べる、あるいは異なる材料・現象を研究対象にする」などして新しい特徴・傾向を見つけたり、「現象のことなる側面を調べる、別の実験方法・分析方法で調べる」などしてより深い解析を行ったり、「別の条件・違う環境」で行って他のこととの関係を研究したりすることにより、「新規性」のある研究を行うことができます。

こうしてあげた研究課題候補について、先に述べた「新規性」を改めて検討します。小学5年生から高校3年生までの全理科教科書や標準的な参考書にあたったり、チェック・参照必須情報である過去の生徒理科研究論文をチェックしたりして、①研究課題候補に関係する情報や研究にはどのようなものがあるのか、②何がわかっており、何がわかっていないのか、③研究課題候補がどの様な点で新規性があるのか具体的に詳細に明らかにします。教科書・参考書・過去の生徒理科研究論文に有用な情報がない場合は、チェック・参照必須情報以外の入門書・専門書・論文等を参照しなければなりません。その場合は、その参照情報をもこえる新規性が必要になることを忘れてはいけません。こうした検討の結果、新規性が確認できれば、その候補は研究課題とすることができます。当初の研究課題候補と同様のものが教科書・参考書や、先行研究論文・その他参照情報にすでにある場合には、課題の変更が必要です。しかし、当初のアイディアと同じものがあるからと言ってそれを捨ててしまう必要はありません。むしろ上手に変更することにより、その先を行く研究になったり、より独創性の高い研究になったりすることがよくあります。チャンスだと思い徹底的に考えて工夫しましょう。

ここで各研究課題候補について、その研究課題あるいは関係する分野を研究する意義を2~3行で簡潔に明らかにしておきましょう。ここでいう意義とは、「生徒理科研究における学問的意義」や社会的意義(人間生活の向上、生命の尊重、自然環境の保護における)です(*4)。教科書・参考書や先行研究にあたり、関係する情報を詳細に把握した後では、その研究の意義を述べることは比較的容易でしょう。研究の意義に個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は含めません。

*4 研究の意義については、下節の「研究の意義の節」参照。

実感可能性のある研究課題をたてる

研究課題を定める上で次に重要なことは、「実感可能性」です。自分がその対象・現象を繰り返し観察・体験し十分味わうことができる課題、目の前になくてもありありとその現象・対象をおもい描くことができる課題を選ぶことです。「自分が興味を持ったことを研究しよう」とよく言われますが、ただ言葉を聞いてちょっと興味をもっただけのことを研究してはいけません。言葉でしか理解できないことを研究することは不可能です。興味を持って考え続けられること、実感をもってとらえられること、繰り返し観察・体験し味わうことのできることを課題とすべきです。そして、研究を始めたら(あるいは、研究計画を作るときは)、まず、問題の対象・現象を何回も体験・観察し、味わうことが大切です。頭の中だけで考えたり、字面だけ見て考えたりしてはいけません。注意深い体験・観察をくりかえすと、さまざまな「新規」のアイディアや問い(疑問)がわいて来るはずです。

高校生にふさわしいレベルの研究方法を用いる

研究課題を定めるうえで第3に重要なことは「研究方法のレベル」です。論文発表・出版をめざす研究は、「すくなくとも高校で可能な科学的に信頼できる方法」で、「高校生レベルにふさわしい徹底的な実験的追究が」がなされることが必要です(*5)。生徒理科研究発表会の発表の中には、研究課題は面白くても研究方法のレベルがそれに及ばなかったり、徹底的な実験的追究に欠けていたりしているものが少数ながらあります。また、課題に対する理解が研究課題として取り上げられるレベルに至っていなかったり、科学研究で明らかにできる部分とできない部分が正しく切り分けられていなかったりするものもあります。研究課題の選定に際しては、研究課題候補について、まず小学5年生から高校3年生までの理科教科書や過去の生徒理科研究を調べて「高校生にふさわしいレベルの研究方法や実験的追究方法」があるか否かを検討します。さらに必要な場合には、専門書や一般研究論文を参考にしたり、研究者(大学教員等)にたずねたりして、適切な研究方法や実験的追究方法があるか否かを検討します。そのような方法が見つかれば研究することができます。しかし、見つからない、あるいは、考え出すことができない場合には、その課題は研究課題にすることはできません。

*5生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp/ 「論文査読規定」 参照)

しかし、このことは高校のレベルを大きく超える高度な研究方法や高価な実験装置を用いた研究がよいといっているのではありません。小学5年生から高校3年生までの理科教科書や過去の生徒理科研究にある方法、あるいはそれを少し発展させた方法(*1)を駆使して、創造性ある、あるいは、鋭く切り込んだ研究を行うのがもっともよい方法です。大学レベルの本格的な研究方法はそれを専門とする大学に進学すればだれでも普通に経験することができるので、個人的に世界的レベルの一般研究に取り組んでいる特別な生徒以外は、高校生があえてチャレンジする必要はないでしょう。

時間と労力にあう研究課題をたてる

最後に重要なことは、「必要な時間と労力」です。「時間と労力」は、その研究を行うのに必要な日数・時間と人数です。研究は教科書実験のように手順に沿ってやれば一定時間後に必ずデータが得られるわけではありません。予定した通りに進まない、失敗してやり直しをする、様々な実験条件を試行錯誤して適切な条件を探し当てるなど、多くの時間と労力が必要です。研究をやり遂げるには、研究に必要な時間・労力と自分たちが準備できる時間・労力との間のマッチングが必要です。

一般に投入時間・労力の少ない研究はたいしたものにはなりません。データ量の多い通常の論文(full paper、図表7個以下)の発表を目標とするなら、分野や研究課題にもよりますが、研究計画の作成から論文発表・出版までの取り組みに2年間(1日2~3時間を140日)程度かけることが必要でしょう。データ量の少ない短報(short report、図表3個以下)ならその半分以下でも可能です。しかし、研究時間のあまりにも少ない(1日2~3時間を10日程度の)「研究」は研究というより実験・実習というべきでしょう。

自分たちが準備できる時間・労力はどれだけかを検討し、必要なら研究課題を縮小し、完結可能な研究課題にする必要があります。あるいは、取り組む生徒人数を増やしたり、先輩から後輩へと同一課題を引継いだりする必要があります。ただし、これには指導教師の強い情熱と指導力が必要です。この点で、部活で取り組む場合は研究時間・人数の点でも、先輩から後輩への引継ぎの点でも、指導教師の情熱の点でも、論文発表・出版をめざす研究が可能です。

実際には、いくつかの研究課題候補を挙げ、それらについて、「新規性」と「意義」、「研究方法のレベル」、「実感可能性」、「必要な時間と労力」を具体的に検討して最終的に2-3個の研究課題候補を定めます。

2.科学的論理に貫かれた研究計画をつくる

図3 研究計画の策定 問い・実験調査計画(方法)・予想される結果・予想される結論の間の論理的一貫性が重要である。

次は、各研究課題候補について、具体的で詳細な研究計画を立てます。ここで重要なことは科学的論理に貫かれた研究計画を立てることです。研究計画には、①「研究課題の設定」、②明らかにしようとする「問い(疑問)の設定」、③問い(疑問)に答えるための「実験・調査計画(材料と方法)と想定される結果」の作成、④「結果から導かれる結論」の作成の4つが必要です。この4つはどれかを先に行わねばならないということはありません。どれからはじめても結構です。とりあえず思い浮かんだアイディアからはじめて、行きつ戻りつ考えていくうちに4つは同時に定まります。具体的な実験・調査計画(材料と方法)のない研究課題は無意味だし、明らかにすべき問い(疑問)のない実験・調査計画(材料と方法)は無意味だし、結果と結論のでない実験・調査計画(材料と方法)は無意味だし、研究課題のない問い(疑問)は無意味だからです。いずれにせよ、最終的にこれら4つは科学的論理性に貫かれたもとのなっていなければなりません。互いに整合性のないバラバラなものであってはなりません。

なお、実験・調査計画(材料と方法)とは、実験・調査の対象・材料、具体的な実験・調査手順、データの採り方、データの処理方法のことです。科学研究では、このような実験・調査計画のことを「材料と方法」と呼びます。この「材料と方法」により実験・調査が行われ、結果は表・グラフ・写真・数式などで表わされます。最後に結果に基づき結論が論理的に導かれます。

問い(疑問)の設定

研究計画の作成において最初に行うことは「問い(疑問)の設定」です。教科書にはまず「仮説を立てる」としていますが、これは不適切です(*6)。「仮説」でななく「問い(疑問)」が重要です。代表的な「問い(疑問)」は、「~かもしれない・~ではないか・~に違いない?」というyes/no疑問です。「問い(疑問)」にはこの他に、「なぜ(why)?、どのようなしくみで(how)?、何が・何を(what)?、どのような性質の(what)?、いつ(when)?、どの程度(how)?、どちら(which)?、どこ(where)?」のWH疑問が含まれます。「問い(疑問)」はこれらの内、どれでも結構です。考えられる疑問をできるだけ多く出します。その中で最初にとりくむ疑問を選び、それに答えるための実験・調査計画(材料と方法)を作ります。すでに先行研究がある場合は新規性のある問い(疑問)が必要であることを忘れてはいけません。前に述べた「先行研究をのりこえる工夫」を参考に新規性のある問い(疑問)を考えましょう。

*6 この章の「仮説より問いが重要である」の節参照。

なお、科学研究においては、「問い(疑問)~に答えること」あるいは「問い(疑問)~を明らかにすること」を研究目的と言います。したがって、「この研究の研究目的は何か」は、「この研究の問いは何か」と同じ意味です。言葉を替えれば、「この研究の研究目的」とは「この研究で明らかにしようとすること」ともいえます。「研究目的」は研究の学問的・社会的意義や応用目的のことではないので、誤解しないようにしましょう。

「問い(疑問)」が思い浮かばない時は、課題とする対象・現象を自分の眼で繰り返し観察・体験するのがよい方法です。眼前になくてもありありとその現象・対象をおもい描くことができるようになるまで徹底的に観察・体験しましょう。観察しながら、「なぜ(why)?、どのようなしくみで(how)?」の問いを深く考ると、「ああではないか、こうではないか」といった、多くのアイディア「問い(疑問)」が湧いてくるはずです。様々な異なる視点からできるだけ多くの疑問を出しましょう。なお、WH疑問の内、「なぜ(why)?」と「どのようなしくみで(how)?」は新規の具体的なアイディア(yes/no疑問)を考え出すのに役立つ特に重要な疑問で、研究の原動力となる疑問です。研究計画作成時だけでなく、研究実施中にも、結果をまとめるときにも繰り返し問いかけましょう。

「問い(疑問)」が思い浮かばない時の対策のもう一つは、類似の課題にとりくんだ先行研究(論文)を参照することです。他者が問題の現象・対象に対しどのような「問い(疑問)」を提起して研究に取り組んだかを知れば、きっと自らの「問い(疑問)」を見つけることができるでしょう。

実験・調査計画の策定

つぎは具体的な「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と「結果から導かれる結論」の策定です。この時、1つの実験・調査計画(方法)で複数の疑問に答えようとしてはいけません。問い(疑問)1つずつに対してそれぞれ「実験・調査計画(方法)と想定される結果」、「結果から導かれる結論」を作りましょう。まず「実験・調査計画(方法)」です。前述の「研究課題の新規性」の検討で調べた教科書実験・先行研究や関連情報を参考に、「問い(疑問)」に答えることのできる「実験・調査計画(方法)」を考えます。「実験・調査計画(方法)」は徹底的に具体的・詳細に考えましょう。すぐには明確にできないことがある場合は、どのような手順をふんで明らかにするのかを考えましょう。

「想定される結果」は表・グラフ・写真・数式などで表します。どのような表・グラフ・写真・数式等になる可能性があるのか、具体的な結果を想定します。そしてその結果が得られたとき何が言えるのか、この結果から論理的に導かれることが「結論」です。この時、それぞれの実験・調査計画(方法)について必ず複数の異なる(対立する)結果を想定し、どの結果が得られれば何が言え、何が言えないのか、別の結果が得られれば、何が言え、何が言えないのかを明らかにし、複数の異なる(対立する)「結果」と「結論」を想定します。

因果関係の実証(証明)に用いられる論理

科学研究にもちいられる論理には分野の特徴を反映して様々なものがあります(*7)。これを的確にとらえて正しく利用することは研究計画の作成や結果から正しく結論を導くときに重要です。ここでは、因果関係の解明にもちいられる主要な3つの論理、すなわち、因果関係を実証するための論理、帰納法(因果関係の推測や仮説の定立に用いられる論理)、理論研究分野の論理について紹介します。

*7 詳しくは本シリーズの解説文「生徒理科研究のための科学的論理」辻村秀信 参照。

まず、実験系に存在する2つの事物(AとB)間の因果関係を証明(実証)するための論理を考えます。たとえば「Bの生成にはAの存在が必要である」、あるいは、「AはBの生成にはたらいている」ことを実証しようとする場合には、次の2種類の実験が必要です(図4)。1つが除去実験、すなわち実験系からAを除去する操作によりBが無くなるあるいは減少することを示す実験、もう一つが付加実験、すなわちAの付加操作によりBが生じるあるいは促進することを示す実験です。この両方が示されてはじめて、「Bの生成にはAが必要である」、あるいは、「AはBの生成にはたらいている」といえます。この2つが示されない場合は因果関係を実証したとは言えません。この論理は系における因果関係の解明をめざす科学研究において最も重要なものです。

具体例を述べましょう。いま畑でいんげん豆(植物)を栽培しているとします。このいんげん豆の成長の要因を研究します。そこで「植物の成長には肥料(チッソ、リン酸、カリ)が必要である」、あるいは、「肥料は植物の成長にはたらいている」という仮説の真偽を植木鉢栽培を実験系として調べます。まず、畑の土壌を入れた植木鉢に植物を植え、これに肥料を与える実験をします。これが付加実験です(図4)。

図4 因果関係の証明には付加実験と除去実験が必要である

肥料を与えない場合と比較して肥料を与えた場合に植物の成長が促進されるか否かを調べます。その結果、肥料を与えなくても植物は成長したが、肥料を与えた方がよく成長した場合、「肥料は植物の成長を促進する」ことが分かります。しかし、この実験からは「植物の成長に肥料が必要である」とは言えません。なぜなら、通常の土壌だけを用いた場合でも植物はある程度成長したからです。また、肥料を与えた場合と与えなかった場合でほとんど差なく植物が成長する場合もあるでしょう。この場合の結論は、「肥料は植物の成長を促進しない」となるでしょう。しかし、この結論には「土壌中にすでに肥料成分が十分含まれていたのではないか」という反論が可能です。結局、どちらの場合でも土壌だけで育つ植物の成長が肥料によるものか否かは明らかにできません。

この問題を解決して明確な結論を得るためには、土壌中から肥料成分を除く実験(除去実験)が必要です(図4)。そこで、畑の土壌ではなく、肥料成分をほとんど含まない土壌である「パーライト」または「赤玉土」を入れた植木鉢を用いて植物を育てる実験をします。この実験でもし植物が成長した場合には、「肥料は植物の成長に必要ない」あるいは「肥料がなくても植物は成長する」が結論となります。しかし、もし植物が成長しなかった場合には、「植物の成長には肥料が必要である」あるいは「肥料は植物の成長を促進する」といえそうです。しかしこの場合にも反論が可能であり、通常の土壌には含まれるが「パーライト」や「赤玉土」には含まれない肥料成分以外のもの(たとえば有機物)で植物の成長に必要なものが存在し、「パーライト」や「赤玉土」ではそれが欠けているから植物が成長しないのではないか」という疑義です。そこで、必要になるのはパーライトや赤玉土に肥料を加えた土壌をもちいて植物をそだてる実験(除去実験+付加実験)です(図4)。その結果、植物の成長が通常の土壌どおりに回復すれば、「植物の成長には肥料が必要である」、そして、「肥料は植物の成長を促進する」と間違いなくいえます。

以上のように、因果関係の完全な証明には除去実験と付加実験の両方が必要です。しかし、研究課題によっては(現在のところ)片方しか実験処理ができない場合もあります。その時の「結論」は留保付きのものにならざるを得ません。

帰納法―因果関係の推測や仮説の定立に用いられる論理

一方、2つの事物間の因果関係の存在を推論する(仮説を立てる)ための実験は異なります。よく用いられる論理は帰納法です。たとえば、X条件でBが生じる、Y条件でBが生じる、ところがZ条件ではBが生じない。ここでAについて調べたところ、X条件とY条件の時はAが存在したがZ条件の時にはAが存在しなかった。このようなときに、「AがBの生成にはたらいているのではないか」、あるいは、「Bの生成にはAの存在が必要なのではないか」と推論する(仮説を立てる)論理を帰納法と呼びます。この推論は合理的です。なぜなら、先に上げたX条件、Y条件、Z条件の状態は、「AがBの生成にはたらいている」が正しいときに予想される状態と一致しており、この因果関係の存在を支持している(矛盾がない)からです。したがって、帰納法は因果関係の存在を推測して仮説を立てたり、既知の仮説を実験・調査で検証して支持したりする(矛盾がないことを示す)論理としては有力な方法です。調査研究ではこの論理に基づく考察がよく行われます。

図5 AとBとが一致して存在する場合の4つの可能性

しかしこの論理は、因果関係を実証(証明)する論理ではありません。なぜなら、先の実験結果は、X,Y,Zの3条件では、AとBが一緒に動いていることを示しているだけだからです。この場合のAとBの関係には4通りが考えられます(図5)。①AがBの生成にはたらく場合、②BがAの生成にはたらく場合、③AとBの両方の生成にはたらく別の因子Cが存在し、X条件やY条件ではCが生じ、Z条件ではCが生じない場合、④偶然AとBの動きが一致した場合です。これら4つのうち、④偶然の可能性は実験例数を増やせば減らすことができますが、残りの3つの可能性は減りません。したがって、AとBの動きに一致が見られても両者間にかならずしも因果関係があるとは言えないのです。

結論的には、帰納法は因果関係の存在を推測して仮説を立てたり、既知の仮説を検証して支持したりする(矛盾がないことを示す)のに用いることができるが、関係を実証する論理には用いることができません。

理論研究の論理

最後に理論研究の論理です。除去実験や付加実験で因果関係を証明することが困難な問題を扱う物理や地学、化学、生物の理論研究では、因果関係の実証ではなく、いくつかの現象をみてその背後に隠れる事物や因果関係を推測して新規の理論(仮説)を立てること自体を主要な研究目的としています。たとえばいま、B1、B2、B3という複数の現象が知られているとします。そこで、B1やB2、B3が生じる原因として、Aの存在と、AがBの生成にはたらくしくみ(因果関係)を説明する理論(多くの場合、数式で表される)とを仮説としてたてます。そして、どのような条件の時AがはたらきB1、B2、B3が生じるのかを理論計算、モデル実験、コンピュータシュミレーションなどを用いて理論的に説明するわけです。

