♦Google検索 ♦GoogleScholar検索 ♦J-STAGE ♦日本学生科学賞受賞論文 ♦理科研究論文集 ♦科学の芽賞受賞論文 ♦算数・数学の自由研究受賞論文 ♦統計データ分析コンペティッション受賞論文 ♦生徒の理科 ♦未来の科学者との対話 ♦全国学芸サイエンスコンクール金賞作品集 ♦論文のPdfファイルを取り寄せる ♦論文のコピーと著作権
生徒理科研究において情報検索は重要である。情報検索は新規性の検討や、研究課題の設定、実験・調査方法の検討、関連情報の入手に必須である。大学以上の一般研究では先行研究や関連情報の検索方法は各分野ごとに定番の方法が確立している。しかし生徒理科研究においてはいまだ確立していない。生徒理科研究では論文発表に必要とされる新規性のレベルが一般研究とは異なる(*1)。ここから生徒理科研究に参照すべき先行研究や関連情報の範囲は一般研究とは異なる。そこで、ここでは生徒理科研究に必要な情報検索法を説明する。すなわち、一般web情報の検索、学術論文の検索、「生徒の理科」チェック・参照必須文献の検索(*1)、主要な理科教育論文誌(日本語)論文の検索を説明する。また、こうして得た情報に基づいて論文のPdfファイルを入手する方法を述べる。最後に、論文ファイルのダウンロードやコピーは適切な方法で使用するなら著作権法上、問題はない。
*1 「生徒理科研究法 第2章生徒理科研究には新規性が必要である」参照。
Google検索(グーグル合同会社)
web情報の最も包括的で強力な検索エンジン。世界中で発行された学術論文が検索できる。学術論文だけでなく、ホームページ、ブログなど、非常に多くの情報を検索できる。さらにwebページに貼られたPdfファイルの内容も検索できる。しかし、web上に公開されていない情報は検索できない。また、Googleの検索エンジンが入れないページはたとえweb上にあっても検索できない。たとえば、日本学生科学賞受賞論文は検索できない。検索手順は以下の通り。
①「Google」のページを開く。
②検索欄にキーワードを入れる。リターンキーを押す。
*スペースで区切りながら複数のキーワードを入れるとand検索(優先)となり、複数のキーワードに関係する情報が得られる。Google検索は、複数のキーワードを入れた時は ”and検索優先” であるが一部のキーワードを欠いた情報も表示する。検索においては、表示される情報数と情報密度(関係の強さ)とのバランスが大切である。キーワードが少ないと多くの情報が表示されるのでそこからさらに自分で目的の情報を絞り込まなけらばならない。一方、キーワードが多いと提示される情報量は少ないので有用な情報を取り逃がす可能性が高まる。表示順序は関係がより強いあるいは一般の関心が高い(と検索エンジンが見なす)情報から表示される。すくなくとも最初から100個程度の情報はかならずチェックすることが重要である。
*Google検索は、複数単語からなる複合語は分解して複数のキーワードとして解釈する。たとえば、「種子発生」と入れると「種子」と「発生」の2語と解釈して検索する。これを許さず「種子発生」として検索するには「”種子発生"」と「"」(半角)で囲うとよい。
*タイトルの分かっている論文のPdfファイルを取得するときは、タイトルをそのまま検索欄にいれると効果的に表示される。
③検索結果のリストから関係する(可能性のある)情報を選び、クリックしてよりくわしく情報を見て必要な情報を探す。
④関係する(可能性のある)論文・情報のPdfファイルがあればダウンロードする。Pdfファイルがない場合は、表示ページをコピーしてwordファイルに張り付けてファイルを作る。
⑤関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑥論文・記事のタイトル、著者名、論文誌名と発行年号巻ページを記録する。web上の記事であれば、著者名、所属名、webページアドレス(Url)を記録する。
Google Scholar検索(グーグル合同会社)
