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2020-3h(一般記事)論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法

Seitonorika 2020-32020年5月18日掲載,ダウンロードPdf

生徒の理科研究所
〒623-0342 京都府綾部市金河内町奥地22番地  https://seitonorika.jp, uketuke@seitonorika.jp

目次:
1. 新規性と実感可能性があり研究方法のしっかりした研究課題をたてる 新規性のある研究課題をたてる 実感可能性のある研究課題をたてる 高校レベルにふさわしい科学的研究方法を用いる 時間と労力にあう研究課題をたてる
2. 科学的論理性に貫かれた研究計画をつくる 問い(疑問)の設定 実験・調査計画の策定 因果関係の実証(証明)に用いたれる論理 帰納法ー因果関係の推測や仮説の定立に用いられる論理 理論研究の論理 対照実験・比較実験とデータ収集研究 問いと実験・調査計画と結論の論理性 仮説より問いが重要である 多数の問いと実験・調査計画を立てて深く研究する
3. 実験・調査結果の再現性と統計処理 実験・調査計画の再現性 必要な実験例数 統計的仮設検定
4. 研究計画をパワーポイントに入れて発表会を行う 研究計画の文書化 研究計画発表会
5. よくある質問と答え
類別:一般記事  分野:生徒理科研究法  キーワード:研究課題、研究計画、対照実験、統計検定


1.新規性と実感可能性があり、研究方法のしっかりした研究課題をたてる

研究課題の設定において重要なことは、「新規性」と「実感可能性」、「研究方法のレベル」、「必要な時間と労力」です。

新規性のある研究課題をたてる

最初に重要なことは新規性です。「他人と違うことこと」や「先人がやっていないこと」を研究します。「他人と違う」ためには独自性を出すとよいでしょう。独自の実験系をつくる、独自の調査地を持つ、あるいは、独自の材料・対象・方法を選ぶなどです。地域的に特殊な対象・問題から課題をみつけることもよいアイディアです。

研究課題を探すもっとも現実的でよい方法は教科書の中から探す方法です。ここでいう教科書とは小学5年生から高校3年生までのすべての理科教科書です。多くの高校生が研究課題を決める高校1年生のものではありません。自分の興味のある、あるいは得意な分野を選び、教科書に何が書かれていて何が書かれていないのかを考えながら、見出し・写真・図を見たり本文を読んだりして新規性のある独自課題を考えます。とくに、教科書にある「実験」や「探求活動」の中から興味のあるものを選び、そこに書かれている実験(測定)方法(あるいはそれを少し発展させた方法*1)を用いて独自性と新規性のある研究課題を考えるのがよい方法です。同じ実験(測定)方法で、「より細かく緻密に調べる、より広い・異なる範囲を調べる、異なる材料や現象を研究対象にする」ことにより教科書には書かれていない新しい特徴・傾向を見つけたり、法則の成り立つ範囲を拡大あるいは限定したりすることができます。また、同様の実験を「別の条件や違う環境」で行ったり、「別の実験と組み合わせて」行ったりすると他の現象との関係を明らかにすることができます。さらに教科書にある実験を行う過程で発見した教科書には説明されていない現象を研究することもよい考えです。

*1 教科書に書かれた方法を少し発展させた方法とした理由は次の通りです。教科書実験の一部には授業時間内に終えることができる、全員が実施できる、あるいは実験機器の購入費用を低く抑えるなどの理由で、定量性のない方法や応用性・発展性に欠ける方法を用いたものがあります。このような方法では研究の可能性が大きく制限され、新規性あるいは創造性ある研究の実施が困難になったり、繰り返し行う実験あるいは測定回数の多い実験が困難になったりします。このような場合には、より一般性のある方法や簡便かつ精度高く測定できる方法(分析機器)を用いる必要があります。将来的には教科書中に授業用の方法の他に、生徒理科研究のためのより一般的で応用性・発展性のある方法も紹介されるべきだと考えます。

教科書と同じ実験(測定)方法を用いると多くの利点があります。教科書やその解説書に実験(測定)方法の詳細や注意点が説明されているので、事故や間違いを避けることができます。典型的な実験結果が掲載されているので、自分の実験(測定)技術の確かさを確認することができます。また、実験装置・器具・薬品が授業用としてすでにある場合は、研究経費を少なく済ますことができるかもしれません。

研究課題は新規性だけでなく、おもしろさや意義も考えて選びましょう。すなわち、その独自性に誇りを持ってとりくめる課題がすばらしいです。

教科書だけ見ていても興味を持てる研究課題が見つからない場合は、日常生活の中から探すのがよい方法です。日常生活で見たり利用したりしているものの中には、そのしくみやはたらきを知らないものが無数にあるはずです。大型スーパー・ホームセンター・家電店・ドラグストア・デパートなどに行って商品を見て回りましょう。また、博物館・動物園・植物園・水族館に行くのも刺激的です。野山や町中を歩くのもよい方法です。そこで目にするものを、「なぜ」、「どのようなしくみで」、「どのようにして作ったのか」、「どこから持ってきたのか」などの問い(疑問)を考えながら改めてよく観察すると、多くの研究課題が浮かんできます。ここで重要なことは、いくら興味ある課題であっても、問い(疑問)に答える方法(研究方法)を知らなければ研究することはできないことです。したがって、興味をもった複数の課題の中から、小学5年生から高校3年生までの理科教科書の実験・探究活動あるいは過去の生徒理科研究(チェック・参照必須情報*2)にある研究方法を用いて研究できる課題を探すと、研究方法のしっかりしたよい課題に行き当たるでしょう。

*2 チェック・参照必須情報 このシリーズ「生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照。

他者がどのような研究課題に取り組んでいるのかを知ることも、研究課題を決めるのに参考になります。自分の興味のある分野、あるいは得意な分野で、これまでにどのような生徒理科研究が行われて来たのかを、日本学生科学賞受賞論文(*3)を読み、調べましょう。具体的な研究課題の立て方や、研究方法が参考になります。この際忘れてはならないことは、過去の研究と同じ研究を行うのではなく、過去の研究とは異なる研究、新規性のある研究課題を考え出すことです。上の「教科書の中から探す」で述べた方法を参考に、新規性のある研究課題を定めます。

*3 日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社) https://event.yomiuri.co.jp/jssa/ 受賞論文のpdfファイルが「理科自由研究データベース」(御茶ノ水女子大学)http://sec-db.cf.ocha.ac.jp/ でweb公開されている。

部活などで先輩の先行研究を継承・発展させる場合や、他のグループによる先行研究がすでにある研究課題に取り組む場合は、先行研究をのりこえる「工夫」が必要です。この場合も、「より細かく緻密に調べる、より広い・異なる範囲を調べる、あるいは異なる材料・現象を研究対象にする」などして新しい特徴・傾向を見つけたり、「現象のことなる側面を調べる、別の実験方法・分析方法で調べる」などしてより深い解析を行ったり、「別の条件・違う環境」で行って他のこととの関係を研究したりすることにより、「新規性」のある研究を行うことができます。