理論研究の分野では理論(仮説)が正しいか否かを実験的に直接証明(実証)することはすぐにはできません。これが困難だから理論(仮説)として発表されるのです。その正しさは、さらに多くの現象(B4、B5)をその理論で説明(検証する、矛盾がないことを示す)したり、別の実験によりAの存在を直接証明したりすることで示されます。すなわち、もし理論(仮説)が正しければ、条件XではB4が生じるはずだと理論的に推論します。そして現実に条件XではB4が生じることを実験的に示すことによってです。あるいは、この理論が正しければ、AはYという性質をしめす事物であると理論的に推論し、実際Yという性質をしめす事物が存在することを実験的に証明することによってです。このような検証実験では、実験結果が理論(仮説)の予想に一致した場合、理論(仮説)を支持する(矛盾のない)新しい事例を見つけたことになり、理論(仮説)の正しさはより強固になります。しかし、理論(仮説)を証明したことにはなりません。一方、理論にもとづく予想が実験的に否定されれば、その時点でその理論(仮説)はそのままでは正しくないことになります。

このタイプの研究で代表的なものはメンデルの遺伝法則の研究です。グレゴール・ヨハン・メンデルはエンドウを用いた遺伝実験にもとづき仮想的な遺伝子を仮定し、この遺伝子がどのように子孫に伝わり生物の形質を決めるのかを説明する理論(仮説)を提案しました。この理論はその後の多くの実験的検証により一定の修正を受けながらもその正しさが示されてきました。そして今日ではメンデルが仮定した遺伝子が細胞の染色体に存在するDNAの塩基配列であることが実験的に証明され、この法則の正しさは確認されています。

対照実験・比較実験とデータ収集研究

 実験・調査計画の策定で重要なことは、適切な対照実験あるいは比較実験の設定です。ある一つの実験結果を得た時、その結果の評価にはもう一つ別の実験結果が必要です。両結果を比較することにより結果の評価が可能となるからです。比較すべきものがなければ、結果を得ても何も言えない、すなわち、結論を出せないことになります。

たとえば、再び、インゲン豆(植物)の成長に果たす肥料の役割を調べる実験を考えましょう。植木鉢に植えた植物に肥料を与えた時の植物の成長が、畑に育つ植物と同程度だったからといって肥料が成長に重要だとの結論は出せません。肥料を与えなくてもポットに入れた土だけで十分に植物が育つ可能性があるからです。すなわち、肥料を与えて育てた植物と肥料を与えずに育てた植物の成長を比較して、肥料を与えた植物が肥料を与えなかった植物よりもよく成長してはじめて肥料には植物の成長促進効果があるといえるからです。さらに厳密にみると、肥料を水に溶いて通常の水やりとは別に与えた場合には、通常の水やりの他に肥料を溶かすのに用いた水と同量の水を与えた植物との比較が重要です。なぜなら、水を余分に与えるだけでも植物の成長に影響が出る可能性があるからです。このように研究対象に対するある実験処理・環境変化の影響を調べるときには、目的とする実験処理・環境変化の効果を論理的に特定できるようにするための別の処理・変化の実験(多くの場合、無処理・無変化)を同時に行います。そして、両者の結果を比較することにより結果の適切な評価、すなわち結論が可能となります。このような実験を対照実験といいます。実験計画を立てるときにはどのような対照実験を行うと確実な結論を得ることができるのかをよく考えなければなりません。また、対照実験はかならずしも1つとは限りません。得ようとする結論が異なれば、それに必要な対照実験が異なることがあるからです。

実験計画の策定でもう一つ重要な実験が比較実験です。たとえば上と同じ実験で、ある量の肥料を与えて植物が良好に育ったからといって、その量が植物の成長に適切な肥料量だとは言えません。別の量を与えた時の方がよく育つ場合があるからです。すなわち、さまざまな量の肥料を与える実験を行い、結果を比較してはじめて適切な肥料量は明らかになります。このように実験処理・環境変化の量や質を様々に変えて実験を行い、その結果を比較することによりはじめて結果の正しい評価・結論が可能となる場合があります。このような実験を比較実験といいます。この場合も、実験・調査計画の策定時にどのような比較実験を設定すると何を明らかにできるのかをよく考えなければなりません。

他方、実験・調査研究の中には、適切な対照実験や比較実験を設定することができないものがあります。たとえば、地域環境の調査研究の場合、この調査により近年の環境変化を明らかにしようとするなら、今年の環境調査結果だけでは変化は明らかにできません。過去に行われた同様の環境調査結果があってはじめて変化を明らかにできます。また、同様の調査が他地域で行われておれば、その結果との比較で自分の地域の特徴を明らかにすることができます。したがって、調査計画の策定段階に結果を何と比較して何を明らかにしようとするのかをあらかじめ明確にしておかねばなりません。比較すべきもののない調査からは何も明らかにすることができないからです。

また、理論値との比較により結果を評価する(結論を得る)実験・調査研究もあります。たとえば、ある遺伝子の遺伝様式がメンデル遺伝の分離法則にあっているか否かといった研究です。この場合には、理論的に予測される結果と実験・調査結果との比較により、結果を評価することになります。したがって、このような実験・調査の場合には、実験・調査計画の策定時に結果をどの理論をもちいてどのような方法で比較評価するのかをあきらかにしておかねばなりません。理論の検証実験や、実験データに合致する理論の模索研究などもこの類の研究となります。

さらに、比較すべき先行研究もないし、特定の理論的予測や仮説もない、あるいは前提としない、とりあえず基礎データを集めて記載しようという研究があります。類例のない新しい問題や対象に取り組む場合の最初の調査研究によくみられます。このよう研究では一般的な問題意識があるだけで明確な問いがないので結論はありません。新規の結果(データ)があるだけです。このような研究は多くの場合、問いや仮説のある通常の研究がこの後につづくので仮説生成型研究とよばれることがあります。たとえば、生物ゲノムの全塩基配列をあきらかにするゲノム研究計画、脳の全神経回路を明らかする脳研究計画、身体状態を知るための全血液成分研究などです。また、全国・全世界の地質調査、定期的に行われる植生調査・水質調査、恒常的に行われている河川や湖沼の流量・水量調査、気象観測、天体観測などです。近年のビッグデータもこれに含まれるでしょう。

問いと実験・調査計画と結論の論理性

最後に実験・調査計画(方法)の策定で重要な論理は、「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と「結果から導かれる結論」とのあいだの論理性です。かならず「実験・調査の結果から論理的に導かれる結論」が「問い(疑問)」に対する答えとなっていなければなりません。実験・調査計画(方法)の策定に当たっては、最初に「問い(疑問)」にたいする答え(結論)を考え、次にその「結論」を導くための「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考えても結構です。あるいは逆に、最初に「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考え、それに合わせて、「問い(疑問)」と「結果から導かれる結論」を考えても構いません。重要なことは、「実験・調査」の「結果」から論理的に導かれる「結論」が「問い(疑問)」に対する答えとなっていることです。「結論」が、「問い(疑問)」の答えとならない場合は、あるいは論理に弱点がある場合は、「実験・調査計画(方法)」の変更・追加、あるいは、「問い(疑問)」の変更が必要です。

ここから分かることは、どんな「問い(疑問)」でも、それに答えることのできる「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考え出せない場合は、その「問い(疑問)」は現時点では研究することができないということです。すなわち、「問い(疑問)」は、その問いに答えることのできる「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と同時に提起されてはじめて意味のある「問い(疑問)」となります。また逆に、あらゆる「実験・調査計画(方法)と想定される結果」はそれにより答えることのできる「問い(疑問)」と同時に提起されて初めて意味のある「実験・調査計画(方法)」となります。研究における新アイディアはこの「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)」の新しい関係づけの発見によるものが多いです。自分の研究を深く考え続けていると、先行研究論文や他者の研究発表、あるいは日常生活で接する情報をヒントに、ある日突然、新しいアイディアが思い浮かぶことがあります。このアイディアは多くの場合、これまで気になっていた「問い(疑問)」に対する新しい「実験・調査計画(方法)」の発見であったり、おもしろいと感じていた「実験・調査計画(方法)」に対する新しい「問い(疑問)」の発見であったりします。

仮説より問いが重要である

「問い(疑問)に対する答え(結論)はこれではないか」、または、「たとえばこれ、あるいは、あれかもしれない」として挙げる予想される結論を「~である」のように断定型で述べた文(命題)を「仮説」といいます。一部の教科書では、予想される実験・調査結果のことを仮説としていますが、これは間違いです。仮説は問い(疑問)にたいする予想される答え(結論)のことを言います。

先にも述べましたが(*7)、「仮説」を特定の既知情報から予想される特定のものだけに絞ろうとしてはいけません。むしろ、「これかもしれないし、あれかもしれない」と複数の異なる(対立する)「仮説」、あるいは新規の「仮説」を考え出す発想の自由さにこそ創造性は宿ります。

*7 論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法 「問い(疑問)の設定」の節参照。

さらに、教科書では研究課題につづいて仮説を設定するとしていますが、これは不適切です。必要なのは、問い(疑問)を設定することです。なぜなら、仮説ではYes/No質問しか問い(疑問)として設定できず、上述の多様な研究スタイルや論理に対応することができなかったり、研究によっては論理の自然な流れを妨げたりするからです。しかし、問い(疑問)とすれば、Yes/No質問以外にも、より広くWH質問を問い(疑問)として設定することができ、自由な研究が可能となります。また、明確な問いや仮説を持たないデータ収集研究(*8)にも対応することができます。

*8 論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法 「対照実験・比較実験・データ収集研究」の節参照。

なお、「研究課題につづいて仮説を設定するとするのは不適切」とは、仮説を設定すべきでないと言っているわけではありません。問いとして、Yes/No質問を設定すれば仮説を設定することになります。また研究の中には、理論(仮説)の検証(支持)を目的とする研究があります。このような研究では「問い」が既知仮説に対する支持/不支持を問うものなので仮説を述べるのは当然です。しかし、このような研究は一部にすぎません。研究にはさまざまなタイプのものが存在します。したがって、一般的な研究方法論としては「研究課題につづいて仮説を設定する」とするのは不適切で、「研究課題に続いて問いを設定する」とすべきです。

多数の問いと実験・調査計画を立てて深く研究する

一つの「研究課題」の下にさまざまな複数の「問い(疑問)」を提起し、それぞれの「問い(疑問)」に対応する「実験・調査計画(方法)」を作ることを常に考えましょう。それには、「なぜ(why)」疑問と「どのようなしくみで(how)」疑問とが役立ちます。研究が発展するにつれて「問い(疑問)」も増え、それに対応した「実験・調査計画(方法)」も増え、実験・調査結果に基づく「結論」も増えることになります。特に、ある方法を用いて実験を行い明瞭な結果と答えが得られた場合はチャンス(幸運)です。明瞭な答えの得られる実験方法は多くはないからです。この時は、同じ方法を用いて可能なさまざまな実験(または問い)を考え、問題としている対象・現象を徹底的に深く明らかにしましょう。この徹底性が、他者の追随をゆるさない研究をすすめるためのコツです。

こうして研究計画の作成が終われば、各研究課題候補のおもしろさや発展性が理解できるようになり、どれを選ぶのかは自然と決まるでしょう。研究計画の作成は「創造」の過程そのもので、重要な研究過程です。よく考えながら、あるいは様々な人と議論しながらアイディアを膨らませ、わくわくして実験に取り組めるような計画を立てましょう。

繰り返しになりますが、研究計画を立てる時、さまざまな先行研究や、専門書、ネット情報等を参考にすれば、より深い知識をもとに研究計画を立てることができます。しかし、その時には、参考にした情報を超える新規性が研究に必要となることを忘れてはいけません。専門書にすでに書かれていることをただ再現する、あるいは、確かめるだけの実験は研究とはいえません。

3.実験・調査結果の再現性と統計処理

実験・調査結果の再現性

実験・調査には再現性が必要です。再現性が低い結果は信用できません。実験・調査ではまず再現性をチェックします。最低3回は同じ実験を行い、再現性をチェックしましょう。調査研究の場合でも同じ対象を調査したときに同じ結果が得られるか否かをチェックしましょう。再現性が低い、あるいは、ない場合は、まず再現性の出る実験調査条件・方法を考えましょう。様々な方法・条件を試し、再現性が確保されるようになってから、正式のデータを採るための実験を行います。

必要な実験例数

計測値を比較するような実験では、最低5例、できたら10例の計測値を得る必要があります。(脊椎動物をもちいて行う実験で、実験によりその動物を殺さざるを得ない場合には、最低例数で行います)。同一グループ内の計測値のバラつきが少なく、比較するグループ間の計測値に明らかな差がある場合は、この例数で計測値を比較できます。しかし、同一グループ内の計測値のバラつきが大きい場合、あるいは、比較するグループ間の計測値に大きな差がないは場合には、正確な比較には20例あるいはそれ以上の計測値が必要です。例数の最終的な決定は次段落で述べる統計処理により決めます。

統計的仮説検定

実験・調査結果として数値を得て、その平均値や出現頻度、分離比率、バラつきの程度などを比較して、差の有無、増減、変化傾向、分散などを議論するときには、実験結果の統計処理(仮説検定)が必要です。特に生物分野ではこれがなければ何もいうことができません。平均値の有意差検定、発生頻度(個体数)の有意差検定、分離比率(合計が1となるもの)の有意差検定、分散検定などがよく使われます。残念ながら高校では習わないかもしれません。指導教師または大学教員にお聞きください。「生物統計学」の教科書をあたれば勉強できます。また、変化傾向の分析には、回帰直線、相関係数などを用いる必要があります。理屈は難しいですが、計算は専用ソフトがあるので簡単です。指導教師には、統計処理方法を修得してほしいと思います。わからなければ、関連分野の大学教員にたずねるのがよい方法です。実際的なマニュアルとして以下の書籍を紹介します。

①Rによる統計的検定と推定 内田治・西澤英子 オーム社
②Rによるノンパラメトリック検定 内田治 オーム社
③すぐわかる統計処理の選び方 石村貞夫・石村光資郎 東京図書

測定値が予想と異なり中間的であったり、バラつきが大きかったりする時、統計的仮説検定では「有意差なし」となる場合があります。この「有意差なし」の正確な意味は「このデータで有意差ありということはできない、あるいは、このデータは有意差がなくても説明できる」です。「有意差なし」の結果を「有意差がないことが証明された(分かった)」ととると間違いです。調査例数を増やすと有意差ありとなる場合や、実験条件をすこし変える(整理する)と有意差ありとなる場合がしばしばあるからです。

4.研究計画をパワーポイントに入れて発表会を行う

研究計画の文書化

研究計画作成の最後の段階は、作成した研究計画をPowerPoint(マイクロソフト)に入れて、文書(研究計画書)化することです。文章は箇条書きとします。研究計画の発表会を行うのもよいでしょう。

研究計画書は次の手順で作成します。各ページの内容の詳細は、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」参照。

表題ページ(1ページ) 研究課題と、生徒名、生徒の所属先、指導教師名、指導教師の所属先、所属先住所、連絡先(メールアドレス)を書きます。

連絡先(メールアドレス)は、指導教師のメールアドレスです。発表会後に発表内容についての質問等を受け付けたり議論をしたりするために書きます。学校等で研究(仕事)に使うメールアドレスを書き、私的なアドレスは書きません。

連絡先(メールアドレス)は、指導教師のメールアドレスです。発表会後に発表内容についての質問等を受け付けたり議論をしたりするために書きます。学校等で研究(仕事)に使うメールアドレスを書き、私的なアドレスは書きません。

研究目的ページ(1ページ) 研究目的を書きます。科学研究でいう「研究目的」とは、「問い(疑問)を明らかにすること」です。したがって、研究目的には「問い(疑問)~を明らかにすること」(1~2行)と書きます。しかし、もう少し説明を増やして、「実験・調査計画(材料と方法)~で問い(疑問)~を明らかにすること」(2~4行程度)を「研究目的」とする場合が一般的です。なお、研究目的とは研究の応用目的のことではありません。

一つの研究課題のもとに複数の実験・調査計画がある場合は、全体をまとめる「研究目的」(1~2行)を書き、その下に各実験・調査計画に対応する「研究目的」を箇条書き(各1~3行程度)で書きます。

実験・調査計画(材料と方法)ページ(1~4ページ) まず、実験ノート、またはWord(マイクロソフト)ファイルに、実験・調査計画(材料と方法)を具体的・詳細に模式図と文章で書きます。実験材料(現象)、実験系(調査地)、実験・調査の流れ、実験装置、装置の操作手順、測定方法の原理、薬品、実験処理手順、データのとり方、統計処理・仮説検定法等を書きます。詳細な実験処理手順、装置の操作手順などはWord(マイクロソフト)ファイルに書き、実験手順書(プロトコール)とします。

PowerPoint(1~4ページ)には、研究計画発表会での実験・調査計画の説明に必要な重要事項だけを模式図と短い文章で書きます。また、一般(聴衆)によく知られていない実験・測定方法はその原理を模式図と短い文章で説明します。模式図や流れ図等は本シリーズ「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します。

独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図)は結果ページに書きます。

遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子組換え生物等規制法、動物実験等の実施に関するガイドライン、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、個人情報保護法を遵守する必要があります。このページにそのことを1~2行で述べます。

なお、複数の実験・調査を行うときは、各実験・調査ごとに、「②問い、③実験・調査計画、④想定結果と想定結論」をセットで1~2ページに書き、これを繰り返します。

想定結果と想定結論ページ(1~4ページ) 実験・調査計画の想定結果と想定結論を書きます。

想定結果」としては、実験・調査から想定される結果を写真(この段階では手書きの模式図)、表、グラフと短い文章で表します。論文発表時に必要となる(と考えられる)写真、表、グラフ等はすべて書きます。必ず、1つの実験・調査に複数の異なる(対立する)結果を想定します。

グラフ・表・写真・模式図は、本シリーズ「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します。グラフと表はExcel(マイクロソフト)を用いて作ります。模式図はPowerPointを用いて作ります。写真(Jpegファイル)はPhotoshop(Adobe)(または無料画像処理ソフトGIMP)をもちいて必要な部分だけを切り抜いて用います。最後にこれらグラフ、表、模式図、写真をPowerPointに貼り付け、矢印や記号をつけて図とします。

前述の通り、独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図・作製方法)はこの結果ページに書きます。

また、物理学等で一定の理論計算を行い、実験結果による検証を行うときには理論計算や検証は結果ページに書きます。

想定結論」としては、ある結果が得られれば論理的には何が言え、何が言えないのか、別の結果が得られれば何が言え、何が言えないのかという、結果から論理的に導かれる「想定結論」を文章で表します。異なる想定結果毎に異なる想定結論を書くことが重要です。このとき「想定結論」は、研究目的にあげた「問い(疑問)」に対する想定される「答え」となっていなければなりません。

前述のとおり、複数の実験・調査を行うときは、各実験・調査ごとに、「②問い、③実験・調査計画、④想定結果と想定結論」をセット(各実験・調査に1~2ページ)で書き、これを繰り返します。

想定考察ページ(1ページ) 「想定結果・結論のまとめ」と「想定新規性の学問的意義」について書きます。「想定結果・結論のまとめ」としては、この研究で想定される結果と結論を短くまとめます。「想定新規性の学問的意義」としては、想定結果・結論のどの点に新規性があるのかを説明し、その学問的意義、すなわちその結果・結論から導かれる(推測される)新しい考え方等についての著者の考え(議論)を書きます(*9)。また、社会的意義があればそれも書きます。