googleが提供するもう一つの検索サイトである。google検索とは異なり学術論文・報告にしぼって検索できる。web上にある全世界の論文誌(出版社・学会・大学・研究機関が発行)の学術論文を検索できる。学術論文・報告だけが表示されるので便利に使える。しかし、googleと提携していないサイトの報告・論文・解説文は出ない、正式の学術論文・報告以外(とgoogleがみなすもの)は出ないなどの特徴があるので注意が必要である。たとえば、生徒理科研究報告書や一般web情報は検索できない。使い方は google検索とほぼ同じである。
J-STAGE(科学技術振興機構)
日本で発行される学術論文のデータベースで日本語で発行される論文で最近のものはほぼすべて掲載されている。しかし、J-STAGEに登録されていない紙誌にのった記事は検索できない。J-STAGEに登録していてもかなり前に出版された論文は検索できない。日本人が書いた論文であっても外国の論文誌(国際誌)に掲載された論文は検索できない。(自然科学分野では日本人の書いた論文の多くが外国論文誌に出版される。)いうまでもなく、外国人が書いて外国論文誌に掲載された論文は検索できない。したがって、J-STAGE検索で出ないからといって関係する先行研究がないとは判断できない。しかし、日本の理科教育関係の論文誌、すなわち、化学と教育、理科教育研究、科学教育研究、生物教育、物理教育、地学教育、生物の科学「遺伝」などの論文誌にのった論文は最近のものはほとんど検索できる。ただし論文誌によって何年以降のものが検索できるかは異なる。
①「J-STAGE」トップページを出す。「J-STAGE上の記事を検索」欄にキーワードを入れリターンキーを押す。論文リストが表示される。
*スペースで区切りながらキーワードを複数入れるとand検索となり、すべてのキーワードを含む論文が表示される。数十の論文が出てもくじけずに1つずつていねいに調べることが重要である。
*「教育」をキーワードに加えると理科教育関係の論文が出る。
*「詳細検索」ページを使うと「分野」「発行年」「掲載雑誌」などをしぼって検索できる。
②表示される論文リストの中から関係ある(可能性のある)論文タイトルをクリックし、抄録を表示させる。抄録内容から関係ある論文を選択する。
③「Pdfをダウンロードする」をクリックし、論文ファイルをダウンロードする。
*無料公開の論文はそのままダウンロードできる。有料の場合は、支払いを求められる。
*有料の場合でも、著者にメールを送り、pdfファイルと送ってくれるように頼むと無料で送ってもらえる場合がある。
④関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑤記事・論文のタイトル、著者名、論文誌名と発行年号巻ページを記録する。
日本学生科学賞受賞論文(読売新聞社)
「理科自由研究データベース」から見る
日本で最も歴史と権威のある生徒科学研究の論文コンクールである日本学生科学賞の受賞論文は「理科自由研究データベース」(御茶ノ水大学)から検索する。Google検索やJ-Stage検索ではかからない論文情報が得られる。手順は以下の通りである。
①「理科自由研究データベースページ」を出す。(時に別ページにつながり、「中学生、高校生、教員、一般のみなさんへ」の選択を求めてくる場合がある。)
②コンクール名欄で「日本学生科学賞」を選択する。
③全文検索欄にキーワードを入れる。キーワードを1個または複数入れる。and検索ボタンが押されているのを確認する。学年検索、単元はそのまま。コンクール年度はそのまま、または、必要に応じて入れる。
*特定の年度のすべての論文を見たいときは、年度だけを入れ、キーワードはいれない。
④サーチボタンを押す。
*情報を採り逃さないためには、キーワードを多く入れすぎないことが重要である。多いと検索にかからずとり逃がす可能性が高まる。20~30個の検索結果が出てもくじけずに1つずつ詳しく調べる。少なすぎてとり洩らすよりましである。
⑤検索結果の表から、関係する(可能性のある)タイトルについて、1つずつ「詳細」ボタンを押して内容を検討する。タイトル、著者名、受賞名、登録日などの情報がでる。
⑥「PDF」をクリックして、関係する(可能性のある)論文ファイルをダウンロードする。
⑦関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑧論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