こうしてあげた研究課題候補について、先に述べた「新規性」を改めて検討します。小学5年生から高校3年生までの全理科教科書や標準的な参考書にあたったり、チェック・参照必須情報である過去の生徒理科研究論文をチェックしたりして、①研究課題候補に関係する情報や研究にはどのようなものがあるのか、②何がわかっており、何がわかっていないのか、③研究課題候補がどの様な点で新規性があるのかを具体的に詳細に明らかにします。教科書・参考書・過去の生徒理科研究論文に有用な情報がない場合は、チェック・参照必須情報以外の入門書・専門書・論文等を参照しなければなりません。その場合は、その参照情報をもこえる新規性が必要になることを忘れてはいけません。こうした検討の結果、新規性が確認できれば、その候補は研究課題とすることができます。当初の研究課題候補と同様のものが教科書・参考書や、先行研究論文・その他参照情報にすでにある場合には、課題の変更が必要です。しかし、当初のアイディアと同じものがあるからと言ってそれを捨ててしまう必要はありません。むしろ上手に変更することにより、その先を行く研究になったり、より独創性の高い研究になったりすることがよくあります。チャンスだと思い徹底的に考えて工夫しましょう。

ここで各研究課題候補について、その研究課題あるいは関係する分野を研究する意義を2~3行で簡潔に明らかにしておきましょう。ここでいう意義とは、「生徒理科研究における学問的意義」や社会的意義(人間生活の向上、生命の尊重、自然環境の保護における意義)です(*4)。教科書・参考書や先行研究にあたり、関係する情報を詳細に把握した後では、その研究の意義を述べることは比較的容易でしょう。研究の意義に個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は含めません。

*4 研究の意義については、本シリーズ「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「6.研究の意義、研究結果の新規性の意義とは?」参照。

実感可能性のある研究課題をたてる

研究課題を定める上で次に重要なことは、「実感可能性」です。自分がその対象・現象を繰り返し観察・体験し十分味わうことができる課題、目の前になくてもありありとその現象・対象をおもい描くことができる課題を選ぶことです。「自分が興味を持ったことを研究しよう」とよく言われますが、ただ言葉を聞いてちょっと興味をもっただけのことを研究してはいけません。言葉でしか理解できないことを研究することは不可能です。興味を持って考え続けられること、実感をもってとらえられること、繰り返し観察・体験して味わうことのできることを課題とすべきです。そして、研究を始めたら(あるいは、研究計画を作るときは)、まず、問題の対象・現象を何回も体験・観察し、味わうことが大切です。頭の中だけで考えたり、字面だけ見て考えたりしてはいけません。注意深い体験・観察をくりかえすと、さまざまな「新規」のアイディアや問い(疑問)がわいて来るはずです。

高校レベルにふさわしい科学的研究方法を用いる

研究課題を定めるうえで第3に重要なことは研究方法です。論文発表・出版をめざす研究は、「すくなくとも高校で可能なレベルの科学的に信頼できる方法」で、「高校レベルにふさわしい徹底的な実験的追究が」がなされることが必要です(*5)。生徒理科研究発表会の発表の中には、研究課題は面白くても適切な科学的研究方法を用いていなかったり、徹底的な実験的追究に欠けていたりしているものが少数ながらあります。また、課題に対する理解が研究課題として取り上げられるレベルに至っていなかったり、科学研究で明らかにできる部分とできない部分が正しく切り分けられていなかったりするものもあります。研究課題の選定に際しては、研究課題候補について、まず小学5年生から高校3年生までの理科教科書や過去の生徒理科研究を調べて「高校レベルにふさわしい科学的研究方法や実験的追究方法」があるか否かを検討します。さらに一専門書や一般研究論文を調べたり、研究者(大学教員等)にたずねたりして、適切な研究方法や実験的追究方法を捜します(**5)。そのような方法が見つかれば研究することができます。しかし、見つからない場合、あるいは、新たに考案することができない場合には、その課題は研究課題にすることはできません。

*5 生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp/「論文査読規定」 参照)
**5 研究方法は具体的で正確でなくてはなりません。一般向け解説文を読むだけでは不十分で専門書や研究論文を読む必要があります。その多くは英語で書かれているので、研究指導者(教師)の役割が期待されます。また、いわゆる「~の簡易実験法」といわれる手抜き実験法の中には科学的根拠のあやしいものがあるので注意が必要です。

しかし、このことは高校のレベルを大きく超える高度な研究方法や高価な実験装置を用いた研究がよいといっているのではありません。小学5年生から高校3年生までの理科教科書や過去の生徒理科研究にある方法、あるいはそれを少し発展させた方法(*1)を駆使して、創造性ある、あるいは、鋭く切り込んだ研究を行うのがもっともよい方法です。大学レベルの本格的な研究方法はそれを専門とする大学に進学すればだれでも普通に経験することができるので、個人的に世界的レベルの一般研究に取り組んでいる特別な生徒以外は、高校生があえてチャレンジする必要はないでしょう。

時間と労力にあう研究課題をたてる

最後に重要なことは、「必要な時間と労力」です。「時間と労力」は、その研究を行うのに必要な日数・時間と人数です。研究は教科書実験のように手順に沿ってやれば一定時間後に必ずデータが得られるわけではありません。予定した通りに進まない、失敗してやり直しをする、様々な実験条件を試行錯誤して適切な条件を探し当てるなど、多くの時間と労力が必要です。研究をやり遂げるには、研究に必要な時間・労力と自分たちが準備できる時間・労力との間のマッチングが必要です。

一般に投入時間・労力の少ない研究はたいしたものにはなりません。データ量の多い通常の論文(full paper、図表7個以下)の発表を目標とするなら、分野や研究課題にもよりますが、研究計画の作成から論文発表・出版までの取り組みに2年間(1日2~3時間を140日)程度かけることが必要でしょう。データ量の少ない短報(short report、図表3個以下)ならその半分以下でも可能です。しかし、研究時間のあまりにも少ない(1日2~3時間を10日程度の)「研究」は研究というより実験・実習というべきでしょう。

自分たちが準備できる時間・労力はどれだけかを検討し、必要なら研究課題を縮小し、完結可能な研究課題にする必要があります。あるいは、取り組む生徒人数を増やしたり、先輩から後輩へと同一課題を引継いだりする必要があります。ただし、これには指導教師の強い情熱と指導力が必要です。この点で、部活で取り組む場合は研究時間・人数の点でも、先輩から後輩への引継ぎの点でも、指導教師の情熱の点でも、論文発表・出版をめざす研究が可能です。

実際には、いくつかの研究課題候補を挙げ、それらについて、「新規性」と「意義」、「研究方法のレベル」、「実感可能性」、「必要な時間と労力」を具体的に検討して最終的に2-3個の研究課題候補を定めます。

2.科学的論理に貫かれた研究計画をつくる

図3 研究計画の策定 問い・実験調査計画(方法)・予想される結果・予想される結論の間の論理的一貫性が重要である。

次は、各研究課題候補について、具体的で詳細な研究計画を立てます。研究計画には、①問い(疑問)の設定、②実験・調査計画(材料と方法)の作成、③予想される結果と結論の作成の3つが必要です。そしてこれら3つは科学的論理性に貫かれたもとのなっていなければなりません。互いに整合性のないバラバラなものであってはなりません。