*9 学問的意義と社会的意義の詳しい説明は、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「6.研究の「意義」、研究結果の新規性の「意義」とは?」および「7.考察」には何を書けばよいのか? 」の節を参照。

複数の実験・調査計画を含む場合は、想定考察(総合)ページとし、各実験・調査計画について「想定される結果と結論」を箇条書きして研究全体で何が明らかになるのかを書きます。つづいて、その新規性は何か、およびその意義を書きます。

「はじめに」ページ(1~2ページ) この研究を行う理由(研究理由)と研究目的と新規性のレベルを書きます。

研究理由」としては、まず、論文の導入文を1~4行で書きます。いきなり課題を提起したり、対象とする現象を模式図入りで紹介したりします。つづいて、先行研究と関連情報にもとづきこの研究課題についてこれまでに何がわかっており、何が分っていないのかを数行~10行程度で書きます。「何がわかっていないのか」は、次に述べる研究目的の新規性が分かるような内容でなければなりません。個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は書きません。

研究目的」としては、先に書いた②研究目的にもとづき、実験・調査方法の概略とこの研究で明らかにしようとする問い(疑問)、すなわち、この研究ではどのような方法で何を新しく明らかにするのかを短く書きます。

最後に、この研究の「新規性のレベル」、すなわち、どのような範囲を調べたところ新規なのかを1~4行で述べます(*10)。

*10 論文発表に必要な新規性の詳細については、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照

PowerPointとは別に、実験ノートまたはWord(マイクロソフト)ファイルに、先行研究と関連情報の引用元、重要な内容とそれに対する自分の評価(何が書かれていて何が書かれていないのか、疑問点など)を詳細に書き、自分の記録とします。

生徒理科研究発表会では「はじめに」に「仮説」を書いているものをよく見かけますが、これは不適切です。「はじめに」には「問い(疑問)」を書きます(*11)。

*11 「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画の作成法」の「仮説より問いが重要である」参照。

最後に、スライドの順序を変えて①⑥②③④⑤とします。

研究計画が出来上がると、再度、研究計画の科学的論理性のチェックを行います。研究計画全体を見て、「研究課題」「はじめに(研究を行う理由)」「研究目的」「研究・調査計画」「想定される結果」「想定される結論」「想定される考察」が一貫した科学的論理で貫かれているか否かを検討します。問題があれば、直します。これで、一応の研究計画は完成です。

研究計画発表会

研究計画の発表会を行いましょう。PowerPointをもちいて口頭発表します。スライドの構成は研究計画書のスライドと同じで、「①表題」、「⑥はじめに」、「②研究目的」、「③実験・調査計画(材料と方法)」、「④想定結果と結論」、「⑤想定考察」です。

報告会用PowerPoint作成で重要なことは、字の大きさと字体、線の太さ、図の大きさです。スライドのサイズを標準(4:3)(幅25.4cm、高さ19.05cm)と設定したとき、原則として説明文の字の大きさは最小で24ポイント、最大で48ポイント(表題など)です。字体はゴシック体太字。模式図の線は十分に太いものとします。細くては見えません。図は、スライド内に無駄な白地が広くならないように配置します。

スライド毎に話すことを文章で書きます。各文は口語の短文とします。最終的には話す内容は覚えてしまい、発表時には図の関係するところをポインターで指しながら自然に話せるようにします。

発表は長くても12分間程度におさめ、質疑応答時間を十分にとって他者の意見を聞きます。発表会の目的は、スライドの間違い、研究計画の修正・追加すべき箇所、より詳しく勉強すべき箇所、より丁寧に説明すべき箇所等を見つけることです。発表会で話すだけでも問題点に気付きます。発表会後は、発表中に気が付いたことや他者の質問や意見をもとにスライド内容や話す内容を改善します。

発表会の準備でもう一つ重要なことは聴く人の知識レベルを想定して発表内容や方法を準備することです。専門の大学教員や高校教師に話す場合、同学年の他生徒や専門外の教師に話す場合など、聞く人が違えば話し方が変わります。専門知識のある聞き手には専門用語をもちいて伝えると、多くの情報を正確に伝えることができます。しかし、専門知識のない人には、専門用語が多いと話が伝わりません。一般的には難しい内容を易しい言葉をもちいて正確に深い内容を伝える発表がすぐれた発表です。

5.よくある質問と答え

①一部の高校を除き、多くの学校には(高価な)分析機器や実験装置がないが、その時にはどのようにすればよいか。

(答え)大学とは異なり高校・中学は教育機関であり、高価な分析機器や装置がないのが普通です。しかし、研究の中で、どうしても一定の分析装置や設備が必要になることがあります。そのときには、2つの方法しかありません。1つは、そのような設備をもっている大学や研究機関に依頼して実験をしてもらう、もう1つは、専門の会社等に依頼して分析等をしてもらうことです。大学の主要な任務は研究と大学教育と思われがちですが、実は社会貢献ももう一つの重要な任務です。実際、多くの大学の理念を調べるとほとんど(たぶん、すべて)の大学が社会貢献を挙げています。生徒理科研究支援はこの社会貢献の重要な内容です。コネや有力な紹介者の有無は関係ありません。最寄りの大学に問い合わせてみてください。快く対応してくれる大学は多くあると思います。国公立・私立を問わずにです。専門の会社等に料金を払って分析等を依頼する場合は、ホームページ等からさがすとよいでしょう。論文には、「材料と方法」に方法とともに依頼先を必ず記載します。無料でお願いした場合はさらに「謝辞」に書きます。有料で依頼した場合は「謝辞」に書く必要はありません。

さらに別の考え方も可能でしょう。研究計画を変更し、理科教育系の雑誌やこれまでの生徒理科研究の報告書、あるいはインターネット等で紹介されている情報をもとに簡易型装置を手作りすることから研究をはじめることです。手作りすると、装置の性能はいまいちかもしれませんが、研究目的に必要な精度があれば、研究の結論にあやまりは出ません。自分で装置をつくると、研究は格段に自由になるし原理も理解でます。この場合は、装置作製のための情報源は必ず論文に引用し、さらに自分で工夫した部分がある場合は、論文にそのことを書きます。これまでに発表のないはじめての簡易型装置の場合は、その作製自体が論文になるかもしれません。

②研究課題を選ぶときに「実感可能性」が重要で、対象・現象を繰り返し観察・体験し十分味わうことができる課題を選ぶべきだとしているが、大学教員等の研究者には、目の前には見ることのできない極小の現象や瞬時に起こる変化などを研究している人もいる。これをどのように考えるのか。

(答え)確かに大学教員等研究者の中には、目で見ることのできない極小の世界や、広大な宇宙空間の世界、あるいは、瞬時に起こる現象や数百万年から数億年かけておこる現象を研究している人がいます。研究者は、極小あるいは巨大な対象をあたかも目の前に見える数十センチの玩具のようにとらえたり、瞬時に起こる現象や逆に長時間かけて起こる現象をあたかも数分間で起こる現象のようにとらえて、考えたり議論したりします。また、文章と数式だけで書かれた論文を読んで、あたかも目の前にものが見えるかのように模式図に表したり、それを利用して議論したり考えたりします。そして、研究で明らかにしたことも、多くの場合、模式図で表して説明します。これは、研究者が毎日の研究活動の中で現実には見えない抽象的なものをあたかも目の前で見えるかのようにとらえて話したり考えたりする能力を訓練し獲得しているからです。

実は、この抽象的なものをあたかも目の前に見えるかのようにとらえて考える能力は研究者の研究能力あるいは創造性と深く関係する能力です。生徒研究発表会でも、初めて話すのにあたかも前からその研究を知っていたかのように質問したり議論したりする大学教員の姿を見かけたことがあると思いますが、それはこの能力によるものです。

この能力は研究一般に必要とされる能力で、これができない人はすぐれた研究者になることはできません。たとえ目の前に現実にあるものであっても、それをことばと模式図をもちいて概念的にとらえ、その構造やはたらきについて考えたり議論したりする能力が研究には必要です。高校生には研究に取り組む中でこの能力を磨いてほしいと思いますが、それには、まず目の前にあるもの・現象を頭の中でありありと思い描くことができるようになることが必要です。


第4章 実験・調査の実施と中間報告書の作成法 (Pdfファイル 9ページ)

1.実験・調査の安全な実施

実験・調査を安全に行うこと、事故を起こさないこと、適切な廃液処理は、研究を進めるうえでも社会的責任をはたすためにも重要です。実験・調査の開始前に、どこに事故の可能性(リスク)があるのかを把握し、どのようにして事故を避けるのか、もし事故が起こった場合にどのように対処するのかを知って、必要な備えをしておく必要があります。まず、指導教師が把握しておくことが必要です。同時に、実験を行う生徒自身が知っておく必要があります。

以下の書籍を紹介します。

①理科の実験安全マニュアル 左巻健男・山本明利・石島秋彦・西潟千明 東京図書
②第7版 実験を安全に行うために 化学同人編集部 化学同人
③新版 続実験を安全に行うために 化学同人編集部 化学同人

この他に、多くの大学が独自の「安全マニュアル」を作成し、実験研究の安全確保と社会責任を果たすことに取り組んでいます。いくつかの大学がweb上に公開しているので、これも参考になります。

実験・調査を開始する前に、リスクと対処法を必ず全員で確認するようにします。

2.研究倫理の遵守

「研究」が社会的に研究として認められるためには、研究倫理に従うことが不可欠です。研究倫理に反する「研究」は成果を研究発表会で発表することも論文として発表・出版することもできません。以下の条件を満たす必要があります。

①研究倫理、「科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―」(*1)を遵守していること。また、「中等教育における研究倫理:基礎編」(*2)を参考にしてください。

*1 日本学術振興会
https://www.jsps.go.jp/j-kousei/rinri.html 研究公正ページ参照
*2(一財)公正研究推進協会
https://www.aprin.or.jp/e-learning/rse/rse_p0 参照。ただし、「中等教育における研究倫理:基礎編」は、引用必須文献に関する考え方が「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」とは異なるので注意が必要です。

②遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子伝子組換え生物等規制法(*3)、動物実験等の実施に関するガイドライン(*4)、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(*5)、個人情報保護法(*6)を遵守していること。なお、これら指針による研究計画の申請、あるいは、実施許可の取得は研究実施前に行う必要があります。指導教師が申請します。

*3文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室「高等学校などで遺伝子組み換え実験を行う皆様へ」https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/9_12.pdf
*4 日本学術会議「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-k16-2.pdf
*5 文部科学省ライフサイエンスの広場 人を対象とする医学系研究https://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/ekigaku.html
*6 個人情報保護委員会法令・ガイドライン等https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/

③著者または著者の所属組織が営利企業等から援助・便宜を受けた場合(利益相反)、そのことによって研究の客観性・公正性がゆがめられないこと。

④発表論文には、第3者の権利を不当に侵害する、または、財産に不当に損害をあたえる情報、または、その可能性がある情報を含まない。また、生徒理科研究論文としての発表・出版にはふさわしくない内容を含まないこと。

3.実験ノートをつける

実験・調査を行うときに重要なのが実験ノートの作成です。A4版あるいはB5版の大学ノートを準備し、実験・調査手順の確認、実験・調査操作のチェック、実験・調査結果の記録に用います。「実験ノート」専用のノートも市販されています。

実験・調査を行うときは、実験・調査を行う前に、日時を書き、実験・調査方法書(プロトコール)にもとづいてその日に行う細かな操作手順を簡潔に実験ノートに書き写します。これにより、実験・調査手順を確認します。実験・調査を開始すると、それぞれの手順を行うと同時に、書き写した手順上に確認のチェックを入れます。手順どおりにできなかった場合には、そのことをメモします。最後に、実験・調査結果を文字、写真、模式図、グラフなどにより記入します。最後に実験・調査中に気付いたこと、結果から分かることなどを書きます。

この実験ノートを用いた確認と記録は複雑な実験操作についてだけでなく、薬品の調合などの簡単な手順についても同様に行います。また、毎日の動物への給餌、植物への水やりや観察なども必ず記録します。これにより、研究中に行うすべての実験・調査行為を記録します。

さらに、個人で実験・調査ノートを作成する場合には、実験・調査だけでなく、研究計画の作成、関連論文の内容、実験・調査結果の考察、思い浮かんだアイディアなど研究活動にかかわるすべてのことを1冊のノートに記録すると効果的です。情報は分散すればするほど希薄になり、良いアイディアが浮かばなくなるからです。

個人で実験・調査を行うときだけでなく、複数の人数で分担しながら1つの実験・調査を行うときにも、共通のノート(または個人ノート)をつくり実験・調査の確認と記録を行い、情報共有します。

 4.実験・調査手順の確認と技術の習熟

生徒理科研究における実験・調査は授業中の実験・調査とは異なり、実験手順書(プロトコール)の内容を自分で検討しながら実験をすすめる必要があります。授業中の実験・調査は、指示された手順どおりに操作すれば必ず結果が得られることが、教師や教科書会社によりあらかじめ確かめられています。しかし、新規性をめざす研究の場合は、自分の研究対象・現象に実験手順書がそのままで有効か否かは明らかではありません。また、手順書が大学の専門研究室用に作られており、研究環境の異なる高校現場に合わないこともあります。

図4 研究計画の見直し 実験・調査初期には操作手順の確認と結果に基づいた問いと実験調査計画(方法)の見直しが必要である。

実験・調査方法が自分にとって始めての場合には、最初に実験・調査手順の確認が必要です。実験手順書にもとづき、実験場所、実験機器、薬品、実験環境等を準備します。そして、各操作手順を1つ1つ丁寧に確認しながら実験を進めます。この時、手順書に自分の状況に合わない部分があれば、書き足したり書き換えたりして自分の状況にあったものにします。

操作方法の複雑な分析機器、実験設備を用いるときも同様です。まず、操作マニュアルを読んだり、指導教師または専門家から操作方法の講習を受けたりして、装置の原理、操作手順、操作上の注意事項を理解します。さらに、実際の実験・調査の前に何回か自分で機器を動かして操作方法を習得します。そして、自分専用の操作手順書を作り上げます。

動物飼育、植物栽培の必要な実験・調査の場合には、まず、良好に飼育・栽培できる技術の習得が重要です。そして、自分の状況にあった飼育・栽培手順を確立し、手順書を作り上げます。また、飼育・栽培中にチェックすべき点も明らかにします。

授業中の実験とは異なり、この準備段階に得られる実験結果はデータには含めません。この段階は、あくまでも手順書(プロトコール)の確認・確定と実験操作の習熟を目的とする予備実験です。

5.実験・調査計画(方法)の再検討と変更

実験対象・現象や実験装置が実験手順書の前提としているものと異なる場合、いくら実験手順書どおりに正しく操作を行っても結果が出ない、あるいは、結果が出る段階まで到達できないことがあります。たとえば生物的操作であれば対象生物が死んでしまったり、化学的操作であれば夾雑物が混入していたり、途中でサンプルがなくなったり、物理的操作であれば計測範囲を超えてしまったり、検出感度以下となってしまったり、ノイズが入ったりすることです。さらに、結果が大きくバラついて何も言えない場合もあります。また、実験装置の作製を含む研究の場合は、設計書どおりに組み立てても装置が思うように作動しないことがあるでしょう。このような時には、実験・調査計画(方法)、操作手順(プロトコール)あるは設計図を調整・変更して、実験結果が得られるように改良する必要があります(図4)。

どのような変更が必要かは問題により異なりますが、変更により実験方法の原理が損なわれないこと、結果の信頼性が損なわれないこと(むしろ向上すること)が必要です。また、一定の限定条件下でなければ結果が得られない場合には、実験・調査計画に限定条件を加える必要があります。計画(方法)の変更・改良を行うとき重要なことは、変更は1つのパラメーターごとに行い、その効果を確かめながら調整することです。一度に複数のパラメーターを変更すると何が問題かが分からなくなるからです。こうして調整を繰り返し、しっかりした信頼できる結果が得られる実験・調査方法を確立します。

また、別のタイプの実験・調査計画の変更が必要となる場合があります。当初の計画に基づく実験・調査の結果、結論を得るには実験・調査範囲を広げたり、新たな実験対象を加えたり、調査項目を追加したり、新たな対照実験を加えたりする必要が生じることがあります。当初の予想の範囲外に結果の評価(結論)を得るのに重要な転換点がある場合や、より細かな実験・調査点を設けなければ分からない場合や、結論に影響を与える新たな条件が明らかになった場合などにこのようなことは起こります。さらに、実験結果から当初の実験・調査計画では予想もしていなかったおもしろい結論が得られる可能性が出てきた場合も、同様に実験・調査計画の変更・追加や、時には問いの修正が必要になる場合があります。

以上のような実験・調査計画(方法)の再検討を経て変更・確定した詳細な実験手順、装置の操作手順などはWord(マイクロソフト)で清書し、自分独自の実験手順書(プロトコール)とします。

このような研究対象・現象や結果に合わせた実験・調査計画(方法)の調整・変更や追加は研究の新規性・創造性そのものです。通常の授業実験では経験しないことです。実験・調査に当たっては、実験計画をこなすことだけを考えず、信頼できる結果を求めていること、新規性のある面白い結果を求めていることを常に意識しながら取り組みましょう。また、「問い」、「実験・調査計画(方法)」、「結果」、「結論」の論理的一貫性は常に忘れてはなりません(*7)。

*7 「問い」、「実験・調査計画(方法)」・「結果」・「結論」の論理的一貫性については「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法」参照。

6.薬品・機器の購入と研究経費

研究に用いる理化学機器・薬品等の購入のし方は、生徒の理科ホームページhttps://seitonorika.jpの関連情報ページに説明しました。基本的には学校に出入りしている専門業者を通じて行います。まず理化学機器カタログあるいは薬品カタログで希望する製品をさがし、商品番号と価格を知ります。指導教師を通じて、出入り業者にカタログと商品番号を知らせ、注文すると購入できます。まず、指導教師に相談しましょう。また、インターネット通販や店舗で購入できるものも多くあります(*8)。この場合もまず指導教師に相談しましょう。初めての器具の場合、カタログだけを見て購入を決めると購入後、当初の予想とは異なり失敗する場合があります。できるだけ実物を見てから、あるいは知っている人に問い合わせてから購入するのが適切です。なお、安全性や管理に特別な注意が必要な機器・薬品等は学校教師等を通じてしか購入できません。

生徒理科研究に必要な研究経費は、生徒理科研究が学校教育の一環として行われるかぎり学校の教育経費から支払われるべきです。しかしSSH校など一部の学校を除くと、現実には学校には予算がない、そのために研究を実施できないという場合も多くあります。この場合、何らかの方法で生徒自身あるいは指導教師が必要経費の全額または一部を準備すれば、研究を実施できる場合も多くあります。まず、指導教師に相談しましょう。外部から研究費を調達する方法もあります(*9)。

研究に使用する機器・薬品等を購入した場合は、かならず購入記録をとり、レシート・領収書等を保管します。研究費を誰が出したのかは論文出版の際に、重要になるのでしっかり記録をとります。研究費を出したのが、論文の著者またはその所属機関なのかそれ以外(外部資金)なのかは重要です。それ以外の者についてはかならず発表論文中に「謝辞」または「研究費補助金」の項でそのことを述べなければなりません(*10)。