理科研究論文集(静岡県理科教育協議会)
静岡県の小学・中学・高校生の受賞・入選した理科研究論文を掲載している。平成15年から現在までに日本学生科学賞・鈴木梅太郎賞・山﨑賞などを受賞・入選した多数の論文を掲載。Pdfファイルでみることができる。
①「理科研究論文集」ページを出す。
②「校種で探す」の「高等学校」または「中学校」を押す(必要なら小学校をおす)。論文一覧がでる。
*キーワード検索するときはファンクションキーF3を押してsearch枠を出し、キーワードを入れる。そのページにあるキーワードがマークされる。
③論文題名をみながら関係する(可能性のある)論文題名をクリックし、論文ファイルをダウンロードする。
④関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑤論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
科学の芽賞受賞論文(筑波大学)
筑波大学が行う、小・中・高校生を対象とした生徒論文コンクール「科学の芽」賞の受賞論文を掲載する。2007年度から現在までの論文をPdfファイルで公開している。
①「科学の芽賞」ページを出す。
②「選択してください」欄から年度を選び、その年度の受賞論文リストを出す。
*キーワード検索するときはファンクションキーF3を押してsearch枠を出し、キーワードを入れる。そのページにあるキーワードがマークされる。
③関係する(可能性のある)論文題名をクリックして論文ファイルをダウンロードする。
④関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑤論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
算数・数学の自由研究受賞論文(理数教育研究所)
理数教育研究所が行う、小・中・高校生を対象とした算数・数学に関する生徒論文コンクテストの受賞論文。2013年度から現在までの論文をPdfファイルで公開している。
①「算数・数学の自由研究」ページを出す。
②受賞作品から年度を選び、その年度の受賞論文リストを出す。
*キーワード検索するときはファンクションキーF3を押してsearch枠を出し、キーワードを入れる。そのページにあるキーワードがマークされる。
③関係する(可能性のある)論文題名をクリックして論文ファイルをダウンロードする。
④関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑤論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
「統計データ分析コンペティッション」受賞論文(統計センター)
統計センターが公表する教育用標準データセット(SSDSE)などを利用して統計データを分析した論文のコンテスト。受賞論文のPdfファイルがweb公開されている。
①「統計データ分析コンペティッション」ページを出す。
②受賞作品から年度を選び、その年度の受賞論文リストを出す。
*キーワード検索するときはファンクションキーF3を押してsearch枠を出し、キーワードを入れる。そのページにあるキーワードがマークされる。
③関係する(可能性のある)論文題名をクリックして論文ファイルをダウンロードする。
④関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑤論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
生徒の理科(生徒の理科研究所)
生徒の理科研究所が発行する生徒理科研究のための自由閲覧査読有り電子論文誌。日本で最初で唯一の生徒理科研究のための査読有り電子論文誌である。2016年に創刊された。
①「生徒の理科」トップページを開く。
②「既刊論文・記事」のページを開く。
③既刊論文・記事全体のキーワード検索をする場合は、コンピュータではサイドバーにある「既刊論文・記事キーワード検索」欄にキーワードを入れる。携帯の場合は、トップバーにある検索欄にキーワードを入れる。関係する論文の要旨や本文が表示される。