問い(疑問)は短い文章で表されます。実験・調査計画(材料と方法)は、実験・調査の対象・材料、具体的な実験・調査手順、データの採り方、データの処理方法のことで、文章(および図)で表されます。科学研究ではこれを「材料と方法」と呼びます。すなわち「材料と方法」にもとづき実験・調査が行われます。実験・調査の結果は表・グラフ・写真・数式などと説明文章で表わされます。結論は実験・調査の「結果から論理的にいえること」で、短い文章で表されます。

「問い(疑問)」の設定、「実験・調査計画(材料と方法)」の作成、「予想される結果」や「予想される結論」の作成はどれかを先に行わねばならないということはありません。どれからはじめても結構です。とりあえず思い浮かんだアイディアからはじめて、行きつ戻りつ考えながら定めます。すなわち、実験・調査計画(方法)の策定に当たっては、最初に「問い(疑問)とそれに対する想定される答え(結論)」を考え、次にその答え(結論)を導くための「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考えても、あるいは逆に、最初に「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考え、それに合わせて、「問い(疑問)と想定される答え(結論)」を考えても構いません。重要なことは、①実験・調査結果から結論が論理的に導かれていることと、②結果から導かれる結論が問い(疑問)に対する答えとなっていることです。この2つの論理が通っていない場合、あるいは弱点がある場合は、「実験・調査計画(方法)と想定される結果」の変更・追加、あるいは、「問い(疑問)と想定される結論」の変更が必要です。

ここから分かることは、どんな「問い(疑問)」でも、それに答える(結論を出す)ことのできる「実験・調査計画(方法)と想定される結果」を考え出せない場合は、その「問い(疑問)」は現時点では研究することができないということです。すなわち、「問い(疑問)」は、その問いに答えることのできる「実験・調査計画(方法)と想定される結果」と同時に提起されてはじめて意味のある「問い(疑問)」となります。また逆に、あらゆる「実験・調査計画(方法)と想定される結果」はそれにより答えることのできる「問い(疑問)」と同時に提起されて初めて意味のある「実験・調査計画(方法)」となります。研究における新規のアイディアはこの「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)」の間の新しい関係づけの発見によるものが多くあります。自分の研究を深く考え続けていると、先行研究論文や他者の研究発表、あるいは日常生活で接する情報をヒントに、ある日突然、新しいアイディアが思い浮かぶことがあります。このアイディアは多くの場合、これまで気になっていた「問い(疑問)」に答えることのできる新しい「実験・調査計画(方法)」の発見であったり、おもしろいと感じていた「実験・調査計画(方法)」で答えることのできる新しい「問い(疑問)」の発見であったりします。

問い(疑問)の設定

「問い(疑問)」は研究計画に不可欠な重要構成要素です。教科書には「まず仮説を立てる」としていますが、これは不適切です(*6)。「仮説」でななく「問い(疑問)」が重要です。

ここでは、「問い(疑問)の設定」方法を考えます。代表的な「問い(疑問)」は、「~かもしれない・~ではないか・~に違いない?」というyes/no疑問です。「問い(疑問)」にはこの他に、「なぜ(why)?、どのようなしくみで(how)?、何が・何を(what)?、どのようなものが(what~)?、いつ(when)?、どの程度(how)?、どちらの(which)?、どこの(where)?」のWH疑問が含まれます。「問い(疑問)」はこれらの内、どれでも結構です。考えられる疑問をできるだけ多く出します。その中で最初にとりくむ疑問を選び、それに答えるための実験・調査計画(材料と方法)を作ります。この時「すでに先行研究がある場合はそれとは異なる新規性のある問い(疑問)が必要である」ことを忘れてはいけません。前に述べた「先行研究をのりこえる工夫」を参考に新規性のある問い(疑問)を考えましょう。

*6 本稿「論文発表をめざす生徒の理科研究法 第3章 研究計画作成法」の「仮説より問いが重要である」の節 参照。

「問い(疑問)」が思い浮かばない時は、課題とする対象・現象を自分の眼で繰り返し観察・体験するのがよい方法です。眼前になくてもありありとその現象・対象をおもい描くことができるようになるまで徹底的に観察・体験しましょう。観察しながら、「なぜ(why)?、どのようなしくみで(how)?」の問いを深く考えると、「ああではないか、こうかもしれない」といった、多くのアイディア(yes/no疑問)が湧いてくるはずです。また、すでに一定の事実が分かっているときには、より詳しくいうと、あるいは、より具体的にいうと何が・何を(what)?、どのような(what)ものが(を)?、いつ(when)?、どの程度の(how)?、どちらの(which)?、どこの(where)?など、多くの疑問がわいてくるはずです。こうして様々な異なる視点からできるだけ多くの問い(疑問)を出します。なお、WH疑問の内、「なぜ(why)?」と「どのようなしくみで(how)?」は新規の具体的なアイディアを考え出すのに役立つ特に重要な疑問で、研究の原動力となる疑問です。研究計画作成時だけでなく、研究実施中にも、結果をまとめるときにも繰り返し問いかけましょう。

「問い(疑問)」が思い浮かばない時の対策のもう一つは先行研究(論文)や専門書を参照することです。同じ課題、あるいは、類似の課題にとりくんだ他者がどのような「問い(疑問)」を提起して研究に取り組んだかを調べましょう。他者の問いを知ることは、これまでに何が分かっているのかを知る上でも、独自の問いを見つける上でも重要なことです。

なお、科学研究においては、「問い(疑問)~に答えること」あるいは「問い(疑問)~を明らかにすること」を研究目的と言います。したがって、「この研究の研究目的は何か」は、「この研究の問いは何か」と同じ意味です。言葉を替えれば、「この研究の研究目的」とは「この研究で明らかにしようとすること」ともいえます。「研究目的」は研究の学問的・社会的意義や応用目的のことではないので、誤解しないようにしましょう。

実験・調査計画の策定

つぎは具体的な「実験・調査計画(材料と方法)」と「想定される結果」と「結果から導かれる結論」の策定についてです。この時、1つの実験・調査計画で複数の問い(疑問)に答えようとしてはいけません。問い1つずつに対してそれぞれ「実験・調査計画」と「想定される結果」と「結果から導かれる結論」を作りましょう。

まず「実験・調査計画(方法)」です。前述の「研究課題の新規性」の検討で調べた教科書実験や先行研究・関連情報を参考に、「問い(疑問)」に答えることのできる「実験・調査計画(方法)」を考えます。科学にはそれぞれの分野に特有の実験・調査方法があります。これを教科書や先行研究・関連情報から探し出すことが重要です。安易に自己流になってはなりません。教科書にはほとんど書かれていない応用科学分野(医学、薬学、農学、環境科学、工学、生活科学、スポーツ科学など)の研究の場合もそれぞれの分野の先行研究や関連情報をしっかり調べます。基礎科学を中心に学んでいる生徒やそれを教えている教師には珍しいかもしれませんが、現実にはこれら応用分野には基礎科学分野とは比較にならないほど多くの研究論文や情報があります。「実験・調査計画(方法)」は最終的には徹底的に具体的・詳細に考えなければなりません。すぐには詳細を明確にできない部分がある場合は、どのような手順を踏めば明らかにできるのかを考えましょう。情報検索の具体的方法は生徒の理科研究所ホームページ「生徒理科研究のための論文検索法」
https://seitonorika.jp/jyohokensaku/ に詳しく述べています。