*8 理化学機器カタログ・薬品カタログの情報や研究器具の購入先は、生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jpの関連情報ページ参照。
*9 生徒理科研究のための研究費助成情報 生徒の理科研究所ホームページhttps://seitonorika.jp の関連情報ページ参照。
*10 生徒の理科ホームページ
https://seitonorika.jp の「生徒の理科」生徒論文投稿ページ参照。

7.高価な分析機器や実験装置がないときの対策

大学とは異なり高校・中学は教育機関であり、高価な分析機器や装置がないのが普通です。しかし、研究の中でどうしても一定の分析装置や設備が必要になることがあります。そのときには、3つの解決方法があります。1つは、大学・公的研究機関に依頼して分析・測定をしてもらう、2つ目は、専門の会社等に依頼して分析等をしてもう、3つめは、レンタル会社から装置をレンタルして使用するという方法です。第1の大学・公的研究機関に依頼するという方法が多くの場合無料で最も容易かもしれません。大学は研究と大学教育を任務としていると思われがちですが、実は社会貢献ももう一つの重要な大学の任務です。実際、多くの大学の理念を調べるとほとんど(たぶん、すべて)の大学が社会貢献を挙げています。生徒理科研究の支援はこの社会貢献の重要な内容です。コネや有力な紹介者の有無は関係ありません。最寄りの大学に問い合わせてみてください。快く対応してくれる大学は多くあると思います。国公立・私立を問わずにです。発表論文では「材料と方法」と「謝辞」でこのことを述べます。第2の専門の会社等は料金を払って分析等を依頼するもので、ホームページ等からさがすとよいでしょう。この場合は、論文には、「材料と方法」に依頼先を記載します。無料で引き受けてくれる場合にはさらに「謝辞」に書きます。有料で依頼した場合は「謝辞」に書く必要はありません。第3の方法は、レンタル会社から設備を有料で一定期間レンタルし自分たちで使用するというものです。これは、装置の使い方をすでに知っている場合には有力な方法ですが、使い方を知らない場合には適切ではありません。発表論文には特に触れる必要はありません。

さらに、装置によっては別の対応も可能です。すなわち、理科教育系の雑誌やこれまでの生徒理科研究の報告書、あるいはインターネット等で紹介されている情報をもとに簡易型装置を手作りすることです。手作りすると、装置の性能はいまいちかもしれませんが、研究目的に必要な精度があればこれで十分で、研究の結論にあやまりは出ません。自分で装置をつくると、研究は格段に自由になるし原理も理解できます。この場合は、装置作製のための情報源は必ず論文に引用し、さらに自分で工夫した部分がある場合は、論文にそのことを書きます。これまでに発表のないはじめての簡易型装置の場合は、その作製自体が論文になるかもしれません。

8.中間報告書の作成

研究は長丁場の場合が多いです。そのような場合は、一つの実験・調査が終わる毎に、あるいは、数か月毎に定期的に中間報告書を作成し報告会を行いながら進めます。それまでの研究経過をまとめ、今後の計画を自分で確認する、あるいはグループ内(指導教師を含む)で共有するために行います。中間報告書はPowerPoint(マイクロソフト)で作成し、口頭発表を行います。発表会を他グループと合同で行うことも緊張感の確保という意味では良いかもしれません。

中間報告書は、研究計画書で作成したPowerPointファイル(*11)の変更により作成します。スライドは、「表題」、「はじめに」、「研究目的」、(「報告の要点」)、「材料と方法」、「結果と結論」、「考察」、「今後の計画」、「要旨」からなります。

*11 「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章研究計画作成法」参照

表題(1ページ) 研究課題と、生徒名、生徒の所属先、指導教師名、指導教師の所属先、所属先住所、連絡先(メールアドレス)をかきます。

連絡先(メールアドレス)は、指導教師のメールアドレスです。発表会後に発表内容についての質問等を受け付けたり議論をしたりするために書きます。学校等で研究(仕事)に使うメールアドレスを書き、私的なアドレスは書きません。

研究目的(1ページ) 研究目的を書きます。科学研究でいう「研究目的」とは、「問い(疑問)を明らかにすること」です。したがって、研究目的には「問い(疑問)~を明らかにすること」(1~2行)と書きます。しかし、もう少し説明を増やして、「実験調査計画(材料と方法)~で問い(疑問)~を明らかにすること」(2~4行程度)を「研究目的」とする場合が一般的です。研究目的とは研究の応用目的のことではありません。

なお、一つの研究課題のもとに複数の実験・調査計画がある場合は、全体をまとめる「研究目的」(1~2行)を書き、その下に各実験・調査計画に対応する「研究目的」を箇条書き(各1~3行程度)します。

報告の要点(1ページ) この報告書の要点を短い文章で箇条書きします。書き方は、「~について」などの項目書きではなく、「~を確認・確定した」あるいは「~を明らかにした」、「~を作製中である」のように内容を明確に書きます。これまでの研究で行ったこと、明らかにしたこと、現在取り組んでいることなどを書きます。後に、要旨(まとめ)となります。

実験・調査計画(材料と方法)(1~4ページ) まず、実験ノート、またはWord(マイクロソフト)ファイルに、実験・調査計画(材料と方法)を具体的・詳細に模式図と文章で書きます。実験材料(現象)、実験系(調査地)、実験・調査の流れ、実験装置、装置の操作手順、測定方法の原理、薬品、実験処理手順、データのとり方、統計処理・仮説検定法等を書きます。

PowerPoint(1~4ページ)には、中間報告発表時の実験・調査計画の説明に必要な重要事項だけを模式図と短い文章で書きます。また、一般(聴衆)によく知られていない実験・測定方法はその原理を模式図と短い文章で説明します。

独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図)は結果ページに書きます。

なお、複数の実験・調査を行うときは、各実験・調査ごとに、「③研究目的、④実験・調査計画、⑤結果と結論」をセットで1~3ページに書き、これを繰り返します。

遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子組換え生物等規制法、動物実験等の実施に関するガイドライン、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、個人情報保護法を遵守している旨を1~2行で述べます。

結果と結論(1~4ページ) これまでに行った実験・調査の結果と結論を書きます。「結果」としては、これまでに得た結果を、写真、表、グラフと短い文章で表します。論文発表時に必要となる写真、表、グラフ等はすべて書きます。

グラフ・表・写真・模式図は、本シリーズ「第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します(*12)。グラフと表はExcel(マイクロソフト)を用いて作ります。模式図はPowerPointを用いて作ります。写真(Jpegファイル)はPhotoshop(Adobe)(または無料画像処理ソフトGIMP)をもちいて必要な部分だけを切り抜いて用います。最後にこれらグラフ、表、模式図、写真をPowerPointに貼り付け、矢印や記号をつけて図とします。

*12 図・表の詳しい作成法は「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「5.図・表の作成法」参照。

研究開始初期の中間報告においては、最初に前に述べた「実験・調査手順の確認と技術の習熟」と「実験・調査計画(方法)の再検討と変更」にもとづき、実験・調査開始初期の取り組みで確認・確定した実験・調査手順、調整・変更した実験・調査手順、追加した実験・調査計画を詳しく書きます。調整・変更や追加については、その内容、理由、結果を書きます。また、他者の意見を聞きたい問題があれば、詳しく説明し、解決方法について自分の考え方を述べるとともに他者の意見を求めます。

すでに結果を得ている場合でも、単に結果を報告するだけでなく、前節の「実験・調査計画(方法)の再検討と変更」にもとづき、結果は信頼できるものであるか、実験・調査計画(方法)に変更・改良すべき点はないか、実験・調査範囲を広げたり、新たな実験対象を加えたり、調査項目を追加したり、新たな対照実験を加えたりすることが必要ではないかを検討した結果も報告します。

なお、前述の通り、独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図・作製方法)はこの結果ページに書きます。

また、物理学等で一定の理論計算を行い、実験結果による検証を行うときには理論計算や検証は結果ページに書きます。

結論」としては、結果から論理的に導かれる「結論」を書きます。このとき「結論」は、研究目的にあげた「問い(疑問)」に対する「答え」となっていなければなりません。ここでもう一度、結論が「生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法 2.科学的論理に貫かれた研究計画をつくる」に照らして、正しい科学的論理にもとづいているか否かを検討します。

考察(1ページ) これまでに行った研究の「結果・結論のまとめ」と「新規性の学問的意義」について書きます。「結果・結論のまとめ」しては、これまでの研究で明らかになった結果と結論を短くまとめます。「新規性の学問的意義」としては、結果・結論のどの点に新規性があるのかを説明し、その学問的意義を書きます(*13)。また、社会的意義があればそれも書きます。また、研究の過程で明らかになったその他の新規の事柄についてもその新規性を説明し、その学問的意義や社会的意義を書きます。

*13 学問的意義と社会的意義の詳しい説明は、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「6.研究の「意義」、研究結果の新規性の「意義」とは?」および「7.考察」には何を書けばよいのか? 」の節を参照。

今後の計画(1ページ) 実験・調査途中の場合には、「問題点の解決方法と実験・調査計画における残る課題」を述べます。

図5 研究の進み方 1つの実験・調査により最初の問いへの答え(結論)を得ると、その結果・結論を踏まえて次の問いを立て、その問いに答えるための実験・調査計画を立てる。

他方、1つの実験・調査終了後の場合には、「問い」、「実験・調査計画(方法)」、「結果」と「結論」の間の論理関係が大丈夫か、追加すべき実験調査計画はないかを検討し、問題がなければ1つの実験・調査の終了とします。この時には、これまでの実験・調査結果で論文発表・出版を行うのか否かが問題です。ここで論文発表・出版を行うなら、「今後の計画」は論文執筆として、新しい実験・調査計画は書きません。本シリーズの「第5章 ポスターと投稿論文の作成法」にもとづき論文発表(ポスター、口頭、投稿論文)の準備に進みます。他方、同じ課題の下にさらに新しい実験・調査を継続する場合は、つぎの実験・調査計画案を「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法」にもとづいて作成し提起します(図5)。

はじめに(1~2ページ) 研究を行う理由(研究理由)と研究目的と研究の新規性レベルとを書きます。

研究理由」としては、まずこの研究で対象とする課題・現象を1-4行の文章と模式図で紹介します。つづいて、先行研究と関連情報にもとづきこの研究課題についてこれまでに何がわかっており、何が分っていないのかを数行~10行程度で書きます。「何がわかっていないのか」は、次に述べる研究目的の新規性が分かるような内容でなければなりません。個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は書きません。

研究目的」としては、先に書いた②研究目的にもとづき、実験・調査方法の概略とこの研究で明らかにしようとする問い(疑問)、すなわち、この研究ではどんな方法で何を新しく明らかにするのかを短く書きます。

最後に、この研究の「新規性のレベル」、すなわち、どのような範囲を調べたところ新規なのかを1~2行で述べます(*14)。

*14 論文発表に必要な新規性についての詳細な説明は「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照。

PowerPointとは別に、実験ノートまたはWord(マイクロソフト)ファイルに、先行研究と関連情報の引用元、重要な内容とそれに対する自分の評価(何が書かれていて何が書かれていないのか、疑問点など)を詳細に書き、自分の記録とします。

生徒研究発表会では「はじめに」に「仮説」を書いているものをよく見かけますが、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画の作成法」に述べたとおりこれは不適切です。「はじめに」には「問い(疑問)」を書きます。仮説は書きません(ただし、問いがyes/no質問の場合は問いが仮説となりますが)。

要旨(1ページ) ②「研究目的」と③報告の要点を1つにまとめて書き直し、この報告全体の「要旨」とします。

最後にスライドの順序を、①⑧②④⑤⑥⑦⑨とします。

そして、再度、全体の科学的論理性のチェックを行います。報告書全体を見て、「研究課題」「はじめに(研究を行う理由)」「研究目的(問い)」「研究・調査計画(材料と方法)」「結果と結論」「考察(学問的意義)」「要旨」が一貫した科学的論理で貫かれているか否かを検討し、問題がなければ中間報告書の完成です。

9.中間報告会

中間報告書ができれば発表会です。PowerPointをもちいて口頭発表します。発表スライドの構成は、「中間報告書」のものと同じで、「①表題」、「⑧はじめに」、「②研究目的」、「④実験・調査計画(材料と方法)」、「⑥結果と結論」、「⑥考察」、「⑦今後の計画」からなります。報告会用スライド作成で重要なことは、字の大きさと字体、線の太さ、図の大きさです。スライドのサイズを標準(4:3)(幅25.4cm、高さ19.05cm)と設定したとき、原則として説明文の字の大きさは最小で24ポイント、最大で48ポイント(表題など)です。字体はゴシック体太字。模式図の線は十分に太いものとします。細くては遠くから見えません。図は、スライド内に無駄な白地部分が大きくならないように配置します。

指導教師をまじえたグループ内報告会での報告は、時間制限なし(30分間~1時間程度)で徹底的にやります。用意したスライド1枚1枚について詳しく報告し議論をします。必要なら実験ノートも取り出し、正確に議論し、グループ内の情報共有を深めます。

他方、他グループとの共同報告会であれば、常識的に報告は12分間程度で、その後5~10分間程度の質疑応答です。この場合は、スライドは12枚、多くても15枚とし、各スライドについて話す内容をしぼり、時間内に重要なことを話し終えるように準備します。細かなことは質疑を通じて話します。

研究発表会における質疑応答は「中身のないディベイト」ではありません。発表会の目的は、人前で話すことにより、スライドの間違い、研究計画の修正・追加すべき箇所、より詳しく勉強すべき箇所、より丁寧に説明すべき箇所等を見つけることです。話すだけでも問題点に気付きます。発表会後は、必ず、発表中に気付いたことや他者の質問や意見をもとにスライド内容や話す内容を改善しましょう。

発表会の準備でもう一つ重要なことは聴く人の知識レベルを想定して発表内容や方法を準備することです。専門の大学教員や高校教師に話す場合、同学年の他生徒や専門外の教師に話す場合など、聞く人が違えば話し方が変わります。専門知識のある聞き手には専門用語をもちいて伝えると、多くの情報を正確に伝えることができます。しかし、専門知識のない人には、専門用語が多いと話が伝わりません。一般的には難しい内容を易しい言葉をもちいて正確に深い内容を伝える発表がすぐれた発表です。

なお、グループ内報告会と他グループとの共同報告会とは目的が異なるので、グループ内報告会の代わりに他グループとの共同報告会を当てることはできません。

この文章は、生徒の理科研究所ホームページ(https://seitonorika.jp)の「生徒理科研究法」から作成したものです。(2020年5月24日)
Ver.2 2020年7月11日


第5章 ポスターと投稿論文の作成法 Pdfファイル 20ページ

はじめに

研究成果の発表はまず研究発表会で行い、最終的には論文誌への投稿・出版で行います。研究発表会は多くの場合ポスター発表、まれに口頭発表です。論文誌への投稿・出版は文字通り文章で書かれた論文です。ここでは、論文原案の作成、口頭発表、ポスター作成、投稿論文作成の準備、投稿論文執筆の順番に説明します。

1.論文原案の作成

ポスター発表であっても口頭発表であっても論文投稿であっても、まずPowerPoint(マイクロソフト)で論文原案を作成します。研究計画書、あるいは、中間報告書で作成したPowerPointファイル(*1,2)を変更することにより作成します。図・表は後に述べる「5.図表の作成法」にもとづき作成します。

*1 「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法」参照
*2 「論文発表をめざす生徒理科研究法 第4章 実験・調査の実施と中間発表」参照

発表原案(PowerPointファイル)のスライド構成は、まず、「表題」、「研究目的」、「発表の要点」、「材料と方法」、「結果と結論」、「考察」、「はじめに」で作成し、最終的には、「表題」、「はじめに」、「研究目的」、「材料と方法」、「結果と結論」、「考察」、「要旨(まとめ)」とします。

表題(1ページ) 研究課題と、生徒名、生徒所属先、所属先住所、指導教師名、指導教師所属先、所属先住所、連絡先(メールアドレス)を書きます。

指導教師を論文の責任著者とする場合は、「指導教師」ではなく、「責任著者」とします。責任著者は、日常的に研究を指導し、論文内容に責任を持つことのできる研究指導者(学校教師または塾講師等)で、論文発表にかかわる一切の実務に責任を負う者とします。詳しい説明は、本稿の「5.投稿論文の作成法」参照。

連絡先(メールアドレス)は、責任著者または指導教師のメールアドレスです。発表会後に発表内容についての質問等を受け付けたり議論をしたりするために書きます。学校等で研究(仕事)に使うメールアドレスを書き、私的なアドレスは書きません。

研究目的(1ページ) 研究目的を書きます。科学研究でいう「研究目的」とは、「問い(疑問)を明らかにすること」です。したがって、研究目的には、「問い(疑問)~を明らかにすること」(1~2行)と書きます。しかし、もう少し説明を増やして、「(材料と方法)~で、問い(疑問)~を明らかにすること」(2~4行)を「研究目的」とする場合が一般的です。なお、研究目的は研究の応用目的のことではありません。

一つの研究課題のもとに複数の実験・調査がある場合は、全体をまとめる「研究目的」(2~4行)を書き、その下に各実験・調査に対応する「研究目的」を箇条書き(各2~3行)します。

発表の要点(1~2ページ) 発表論文の要点です。研究の結果・結論のまとめと、短い考察からなります。「結果・結論のまとめ」としては、実験・調査の結果と結論を短く箇条書きでまとめます(数行)。書き方は、「~について」などの項目書きではなく、「~であった」、「~を明らかにした」、「~を作製した」、「~を示す」のように内容を明確に書きます。「考察」としては、結果・結論の新規性の学問的意義(および社会的意義)のなかで主要なものを短く書きます(*3)(1~2行)。

*3 学問的意義と社会的意義の詳しい説明は、本稿の「7.研究の意義、研究結果の新規性の意義とは?」参照。

一つの研究課題のもとに複数の実験・調査がある場合は、「結果・結論」には、全体をまとめた結論を短く書き(1~3行)、その下に各実験・調査の「結果と結論」を箇条書きに(各1~3行)します。「考察」には、全体をまとめて結果・結論の新規性の学問的意義(および社会的意義)を短く書きます(*3)(1~3行)。

このページの内容は、発表原案作成をはじめる時点での考えをまとめるためのものです。最終的には発表原案作成の最後に書き直して「考察」や「要旨」の作成に用います。

材料と方法(1~4ページ) 「材料と方法」は、研究計画書や中間報告書で「実験・調査計画(材料と方法)」としていたものです。論文発表の段階では「材料と方法」に変更します。

まず実験ノートまたはWord(マイクロソフト)ファイルに、研究計画書や中間報告書にもとづいて「材料と方法」を具体的・詳細に模式図と箇条書き文章で書きます。実験材料(現象)、実験系(調査地)、実験・調査の流れ、実験装置、装置の操作手順、測定方法の原理、薬品、実験処理手順、データのとり方、統計処理・仮設検定法等を書きます。

論文原案のPowerPoint(1~4ページ)にはポスター発表や口頭発表時の「材料と方法」の説明に必要な重要事項だけを模式図や作業流れ図と短い文章で書きます。また、一般(聴衆・読者)によく知られていない実験・測定方法はその原理を模式図と短い文章で説明します。模式図や流れ図等は、本稿の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します。

遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子組換え生物等規制法、動物実験等の実施に関するガイドライン、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、個人情報保護法を遵守していることを記します。