④要旨の場合は「全文表示」クリックで論文を全文表示する。「ダウンロードPdf」クリックでPdfファイルをダウンロードする。
⑤関係する論文ファイルのコピーを保存する。
⑥論文のタイトル、著者名、発表年論文番号を記録する。
*「生徒の理科」掲載論文はgoogle検索でも検索できる。キーワードに ”生徒の理科” を加えて検索すると出る。この時はかならず「生徒の理科」を ” ” で囲わねばならない。
未来の科学者との対話(神奈川大学)
神奈川大学による生徒論文コンテスト「全国高校生理科・科学論文大賞」の受賞論文のリストを掲載する。論文本文のpdfファイルはweb上では公開されていない。しかし正式の出版物として一般公開されているのでここで紹介する。大賞と優秀賞の論文集が書籍「未来の科学者との対話」(日刊工業新聞社)として出版・販売される。努力賞はダイジェストのみ。
①「未来の科学者との対話」のページを開く。
②各年度に発行される巻「未来の科学者との対話」をクリックする。
③その巻に収録されている論文の受賞名・論文タイトル名・著者名が出る。
*キーワード検索するときはファンクションキーF3を押してsearch枠を出し、キーワードを入れる。そのページにあるキーワードがマークされる。
④論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
⑤論文pdfファイルはweb上にはない。書籍としてのみ出版・販売される。
全国学芸サイエンスコンクール金賞作品集(旺文社)
旺文社の主催する 全国学芸サイエンスコンクールの金賞作品集。論文本文のpdfファイルはweb上では公開されていない。しかし金賞作品集が正式の出版物として一般公開されているのでここで紹介する。金賞作品集は毎年旺文社から書籍として出版・販売される。
①「全国学芸サイエンスコンクール受賞者一覧」のページを開く。
②各年度に発行される巻「第~回受賞者一覧」をクリックする。
③「理科自由研究部門」や「自然科学研究部門部門」をクリックする。その巻に収録されている論文の受賞名、タイトル、著者が出る。
④論文のタイトル、著者名、発表年、受賞名を記録する。
⑤論文pdfファイルはweb上にはない。金賞受賞作品が書籍としてのみ出版・販売される。
論文のPdfファイルを取り寄せる
最後に上記の方法で得た論文の書誌事項(著者名、タイトル、掲載雑誌名、発行年、号巻、ページ)から論文のコピーを入手する。現在では論文の多くは電子ファイル(Pdfファイル)にして保存されている。そこで、インターネットにより論文の所在を知り、無料または有料でPdfファイルをダウンロード・印刷する。1つは論文の掲載雑誌のホームページからダウンロードする方法である。この場合は、自由閲覧の(著者が論文閲覧料を払っている)場合には、インターネットから直接ダウンロードできる。有料の場合はクレジットカードでの支払いが必要である。有料での入手は高価だが大学図書館や国会図書館等からより安価に入手できる場合がある。近くの大学の図書館に問い合わせるとよい。また、著者(筆頭著者または責任著者)のホームページをみるのも有効な方法である。論文のファイルが張り付けてある場合がある。さらに、論文の責任著者あてにメールをおくり、論文をファイルを送ってもらうという手もある。
他方、専門書の場合はPdfファイルになっている場合はほとんどない。実際の書籍からコピーを取る必要がある。生徒理科研究で使用する専門書は関係する専門学部のある大学に所蔵している場合が多い。所蔵リストは大学図書館のデータベースあるいは国会図書館のデータベースから見ることができる。所在場所を確かめてからその図書館あるいは研究室に問い合わせるとよい。
(質問)ホームページにある記事の全部または一部をwordにコピーしたり、Pdfファイルをダウンロードしたりするのは著作権法上問題はないのか。