「想定される結果」は表・グラフ・写真・数式などと文章で表します。どのような表・グラフ・写真・数式等になる可能性があるのか、具体的な結果を想定します。そしてその結果が得られたとき何が言えるのか、この、「結果から論理的に導かれる(言える)こと」が「結論」です。この時、それぞれの実験・調査計画(方法)について必ず複数の異なる(対立する)結果を想定し、どの結果が得られれば何が言え、何が言えないのか、別の結果が得られれば、何が言え、何が言えないのかを明らかにし、複数の異なる(対立する)「結果」と「結論」を想定します。

問いと実験・調査計画と結論の論理性のチェック

調査計画(方法)の策定では、「問い(疑問)」と「実験・調査計画(方法)」と「予想される結果」と「予想される結論」とのあいだの論理性が重要です。詳しくは、まず、①予想される結果から導かれる結論の論理性が重要です。ほんとうに「結果から論理的にその結論が導かれるのか」をしっかりと考えなければなりません。すなわち、他の結果が得られた場合にはその結論は否定されるのか、あるいは、他の結果が得られた場合に結論はどのように変わるのかを考えます。他の結果が得られた場合にもそこから導かれる結論が変わらないというなら、その「結論」は「実験・調査計画(方法)と予想される結果」から「論理的に導かれる結論」ではないことになります。結果から論理的に結論を導くための科学的論理には多くのタイプがあります。次節からの数節で主要なものを説明しますが、詳しくは「生徒理科研究法のための科学的論理」
https://seitonorika.jp/ronbunhonbun/2020-7h/ に述べています。

研究計画の論理性のチェックのもう一つが、②結果から得ることのできる結論が問い(疑問)の答えになっているのかの検討です。答えになっておれば、その実験・調査計画は成り立ちます。しかし、答えになっていなければ、実験・調査計画あるいは問い(疑問)を適切なものに変更しなければなりません。

因果関係の実証(証明)に用いられる論理

科学研究にもちいられる論理には分野の特徴を反映して様々なものがあります(*7)。これを的確にとらえて正しく利用することは研究計画の作成や結果から正しく結論を導くときに重要です。ここでは、因果関係の解明にもちいられる主要な3つの論理、すなわち、因果関係を実証するための論理、帰納法(因果関係の推測や仮説の定立に用いられる論理)、理論研究分野の論理について紹介します。

*7 詳しくは本シリーズ(解説文)「生徒理科研究のための科学的論理」辻村秀信 https://seitonorika.jp/ronbunhonbun/2020-7h/ 参照。

まず、実験系に存在する2つの事物(AとB)間の因果関係を証明(実証)するための論理を考えます。たとえば「Bの生成にはAの存在が必要である」、あるいは、「AはBの生成にはたらいている」ことを実証しようとする場合には、次の2種類の実験が必要です(図4)。1つが除去実験、すなわち実験系からAを除去する操作によりBが無くなるあるいは減少することを示す実験、もう一つが付加実験、すなわちAの付加操作によりBが生じるあるいは促進することを示す実験です。この両方が示されてはじめて、「Bの生成にはAが必要である」、あるいは、「AはBの生成にはたらいている」といえます。この2つが示されない場合は因果関係を実証したとは言えません。この論理は系における因果関係の解明をめざす科学研究において最も重要なものです。

図4 因果関係の証明には付加実験と除去実験が必要である

具体例を述べましょう。いま畑でいんげん豆(植物)を栽培しているとします。このいんげん豆の成長の要因を研究します。そこで「植物の成長には肥料(チッソ、リン酸、カリ)が必要である」、あるいは、「肥料は植物の成長にはたらいている」という仮説の真偽を植木鉢栽培を実験系として調べます。まず、畑の土壌を入れた植木鉢に植物を植え、これに肥料を与える実験をします。これが付加実験です(図4)。肥料を与えない場合と比較して肥料を与えた場合に植物の成長が促進されるか否かを調べます。その結果、肥料を与えなくても植物は成長したが、肥料を与えた方がよく成長した場合、「肥料は植物の成長を促進する」ことが分かります。しかし、この実験からは「植物の成長に肥料が必要である」とは言えません。なぜなら、通常の土壌だけを用いた場合でも植物はある程度成長したからです。また、肥料を与えた場合と与えなかった場合でほとんど差なく植物が成長する場合もあるでしょう。この場合の結論は、「肥料は植物の成長を促進しない」となるでしょう。しかし、この結論には「土壌中にすでに肥料成分が十分含まれていたのではないか」という反論が可能です。結局、どちらの場合でも土壌だけで育つ植物の成長が肥料によるものか否かは明らかにできません。

この問題を解決して明確な結論を得るためには、土壌中から肥料成分を除く実験(除去実験)が必要です(図4)。そこで、畑の土壌ではなく、肥料成分をほとんど含まない土壌である「バーミキュライト」または「赤玉土」を入れた植木鉢を用いて植物を育てる実験をします。この実験でもし植物が成長した場合には、「肥料は植物の成長に必要ない」あるいは「肥料がなくても植物は成長する」が結論となります。しかし、もし植物が成長しなかった場合には、「植物の成長には肥料が必要である」あるいは「肥料は植物の成長を促進する」といえそうです。ところがこの場合にも反論が可能であり、通常の土壌には含まれるが「バーミキュライト」や「赤玉土」には含まれない肥料成分以外のもの(たとえば有機物)で植物の成長に必要なものが存在し、「バーミキュライト」や「赤玉土」ではそれが欠けているから植物が成長しないのではないか」という疑義です。そこで、必要になるのはバーミキュライトや赤玉土に肥料を加えた土壌をもちいて植物をそだてる実験(除去実験+付加実験)です(図4)。その結果、植物の成長が通常の土壌どおりに回復すれば、「植物の成長には肥料が必要である」、そして、「肥料は植物の成長を促進する」と間違いなくいえます。そして最後に、畑の土壌に実際、肥料成分が含まれているか否かを化学分析で調べます。その結果、適正濃度の肥料成分が検出されれば、畑の土だけで植物を育てた場合の植物の成長がこの肥料成分によるものであることが明らかになります。

以上のように、因果関係の完全な証明には除去実験と付加実験の両方が必要です。しかし、研究課題によっては(現在のところ)片方しか実験処理ができない場合もあります。また、最後の化学分析実験のように仮定した物質を実際に検出できる場合ばかりとは限りません。その時の「結論」は留保付きのものにならざるを得ません。

帰納法―因果関係の推測や仮説の定立に用いられる論理

一方、2つの事物間の因果関係の存在を推論する(仮説を立てる)、あるいは支持する(矛盾しないことを示す)ための論理はちがいます。代表的なものが帰納法です。いま、X条件ではBが生成する、Y条件ではBが生成する、しかしZ条件ではBが生成しなかった。ここで A について調べたところ、X 条件と Y 条件の時は Aが存在したが Z 条件の時には A が存在しなかった。このようなときに、「AがBの生成にはたらいているのではないか」、あるいは、「Bの生成にはAの存在が必要なのではないか」と推論する(仮説を立てる)論理を帰納法と呼びます。この推論は合理的です。なぜなら、先に上げたX条件、Y条件、Z条件の状態は、「AがBの生成にはたらいている」が正しいときに予想される状態と一致しており、この因果関係の存在を支持している(矛盾がない)からです。したがって、帰納法は因果関係の存在を推測して仮説を立てたり、既知の仮説を実験・調査で検証して支持したりする(矛盾がないことを示す)論理としては有力な方法です。調査研究ではこの論理に基づく考察がよく行われます。