独自の材料・現象の提案や実験装置の作製を目的とする研究の場合には、その材料・現象の詳細な説明や実験装置の作製過程の詳しい説明(写真・模式図・設計図を含む)はこのページではなく、結果ページに書きます。

なお、複数の実験・調査を行ったときは、各実験・調査ごとに、「③研究目的(問い)、④材料と方法、⑤結果と結論」をセット(各実験・調査に1~3ページ)で書き、これを繰り返します。

結果と結論(1~4ページ) 実験・調査の結果と結論を書きます。

結果」としては、これまでに得た結果を、グラフ、表、写真、模式図と短い文章で表します。まず、論文発表時に必要となるグラフ・表・写真・模式図をすべて作成します。グラフ・表・写真・模式図は、本稿の「6.図・表の作成法」にもとづいて作成します(*4)。グラフと表はExcel(マイクロソフト)を用いて作ります。模式図はPowerPointを用いて作ります。写真(Jpegファイル)はPhotoshop(Adobe)(または無料画像処理ソフトGIMP)をもちいて必要な部分だけを切り抜いて用います。最後にこれらグラフ・表・写真・模式図をPowerPointに貼り付け、矢印や記号をつけて図とします。

結果の説明では、再現性を十分に確認し、その旨を例数を含めて論文に記載します。数値データは適切な統計的仮説検定を行い、その結果を論文に記載します。量的データの特徴を記述するときは、例えば単に「大きい」というようなあいまいな(主観的な)表現は避け、「~に比べて大きい」と比較基準を明確にしながら述べます。実験区と対照区とを比較して、結果が何を意味しているのかを明らかにしながら書きます。また、一般的な方法に重要な変更を加えて独自の方法を確立した場合は、そのことを結果の中にも書き込みます。

結論」としては、結果から論理的に導かれる「結論」を書きます。このとき「結論」は、研究目的にあげた「問い(疑問)」に対する「答え」となっていなければなりません。ここでもう一度、結論が「生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法」の「2.科学的論理に貫かれた研究計画をつくる」に照らして、正しい科学的論理にもとづいているか否かを検討します。ネガティブデータや「有意差なし」の解釈では、「~とはならなかった」と「~ではない(ことが分かった)」との違いに注意します。因果関係を実証(証明)する論理、因果関係を推測する(新しい仮説を定立する)論理、既知の因果関係(仮説)を支持する(矛盾しないことを示す)論理の違いに注意して適切な表現で書きます。確信の程度があいまいな「考えられる」はできるだけ用いません。「~である」「~を示した・~を証明した」「たぶん~だろう」「~を示唆する」「~の可能性がある」「~かもしれない」「~を支持する・~と一致する」「~と矛盾しない」「~を否定する・~は否定される・~と矛盾する」「~の可能性は低い」など、確信の程度の明瞭な表現で書きます。

前述の通り、独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図・作製方法)はこの結果ページに書きます。また、物理学等で一定の理論計算を行い、実験結果による検証を行うときには理論計算や検証は結果ページに書きます。

なお、複数の実験・調査を行ったときは、各実験・調査ごとに、「②研究目的(問い)、④材料と方法、⑤結果と結論」をセット(各実験・調査に1~3ページ)で書き、これを繰り返します。

考察(1ページ) 「結果・結論のまとめ」と「新規性の学問的意義」について書きます。「結果・結論のまとめ」では、研究で明らかにした結果・結論を短くまとめます。前に作った「③発表の要点」を書き直すことにより作成します。「新規性の学問的意義」では、まず、結果・結論のどの点に新規性があるのかを先行研究や関連情報を引用しながら説明します。つづいて、その学問的意義、すなわちその結果・結論から導かれる(推測される)新しい考え方等について、先行研究や関連情報を引用しながら議論します(著者の考えを述べます)(*4)。また、社会的意義があればそれも書くことができます。さらに、研究の過程で明らかになったその他の新規事項についても、その新規性を説明し、その学問的意義や社会的意義を書くことができます。学問的意義は、新規のアイディア(仮説)を示す模式図を用いて説明することもできます。

*4 研究の学問的意義と社会的意義については、本稿「7. 研究の意義、研究結果の新規性の意義とは?」参照。

複数の実験・調査を含む研究の場合は、「結果・結論のまとめ」としては、まず、全体をまとめる「結果・結論」を述べ、その下に各実験・調査の「結果・結論」を短く箇条書きします。つづいて、全体で結果・結論の新規性について説明し、その学問的意義や社会的意義を書きます。

最後に、再度、「結果」と「結論」の間の論理性や、「新規の結果・結論の学問的意義」を検討し、これで今回の研究計画を終了してよいか、あるいは、追加の実験・調査が必要ではないのかを検討します。そして、これで今回の研究計画は終了してよい、論文発表が残るだけであると判断される場合は、「今後の研究計画」は書きません。しかし、追加実験・調査が必要な場合は、「今後の実験・調査計画」を書きます。

なお、複数の実験・調査を含む長い論文発表の場合、発表の最後に「結果・結論のまとめ」を箇条書きでしっかりとまとめたもう一つの文章を添えることがあります。短い「研究目的(研究理由)」や「材料と方法」、「考察(学問的意義)」を加えることもあります。この文章を「⑨発表論文(研究)の結論」と呼びます。「要旨」とほぼ同じ内容ですが、「要旨」には厳しい字数制限(たとえば400字以内)があるのに対し、この「発表論文(研究)の結論」には特に長さ制限がありません(一般にA4判1枚以内)。ポスター発表や口頭発表、あるいは論文審査においては、最後に「⑨発表論文(研究)の結論」を述べ、論文の主張(何を明らかにしたのか)を再度明確にして終るのが一般的です。しかし、ほとんどの投稿論文にはつけません。

はじめに(1~2ページ) この研究を行う理由(研究理由)と、研究目的と、研究の新規性レベルとを書きます。

研究理由」としては、まず、論文の導入文を1~4行で書きます。いきなり課題を提起したり、対象とする現象を模式図入りで紹介したりします。つづいて、先行研究と関連情報(*5)にもとづき研究課題についてこれまでに何がわかっており、何が分っていないのかを文章(と模式図)で数行~10行程度で書きます。先行研究と関連情報は、引用元(著作者と発表年)を明らかにしながら書きます。「何が分かっていないのか」は、次に述べる「研究目的」の新規性と意義が分かるような内容になっていなければなりません。個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は書きません。

*5参照すべき先行研究と関連情報については、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照。

研究目的」としては、「②研究目的」で作成した内容を数行で書きます。ただし、複数の実験・調査を行った場合は、記述の繰り返しをなくすために、ここには「研究目的」の概要を書いて、各実験・調査のための個別の「研究目的」は次に来る各実験・調査のための「②研究目的(問い)・④材料と方法・⑤結果と結論」のセット内に書くこともできます。

研究の新規性レベル」としては、どのような範囲を調べたところ新規なのかを1~4行で明瞭に説明し、生徒理科研究に必要な新規性レベルを超えていることを述べます(*6)。

*6 必要な新規性レベルについては「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照。

先行研究と関連情報については、まえもって実験ノート、またはWord(マイクロソフト)ファイルに、引用元、内容の要約とそれに対する自分の評価、すなわち、何が書かれていて何が書かれていないのか(あるいは問題点)をまとめます。これにもとづき「はじめに」の内容を書きます。

なお、生徒研究発表会では「はじめに」に特定の仮説を書いているものをよく見かけますがこれは不適切です。「はじめに」には研究目的(問い)を書きます(*7)。特定の「仮説」に固執すると自由な創造力が抑圧される恐れがあるからです。

*7 「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画の作成法」の「仮説より問いが重要である」参照。

要旨(まとめ)(1~2ページ) 論文全体のまとめです。「研究目的」と「結果・結論のまとめ」を中心に箇条書きで短くまとめます。論文の冒頭部に位置し、この論文で何を明らかにしたのかを述べます。多くの場合、文字数制限(400~500字)があります「⑦はじめに(研究理由)」「④材料と方法」「⑥考察(学問的意義)」を短く入れることもあります。論文検索で論文内容の紹介文として表示される場合が多く、読者はまず要旨をよんでその論文全体を読むべきか否かを判断します。

最後にスライドの順序を、①⑦④⑤⑥⑧⑨とします。そして、もう一度、「はじめに(研究理由)(研究目的)」、「材料と方法」、「結果と結論」、「考察(結果・結論のまとめ)(新規性の説明と学問的意義)」、「要旨」の間の論理的一貫性をチェックし、ずれがある場合は修正します。

なお、複数の実験・調査を行った場合は、各実験・調査の②④⑤をセットで繰り返し、①⑦(②④⑤)(②④⑤)(②④⑤)⑥⑧⑨とします。

上に準備したスライドの他に、本稿の「5.投稿論文の作成法」に従いWordファイルに次の文章を書きます。謝辞、役割分担、利益相反、引用文献。

2.口頭発表

発表原案ができれば発表会です。口頭発表はPowerPointを用いて行います。発表スライドの構成は、「論文原案」のものと同じで、「①表題」、「⑦はじめに」、「④材料と方法」、「⑤結果と結論」、「⑥考察」、「⑨発表論文の結論」からなります。

ただし、「はじめに」の中の「研究目的」はしっかりと強調します。この研究で何を明らかにしようとしているのかをはっきりと示すためです。さらに、最後に「発表論文の結論」を入れ、この研究で何を明らかにしたのかを強調します。とくに、複数の実験・調査を行った場合には重要です。

各スライドは、口頭発表用にデザイン・表現方法を変更します。重要なことは、字の大きさと字体、線の太さ、図の大きさです。スライドのサイズを標準(4:3)(幅25.4cm、高さ19.05cm)と設定したとき、原則として説明文の字の大きさは最小で24ポイント(通常文)、最大で48ポイント(表題など)です。字体はゴシック体太字。模式図の線は十分に太いものとします。細くては遠くから見えません。図は、スライド内に無駄な白地部分が大きすぎたり偏ったりしないように配置します。文章は短文を箇条書きにして表現します。

指導教師をまじえたグループ内報告会では、時間制限なし(30分間~1時間程度)で徹底的にやります。スライド枚数にも制限はありません。用意したスライド1枚1枚について詳しく説明して議論します。必要なら実験ノートも取り出し、正確に議論し、グループ内の情報共有を深めます。個々のスライドについて、書くべき内容が正確に書かれているか、表現方法は適切か、内容の説明は適切かを検討します。また、「はじめに」「研究目的」「材料と方法」「結果と結論」「考察」の間の論理的一貫性について検討します。さらに、結果と結論の間の論理について、発表とは異なる考え方や批判的考え方の可能性を検討したり、結果・結論から得られる新しいアイディア(学問的意義)を出し合ったりして考え方の幅を広げます。

他方、生徒研究発表会での口頭発表であれば、常識的に報告は12分間程度で、その後5~10分間程度の質疑応答です。この場合は、スライドは12枚、多くても15枚とし、各スライドについて話す内容をしぼり、時間内に重要なことを話し終えるように準備します。細かなことは質疑を通じて話します。スライド毎に話すことはすべて文章で書き、スライドのどこを指しながら話すのかなども考えます。説明を聞きやすくするため、文が長くならないように短い文に区切って説明します。内容が仕上がると、すべて覚えてしまい、聴衆やスライドをみながらに自然に話ができるようにします。

発表会の一般的目的は、スライドの間違い、研究計画の修正・追加すべき点、より詳しく勉強すべき点、より丁寧に説明すべき箇所等を見つけることです。発表会で話すだけでも問題点に気付きます。発表会後は発表内容の見直しを行い、発表中に気が付いたことや他者の質問や意見をもとにスライド内容や話す内容を改善します。

発表会の準備でもう一つ重要なことは聴く人の知識レベルを想定して発表内容や方法を準備することです。専門の大学教員や高校教師に話す場合、同学年の他生徒や専門外の教師に話す場合など、聞く人が違えば話し方が変わります。専門知識のある聞き手には専門用語をもちいて伝えると、多くの情報を正確に伝えることができます。しかし、専門知識のない人には、専門用語が多いと話が伝わりません。一般的には難しい内容を易しい言葉をもちいて正確に伝える発表がすぐれた発表です。

 3.ポスターの作成法

図1 ポスターのデザイン1 実験・調査計画が1個の場合

研究発表会における発表の多くはポスターを用いて行います。ポスターは、先に作成した論文原案のPowerPointスライドをポスターファイルに貼り付けて作成します。ここではポスターサイズはよく用いられるA0判(841x1189mm)とします。

ポスターのデザインの特徴は、最上段に「発表番号」欄と「論文表題」欄が、第2段左上に「要旨」欄が、最下段に「考察」欄があることです(図1、2)。そして、第2段から最下段に向けて、「はじめに」、「材料と方法」、「結果と結論」を入れます。

実験・調査が複数ある場合は、実験・調査1、実験・調査2、実験・調査3、、、として、それぞれの実験・調査について、「研究目的(問い)」、「材料と方法」、「結果と結論」をセットで書き、これを繰り返します(図2)。

「表題」、「はじめに」、「材料と方法」、「結果と結論」、「考察」の内容は、論文原案で作成したページを貼り付けて修正してつくります。

ただし、発表の要点をしっかり伝えるために、「はじめに」の書き方には工夫が必要です。すなわち、「はじめに」の中の「研究目的」はしっかりと大きく書きます。この研究で何を明らかにしようとしているのかをはっきりと示すためです。さらに、「考察」の後に「発表論文の結論」を入れ、この研究で何を明らかにしたのかを強調することがよくあります。とくに、複数の実験・調査を行った場合には重要です。

図2 ポスターのデザイン2 実験調査計画が5個の場合

ポスター用スライド作成で重要なことは、原則としてポスターから2m離れた位置から無理なく読めるような字の大きさと線の太さで書くことです。字のサイズは、最小が32ポイント、最大が96ポイントで書きます。字体はゴシック体太字、模式図の線は十分に太いものとします。細くては遠くから見えません。図は、無駄な白地部分が広すぎないように注意しながら配置します。文章は短文を箇条書きにして簡潔な表現とします。

ポスターの準備でもう一つ重要なことは、ポスターはそれだけで自律していなければならないことです。すなわち、説明者がいなくても、ポスターを読むだけで内容が理解できるように書かれていなければなりません。ポスターは発表論文であって発表者のための説明資料ではないのです。

4.投稿論文作成の準備

投稿論文の作成は研究発表の最後のもっとも困難な作業です。文章で書くので、口頭発表やポスター発表に比べ、細部まであいまいさが許されず、きびしい論理性と文章力が要求されます。

図3 投稿論文の構成 A:実験・調査が1個の場合。B:実験・調査が複数の場合。

論文執筆の準備としては、「目次の作成」と、「図表の完成」です。「目次の作成」は、ワープロソフトWordで行います。論文原案をもとに大項目、小項目、段落項目をたてます(図3)。

大項目は論文原案のスライドに該当し、表題、要旨、はじめに、材料と方法、結果、考察、謝辞、役割分担、利益相反、引用文献、英文要旨、図表の説明からなります。「発表論文の結論」は論文審査の場合以外はつけないのが一般的です。

各大項目の下には小項目がつづきます。ただし、短い大項目では小項目を省くこともあります。具体的には、次節「5.投稿論文の作成法」にもとづき小項目をたてます。たとえば、大項目「表題」の下には、表題、全著者名・生徒/その他の別・所属先・所属先住所、責任著者名、責任著者のメールアドレス、責任著者の電話番号、責任著者の現在の勤務先名、責任著者の現在の勤務先住所の小項目を書きます。大項目「はじめに」の下には、研究理由、研究目的、結果・結論のまとめ、新規性のレベルの小項目を立てます。

小項目の下に段落を設けて具体的な内容を書くことになります。どのような段落が必要であるのかは実際に書き進めなければわかりませんが、この時点で必要性が明らかな段落については、段落項目として箇条書きします。できるだけ詳細に段落項目を書きだすと全体の構想が見えてきて後の執筆が容易になります。

「図表の完成」では、図表の順序や内容を再検討します。図表の作成法は、本稿の「6.図表の作成法」に説明しました。まず、図表の数は7個以下としなければなりません。8個以上の図表を用いるときは、関連あるものをまとめた組図とします。また、図表番号は、基本的に本文に現れる順序にあわせて貼り付けます。

各項目の執筆内容は、次節「5.投稿論文の作成法」に従います。執筆順序は書きやすいところから書きます。一般的には、「表題」、「材料と方法」、「結果」、「考察」、「はじめに」、「要旨(まとめ)」、「引用文献」、図表の説明、その他の順番で書くことが多いです。

論文執筆ではいくつかの大項目について、書き方が論文原案、口頭発表、ポスターとは異なるので注意が必要です。まず、投稿論文の「はじめに」には、「研究理由」・「研究目的」・「結果・結論のまとめ」・「研究の新規性レベル」を書きます。特に複数の実験・調査を行った場合は、「研究目的」と「結果・結論のまとめ」とは長くなりすぎないように短くまとめて書きます。

投稿論文でいう「結果」は論文原案の「結果と結論」のことです。さらに、複数の異なる実験・調査を行ったときは、論文執筆では「材料と方法」と「結果」の書き方が論文原案、口頭発表、ポスターとは少し異なるので注意が必要です(図3)。まず、「材料と方法」の説明を実験・調査ごとに分けずに主要な方法はすべて大項目「材料と方法」に書きます。また、大項目「結果」のしたに、各実験・調査のための中項目を作成し、実験・調査毎に結果・結論を書きます。各項目では、導入文として、まず、その実験・調査の研究目的(問い)と実験調査(材料と方法)の概略を短く述べ、つづけて結果と結論を書きます。これを実験・調査の数だけ繰り返します。

次節の「5.投稿論文の作成法」は、「生徒の理科」誌の論文投稿規定です。投稿論文は論文誌の定める投稿規定にもとづいて作成します。

5.投稿論文の作成法

①論文は本文と図・表に分けて作成します。本文は、Word(マイクロソフト)または相当ワープロソフトを用いて作成します。論文原稿用紙はA4判とし、段組みは1段、字の大きさは12ポイントとします。図・表については次節に記します。

②論文本文の文体は、「である」調とし、常用漢字、現代仮名使いで書きます。学術用語は教科書や文部科学省学術用語集等に従います。

③論文本文は、「表題」、「著者名・生徒/その他の別・所属先・所属先住所」、「責任著者名・責任著者のメールアドレス・現在の所属先名・現在の所属先住所」、「要旨」と「分野・追加キーワード」、「はじめに」、「材料と方法」、「結果」、「考察」、「謝辞」、「役割分担」、「利益相反」、「引用文献」、「(英文)表題・著者名・要旨」、「図の説明」の順で書きます。短い論文の場合は結果と考察をいっしょにして「結果と考察」としても結構です。

④論文本文原稿の1ページ目に、表題、全著者名、生徒/その他の別、所属先、所属先住所、責任著者名、責任著者のメールアドレス、責任著者の現在の勤務先名、責任著者の現在の勤務先住所を書きます。

⑤「表題」は簡潔で論文の内容と結論が読者に伝わるものにします。人目を引くだけで情報量の少ないものは避けます。特定の生物を研究材料とした場合は、「表題」にその学名(属名 種名)を斜字で入れます。(例)カイコ(Bombyx mori)。