(答え)適切な方法で使用するなら問題ありません。著作権の管理方法には2通りあります。まず、「© all right reserved」の表示がある場合や何の表示もない場合の管理方法は以下の通りです。この場合にはコピーしたりダウンロードしたりした記事やファイルを個人で私的利用する場合は問題ありません。また、高校で教師が出所を明示して記事・ファイル等を用いて教材を作成したり、教師や生徒がコピーした記事・ファイル(出所明示)を生徒に配布して授業に利用したりすることには問題はありません。著作権法は「例外的無断利用」を認めており、この範囲内であれば無断で利用できるからです(*1、2)。しかし、その他の場合には、記事・ファイルやその一部を他者に譲渡したり、コピーを他者に配布したり、自分の著作物等に利用したりしてはいけません。この場合は著作権者の許可が必要です。特に公衆に向け公開・掲示したり配布したりしてはいけません。他者に知らせたい場合は記事やファイルが掲載されているホームページアドレスを相手に知らせ、自分でコピーしたりダウンロードしたりしてもらいます。また、「© all right reserved」の表記のない著作物にも表記のあるものと同様に著作権が存在し、同様の扱いをしなければならないことも重要です。
*1-1 著作権については文化庁ホームページ「著作権Q&A~教えてぶんちゃん~」参照。
http://saiteiseido.bunka.go.jp/chosakuken_qa/
*1-2 文化庁ホームページ「著作権Q&A~教えてぶんちゃん~」カテゴリ別検索「著作物を自由に利用できる場合」
http://saiteiseido.bunka.go.jp/chosakuken_qa/
*2 科学論文等における著作権については、著作権(Wikipedia)参照。
https://ja.wikipedia.org/wiki/著作権
著作権のもう一つの管理方法は、記事やファイルに「CCライセンス」と表示がある場合です(*3)。この場合には一定の条件が満たされておれば著作権者の許可なく自由に利用できます。たとえば、「CCライセンスBY-NC(表示-非営利)」とあれば、著作者名と引用元(論文誌名あるいはURL)が表示され、しかも営利目的でない利用であれば著作権者の許可なく自由に利用できます。しかし条件を満たさない場合は著作権者の許可が必要です。ちなみに、「生徒の理科」に掲載される記事・論文はすべて「CCライセンスBY-NC(表示、非営利)」です。
*3 CCライセンスについては、クリエイティブコモンズJAPAN https://creativecommons.jp/licenses/ 参照。
高校等でwebからダウンロードした論文や記事を授業に用いる場合には、著作権法上、無断使用できる場合と著作者の許可がなければ使用できない場合があることについての適切な指導をしたうえで用いるのが適切です。なお、まれに「無断引用禁止」と書いているホームページがありりますが、法的には何の意味もありません。一般に公開されているホームページは著作権と新規性(Originality)尊重のルールを守る限りはだれでも引用し評論することができます。
関連記事①-----「生徒理科研究法 第2章 生徒理科研究には新規性が必要である 質問と答え」より-----
(質問)他者の論文のコピーが問題になっているが、生徒理科研究論文においても、他者の論文引用の過程で著作権侵害となることはないのか。
(答え)いいえ、適切に引用すれば著作権侵害とはなりません。引用は論文の新規性(Originality)に関係する概念であり、一方、コピーは論文の著作権に関する概念です。これら両者は異なる概念です。新規性に関する考え方は「論文発表をめざす生徒理科研究法 第2章 研究には新規性が必要である」に詳細に説明したとおり、社会的に正式に公表されている科学著作物について、その内容を参照するときは、引用元を明らかにして新規性(Originality)を尊重することを求めるものです。一方、著作権は人間の創作物に生じる権利で(*11)、生徒研究の報告書であっても、研究発表会のポスターであっても、口頭発表であっても、一般web情報であっても、あるいは、個人的なメモ書きであっても著作権はあります。また、著作権が生じるのはその創作物が作成された時点であって、どこかに登録するとか発表するとかしなくても生じます。そして、その創作物を他者が利用するには著作者の許可が必要です。したがって、著作権は論文に何の表示がなくても生じます。しかし、その利用のし方には2種類あり、表示記号で区別されます。©ライセンスとCCライセンスの2種類です。たとえば、© All right reservedと表示があれば、すべての利用方法について権利を主張し、他者が利用するには著作権者の許可が必要です。他方、CC BY NCと表示があれば、一定の条件下(この場合は、BYは著作権者名の表示、NCは非営利)では自由使用を認めるが、それ以外の使用については著作権者の許可が必要です。現在、多くの論文誌は©ですが、「生徒の理科」誌はCCです(*12,13)。