図5 AとBとが一致して存在する場合の4つの可能性

しかしこの論理は、因果関係を実証(証明)する論理ではありません。なぜなら、先の実験結果は、X,Y,Zの3条件では、AとBが一緒に動いていることを示しているだけだからです。この場合のAとBの関係には4通りが考えられます(図5)。①AがBの生成にはたらく場合、②BがAの生成にはたらく場合、③AとBの両方の生成にはたらく別の因子Cが存在し、X条件やY条件ではCが生じ、Z条件ではCが生じない場合、④偶然AとBの動きが一致した場合です。これら4つのうち、④偶然の可能性は実験例数を増やせば減らすことができますが、残りの3つの可能性は減りません。したがって、AとBの動きに一致が見られても両者間にかならずしも因果関係があるとは言えないのです。

結論的には、帰納法は因果関係の存在を推測して仮説を立てたり、既知の仮説を検証して支持したりする(矛盾がないことを示す)のに用いることができるが、関係を実証する論理には用いることができません。

理論研究の論理

最後に理論研究の論理です。除去実験や付加実験で因果関係を証明することが困難な問題を扱う物理や地学、化学、生物の理論研究では、因果関係の実証ではなく、いくつかの現象をみてその背後に隠れる事物や因果関係を推測して新規の理論(仮説)を立てること自体を主要な研究目的としています。たとえばいま、B1、B2、B3という複数の現象が知られているとします。そこで、B1やB2、B3が生じる原因として、Aの存在と、AがBの生成にはたらくしくみ(因果関係)を説明する理論(多くの場合、数式で表される)とを仮説としてたてます。そして、どのような条件の時AがはたらきB1、B2、B3が生じるのかを理論計算、モデル実験、コンピュータシュミレーションなどを用いて理論的に説明するわけです。

理論研究の分野では理論(仮説)が正しいか否かを実験的に直接証明(実証)することはすぐにはできません。これが困難だから理論(仮説)として発表されるのです。その正しさは、さらに多くの現象(B4、B5)をその理論で説明(検証する、矛盾がないことを示す)したり、別の実験によりAの存在を直接証明したりすることで示されます。すなわち、もし理論(仮説)が正しければ、条件XではB4が生じるはずだと理論的に推論します。そして現実に条件XではB4が生じることを実験的に示すことによってです。あるいは、この理論が正しければ、AはYという性質をしめす事物であると理論的に推論し、実際Yという性質をしめす事物が存在することを実験的に証明することによってです。このような検証実験では、実験結果が理論(仮説)の予想に一致した場合、理論(仮説)を支持する(矛盾のない)新しい事例を見つけたことになり、理論(仮説)の正しさはより強固になります。しかし、理論(仮説)を証明したことにはなりません。一方、理論にもとづく予想が実験的に否定されれば、その時点でその理論(仮説)はそのままでは正しくないことになります。

このタイプの研究で代表的なものはメンデルの遺伝法則の研究です。グレゴール・ヨハン・メンデルはエンドウを用いた遺伝実験にもとづき仮想的な遺伝子を仮定し、この遺伝子がどのように子孫に伝わり生物の形質を決めるのかを説明する理論(仮説)を提案しました。この理論はその後の多くの実験的検証により一定の修正を受けながらもその正しさが示されてきました。そして今日ではメンデルが仮定した遺伝子が細胞の染色体に存在するDNAの塩基配列であることが実験的に証明され、この法則の正しさは確認されています。

対照実験・比較実験とデータ収集研究

 実験・調査計画の策定で重要なことは、適切な対照実験あるいは比較実験の設定です。ある一つの実験結果を得た時、その結果の評価にはもう一つ別の実験結果が必要です。両結果を比較することにより結果の評価が可能となるからです。比較すべきものがなければ、結果を得ても何も言えない、すなわち、結論を出せないことになります。

たとえば、再び、いんげん豆(植物)の成長に果たす肥料の役割を調べる実験を考えましょう。植木鉢に植えた植物に肥料を与えた時の植物の成長が、畑に育つ植物と同程度だったからといって肥料が成長に重要だとの結論は出せません。肥料を与えなくてもポットに入れた土だけで十分に植物が育つ可能性があるからです。すなわち、肥料を与えて育てた植物と肥料を与えずに育てた植物の成長を比較して、肥料を与えた植物が肥料を与えなかった植物よりもよく成長してはじめて肥料には植物の成長促進効果があるといえるからです。さらに厳密にみると、肥料を水に溶いて通常の水やりとは別に与えた場合には、通常の水やりの他に肥料を溶かすのに用いた水と同量の水を与えた植物との比較が重要です。なぜなら、水を余分に与えるだけでも植物の成長に影響が出る可能性があるからです。このように研究対象に対するある実験処理・環境変化の影響を調べるときには、目的とする実験処理・環境変化の効果を論理的に特定できるようにするための別の処理・変化の実験(多くの場合、無処理・無変化)を同時に行います。そして、両者の結果を比較することにより結果の適切な評価、すなわち結論が可能となります。このような実験を対照実験といいます。実験計画を立てるときにはどのような対照実験を行うと確実な結論を得ることができるのかをよく考えなければなりません。また、対照実験はかならずしも1つとは限りません。得ようとする結論が異なれば、それに必要な対照実験が異なることがあるからです。

実験計画の策定でもう一つ重要な実験が比較実験です。たとえば上と同じ実験で、ある量の肥料を与えて植物が良好に育ったからといって、その量が植物の成長に適切な肥料量だとは言えません。別の量を与えた時の方がよく育つ場合があるからです。すなわち、さまざまな量の肥料を与える実験を行い、結果を比較してはじめて適切な肥料量は明らかになります。このように実験処理・環境変化の量や質を様々に変えて実験を行い、その結果を比較することによりはじめて結果の正しい評価・結論が可能となる場合があります。このような実験を比較実験といいます。この場合も、実験・調査計画の策定時にどのような比較実験を設定すると何を明らかにできるのかをよく考えなければなりません。

他方、実験・調査研究の中には、適切な対照実験や比較実験を設定することができないものがあります。たとえば、地域環境の調査研究の場合、この調査により近年の環境変化を明らかにしようとするなら、今年の環境調査結果だけでは変化は明らかにできません。過去に行われた同様の環境調査結果があってはじめて変化を明らかにできます。また、同様の調査が他地域で行われておれば、その結果との比較で自分の地域の特徴を明らかにすることができます。したがって、調査計画の策定段階に結果を何と比較して何を明らかにしようとするのかをあらかじめ明確にしておかねばなりません。比較すべきもののない調査からは何も明らかにすることができないからです。

また、理論値との比較により結果を評価する(結論を得る)実験・調査研究もあります。たとえば、ある遺伝子の遺伝様式がメンデル遺伝の分離法則にあっているか否かといった研究です。この場合には、理論的に予測される結果と実験・調査結果との比較により、結果を評価することになります。したがって、このような実験・調査の場合には、実験・調査計画の策定時に結果をどの理論をもちいてどのような方法で比較評価するのかをあきらかにしておかねばなりません。理論の検証実験や、実験データに合致する理論の模索研究などもこの類の研究となります。