⑥「著者名」は実際に研究を行った生徒と研究指導者(学校教員または塾講師等)の名前とします。著者名は研究への貢献度の高い者から順番に並べます。最後の著者名は責任著者とします。「生徒/その他の別」は高校・中学生徒の場合は著者名の後に「∗」印を付けます。「所属先」は、その研究が行われた学校または塾等の名称とします。ただし、所属学校以外の機関(塾等)で研究を行った場合の生徒の所属先は、その機関の名称と所属学校の名称との両方とします。

⑦「責任著者」は、日常的に研究を指導し、論文内容に責任を持つことのできる研究指導者(学校教師または塾講師等)で、論文誌編集部との連絡、出版料の支払いなど論文出版にかかわる一切の実務に責任を負う者とします。責任著者名・責任著者のメールアドレス・現在の所属先・現在の所属先住所を書きます。メールアドレスは仕事(研究)用のコンピュータメールのものを書き、私的なものや携帯メールは書きません。現在、所属がない場合は責任著者名・メールアドレスを書きます。

⑧論文本文原稿の2ページ目には、要旨・分野・追加キーワードを書き、つづけて以降の本文を書きます。

⑨「要旨」は、研究目的と結果・結論を中心に論文を400字以内にまとめた文章です。論文検索でかかるように情報量の多い文章とします。「分野」は、関係する高校理科系科目名の1つを、生物、化学、物理、地学、数学、農業、生活、工業、その他の中から選んで書きます。「キーワード」には論文検索向けに論文内容を適切に表す重要語句を4個以内書きます。

⑩「はじめに」には研究理由と、研究目的と、結果・結論のまとめと、新規性のレベルを書きます。「研究理由」としては、まず論文の導入文を短く書きます。いきなり課題を提起したり、対象とする現象について模式図を使って紹介したりします。つぎに、先行研究と関連情報にもとづき研究課題についてこれまでに何がわかっており、何が分っていないのかを書きます。先行研究と関連情報は、引用元(著作者と発表年)を明らかにしながら書きます。「何が分かっていないのか」は、次に述べる「研究目的」の新規性と意義が分かるような内容になっていなければなりません。個人的な思いや関心などいわゆる個人的動機は書きません。

研究目的」としては、実験・調査方法の概略と研究目的(問い)、すなわち、この研究ではどんな方法で何を新しく明らかにするのかを書きます。ただし、複数の実験・調査を行った場合は記述を簡略化し、研究目的概要を書くこともできます。「結果・結論のまとめ」としては、主要な結果と何を明らかにしたのかを簡潔に書きます。なお、「はじめに」には「問い」を書きます。「仮説」は書きません。また、研究目的は研究の応用目的のことではありません。

結果・結論のまとめ」としては、主要な結果と何を明らかにしたのかを簡潔に書きます。また、「はじめに」には「問い」を書きます。「仮説」は書きません。

新規性のレベル」としては、どのような範囲を調べたところ新規なのかを簡潔に説明し、生徒理科研究に必要な新規性レベルを超えていることを述べます。

⑪「材料と方法」には、実験材料(現象)・実験系(調査地)、実験・調査の流れ、実験装置、薬品、実験処理手順、データのとり方、統計処理・仮設検定法等を書きます。研究対象、材料、重要な薬品と装置などは特別の事情がある場合を除き、一般的名称だけではなく製品名、型番、製造会社名も書き、同分野の研究者なら追試ができるように書きます。実験・調査計画の説明に必要な場合は、模式図や作業流れ図を書くこともあります。また、一般(読者)によく知られていない実験・測定方法はその原理を模式図と文章で説明します。模式図や流れ図等は本稿の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します。複数の実験・調査・計算を行った場合でも主要な方法はすべてこの節にまとめて書きます。

遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子組換え生物等規制法、動物実験等の実施に関するガイドライン、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、個人情報保護法を遵守していることを記します(*2)。
*2 詳しくは、生徒の理科研究所ホームページの「論文発表をめざす生徒理科研究法 第4章 実験・調査の実施と中間発表」の「2.研究倫理の遵守」参照。

独自の材料・現象の提案や実験装置の作製を目的とする研究の場合には、その材料・現象の詳細な説明や実験装置の作製過程の詳しい説明(写真・模式図・設計図を含む)はこのページではなく、結果ページに書きます。

⑫「結果」には、実験・調査・理論計算の結果と結論を書きます。また、その他のことで新規に分かったことを書くことができます。

結果」としては、実験・調査・理論計算により得た結果を、写真、表、グラフと文章で表します。まず、論文発表時に必要となる写真、表、グラフ等をすべて作成します。グラフ・表・写真・模式図は、本稿の「6.図・表の作成法」にもとづいて作成します。グラフと表はExcel(マイクロソフト)を用いて作ります。模式図はPowerPointを用いて作ります。写真(Jpegファイル)はPhotoshop(Adobe)(または無料画像処理ソフトGIMP)をもちいて必要な部分だけを切り抜いて用います。最後にこれらグラフ、表、模式図、写真をPowerPointに貼り付け、矢印や記号をつけて図とします。

結果の説明では、再現性を十分に確認し、その旨を例数を含めて論文に記載します。数値データは適切な統計的仮説検定を行い、その結果を論文に記載します。量的データの特徴を記述するときは、例えば単に「大きい」というようなあいまいな(主観的な)表現は避け、「~に比べて大きい」と比較基準を明確にしながら述べます。実験区と対照区とを比較しながら記述することにより、結果が何を意味しているのかを明らかにしながら書きます。また、一般的な方法に重要な変更を加えて独自の方法を確立した場合は、そのことを結果の中にも書き込みます。

結論」としては、結果から論理的に導かれる「結論」を書きます。このとき「結論」は、研究目的の「問い(疑問)」に対する「答え」となっていなければなりません。因果関係を実証(証明)する論理、因果関係を推測する(新しい仮説を定立する)論理、既知の因果関係(仮説)を支持する(矛盾しないことを示す)論理の違いに注意して適切な表現で書きます。ネガティブデータや「有意差なし」の解釈では、「~とはならなかった」と「~ではない(ことが分かった)」との違いに注意します。確信の程度があいまいな「考えられる」はできるだけ用いません。「~である」「~を示した・~を証明した」「たぶん~だろう」「~を示唆する」「~の可能性がある」「~かもしれない」「~を支持する・~と一致する」「~と矛盾しない」「~を否定する・~は否定される・~と矛盾する」「~の可能性は低い」など、確信の程度の明瞭な表現で書きます。

前述のように、独自の材料・現象の提案や実験装置の製作を目的とする研究の場合には、その材料・現象の詳細な説明や実験装置の作製過程の詳しい説明(写真・模式図・設計図を含む)はこの「結果」に書きます。また、物理等で一定の理論計算を行い実験結果による検証を行ったときは、理論計算や検証結果はこの結果ページに書きます。

複数の異なる実験・調査を行ったときは、「結果」の下に各実験・調査のための節を作成し、実験・調査毎に結果・結論を書きます。各節では、導入文として、まず、その実験・調査の研究目的(問い)と実験調査(材料と方法)の概略を短く述べ、つづけて結果と結論を書きます。これを実験・調査の数だけ繰り返します。

⑬「考察」には、「結果・結論のまとめ」と「新規性の学問的意義」について書きます。「結果・結論のまとめ」では、研究で明らかにした結果・結論を短くまとめます。このとき、「結論」は「はじめに」で提起した問いに対する結果にもとづく回答となっていなければなりません。

新規性の学問的意義」では、まず、結果・結論のどの点に新規性があるのかを先行研究や関連情報を引用しながら説明します。つづいて、その学問的意義、すなわちその結果・結論から導かれる(推測される)新しい考え方等について、先行研究や関連情報を引用しながら議論します(著者の考えを書きます)。この時、新規のアイディア(仮説)等を模式図を示しながら説明することもできます。また、社会的意義があればそれも書くことができます。さらに、研究の過程で明らかになったその他の新規事項についても、その新規性を説明し、その学問的意義や社会的意義を書くことができます。「今後の計画」は書きません。しかし、将来の期待される研究方向については書くことができます。

考えを述べるときは、確信の程度があいまいな「考えられる」はできるだけ用いません。「~である」「~を示した・~を証明した」「たぶん~だろう」「~を示唆する」「~の可能性がある」「~かもしれない」「~を支持する・~と一致する」「~を否定できない・~と矛盾しない」「~を否定する・~は否定される・~と矛盾する」「~の可能性は低い」など、確信の程度の明瞭な表現で書きます。

複数の実験・調査を含む場合は、まず、実験・調査全体で何を明らかにしたのかを書き、つづいて各実験・調査で明らかになった「結果・結論」を短く列記します。考察は、「結果・結論」の新規性について説明し、その学問的意義や社会的意義を書きます。

⑭「謝辞」には、研究の遂行や論文作成で協力を受けた人に対する謝辞を書きます。たとえば、研究材料の提供、実験器具の貸与、研究場所の提供、助言、情報提供、論文のチェックなどです。「研究費補助金」には、研究経費や論文出版料の支援を受けた場合はその名称を書きます。支援を受けていない場合は「研究費補助金はなし」と書きます。

⑮「役割分担」には、各著者について、「名前:役割」を書きます。役割は「研究企画」・「材料準備」・「実験実施」・「技術指導」・「データ処理」・「図表作成」・「論文作成」など簡潔な言葉で書きます。

⑯「利益相反」には、この研究課題に関して著者または著者の所属組織が営利企業または営利追求団体や個人から受けた援助・便宜について書きます。企業・団体・個人名と援助・便宜の内容を簡潔に書きます。ない場合は「利益相反はなし」と書きます。

⑰論文は、一般的に明らかなことや先行研究等で明らかにされていることはすべて「出典(引用元)」を明らかにしながら書きます。著者がこの研究で明らかにしたことあるいはあらたに提起した考え方以外の内容はすべて引用元を明らかにしなければなりません。あいまいな伝聞や引用元の不明なことがらについては科学情報としては引用できません。「出典(引用元)」は本文中に「著者名(発表年)」を記入することにより示します。ただし、著者が3名以上の場合の著者名は「第1著者名ほか」とします。著者名は姓だけを書きます。

(本文中での引用のし方)
(2名の時)――――この変化は常温では起こらない(村辻・村辻,2018)。
(3名以上の時)――――村辻ほか(2010)はこの現象を――――――

⑱インターネット上のホームページは重要な情報源です。しかし、そこから得られる情報の取り扱いには注意が必要です。インターネット上にある情報は基本的には原文献にまでさかのぼり、正式の引用を行います。査読のない紙誌に発表された報告や論文は、その信頼性には注意が必要ですが著者が重要と認めるなら引用できます。一方、著者や責任者が特定できないインターネットや紙誌の情報は信頼できる科学情報とみなすことはできません。根拠データの示されないブログ・ツイッター等の記事やホームページ情報は根拠ある科学情報としては引用できません。しかし、あいまいなインターネット情報や根拠の示されない情報を対象としてその傾向や真否を研究・調査することはできます。

⑲「引用文献」には、本文中に引用したすべての文献の文献情報を書きます。本文中に引用しなかった文献は書きません。ローマ字で表した時のABC順でリストします。文献情報の書き方は引用文献の種類により異なります。論文誌に掲載された論文の場合は、全著者名、発行年、論文の表題、掲載論文誌名、巻(号)、ページを書きます。単行本の場合は、著者名、発行年、本の表題、出版社名を書きます。編集(監修)本に掲載された論文の場合は、論文著者名、発行年、論文(章)の表題、本の表題、編集(監修)者名、出版社名、論文ページを書きます。教科書や参考書は単行本と同様に書きます。ただし、教科書は著者名の最後に出版社名も入れます。web論文誌やweb書籍の場合は、一般の論文誌や書籍と同様に書き、最後にDOI(デジタルオブジェクト識別子)(ある場合のみ)を書きます。論文コンテスト受賞論文の場合は、著者名、コンテスト実施年、論文の表題、コンテスト名、受賞名を書きます。一般のwebページの記事の場合は、記事著者名(ページ責任者・団体名)、(発行年または最終更新日)、記事表題(またはページ表題)、サイト名(~ホームページ)、ページアドレス(http://)、アクセス日時(yy/mm/dd)を書きます。具体的な書き方は、下の例や「見本論文」を参考にしてください。なお、単なる投稿サイトのweb記事や、記事著者名(ページ責任者・団体名)とサイト責任者名(団体・会社名)のないweb記事は引用することはできません。どんな引用の場合も、著者名には全員の氏名を書きます。

(「引用文献」での書き方)
論文誌に掲載された論文の場合  村辻理男・村辻秀雄(2018): あたらしい細胞観察法、生徒理科研究 4(2):16-31.
単行本の場合  村辻理男(2018): あたらしい細胞観察法,生徒の理科出版.
編集本に掲載された論文の場合  村辻理男(2016): あたらしい細胞観察法、これからの生徒理科研究、村辻理科子(編)、生徒の理科出版、56-85.
論文コンテストの受賞論文  村辻理男(2017): 新しい細胞観察法、第3回学生理科研究コンテ、優秀賞.
一般のwebページの場合  生徒の理科研究所(2016): 「生徒の理科」とは、生徒の理科研究所ホームページ、https://seitonorika.jp/kenkyusyotop/journaltop/、2018/07/26.

⑳「(英文)表題・著者名・要旨」は、表題・著者名・要旨の英訳です。英文に不安のある者は有料の科学論文校閲をご利用ください。

㉑「図の説明」は、図の下につける表題と説明です。図1、図2というように図に通し番号をつけ、表題と説明文を書きます。組図の場合は、さらに各図を図1A、図1B、図1Cというように分けます。さらに図が多い場合は、図1A1、図1A2、図1A3というように分けることもあります。図に入れた矢印や記号の説明は図番号と表題に続けて書きます。表の説明は、一般に表の一部として表の下に書き入れます。しかし、説明が長くなる場合は、説明部分は表とは別に「図の説明」の最後に「表の説明」として書きます。

6.図・表の作成法

①「図・表」は、各図・表について出版論文に載せる時の大きさで作成します。図には(写真やグラフ、模式図、数式)を含みます。出版論文の用紙サイズはA4版、段組みは2段となるので、この段幅、ページ幅を考慮しながら図・表の大きさを決めます。

②図・表の合計数は、7個以下とします。図・表の数が多い時は複数のものを1つの組図にまとめ、合計数を7個以下とします。図と表を合わせて1つの組図とすることもできます。

③図・表には図番号を付けます。図番号は、図1、図2、図3、、、というように付けます。組図の場合は、さらに各図を図1A、図1B、図1Cというように分けます。さらに図が多い場合は、図1Aを図1A1、図1A2、図1A3というように分けることもあります。各図(図1、図2、、、、)の表題と説明文は、論文本文の最後の「図の説明」欄に書きます。

表も図と同じように表1、表2、、、というように番号を貼り付けます。ただし各表の表題と説明は表の上下に書き込みます。表題は表の上に書き、説明は表の下に書きます。

④グラフの作成にはExel(マイクロソフト)、写真の処理はPhotoshop(Adove)(または無料画像処理ソフトGIMP*8)、模式図の作成はPowerPoint(マイクロソフト)、表の作成はExelを用いると便利です。すべて出版論文に載せる時の大きさで作成します。写真の場合は必要の部分だけをPhotoshop(またはGIMP)で切り抜いて使います。こうして作成した原図をPowerPointの「デザイン・ページ設定・スライドサイズA4・スライド縦(19cmx27.5cm)」のページにはりつけ、複数の図を組み合わせたり、図の大きさを変更したり、矢印や記号を入れたりして最終的な図を完成します。 各図・表はべつべつのPowerPointページに作成します。図・表に入れる字・線の大きさと太さは、論文印刷時の大きさ・太さを考えて決めます。

*8 画像処理ソフトの操作手順はPhotoshopの方法で説明します。GIMPを用いるときは同等の処理をGIMP操作法に従って行います。GIMPのダウンロードと操作法はインターネットで調べます。

⑤最後にPowerPointファイルから解像度300dpiのJPEGファイルを作成します。Windowsパソコンでは通常の保存では解像度300dpiのJPEGファイルを作成することはできません。A4版(19cmx27.5cm)で作成したPowerPointファイルから解像度300dpiのJPEGファイルを作成する方法にはつぎの2つの方法があります。1つは、パソコンのシステムレジストリを変更してエクスポート解像度を300dpiにする方法です。詳細はマイクロソフトの「PowerPointスライドのエクスポート解像度を変更する方法」https://docs.microsoft.com/ja-jp/office/troubleshoot/powerpoint/change-export-slide-resolutionを見てください。エクスポート解像度を変更するとPowerPointの図を「名前を付けて保存」で「JPEGファイル交換形式」「現在のスライド」とするだけで300dpiのA4版JPEGファイルが作成されます。この方法は一度レジストリを変更すると以後もそのままで使用できて便利です。しかし、レジストリの変更は間違わないように注意深く行う必要があります(間違うとコンピュータが正常に動かなくなる場合があります)。もう一つの方法は次のとおりです。A4版(19cmx27.5cm)で作成したスライドを、「デザイン・ページ設定・スライドサイズ設定」で「ユーザー設定・幅76cmx高さ110cm」に設定してクリックし、「最大化」を選択して4倍に拡大します。さらにこの図・表を「表示・ズーム」で25%に設定して縮小し、モニター上の大きさをほぼA4サイズとします。この状態で文字サイズなどを調整して図を修正・完成し、「名前を付けて保存」で「JPEGファイル」「現在のスライド」で保存します。このJPEGファイルをPhotoshop(またはGIMP)に取り込み、「イメージ・画像解像度」の「ドキュメントサイズを19cmx27.52cm、解像度300pixel/inch」と設定するとA4版、解像度300dipのJPEGファイルができます。上記のどちらかの方法で作成したA4版JPEG図をPhotoshop(またはGIMP)に取り込み論文に使用する部分を切り抜いて新しい図をつくり、JPEGで保存すると目的の300dpiのJPEG図ファイルが完成します。

7.研究の「意義」、研究結果の新規性の「意義」とは?

意義とはすでに価値が認められている他のこととの関係性をさします。したがって意義を書くとは、すでに価値が認められている他のこととの関係を述べることになります。では、科学研究においてすでに価値が認められていることにはとはなにか。1つは学問的意義で、もう一つは社会的意義です。学問的意義としては、その研究や新規の結果が学問の内容的発展にどのように役立つのかを述べます。だだし、生徒理科研究の場合は、学問の内容的発展にどのように役立つのかは、生徒理科研究の内容的発展にどのように役立つのかと言いかえることができます。これまでの生徒理科研究になにを付け加えたのか、どのような修正の必要性を指摘したのか、あるいは、今後の生徒理科研究にどのような影響を与えるのかを述べることになります。この学問的意義はすべての科学論文に必須のもので欠かすことはできません。一方、社会的意義としては、一般に価値の認められている応用目的、すなわち、人間生活の向上にどのように役立つのか、生命の尊重にどのように役立つのか、あるいは自然環境の保護にどのように役立つのか、その可能性を説明します。こちらは、論文に必須ではありません。ある場合には述べます。

なお、このほかによくある意義の説明として、「将来の研究計画のための基礎データをとる、あるいは実験・調査方法を確立あるいは習得する」など、将来の研究のための準備を強調するものがあります。これは研究の初期段階の途中発表などによく見られるものです。しかし、その準備研究自体に独立した意義がなく、その結果を用いて本来の研究に取り組まなければ意味がない場合は、研究発表会での研究経過発表はできますが、論文発表の意義とすることはできません。論文発表には、その基礎データや実験・調査方法の確立自体に独立した発表意義(新規性)が必要です。

現在の生徒理科研究発表会や論文コンクールで、研究あるいは新規の研究結果の学問的(生徒理科研究における)意義を述べている発表はほとんどありません。審査委員の講評の中に見られるだけです。研究の意義は、第一に研究を行ったもの(あるいは発表者)自身が述べることです。研究の意義を考え、自ら主張できるようになりましょう。

8.「考察」には何を書けばよいのか?