*11 著作権については文化庁ホームページ「著作権Q&A~教えてぶんちゃん~」参照。
http://saiteiseido.bunka.go.jp/chosakuken_qa/
*12 生徒の理科研究所ホームページ https://seitonorika.jp/ 「生徒の理科」生徒論文投稿規定 参照
*13 CCライセンスについては、クリエイティブコモンズ JAPAN https://creativecommons.jp/licenses/ 参照。
しかし、科学論文等では、科学的知見自身は人間の創作物ではないので、文章の「内容」、すなわち記述された「事実」や「データ」には著作権は生じません(*14)。著作権は「内容」ではなく「表現のし方」に生じます。さらに、「文章表現」やデータを示す「図・表」であっても、それが著作者の個性を表現するものではなく一般的・定式的に事実を記述するものならば、あるいは正確を期すために必要なものであれば、他者のものを自己の論文等に必要最小限そのままの形で使用しても著作権侵害にはなりません。(しかし、この場合、記述された内容には新規性があるので、他者のものを用いるときには「引用」が必要です。)結論は、論文発表・出版の場合には、新規性と著作権の内容を正しく理解し、どちらも尊重しなければなりません。
*14 Wikipedia 著作権 https://ja.wikipedia.org/wiki/著作権/ 参照
関連記事②-----「生徒の理科」生徒論文投稿規定より-----
科学論文は信頼性ある科学情報・論文を引用しながら書く。引用は定められた様式にしたがって行う。
論文は、一般的に明らかなことや先行研究等で明らかにされていることはすべて「出典(引用元)」を明らかにしながら書きます。著者がこの研究で明らかにしたことあるいはあらたに提起した考え方以外の内容はすべて引用元を明らかにしなければなりません。あいまいな伝聞や引用元の不明なことがらは科学情報としては引用できません。「出典(引用元)」は本文中に「著者名(発表年)」を記入することにより示します。ただし、著者が3名以上の場合の著者名は「第1著者名ほか」とします。著者名は姓だけを書きます。ホームページ情報で発行年が不明な場合には(ホームページ)とかきます。
(本文中での引用のし方)
(2名の時)――――この変化は常温では起こらない(村辻・村辻,2018)。
(3名以上の時)――――村辻ほか(2010)はこの現象を――――――
(発表年の不明なホームページ情報)ーーー生徒の理科研究所(ホームページ)ーー
インターネット上のホームページは重要な情報源です。しかし、そこから得られる情報の取り扱いには注意が必要です。インターネット上にある情報は基本的には原文献にまでさかのぼり、正式の引用を行います。査読のない紙誌に発表された報告や論文は、その信頼性には注意が必要ですが自分が重要と認めるなら引用できます。一方、著者や責任者が特定できないインターネットや紙誌の情報は信頼できる科学情報とみなすことはできません。根拠データの示されないブログ・ツイッター等の記事やホームページ情報は根拠ある科学情報としては引用できません。機器・ソフトの使用方法や科学法則の説明など有用な情報がホームページ上にありますが、これらの中には残念ながら著者名が明記されていない情報があります。このような著者名のあいまいな情報は「信頼できる科学情報」とはみなせません。しかし引用せざるを得ない場合は、自ら確かめるなどして自分が記事の信頼性に責任をもつことができるなら引用できます。しかし責任を持てない場合は引用してはいけません。