さらに、比較すべき先行研究もないし、特定の理論的予測や仮説もない、あるいは前提としない、とりあえず基礎データを集めて記載しようという研究があります。類例のない新しい問題や対象に取り組む場合の最初の調査研究によくみられます。このよう研究では一般的な問題意識があるだけで明確な問いがないので結論はありません。新規の結果(データ)があるだけです。このような研究は多くの場合、問いや仮説のある通常の研究がこの後につづくので仮説生成型研究とよばれることがあります。たとえば、生物ゲノムの全塩基配列をあきらかにするゲノム研究計画、脳の全神経回路を明らかする脳研究計画、身体状態を知るための全血液成分研究などです。また、全国・全世界の地質調査、定期的に行われる植生調査・水質調査、恒常的に行われている河川や湖沼の流量・水量調査、気象観測、天体観測などです。近年のビッグデータもこれに含まれるでしょう。

仮説より問いが重要である

「問い(疑問)に対する答え(結論)はこれではないか」、または、「たとえばこれ、あるいは、あれかもしれない」として挙げる予想される結論を「~である」のように断定型で述べた文(命題)を「仮説」といいます。一部の教科書では、予想される実験・調査結果のことを仮説としていますが、これは間違いです。仮説は問い(疑問)にたいする予想される答え(結論)のことを言います。

先にも述べましたが(*8)、「仮説」を特定の既知情報から予想される特定のものだけに絞ろうとしてはいけません。むしろ、「これかもしれないし、あれかもしれない」と複数の異なる(対立する)「仮説」、あるいは新規の「仮説」を考え出す発想の自由さにこそ創造性は宿ります。

*8 本稿「論文発表をめざす生徒の理科研究法 第3章 研究計画作成法」の「問い(疑問)の設定」の節

さらに、教科書では研究課題につづいて仮説を設定するとしていますが、これは不適切です。必要なのは、問い(疑問)を設定することです。なぜなら、仮説ではYes/No質問しか問い(疑問)として設定できず、上述の多様な研究スタイルや論理に対応することができなかったり、研究によっては論理の自然な流れを妨げたりするからです。しかし、問い(疑問)とすれば、Yes/No質問以外にも、より広くWH質問を問い(疑問)として設定することができ、自由な研究が可能となります。また、明確な問いや仮説を持たないデータ収集研究(*9)にも対応することができます。

*9 論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画作成法 「対照実験・比較実験・データ収集研究」の節参照。

なお、「研究課題につづいて仮説を設定するとするのは不適切」とは、仮説を設定すべきでないと言っているわけではありません。問いとして、Yes/No質問を設定すれば仮説を設定することになります。また研究の中には、理論(仮説)の検証(支持)を目的とする研究があります。このような研究では「問い」が既知仮説に対する支持/不支持を問うものなので仮説を述べるのは当然です。しかし、このような研究は一部にすぎません。研究にはさまざまなタイプのものが存在します。したがって、一般的な研究方法論としては「研究課題につづいて仮説を設定する」とするのは不適切で、「研究課題に続いて問いを設定する」とすべきです。

多数の問いと実験・調査計画を立てて深く研究する

一つの「研究課題」の下にさまざまな複数の「問い(疑問)」を提起し、それぞれの「問い(疑問)」に対応する「実験・調査計画(方法)」を作ることを常に考えましょう。それには、「なぜ(why)」疑問と「どのようなしくみで(how)」疑問とが役立ちます。研究が発展するにつれて「問い(疑問)」も増え、それに対応した「実験・調査計画(方法)」も増え、実験・調査結果に基づく「結論」も増えることになります。特に、ある方法を用いて実験を行い明瞭な結果と答えが得られた場合はチャンス(幸運)です。明瞭な答えの得られる実験方法は多くはないからです。この時は、同じ方法を用いて可能なさまざまな実験(または問い)を考え、問題としている対象・現象を徹底的に深く明らかにしましょう。この徹底性が、他者の追随をゆるさない研究をすすめるためのコツです。

こうして研究計画の作成が終われば、各研究課題候補のおもしろさや発展性が理解できるようになり、どれを選ぶのかは自然と決まるでしょう。研究計画の作成は「創造」の過程そのもので、重要な研究過程です。よく考えながら、あるいは様々な人と議論しながらアイディアを膨らませ、わくわくして実験に取り組めるような計画を立てましょう。

繰り返しになりますが、研究計画を立てる時、さまざまな先行研究や、専門書、ネット情報等を参考にすれば、より深い知識をもとに研究計画を立てることができます。しかし、その時には、参考にした情報を超える新規性が研究に必要となることを忘れてはいけません。専門書にすでに書かれていることをただ再現する、あるいは、確かめるだけの実験は研究とはいえません。

3.実験・調査結果の再現性と統計処理

実験・調査結果の再現性

実験・調査には再現性が必要です。再現性が低い結果は信用できません。実験・調査ではまず再現性をチェックします。最低3回は同じ実験を行い、再現性をチェックしましょう。調査研究の場合でも同じ対象を調査したときに同じ結果が得られるか否かをチェックしましょう。再現性が低い、あるいは、ない場合は、まず再現性の出る実験調査条件・方法を考えましょう。様々な方法・条件を試し、再現性が確保されるようになってから、正式のデータを採るための実験を行います。

必要な実験例数

計測値を比較するような実験では、最低5例、できたら10例の計測値を得る必要があります。(脊椎動物をもちいて行う実験で、実験によりその動物を殺さざるを得ない場合には、最低例数で行います)。同一グループ内の計測値のバラつきが少なく、比較するグループ間の計測値に明らかな差がある場合は、この例数で計測値を比較できます。しかし、同一グループ内の計測値のバラつきが大きい場合、あるいは、比較するグループ間の計測値に大きな差がないは場合には、正確な比較には20例あるいはそれ以上の計測値が必要です。例数の最終的な決定は次段落で述べる統計処理により決めます。

統計的検定

実験・調査結果として数値を得て、その平均値や出現頻度、分離比率、バラつきの程度などを比較して、差の有無、増減、変化傾向、分散などを議論するときには、実験結果の統計処理(検定)が必要です。特に生物分野ではこれがなければ何もいうことができません。平均値の有意差検定、発生頻度(個体数)の有意差検定、分離比率(合計が1となるもの)の有意差検定、分散分析などがよく使われます。残念ながら高校では習わないかもしれません。指導教師または大学教員にお聞きください。「生物統計学」の教科書をあたれば勉強できます。また、変化傾向の分析には、回帰直線、相関係数などを用いる必要があります。理屈は難しいですが、計算は専用ソフトがあるので簡単です。指導教師には、統計処理方法を修得してほしいと思います。わからなければ、関連分野の大学教員にたずねるのがよい方法です。実際的なマニュアルとして以下の書籍とホームページを紹介します。

⓪今日から使える統計解析 大村平 講談社ブルーバックス 統計解析の入門書
①Rで学ぶ統計学入門 嶋田正和・阿部真人 東京化学同人 統計学の基礎と無料統計ソフトRの使い方
②Rによるノンパラメトリック検定 内田治 オーム社
③すぐわかる統計処理の選び方 石村貞夫・石村光資郎 東京図書
④統計的推定・検定の手法別解説 統計分析研究所 ㈱アイスタット https://istat.co.jp/sk_commentary
⑤統計分析手法の解説 検定の種類と選択方法 統計学活用支援サイト ㈱データサイエンス研究所 https://www.statweb.jp/method