論文投稿のページにあるように、「考察」には、まず、①研究の結果・結論のまとめを書きます。このまとめは「はじめに」で提起した問い(疑問)に対する結果にもとづいた回答となっていなければなりません。つぎに、②研究結果・結論の新規性について、一般情報や先行研究等を引用しながら説明し、つづいてその新規性の学問的意義と社会的意義(*9)を議論します。

*9学問的意義と社会的意義の詳細な説明は前節「研究の意義、研究結果の新規性の意義とは?」参照

生徒研究発表会でよくみかける間違いは、「回答(結論)」とそれに続く議論の部分です。本来なら、「はじめに」で提起した疑問に対する著者としての回答(結論)を「結果に基づいて」書くべきです。ところが、結果にもとづく回答をせずに、教科書や専門書の既知情報に基づいて「仮説」・「結果」・「回答(結論)」の正しさを論証しようとすることです。特に、結果があいまいで確かな「回答」ができないときや、結果が期待するものとはならなかった場合に見られます。しかしこの態度は誤りです。書くべきは、この研究の結果からどのような結論が論理的に導かれるのかです。著者がどのような信念を持っているのかではありません。そもそも、実験・調査を行う前から何が真理か分かっているのならその研究は行う必要なかったはずです。どんな実験結果であっても、まずは、目の前の実験結果にしっかりと向き合いましょう。

まず、結果が明瞭でそこから明確な結論が得られる場合には、その結論を書きます。結果が仮説を支持する場合でも、否定する場合でもです。そして、結果・結論と既知情報を慎重に照らし合わせ、今回の研究結果のどの部分が既知情報と一致し、どの部分が新規なのかを検討し、結果・結論の新規性を正確に明らかにします(*10)。さらに、この新規な結果・結論が既知情報にどんな新しい内容を付け加えるのか、あるいは、既知情報にどんな修正を求めるのか、さらに、どんな新しい研究課題を提起するのかを議論し、この研究の学問的意義を明らかにします。また、(可能な場合は)社会的意義を書きます。

*10 新規性の詳細な議論は「論文発表を目指す生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」 参照。

一方、結果が当初の期待とは異なり、あいまいで(値が中間的、または、バラつきが大きく)確かな結論を出せないなら、「結果の値が中間的またはバラつきが大きくて確かな結論を得られない」と正確に書きます。そして、つづく「議論」では、その原因は何かを議論します。中間的な値または大きなバラつきの原因が、実験・調査の方法・計画に問題がある場合は、明確な結果・回答を得ることができる方法・計画を考察します(この場合は、実験・調査をやり直すのが原則です。そもそも、信頼できない結果は論文発表・出版はできません)。もう一つは、中間的な値あるいはバラつきの大きさの原因が、対象とする現象と問い(疑問)との関係の低さ、あるいは無関係による場合です。この場合は、対象とする現象と問い(疑問)との関係が低い、あるいは、無関係であると考察します。この場合、結果・結論は真実を反映しており、新規性がある可能性があります。

以上のような考察方法は、結果・結論が当初の想定や仮説と一致した場合でも異なった場合でも同じです。忘れてはならないことは、実験・調査で求めるべきは当初の想定や仮説に一致した結果ではなく、「問い」に答えることのできる、あるいは「仮説」の真偽を判断できる、明瞭な結果です。また、研究の価値は、結果・結論の新規性の中にあります。ここから分かることは、実験・調査は信頼できる明瞭な「結果」こそ命であることです。再現性のない結果や未熟な技術によるデータのバラつきをそのまま結果として採用していては、新発見はできません。実験においては、再現性が出るようになるまで、実験・調査方法の工夫と試行錯誤、技術の習得を行うことが重要です。

9.一般科学論文の例

ここまで生徒理科研究論文の書き方をのべてきました。以下は英語で書かれた一般研究論文(full paper)(大学院レベル)の例です。論文がどのようなものかの理解の参考にしてください。論文表題またはDOI番号でグーグル検索すると論文のPDFファイルをダウンロードできるホームページが見つかります。

・Akagawa H., Hara Y., Togane Y., Iwabuchi K., Hiraoka T., Tsujimura H. (2015): The role of the effector caspases drICE and dcp-1 for cell death and corpse clearance in the developing optic lobe in Drosophila. Dev Biol. 404(2):61-75. DOI:10.1016/j.ydbio.2015.05.013
・Nagano H., Fukudome A., Hiraguri A., Moriyama H. and Fukuhara T. (2014): Distinct substrate specificities of Arabidopsis DCL3 and DCL4. Nucleic Acid Research 42: 1845-1856. DOI:10.1093/nar/gkt1077
・Sekimura T., Fujihashi Y., Takeuchi Y. (2014): A model for population dynamics of the mimetic butterfly Papilio polytes in the Sakishima Islands, Japan. J Theor Biol. 361:133-40. DOI:10.1016/j.jtbi.2014.06.029

10.よくある質問

①論文発表に必要とされる研究データ量はどのくらいか。

研究のデータ量は、分野や研究課題によりことなります。また、これまでの生徒理科研究の程度や、1人で行うのか数人のグループで共同研究をするのかによって異なります。さらに、新しく設定した課題に取り組むのか、それとも先輩が行ってきた研究を引き継ぐのかによっても異なります。当然、研究を行う人にもよります。したがって一概に基準を決めることはできません。しかし、ごく一般的に言えば、高校生活3年間で自分の名前の入った論文を1つ出版することができれば高校生としては素晴らしいと思います。

実際の取り組みでは、高校生には他にもやるべきことがたくさんあるので、それとのバランスが重要です。研究論文はデータを小分けした浅いものより、深く徹底的に研究したものに価値があります。ここから考えれば、一般論文(full paper、図表7個以下)なら研究計画の作成から論文投稿までの取り組みに2年間(1日2~3時間を140日)程度かけたデータ量が標準で、短報(short report、図表3個以下)はその半分以下でも可能でしょう。重要なことは、新規性と意義のある問い(疑問)に対する明解な回答(結論)があるか否かです。実験をそつなく無難にとりまとめただけの実験報告書は論文ではありません。ちなみに、大学の理系学部の4年生は、大学院進学のための受験勉強や就職活動の時期を除いて計算して、7~8か月間は週5日間・毎日6~8時間(1日6~8時間を150日)かけて卒業論文研究に取り組みます。これに比べれば、高校・中学生徒が行う研究は軽いといえます。全世界的・全歴史的視野での本格的な研究は大学ではじめて可能です。また、本格的な技術の習得や設備の使用は大学ではじめて可能になります。したがって、高校生は大学進学のための勉強をおろそかにせず、バランスをとりながら生徒理科研究に取り組みましょう。

②研究発表会や論文コンクールにおける審査と、論文出版の際の査読とはどのように違うのか。

(答え)この2つは、目的・評価内容・評価方法の点で大きく異なります。第1に、研究発表会や論文コンクールにおける審査は発表論文に順位をつけて受賞者を選ぶために行われます。しがたって発表論文に対する質問やコメントは発表内容や発表者の考え方・理解の程度を正確に評価するためにおこなわれます。また、応募者全員に等しくは行われず、一部の受賞可能性のある者に対してのみ詳細に行われ、順位づけに利用されます。そして賞の数だけ受賞者が選ばれます。一方、論文出版の際の査読は、投稿論文の出版可否の判断と論文内容の改善のために行われます。したがって査読では、出版可否の判断とともに問題点の指摘と出版可とするために必要な改善方法の提案が行われます。また、指摘・コメントは論文すべてに対し等しく論文に応じた内容で行われます。さらに出版の可否判断はその論文自身の評価に基づき行われ、論文数による制限はありません。第2に、研究発表会やほとんどの論文コンクールにおける審査はポスターあるいは研究概要(論文)と口頭発表により評価され順位付けに利用されますが、評価内容のフィードバックや書き直しによる再評価はありません。しかし、論文出版の際の査読は、文章として書かれた論文について行われ、評価・コメントは文書で著者に知らされ、追加実験・書き直しが求められます。書き直された論文は再評価され、一定のレベルに達したものだけが出版可とされます。

③論文コンクール・研究発表会での受賞と査読有り論文誌への出版では、どのような違いがあるのか。

(答え)大げさに言うと、社会的な意義あるいは発表者の人生における意義に違いがあります。論文コンクール・研究発表会での受賞は、そのコンクール・研究発表会に参加した多くの研究の中から、他と比べて優れた研究として選ばれたということです。したがって、その時点で他より優れているとして受賞したという事実が生徒や指導した教師、その所属する学校などの誉れとなります。また、受賞したという事実が歴史に残ります。しかし、提出された論文は論文発表会・コンクールのための会議録(Proceedings)・審査資料というべきもので、原著論文(正式の学術論文)とは見なされません。したがって、発表内容が他者に引用されることも、生徒理科研究の発展に貢献することもありません。一方、査読有り論文誌への出版は、専門家の査読により論文が新規性や重要性から見て社会的に公表・記録する価値があると評価されたことを意味します。他の研究より優れているか否かではありません。そして、研究論文が社会的に価値あるものとして公表・記録されたということが、生徒や指導教師、所属学校などの誉れとなります。当然、出版論文は学術論文として生徒理科研究史に位置づけ・評価されたり、多くの人に読まれたり引用されたりして生徒理科研究の発展に貢献します。簡単にいうと、発表会・コンクールでの受賞は個人的名誉であり、論文出版は社会的貢献であるといえます。以上の違いを考慮すると、生徒理科研究の最終目標を査読有り論文誌への出版とし、研究発表会や論文コンクールでの受賞はそれにいたる途中過程であるとして、両方を目標とするのが適切です。また高校等が行う自校生徒の活躍や教育成果の紹介においても、今後は受賞記録だけでなく、査読有り論文誌への出版論文数や出版論文内容の紹介が求められるでしょう。

④生徒の理科では投稿論文は2名の査読者により査読され、その結果を編集委員が評価し、その結果に基づき編集部が最終的な出版の可否を決定するとしているが、これで論文審査の公平性は保証されるのか。

(答え)「公平性が保証されるのか」と問われれば、「保証」はないと答えざるを得ません。しかし、2名の査読委員が審査を行い、担当編集委員がレフェリー役を果たすというのは、審査の公平性と迅速さを考えると合理的な方法です。そもそも研究論文は学校の試験や大学入試問題のように正解の定まったものではありません。一般研究においては、論文査読は、研究方法や手続きと論理が一般的研究レベルに照らして合理的に行われているか、および、研究内容の新規性のレベル(インパクト)が現在の科学研究に照らしてどの程度かの判断によって行われます。このうち、研究方法と手続きと論理の合理性は比較的客観的に判断できますが、新規性のレベルは主観的な部分が大きくなります。しかも、論文誌によって求めるレベルが異なります。したがって、査読結果に不満を持つ論文著者は多いと思われます。しかし、それでも各研究誌には掲載論文のレベルについての社会的評価がインパクトファクターという形で存在します(インパクトファクターはその雑誌に出版された論文の平均被引用回数により計算されます)。生徒理科研究では、新規性は求められますが、そのレベルは問わないというのが「生徒の理科」誌の考えです。その理由は、①現在の生徒理科研究には独自の研究動向や研究史が存在せず、そもそも新規性のレベルを比較する独自の基準がない、②あえて新規性レベルを問題にすると、一般研究の新規性レベルに近いものを評価するという、生徒理科研究の独自性の否定につながりかねないからです。したがって、生徒理科研究論文の出版に求められる条件を、研究方法と手続きと論理の合理性(高校3年生程度のレベル)と新規性の存在(レベルを問題にせず)としています。しかしそれでも見解の相違は出てきます。どんな研究でも厳密な論理と確実な証拠を求めると、不十分さを完全にのぞくことが困難であるからです。したがって、査読には公平性も重要な基準となります。すなわち、他の生徒理科研究論文のレベルに比べてそん色がなければそれでよしとするという常識的判断です。(その結果、混入する間違いは他者による批判的論文によって是正されることを期待しています。)したがって、論文投稿者はこのことを理解したうえで、査読結果に合意しない場合は、異議を申し出ることができます。ここで重要なことは、論文著者と査読委員との関係は(何が正しいかを知っている)先生と(勉強中の)生徒の関係ではなく、論文査読基準と評価の公平性の上に行われる科学的論争であるということです。

論文評価の公平性の確保のためのもう一つの方法は、社会の中に論文誌が1つではなく、複数存在することです。公平性に査読するとしても、論文評価にはさまざまな意見があり、これを無理やり統一すべきではありません。社会の中に論文誌が1つしかないと、その論文誌のとる評価法・考え方が権威となり科学の発展を阻害する可能性があります。科学の発展過程ではこれまでにない新しい研究方法や考え方が出現し旧来のものと競争しながら、旧来のものを駆逐したり、逆に旧来のものに押されて途絶えたり、あるいは、両者が役割分担をして共存したりすることが頻繁に起こります。このような多様で自由な動きが科学の発展をもたらします。この自由と多様性を保証するには、複数の論文誌の存在が重要な意味を持ちます。

⑤研究結果の発表は英語で行うのがよいと聞いているが、「生徒の理科」では英語の論文は受け付けないのか。

(答え)英語で書かれた論文は受付けません。ただし、論文データベースへの登録と引用のために論文表題・著者名・要旨だけは英文要旨として論文の最後に添えます。英語の論文を受け付けない理由の第1は、「生徒の理科」は論文出版を通じて日本の(正確には日本語を母語とする、あるいは日本語で科学を学ぶ)生徒間の研究交流を活発にし、生徒理科研究を発展させるために出版する論文誌だからです。効果的な研究交流は、論文の著者にとっても読者にとっても最も自由に操れる言語で行われてこそ可能だと考えます。論文で複雑な現象を記述したり緻密な論理を展開したりすることは母語でなければ困難です。また、論文内容の正確な理解や多くの情報収集は母語でこそ可能です。もちろん、現代の多くの研究論文は英語で発表されるので、生徒のみなさんが将来(大学以上のレベルでは)英語で研究交流できるようになることを期待しています。第2の理由は、英語の文章を自由に読んだり書いたりできる人は、最初から英語で科学研究をすべきで、「生徒の理科」のカバーする範囲ではないと考えるからです。英語力が十分な生徒には欧米で出版されている生徒理科研究のための英語論文誌を紹介します。生徒の理科研究所ホームページの「関連情報」のページに載せてあります。英語での交流は、研究情報の量、質ともに日本語で行うよりはるかに高いレベルで可能です。また、生徒研究から英語で行われる(大学以上の)一般研究への移行もスムーズに行えます。しかし、英語で科学論文を読み書きできるようになったからといって、かならずしも日本語でそれができるわけではありません。日本語で読み書きするにはそれなりの訓練が必要です。したがって、そのような生徒には将来日本語でも科学論文や科学的文章を読み書きできる人になってほしいと期待しています。

⑥理科塾等で理科研究を行い、研究論文を「生徒の理科」に投稿する場合、論文の責任著者は学校教師とするのか、それとも理科塾の講師とするのか。また、生徒の所属は学校とするのか、それとも理科塾とするのか。

(答え)この場合は理科塾の講師とします。理科塾等で塾講師の指導の下に研究が行われた場合はその塾講師が責任著者となります。また、著者の所属先はその研究が行われた場所、すなわち塾が所属先となります。しかし、「生徒の理科」は高校・中学生徒の研究を対象とする論文誌です。したがって、そのことを明確にするために生徒の所属先は塾と学校の両方にします。具体的な記述のしかたは「生徒の理科」2016号に載せた見本論文2016-1を参考にしてください。

⑦研究過程で大学教員にさまざまな指導援助・助言を受けたり、実験機器を使わせてもらったりした場合、責任著者はその大学教員とするのか、それとも学校教師とするのか。

(答え)生徒の所属する学校教師が責任著者になります。責任著者は日常的に生徒の理科研究を把握しその実現のためにさまざまな指導・援助を行い、論文内容に責任を持つことのできる者、すなわち学校教師あるいは塾講師がなります。研究の一部について助言・指導を行ったり実験機器や実験場所を提供したりした大学教員はその対象ではなく、謝辞で述べるだけでよいと考えます。大学教員はそもそも世界的な視野で研究を行っており、大学教員が共同著者や責任著者となる論文は、たとえ高校・中学生徒が重要な貢献をした場合でも「生徒の理科」生徒論文の対象範囲の論文ではないと考えます。

⑧一部の論文コンクールでは一年間あるいはその年に行った研究データだけを発表するという条件を課しているものがあるが、一年以上前に行った研究結果を含めることはできるのか。

(答え)一部の論文コンクールでは一年間あるいはその年に行った研究データだけを発表するという条件を課しているものがありますが、「生徒の理科」誌ではこの考え方を取りません。数年にわたって行った研究でも、先輩から継続してきた研究でもOKです。「生徒の理科」は研究成果を評価し社会的に公表・記録するための論文誌で、研究を行った生徒の個人的能力を評価し順序づけるための雑誌ではないからです。ただし、すでに他の論文誌に出版した論文に載せたデータは二重投稿の禁止に抵触するので含めることはできません。

⑨論文を発表しようとしている最中に、偶然、他者により同様の内容の論文が査読有り論文誌等に出版される場合が考えられるが、この場合、他者の研究とは全く独立して行ってきた研究であっても、「これまでの生徒理科研究を超える新規性」に該当せず、論文発表はできなくなるのか。

(答え)他者の論文出版日と自分の論文投稿日の期間の長さによります。研究内容にもよりますが、一般に他者の論文出版日より1年以上遅ければ、完全に独立に行われた研究とは見なされず新規性はないと見なされます。しかし、数か月以内なら、独立に並行して行われた研究として新規性が認められる場合があります。この場合、後に出る論文は先に出た論文を引用してこの事情を書き添えることになります。しかし、同様の内容といっても独立に行われたのなら細部には違いがあるはずです。多くのデータが重なり新規性のレベルは下がりますが、違う部分を新規性として論文発表することになります。実は、科学研究においてこのような事態はしばしば起こります。多くの研究課題(テーマ)は自分が思いついたときには、同じアイディアを他者も思いつき、独立して研究を行う場合は十分にありうることです。そのために、科学者は見えぬ競争相手に負けまいとして、研究をできるだけ早く進め、論文発表しようとします。これが研究の先陣争いです。この争いで自分の研究者としての評価や出世するか否かが決まったり、ノーベル賞をとれるか否かが決まったりするとなると十分納得のいく話です。生徒理科研究の場合でも自分が最初の発見者となるのか、2番手の追試者となるのかは大きな違いです。

⑩大学に進学した後、高校時代に行った研究を生徒の理科に投稿することはできるのか?