「引用文献」には、本文中に引用したすべての文献の文献情報を書きます。本文中に引用しなかった文献は書きません。ローマ字で表した時のABC順でリストします。文献情報の書き方は引用文献の種類により異なります。論文誌に掲載された論文の場合は、全著者名、発行年、論文の表題、掲載論文誌名、巻(号)、ページを書きます。単行本の場合は、著者名、発行年、本の表題、出版社名を書きます。編集(監修)本に掲載された論文の場合は、論文著者名、発行年、論文(章)の表題、本の表題、編集(監修)者名、出版社名、論文ページを書きます。教科書や参考書は単行本と同様に書きます。ただし、教科書や標準的な参考書で著者が5名を超えるときは、著者名は監修・編集者(または代表者)名と「他~名」とを書きます。さらに教科書の場合は教科書名のあとに「高等学校理科用」など、教科書とわかるように書きます。web論文誌やweb書籍の場合は、一般の論文誌や書籍と同様に書き、最後にDOI(デジタルオブジェクト識別子)(ある場合のみ)を書きます。論文コンテスト受賞論文の場合は、著者名、コンテスト実施年、論文の表題、コンテスト名、受賞名を書きます。一般のwebページの記事の場合は、記事著者名(ページ責任者・団体名)、発行年または最終更新日(記載のない場合は「ホームページ」と書く)、記事表題(ページ表題)、サイト名(~ホームページ)、ページアドレス(https://)、閲覧日時(yy/mm/dd)を書きます。具体的な書き方は、下の例や「見本論文」を参考にしてください。なお、単なる投稿サイトのweb記事や、記事著者名(ページ責任者・団体名)あるいはサイト責任者名(団体・会社名)のないweb記事は原則として引用することはできません。しかし、自分の責任で引用する場合は、上の一般webページ記事と同様に引用情報を書きます。
(「引用文献」での書き方)
論文誌に掲載された論文の場合 村辻理男・村辻秀雄(2018): あたらしい細胞観察法、生徒理科研究 4(2):16-31.
単行本の場合 村辻理男(2018): あたらしい細胞観察法,生徒の理科出版.
編集本に掲載された論文の場合 村辻理男(2016): あたらしい細胞観察法、これからの生徒理科研究、村辻理科子(編)、生徒の理科出版、56-85.
論文コンテストの受賞論文 村辻理男(2017): 新しい細胞観察法、第3回学生理科研究コンテ、優秀賞.
一般webページの場合 生徒の理科研究所(ホームページ): 「生徒の理科」とは、「生徒の理科研究所」ホームページ、https://seitonorika.jp/journaltop/、2018/07/26.
関連記事③-----「生徒理科研究法 第2章 生徒理科研究には新規性が必要である 質問と答え」より-----
(質問)チェック・引用必須情報になっている多くの生徒理科研究論文は査読を経た論文ではない。したがって内容に誤りが含まれている可能性がある。また、参照した一般研究論文や専門書でも誤りやいいすぎがある可能性がある。それなのに、これらを正しい情報として引用しなければならないとすると問題が生じるのではないか。
(答え)「引用」の意味の誤解です。「理科教科書等や関係するチェック・引用必須情報の論文は引用すべきである」とは、その内容が正しいものとして引用すべきだという意味ではありません。無視してはならない、言及すべきだということです。すなわち、正しいものとして肯定的に引用してもよいし、間違いだとして批判的に引用してもよい。しかし、無視してはならないという意味です。
このとき、考慮すべきは査読有り論文誌に掲載された論文か否かです。査読有り論文誌に発表された論文は著者らの正式の発表として肯定的にも否定的にも引用すべきです。また、査読有り論文誌ではなくても社会的影響力のある情報(例えば教科書や専門書など)は、やはり肯定的にも否定的にも引用すべきです。しかし、査読有り論文誌以外の情報で、影響力も小さいものをあえて引用して否定的に評価するのは適切ではありません。なぜなら、その情報が正式の発表ではなく、研究途上の報告でありその後変化する可能性があったり、あるいは、うまくいかなくて途中で中止した研究であったりする可能性があるからです。ここから、生徒理科研究の発表会要旨集や研究報告集は引用すればよい、あるいは引用されればよいというものではないことが分かります。