測定値が予想と異なり中間的であったり、バラつきが大きかったりする時、統計的仮説検定では「有意差なし」となる場合があります。この「有意差なし」の正確な意味は「このデータで有意差ありということはできない、あるいは、このデータは有意差がなくても説明できる」です。「有意差なし」の結果を「有意差がないことが証明された(分かった)」ととると間違いです。調査例数を増やすと有意差ありとなる場合や、実験条件をすこし変える(整理する)と有意差ありとなる場合がしばしばあるからです。

4.研究計画をパワーポイントに入れて発表会を行う

研究計画の文書化

研究計画作成の最後の段階は、作成した研究計画をPowerPoint(マイクロソフト)に入れて、文書(研究計画書)化することです。文章は箇条書きとします。研究計画の発表会を行うのもよいでしょう。

研究計画書は次の手順で作成します。各ページの内容の詳細は、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」参照。

①表題ページ(1ページ) 研究課題と、生徒名、生徒の所属先、指導教師名、指導教師の所属先、所属先住所、連絡先(メールアドレス)をかきます。

連絡先(メールアドレス)は、指導教師のメールアドレスです。発表会後に発表内容についての質問等を受け付けたり議論をしたりするために書きます。学校等で研究(仕事)に使うメールアドレスを書き、私的なアドレスは書きません。

②研究目的ページ(1ページ) 研究目的を書きます。科学研究でいう「研究目的」とは、「問い(疑問)を明らかにすること」です。したがって、研究目的には「問い(疑問)~を明らかにすること」(1~2行)と書きます。しかし、もう少し説明を増やして、「実験・調査計画(材料と方法)~で問い(疑問)~を明らかにすること」(2~4行程度)を「研究目的」とする場合が一般的です。なお、研究目的とは研究の応用目的のことではありません。

一つの研究課題のもとに複数の実験・調査計画がある場合は、全体をまとめる「研究目的」(1~2行)を書き、その下に各実験・調査計画に対応する「研究目的」を箇条書き(各1~3行程度)で書きます。

③実験・調査計画(材料と方法)ページ(1~4ページ) まず、実験ノート、またはWord(マイクロソフト)ファイルに、実験・調査計画(材料と方法)を具体的・詳細に模式図と文章で書きます。実験材料(現象)、実験系(調査地)、実験・調査の流れ、実験装置、装置の操作手順、測定方法の原理、薬品、実験処理手順、データのとり方、統計処理・仮説検定法等を書きます。詳細な実験処理手順、装置の操作手順などはWord(マイクロソフト)ファイルに書き、実験手順書(プロトコール)とします。

PowerPoint(1~4ページ)には、研究計画発表会での実験・調査計画の説明に必要な重要事項だけを模式図と短い文章で書きます。また、一般(聴衆)によく知られていない実験・測定方法はその原理を模式図と短い文章で説明します。模式図や流れ図等は本シリーズ「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します。

独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図)は結果ページに書きます。

遺伝子組み換え実験、動物実験、あるいは人を対象とする研究を含む場合は、遺伝子組換え生物等規制法、動物実験等の実施に関するガイドライン、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、個人情報保護法を遵守する必要があります。このページにそのことを1~2行で述べます。

なお、複数の実験・調査を行うときは、各実験・調査ごとに、「②問い、③実験・調査計画、④想定結果と想定結論」をセットで1~2ページに書き、これを繰り返します。

④想定結果と想定結論ページ(1~4ページ) 実験・調査計画の想定結果と想定結論を書きます。「想定結果」としては、実験・調査から想定される結果を写真(この段階では手書きの模式図)、表、グラフと短い文章で表します。論文発表時に必要となる(と考えられる)写真、表、グラフ等はすべて書きます。必ず、1つの実験・調査に複数の異なる(対立する)結果を想定します。

グラフ・表・写真・模式図は、本シリーズ「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「5.図・表の作成法」にもとづいて作成します。グラフと表はExcel(マイクロソフト)を用いて作ります。模式図はPowerPointを用いて作ります。写真(Jpegファイル)はPhotoshop(Adobe)(または無料画像処理ソフトGIMP)をもちいて必要な部分だけを切り抜いて用います。最後にこれらグラフ、表、模式図、写真をPowerPointに貼り付け、矢印や記号をつけて図とします。

前述の通り、独自の材料や実験系(実験装置)の提案・考案を目的とする研究の場合には、そのアイディアの詳しい内容(写真・模式図・設計図・作製方法)はこの結果ページに書きます。

また、物理学等で一定の理論計算を行い、実験結果による検証を行うときには理論計算や検証は結果ページに書きます。

想定結論」としては、ある結果が得られれば論理的には何が言え、何が言えないのか、別の結果が得られれば何が言え、何が言えないのかという、結果から論理的に導かれる「想定結論」を文章で表します。異なる想定結果毎に異なる想定結論を書くことが重要です。このとき「想定結論」は、研究目的にあげた「問い(疑問)」に対する想定される「答え」となっていなければなりません。

前述のとおり、複数の実験・調査を行うときは、各実験・調査ごとに、「②問い、③実験・調査計画、④想定結果と想定結論」をセット(各実験・調査に1~2ページ)で書き、これを繰り返します。

⑤想定考察ページ(1ページ) 「想定結果・結論のまとめ」と「想定新規性の学問的意義」について書きます。「想定結果・結論のまとめ」としては、この研究で想定される結果と結論を短くまとめます。「想定新規性の学問的意義」としては、想定される結果・結論のどの点に新規性があるのかを説明し、その学問的意義、すなわちその結果・結論から導かれる(推測される)新しい考え方等についての著者の考え(議論)を書きます(*10)。また、社会的意義があればそれも書きます。

*10 学問的意義と社会的意義の詳しい説明は、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第5章 ポスターと投稿論文の作成法」の「6.研究の「意義」、研究結果の新規性の「意義」とは?」および「7.考察」には何を書けばよいのか? 」の節を参照。

複数の実験・調査計画を含む場合は、想定考察(総合)ページとし、各実験・調査計画について「想定される結果と結論」を箇条書きして研究全体で何が明らかになるのかを書きます。つづいて、その新規性は何か、およびその意義を書きます。

⑥「はじめに」ページ(1~2ページ) この研究を行う理由(研究理由)と研究目的と新規性のレベルとを書きます。「研究理由」としては、まず、論文の導入文を1~4行で書きます。いきなり課題を提起したり、対象とする現象を模式図入りで紹介したりします。つづいて、先行研究と関連情報にもとづきこの研究課題についてこれまでに何がわかっており、何が分っていないのかを数行~10行程度で書きます。「何がわかっていないのか」は、次に述べる研究目的の新規性が分かるような内容でなければなりません。個人的な思いや関心などいわゆる「個人的動機」は書きません。

研究目的」としては、先に書いた②研究目的にもとづき、実験・調査方法の概略とこの研究で明らかにしようとする問い(疑問)、すなわち、この研究ではどのような方法で何を新しく明らかにするのかを短く書きます。

