コンテンツへスキップ

2020-1h(一般記事)論文発表をめざす生徒理科研究法 第1章 論文を読んで研究とは何かを学ぶ

Seitonorika 2020-1,2020年5月11日掲載,ダウンロードPdf

生徒の理科研究所
〒623-0342 京都府綾部市金河内町奥地22番地,https://seitonorika.jp,  uketuke@seitonorika.jp

要旨:生徒理科研究を行うには、最初にレベルの高い生徒理科研究論文を読み、「研究とは何か」を理解しておくとよい。
類別:一般記事 分野:生徒理科研究 キーワード:論文講読、論文構成

 生徒は理科の勉強は知っていても、理科研究の経験はほとんどありません。そこで研究に取り組むには、まず、「研究とは何か」について前もってイメージ(見通し)をつくっておく必要があります。そのためのもっとも有効な方法は論文を読むことです。日本学生科学賞(読売新聞社)(*1)の最近の受賞論文を読むとよいでしょう。論文の構成には未熟さがありますが、研究そのものはしっかりしているものばかりです。各自が読むだけでなく、論文講読演習として、教師による授業指導やグループ講読会により、論文の構成と科学的論理展開法への理解を深めます。大学での研究室ゼミのように、生徒自身による論文紹介を行うのも効果的です。各人が1編だけでなく数編の論文を読み、基本パターンと多様性を理解することが大切です。
*1 日本学生科学賞(読売新聞社)(https://event.yomiuri.co.jp/jssa/). 受賞論文のpdfファイルが「理科自由研究データベース」(御茶ノ水女子大学)(http://sec-db.cf.ocha.ac.jp/)でweb公開されています。

図1 科学論文の構成 論文は一定の様式に従って記述される。

まず論文を概観しながらつぎのことを確認しましょう。①論文は、研究成果を社会的に公表・記録し、科学の発展と社会に貢献するために書かれたものです。授業単位を取得したり、コンクールで賞をとったり、大学入試を有利にしたりするためにあるのではありません。論文を出版・公表して初めて研究成果は人々のものになり、社会の財産になります。②科学論文は読者に効果的に内容を伝えるために、一定の様式に従って書かれています。すなわち、論文は、研究課題(テーマ)、著者名、要旨、はじめに、材料と方法、結果、考察、謝辞、引用文献からなっています。③研究課題(テーマ)は読者が内容をすぐに理解できるように具体的で正確な言葉をもちいて短くあらわされています。④要旨には研究の研究目的と結果・結論が短くまとめられています。⑤「はじめに」には研究を論文発表する理由と研究目的、すなわち、文献引用による既知情報のまとめと、新規の課題・問い(疑問)の提起、研究結果と結論の概要が説明されています。⑥材料と方法には、研究対象・材料・調査地、実験・調査方法・データの取り方、データ処理のしかたが、同じ分野の研究者なら追試できるように書かれています。⑦結果では、まず、実験・調査・理論計算の結果が図・写真・表・グラフや計算式にもとづき説明され、さらにそこから論理的に導かれる結論が説明されています。⑧考察では、結果・結論を短くまとめた上で、その新規性と学問的意義および社会的意義についての著者の考えが、先行研究や関連情報を引用しながら説明・議論されています(*2)。
*2 論文の各構成要素の詳しい説明は、本稿の「第5章ポスターと投稿論文の作成法」参照。

論文は正確に読む、分析的に読む、批判的に読みます。具体的なポイントは以下の4点です。①まず論文の構成要素を理解できるようになることが重要です。論文のどの部分が上記論文要素のどれに該当するのか仕分けし、各要素の内容を上記説明に従い分析・確認する練習を行いましょう。先に述べたとおり、日本学生科学賞受賞論文には、各要素に正確に分けられていなかったり、構成に混乱があったり、一部が欠けていたりしているものもあるので、そのことも分かるようになりましょう。②つぎに、提起された問い(疑問)と実験・調査法、結果と結果から導かれる結論との間にある厳密な論理的関係を理解することが重要です。各実験・調査がどのような問い(疑問)を解決するために行われたのか、実験・調査はその問いに答えるために適切に計画・実施されているか、実験・調査結果から導かれる結論は論理的に正しいか、あいまいな推論や思い込みがまじっていないか、その結論は最初に提起した問いの答えとなっているか、などを検討します。この時、仮に実験・調査結果が別のものになった場合には結論はどのように変化するのか、疑問に答えるためにもっと別の実験・調査はないか、などを考えることも重要です。③第3に、研究の新規性と結果・結論の意義に対する理解と検討が重要です。著者は研究の新規性をどのように主張しているか、研究の結果・結論の新規性の意義をどのように主張しているか、その主張が適切かあるいは別の考え方も成り立つのかを検討します。また、この研究をさらに発展させるためにはどのような新規性のある問いあるいは研究が考えられるかをみんなで議論すれば理解が深まります。④最後に、研究方法のレベルと研究に必要な労力を検討します。研究方法のレベルは、中学から高校3年生までの理科教科書やこれまでの生徒理科研究の範囲にあるか、あるいは高校レベルを大きく超える特殊なものかを検討します。研究に必要な労力は、その研究を行うのにどれだけの人数と時間が必要とされるかを検討します。そして、自分たちでもそのつもりで取り組めば同様の研究が可能か否か、どのようにしたら同等の研究をすることができるかについてみんなで議論しましょう。

論文講読から得られる知識や思考能力は、研究課題を考えたり、研究計画を立てたり、実験をしたり、実験結果を解釈したり、論文を書いたりするときに役立ちます。理科研究法や科学的思考法を一般論として説明するだけでは、理科研究経験のない生徒にはほとんど理解できません。具体的事例を用いた論文講読演習により、はじめて知識や能力は身に付きます。ここで重要なことはレベルの高い生徒理科研究論文を読むことです。レベルの低い論文では効果はありません。その意味で日本学生科学賞の受賞論文は適切です。部活であれば毎月一編の論文を読む、探究活動の授業であれば少なくとも数編の論文を読むことをすすめます。効果的な少人数教育のためには大学院学生等の教育補助者の役割も期待されます。

最後に、英語で書かれた一般研究(大学院博士課程レベル)の通常論文(full paper)を紹介します。論文がどのようなものであるのかを理解するための参考にしてください(*3)。
*3 大学院博士課程レベルの通常論文。Google検索でDOI番号または論文のタイトルを入れるとpdfファイルをダウンロードするためのホームページが出ます。

Akagawa H., Hara Y., Togane Y., Iwabuchi K., Hiraoka T., Tsujimura H. (2015): The role of the effector caspases drICE and dcp-1 for cell death and corpse clearance in the developing optic lobe in Drosophila. Dev Biol. 404(2):61-75. DOI:10.1016/j.ydbio.2015.05.013

Nagano H., Fukudome A., Hiraguri A., Moriyama H. and Fukuhara T. (2014): Distinct substrate specificities of Arabidopsis DCL3 and DCL4. Nucleic Acid Research 42: 1845-1856. DOI:10.1093/nar/gkt1077

Sekimura T., Fujihashi Y., Takeuchi Y. (2014): A model for population dynamics of the mimetic butterfly Papilio polytes in the Sakishima Islands, Japan. J Theor Biol. 361:133-40. DOI:10.1016/j.jtbi.2014.06.029

この文章は、生徒の理科研究所ホームページ(https://seitonorika.jp)の「生徒理科研究法」から作成したものです。(2020年5月11日)