(答え)大学入学後に高校で行った研究を論文にすることはできます。研究のほとんどの部分が高校時代に行われており、研究指導者が高校教師等であれば「生徒の理科」誌に論文投稿できます。その際の所属は研究を行った高校等で現在の所属(大学)ではありません。(一般研究論文でも、著者の所属はその研究が行われた時の所属組織を記載します。)

⑪論文出版料はだれが払うべきなのか。また、著者が支払う場合、指導教師と生徒の間でどのように負担すべきなのか?

(答え)その論文が学校の教育研究活動の一環として行われた研究の成果報告として出版される限り、論文出版料は研究費の一部として学校等の教育研究経費から支払われるべきです。査読有り論文誌への論文出版は研究活動の最後に取り組むべき不可欠の活動で、研究成果を社会的に正式に公表・還元するためのものだからです。これがなければ、研究成果は社会のものとならず、学校・教師・生徒は研究活動を完結していないことになります。とはいっても、現実には生徒理科研究のための教育研究経費をわずかしか準備できない学校も多くあります。その場合には、学校と論文著者(指導教師と生徒)が話し合ってなんとか工面するしかありません。一般に、研究計画をつくるときには、かならず論文出版料を研究経費として確保すべきです。論文出版経費のない研究計画は最初から研究成果の論文出版を予定していない、不十分な研究計画です。ちなみに、大学では論文出版に係わる経費はすべて研究経費として計上します。しかし、科学研究費等を獲得できない研究室では著者(教員・学生)が自費として出しているのが現実です。現在、日本の研究者の30%以上が科学研究費の取得なしに大学から配分される研究費(年間20~40万円)を自費で補填しながら研究に取組んでいます。そのような研究室では研究成果発表のための学会出席旅費や論文出版料を教員・学生の自費で出している場合が多くあります。これが科学技術立国をめざす(といわれる)我が国の偽らざる現実であることも知っておくべきでしょう。

⑫生徒研究発表会で他者のポスターを携帯カメラで写真撮影していて注意されたことがある。研究発表会における写真撮影には何かルールがあるのか。

(答え)現在の生徒理科研究発表会ではルールが明文化されているものはほとんどありませんが、一般研究の発表会ではルールがあります。発表者の許可を得ずに、他者の口頭発表を録音したり撮影したりしない、ポスター発表を撮影したりしないというルールです。そもそも、発表内容には著作権があり、そのコピーをとることは発表者の許可が必要です。また、新規性(Originality)の尊重という点でも、発表データの無断コピーは、他者による盗用の危険性を高めるという点で許容されません。しかし、発表者のデータや話をメモに取ったり、知った内容を他者に話したりすることは自由です。そもそも研究発表会は交流をつうじて研究の発展を図ることが目的だからです。

⑬他者の論文のコピーが問題になっているが、生徒理科研究論文においても、他者の論文引用の過程で著作権侵害となることはないのか。

(答え)いいえ、適切に引用すれば著作権侵害とはなりません。引用は論文の新規性(Originality)に関係する概念であり、一方、コピーは論文の著作権に関する概念です。これら両者は異なる概念です。新規性に関する考え方は「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」に詳細に説明したとおり、社会的に正式に公表されている科学著作物について、その内容を参照するときは、引用元を明らかにして新規性(Originality)を尊重することを求めるものです。一方、著作権は人間の創作物に生じる権利で(*11)、生徒研究の報告書であっても、研究発表会のポスターであっても、口頭発表であっても、一般web情報であっても、あるいは、個人的なメモ書きであっても著作権はあります。また、著作権が生じるのはその創作物が作成された時点であって、どこかに登録するとか発表するとかしなくても生じます。そして、その創作物を他者が利用するには著作者の許可が必要です。したがって、著作権は論文に何の表示がなくても生じます。しかし、その利用のし方には2種類あり、表示記号で区別されます。©ライセンスとCCライセンスの2種類です。たとえば、© All right reservedと表示があれば、すべての利用方法について権利を主張し、他者が利用するには著作権者の許可が必要です。他方、CC BY NCと表示があれば、一定の条件下(この場合は、BYは著作権者名の表示、NCは非営利)では自由使用を認めるが、それ以外の使用については著作権者の許可が必要です。現在、多くの論文誌は©ですが、「生徒の理科」誌はCCです(*12,13)。

*11 Wikipedia 著作権 https://ja.wikipedia.org/wiki/著作権/ 参照
*12生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp/ 「生徒の理科」生徒論文投稿規定 参照
*13 Wikipedia クリエイティブ・コモンズ・ライセンス https://ja.wikipedia.org/wiki/クリエイティブ・コモンズ・ライセンス/ 参照

しかし、科学論文等では、科学的知見自身は人間の創作物ではないので、文章の「内容」、すなわち記述された「事実」や「データ」には著作権は生じません(*14)。著作権は「内容」ではなく「表現のし方」に生じます。さらに、「文章表現」やデータを示す「図・表」であっても、それが著作者の個性を表現するものではなく一般的・定式的に事実を記述するものならば、あるいは正確を期すために必要なものであれば、他者のものを自己の論文等に必要最小限そのままの形で使用しても著作権侵害にはなりません。(しかし、この場合、記述された内容には新規性があるので、他者のものを用いるときには「引用」が必要です。)結論は、論文発表・出版の場合には、新規性と著作権の内容を正しく理解し、どちらも尊重しなければなりません。

*11 Wikipedia 著作権 https://ja.wikipedia.org/wiki/著作権/ 参照


第6章 指導教師と学校に求められることPdfファイル

はじめに

生徒理科研究において指導教師と学校の役割は重要です。多くの生徒にとって研究活動は初めてのことなので、研究活動のすべての段階でていねいな教師の指導と学校の支援が重要です。ここでは生徒理科研究の研究指導における指導教師と学校の役割について、生徒の理科研究所の提案を紹介します。

指導教師には「新規性」の評価と科学的論理の指導、論文の仕上げと出版

指導教師には、研究環境の整備、実験・調査方法の指導、研究の安全確保と倫理遵守の指導だけでなく、研究の発展をめざして生徒とともに積極的に研究に取り組む(研究指導する)ことが必要です。生徒だけにまかせておけば、生徒は研究の核心を理解しないまま通常の実験実習のようにすごしたり、多くの夏休み自由研究のように新規性に無頓着な、あるいは、科学的論理や信頼性が担保されない単なる探究活動を行ったりすることになりかねません。

研究指導の中で、最初に重要なのが新規性の評価・検討です。新規性は研究の核心です。しかし、通常の授業では経験することのない活動です。新規性(*1)を考えるには、小学・中学・高校の理科教科書と主要な参考書の内容や過去の生徒理科研究についての体系的で広範な知識とその批判的評価能力が必要ですが、これを生徒にいきなり求めることはできません。「関係する分野について、高校3年生までの教科書と主要な参考書に何が書かれ何が書かれていないのか、過去の生徒理科研究で何が明らかにされ、何が明らかにされていないのか。研究課題の新規性はどこにあるのか、あるいは、どこに焦点を当てれば新規性を主張できるのか。研究課題の意義は何か。」について、教師が率先して考え、明らかにすることが求められます。そして生徒にも研究の新規性を自ら確認できるようにすることが重要です。
 *1 ここでいう新規性とは生徒の理科研究所が提唱する生徒理科研究に必要な新規性です。新規性に関する詳しい議論は、本シリーズの「生徒理科研究法 2.生徒理科研究には新規性が必要である」を参照。

ここで重要なことは、指導教師に求められるのは研究課題の新規性と意義を明らかにすることであって、専門書や先行研究を調べ上げ研究開始前に前もって結論(研究結果)を得ておくことではないということです。研究活動は通常の授業でおこなう学生実験とは異なり、研究をつうじて自ら未知の問題の解明に取り組むことです。指導教師が研究開始前あるいは研究実施中に猛勉強して研究の結論(あるいは研究結果)を先行研究や専門書の中から探し出したとたんに、その研究は新規性のない既知情報の追試になってしまいます。結果的に、研究課題(研究計画)の再検討や変更が必要となります。なぜなら、生徒理科研究には「小学から高校3年生までの理科教育とこれまでの生徒理科研究」を超える新規性が必要なだけでなく、その他の情報(文献)を参照した場合はその情報をも超える新規性が必要だからです。指導教師が専門書や専門論文から徹底的に先行研究をチェックしたいというのなら、同じ研究が見つかった場合に現在の研究課題(研究計画)をどのように変更して研究の新規性を確保するのかまで責任を持つ必要があります。指導教師が研究の見通しを一刻も早く得たいというのなら、むしろ、実験・調査を積極的に生徒と一緒に行ったり、自らも独自に行ったりして生徒と共同して研究の速度と信頼性を上げるべきです。

次に重要なことは研究における「科学的論理の指導と信頼性の確保」です。生徒の自主性にまかすといって間違った論理や信頼性のないものを放置しておいてはいけません。しっかり指導する必要があります。理科研究に初めて取り組んだ生徒研究発表によくみられる過ちを挙げます。
①「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と「結果から導かれる結論」のあいだの論理的整合性がない発表があります。「実験・調査計画」が「問い(疑問)」に答えられるものになっていない、「結論」が「結果」から論理的に導かれるものになっていない、「結論」が「問い(疑問)」の答えになっていない、などです。これら3つの間の科学的論理性を生徒とともに繰り返しチェックしましょう。これは研究指導の重要なポイントです。生徒に科学的論理にもとづく思考方法とは何かを教える重要なチャンスです。
②大学レベルの高度な実験装置や方法を用いているが、実験計画の不十分さや装置・方法の理解不足のために結果の解釈(すなわち結論)に誤りがあったり、ただ教科書や専門書の内容を確認しているだけで新規性がなかったりする研究発表があります。生徒理科研究の目的は実験装置の操作法や実験方法の体験ではありません。また、大学に進学すれば普通に体験できることを高校・中学でいち早く体験させることがレベルの高い良い研究ではありません。重要なことは高度な装置・方法の使用そのものではなく、それを用いて答えようとする「問い」と結果から導かれる「結論」の科学的論理性と新規性であることを忘れてはいけません。高度な実験装置や方法を用いる時には、その作動原理と使用方法、およびデータの正しい読み方の理解が必要です。むしろ、生徒理科研究では教科書実験で用いる程度の(あるいはそれより少し高度な)装置・方法や実験器具を上手に駆使して新規性のある独創的な研究を展開するのが知恵の見せ所です。
③研究材料の扱いや装置の操作に習熟せずに信頼性の疑わしいものを実験結果としている場合があります。生徒理科研究は、授業中の教科書実験ではありません。物理・化学・生物・地学のどの分野でも対象とする現象の詳細な観察と、実験手順や装置操作の十分な習熟が重要です。それがなければ信頼性のあるデータは得られません。生物の研究では、最初に、材料とする「植物」・「動物」の詳しい観察と良好な栽培・飼育技術の確立が重要です。枯れかけの植物や死にかけの動物を用いた実験データを信頼することはできません。

第3に重要なことは論文の仕上げと出版です。指導教師には責任著者として研究結果を論文出版するという責任があります。研究結果のとりまとめでは、まず、結果を何枚かのスライドにまとめてポスター発表や口頭発表を行います。この段階までは適切な指導のもとに生徒自身が行うことが重要です。次は、研究結果をきちっとした文章で記述された論文にまとめる段階です。生徒の理科研究所ホームページ(https://seitonorika.jp/)の「生徒論文投稿」などにもとづき論文を執筆します。ポスターや口頭発表に比べ、論文に求められる論理と表現の正確性・厳密性は格段に厳しく、生徒には容易なことではありません。しかし、教育的観点からは不十分でも生徒自身に最初の草稿を書かせることを勧めます。そして、生徒の書いた草稿を生徒と議論しながら校閲・改善します。この過程は研究結果の明解な文章表現法や科学的・批判的考察法の重要な教育機会です。実験に密着している生徒と一歩離れて見ることのできる指導教師との議論から、新しい解釈や新しいアイディアがでてくることもよくあります。こうして生徒による論文執筆の段階が終わります。最後は、研究指導者である教師が論文の責任著者として、再度、論文のデータと、科学的論理、文章表現を徹底的にチェックして投稿原稿を仕上げます。教師による仕上げがなければ、研究成果の査読有り論文誌への出版はほとんど不可能でしょう。論文出版は研究成果の社会的公表と記録により生徒理科研究の発展に貢献するために行うものです。生徒の個人的能力の評価と表彰を目的とする論文コンクールとは異なります。指導教師が責任をもって生徒理科研究の成果を論文に仕上げて出版することが重要です。

最後に、研究指導に必須の条件として、指導教師には注意深い観察と証拠にもとづき科学的論理を用いて自分の頭で考え、真理を探求する(真実から逃げない)勇気が求められます。特に権威主義的姿勢をとらない注意が必要です。教科書あるいは著名な(外国)研究者の先行研究論文を「ありがたがって」、批判的に読まなかったり(*2, 3)、教科書や先行研究論文に一致しない生徒や自分の実験結果を「そんなはずはない」と頭から無視・否定して、目の前の実験結果に真正面から取り組まなかったりしないように注意しなければなりません。これでは新発見はできないし、科学の発展に貢献できるわけがありません。
 *2 同様の傾向が日本人大学生や大学院生にみられるとして問題視している学者がいます。苅谷剛彦(2019):演繹的思考と帰納的思考.「言葉の教育を問いなおす」(著)鳥飼久美子・苅谷夏子・苅谷剛彦 ちくま新書。
 *3 本庶佑(2018):科学者を目指す小中学生へ「教科書に書いてあることを信じない。常に疑いをもって本当はどうだろうという心を大切にする」「つまり、自分の目でモノを見る」.読売新聞2018年10月2日。

学校には特色研究分野の確立と研究環境の整備が求められる

生徒理科研究を通じて生徒にどれだけのものを与えられるのかは研究指導体制、すなわち、研究環境と指導教師の力量に大きく依存します。したがって、生徒理科研究の発展には研究環境の整備と指導教師の力量向上が不可欠です。研究環境としては学校に少なくとも教科書実験(あるいはそれより少し高度な実験)をごまかしなく行えるだけの実験設備・装置・器具・薬品が必要です。また、具体的に生徒理科研究を進めるためには研究テーマに沿ったこまごましたノウハウとそれを実現するための実験装置・器具・薬品等を備えること(またはそのための予算が)必要です。教師の力量としては指導分野(テーマ)について、小学・中学・高校の理科教育とこれまでの生徒理科研究や関連する専門情報の把握、研究ノウハウの蓄積、研究指導能力の研鑽が必要です。

しかし、教育を主たる任務とする高校では生徒の多様な興味に応える研究指導体制を準備することは不可能です(大学でも困難です)。そこで現実的には少数の分野(テーマ)を選び、重点的に研究指導体制を整備・構築する以外に方法はないでしょう。すなわち、科目(教師)ごとに生徒の興味の傾向、分野の現代性と発展性・将来性、地域の特色、協力大学の存在などを考慮して少数の分野(テーマ)を選び、学校(または指導教師)の特色研究分野(テーマ)として研究指導体制を整備・構築する、すなわち、研究環境の整備と指導教師の力量向上を図る。また、分野(テーマ)は数年ごとに見直しを行いより適切なものに変更していく取り組みが必要でしょう。

特色研究分野の立ち上げは学校の支援の下に指導教師自らが研究に取り組んで行う

生徒の理科研究所は特色研究分野(テーマ)について、研究環境の整備と指導教師の力量向上を図るための実際的方法として、研究分野(テーマ)の立ち上げから最初の論文出版までの研究は学校の支援の下に指導教師自身が行ない、生徒は主としてその研究を基礎に(手本に)さらに発展させる研究に取り組むようにすることを提案します。なぜなら、研究はどんな分野(テーマ)であっても、立ち上げから最初の論文出版までが一番大変だからです。すなわち、新研究分野(テーマ)の確立には、先行研究や関連情報の収集と分析、研究(テーマ)の新規性・独創性の確立、基本的な研究方法とノウハウの獲得、必要設備の整備など、多くのことを行わねばなりません。これを生徒にまかす(頼る)のは非現実的だからです。理系大学では一般的には新研究分野の立ち上げは大学院博士課程の教育目標で、博士課程の学生が博士論文研究の過程で体験することです。卒業論文研究や修士論文研究ではありません。生徒理科研究は大学レベルの一般研究とは異なるといっても、研究分野の立ち上げは、生徒ではなく指導教師自身が学校の支援の下に行うべきでしょう。

ここで大切なことは、研究分野の立ち上げは研究テーマの設定から最初の論文出版まで研究を進めてはじめて完了するということです。分野を決めて情報収集し関係する設備をそろえるだけでは研究分野を立ち上げたことにはなりません。なぜなら、研究分野の立ち上げに必要な先行研究や関連情報の収集と分析、研究テーマの新規性・独創性の確立、基本的な研究方法とノウハウの獲得、必要設備の整備などは、実際に研究を進め、最初の論文を出版するまで取り組んではじめて分かることが多いからです。

学校と指導教師が研究分野を立ち上げ、1つ論文を出すことができれば、それを基礎に(あるいは手本に)さらに発展させる研究は容易となり、生徒の力量に合う子テーマの提示も可能となるでしょう。あるいは生徒自身による新しい関連テーマの提案も可能となるでしょう。教師による最初の理科研究論文の作成と出版には生徒の理科研究所の「理科研究コース」や「シニア論文」(*4)を利用することもできます。
 *4 生徒の理科研究所ホームページ(https://seitonorika.jp/)の「理科研究コース」「シニア論文」参照。

おわりに

本稿では、生徒理科研究の指導の在り方について生徒の理科研究所の提案を紹介しました。すなわち、生徒理科研究の指導教師には「新規性」の評価と科学的論理の指導、論文の仕上げ、真理を探求する勇気が求められます。学校には特色研究分野(テーマ)の確立と研究環境の整備が求められます。また、特色研究分野の立ち上げは学校の支援の下に指導教師自らが研究に取り組むことにより行い、生徒はその研究をさらに発展させるテーマまたは関連するテーマを研究するようにします。

ここで提案した研究指導方法は、特に新しいものではなく、長年、多くの理系大学で卒業論文や修士論文の指導に用いられてきたものです。この方法は、大学がしっかりした研究指導体制を整えたうえで学生の研究指導を行うというもので、高校の生徒理科研究にも有効なはずです。この方法の弱点は生徒の研究テーマの選択範囲が学校の指導体制に規定されるので問題意識が鮮明で独自の研究テーマを持っている一部の学生の希望にこたえられない場合があることです。このような学生の指導には工夫と柔軟性が必要です。指導教師が担当テーマを一時的に増やす、あるいは、責任関係を明確にした上で一時的に学外に指導者を求めるなど、文字通り工夫すれば解決も可能でしょう(事実、多くの大学が様々方法で解決しています)。

生徒理科研究発表会の様子から、一部の学校はすでに特色研究分野を確立しているが、多くの学校は、現在、研究指導体制のあり方を模索している最中のように見られます。わたしたちの提案が高校における生徒理科研究の指導体制の構築に役立つことを期待しています。