最後に、この研究の新規性のレベル、すなわち、どのような範囲を調べたところ新規なのかを1~2行で述べます(*11)。

*11 論文発表に必要な新規性の詳細については、「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」参照

PowerPointとは別に、実験ノートまたはWord(マイクロソフト)ファイルに、先行研究と関連情報の引用元、重要な内容とそれに対する自分の評価(何が書かれていて何が書かれていないのか、疑問点など)を詳細に書き、自分の記録とします。

生徒理科研究発表会では「はじめに」に「仮説」を書いているものをよく見かけますが、これは不適切です。「はじめに」には「問い(疑問)」を書きます(*12)。

*12 「論文発表をめざす生徒理科研究法 第3章 研究計画の作成法」の「仮説より問いが重要である」参照。

最後に、スライドの順序を変えて①⑥②③④⑤とします。

研究計画が出来上がると、再度、研究計画の科学的論理性のチェックを行います。研究計画全体を見て、「研究課題」「はじめに(研究を行う理由)」「研究目的」「研究・調査計画」「想定される結果」「想定される結論」「想定される考察」が一貫した科学的論理で貫かれているか否かを検討します。問題があれば、直します。これで、一応の研究計画は完成です。

研究計画発表会

研究計画の発表会を行いましょう。PowerPointをもちいて口頭発表します。スライドの構成は研究計画書と同じで、「①表題」、「⑥はじめに」、「②研究目的」、「③実験・調査計画(材料と方法)」、「④想定結果と想定結論」、「⑤想定考察」です。

報告会用PowerPoint作成で重要なことは、字の大きさと字体、線の太さ、図の大きさです。スライドのサイズを標準(4:3)(幅25.4cm、高さ19.05cm)と設定したとき、原則として説明文の字の大きさは最小で24ポイント、最大で48ポイント(表題など)です。字体はゴシック体太字。模式図の線は十分に太いものとします。細くては見えません。図は、スライド内に無駄な白地が広くならないように配置します。

スライド毎に話すことを文章で書きます。各文は口語の短文とします。最終的には話す内容は覚えてしまい、発表時には図の関係するところをポインターで指しながら自然に話せるようにします。

発表は長くても12分間程度におさめ、質疑応答時間を十分にとって他者の意見を聞きます。発表会の目的は、スライドの間違い、研究計画の修正・追加すべき箇所、より詳しく勉強すべき箇所、より丁寧に説明すべき箇所等を見つけることです。発表会で話すだけでも問題点に気付きます。発表会後は、発表中に気が付いたことや他者の質問や意見をもとにスライド内容や話す内容を改善します。

発表会の準備でもう一つ重要なことは聴く人の知識レベルを想定して発表内容や方法を準備することです。専門の大学教員や高校教師に話す場合、同学年の他生徒や専門外の教師に話す場合など、聞く人が違えば話し方が変わります。専門知識のある聞き手には専門用語をもちいて伝えると、多くの情報を正確に伝えることができます。しかし、専門知識のない人には、専門用語が多いと話が伝わりません。一般的には難しい内容を易しい言葉をもちいて正確に深い内容を伝える発表がすぐれた発表です。

5.よくある質問と答え

①一部の高校を除き、多くの学校には(高価な)分析機器や実験装置がないが、その時にはどのようにすればよいか。

(答え)大学とは異なり高校・中学は教育機関であり、高価な分析機器や装置がないのが普通です。しかし、研究の中で、どうしても一定の分析装置や設備が必要になることがあります。そのときには、2つの方法しかありません。1つは、そのような設備をもっている大学や研究機関に依頼して実験をしてもらう、もう1つは、専門の会社等に依頼して分析等をしてもらうことです。大学の主要な任務は研究と大学教育と思われがちですが、実は社会貢献ももう一つの重要な任務です。実際、多くの大学の理念を調べるとほとんど(たぶん、すべて)の大学が社会貢献を挙げています。生徒理科研究支援はこの社会貢献の重要な内容です。コネや有力な紹介者の有無は関係ありません。最寄りの大学に問い合わせてみてください。快く対応してくれる大学は多くあると思います。国公立・私立を問わずにです。専門の会社等に料金を払って分析等を依頼する場合は、ホームページ等からさがすとよいでしょう。論文には、「材料と方法」に方法とともに依頼先を必ず記載します。無料でお願いした場合はさらに「謝辞」に書きます。有料で依頼した場合は「謝辞」に書く必要はありません。

さらに別の考え方も可能でしょう。研究計画を変更し、理科教育系の雑誌やこれまでの生徒理科研究の報告書、あるいはインターネット等で紹介されている情報をもとに簡易型装置を手作りすることから研究をはじめることです。手作りすると、装置の性能はいまいちかもしれませんが、研究目的に必要な精度があれば、研究の結論にあやまりは出ません。自分で装置をつくると、研究は格段に自由になるし原理も理解でます。この場合は、装置作製のための情報源は必ず論文に引用し、さらに自分で工夫した部分がある場合は、論文にそのことを書きます。これまでに発表のないはじめての簡易型装置の場合は、その作製自体が論文になるかもしれません。

②研究課題を選ぶときに「実感可能性」が重要で、対象・現象を繰り返し観察・体験し十分味わうことができる課題を選ぶべきだとしているが、大学教員等の研究者には、目の前には見ることのできない極小の現象や瞬時に起こる変化などを研究している人もいる。これをどのように考えるのか。

(答え)確かに大学教員等研究者の中には、目で見ることのできない極小の世界や、広大な宇宙空間の世界、あるいは、瞬時に起こる現象や数百万年から数億年かけておこる現象を研究している人がいます。研究者は、極小あるいは巨大な対象をあたかも目の前に見える数十センチの玩具のようにとらえたり、瞬時に起こる現象や逆に長時間かけて起こる現象をあたかも数分間で起こる現象のようにとらえて、考えたり議論したりします。また、文章と数式だけで書かれた論文を読んで、あたかも目の前にものが見えるかのように模式図に表したり、それを利用して議論したり考えたりします。そして、研究で明らかにしたことも、多くの場合、模式図で表して説明します。これは、研究者が毎日の研究活動の中で現実には見えない抽象的なものをあたかも目の前で見えるかのようにとらえて話したり考えたりする能力を訓練し獲得しているからです。

実は、この抽象的なものをあたかも目の前に見えるかのようにとらえて考える能力は研究者の研究能力あるいは創造性と深く関係する能力です。生徒研究発表会でも、初めて話すのにあたかも前からその研究を知っていたかのように質問したり議論したりする大学教員の姿を見かけたことがあると思いますが、それはこの能力によるものです。

この能力は研究一般に必要とされる能力で、これができない人はすぐれた研究者になることはできません。たとえ目の前に現実にあるものであっても、それをことばと模式図をもちいて概念的にとらえ、その構造やはたらきについて考えたり議論したりする能力が研究には必要です。高校生には研究に取り組む中でこの能力を磨いてほしいと思いますが、それには、まず目の前にあるもの・現象を頭の中でありありと思い描くことができるようになることが必要です。

この文章は、生徒の理科研究所ホームページ(https://seitonorika.jp)の「生徒理科研究法」から作成したものです。(2020年5月18日)
Ver.2: 2020年7月6日. Ver.3: 2021年3月22日. Ver.4: 2021年5月12日