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2025-1h(生徒論文)動的ストレッチと着圧ウェアの併用が運動パフォーマンスに与える影響

Seitonorika 2025-1 2025年8月19日出版 Pdfダウンロード

中山 大地1,砂川 耕作2,中山 淳2
1)三田学園高等学校,〒 669-1535 兵庫県三田市南が丘 2-13-65
2)関西医科大学リハビリテーション学部,〒 573-1136 大阪府枚方市東町18-89
*:生徒
責任著者:中山淳、nakayama.jyu@kmu.ac.jp、関西医科大学リハビリテーション学部

要旨:ダイナミックストレッチ(以下:DS)は、動きの中で関節可動域を拡大させるストレッチ方法であり、瞬発的パフォーマンスの向上に効果があることが示されている。一方、スポーツ分野で広く用いられるコンプレッションウェア(以下:CG)は、身体に局所的な圧力を加えるもので、筋肉や関節への負担軽減、血流改善、けがの予防などの生理学的効果が期待されている。しかし、CGの着用タイミングや有無、およびDSとCGの併用効果に関する研究は限られている。そこで本研究では以下の4条件を設定し、5種類の運動テストを通じて、それぞれの条件が運動パフォーマンスに与える影響を比較・検討した。①ストレッチなし・CGなし(対照条件:CL)、②DS実施、③CGのみ着用(DSなし)、④CG装着後にDS実施。その結果、運動パフォーマンスのみならず敏捷性の向上においてはDS単独の実施が有効である可能性が示唆されたさらに、CGの効果についてはサイズや装着感が個人差により大きく異なることが明らかとなり、不適切なサイズのCGを着用することはかえってパフォーマンスを低下させるリスクを伴うことが示唆された。
類別:生徒論文 分野:生物 キーワード:ダイナミックストレッチング,コンプレッションウエアー,運動パフォーマンス,バッテリーテスト

はじめに

 運動前後のストレッチングは運動パフォーマンスに影響を及ぼすことが知られている(山口ら2010,山口ら2007)。また、ストレッチングの種類によって運動パフォーマンスに与える影響が異なることも知られている。ストレッチングとは、筋や腱を伸ばし、柔軟性や関節可動域の改善を期待する運動である(市橋1978)。その方法の一つに、反動をつけずにゆっくりと限界の可動域まで筋腱を伸ばし維持するスタティックストレッチング(以下:SS)がある。SSは、瞬発的なパフォーマンス発揮に正負の影響を及ぼさないあるいはパフォーマンスを低下させることが示されており(山口ら2010)、運動機能を向上させることを示した研究はない(山口ら2010,山口ら2007)。しかし、SSが動的バランス能力を向上させるとの報告は散見される。また、もう一つの方法である反動や弾みをつけて行うバリスティックストレッチング(以下:BS)も運動パフォーマンスを低下させる(山口ら2010)、あるいは正負の影響を及ぼさないとの報告がある(山口ら2010)。以上の報告よりウォームアップにおける運動パフォーマンス向上のためのストレッチングとしてはSS、BSともに推奨されていない可能性がある。ところが、第 3 の方法である、動きの中で関節可動域を広げるダイナミックストレッチング(以下:DS)は、瞬発的なパフォーマンスの向上効果が明らかとなっている(山本ら2013)。さらにDSは筋力を向上させることも明らかになっている。加えてDSが持久的なパフォーマンスに影響を及ぼすことについても報告されている(山口ら2010、山口ら2007、山本ら2013)。以上より瞬発的なパフォーマンスの発揮が必要とされる運動前のフォームアップとしてDSの実施が有効であると言える。一方。スポーツの動作の補助などの目的で使用されている着圧式の衣服製品にサポーターやスポーツ用スパッツなどのコンプレッションウェア(以下:CG)がある。局所的に衣服圧を与えることで、筋肉や関節への負担の軽減、保温による血流促進などの生理的効果と、過度な動きの抑制や衝撃吸収などの外傷予防的効果も期待されている(竹内亮ら2023)。しかし、CGについての装着時間や装着の有無、DSとの組み合わせが運動パフォーマンスに与える影響についての検討はない。

今回我々は、瞬発的な運動パフォーマンスの発揮に有効とされる DS と、生理的効果が高いとされる CG を併用することで、単独で実施する場合よりも運動パフォーマンスが向上するという仮説を設定した。この仮説を検証するために、以下の 4 つの条件――①ストレッチングなし・CG 装着なし(以下:CL条件)、②DS 実施のみ(以下:DS 条件)、③CG 装着のみ(以下:CG 条件)、④CG 装着後にDS を実施(以下:CG+DS 条件)――を比較検討し、どの条件が運動パフォーマンスの向上に最も影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。

この研究はこれまでの生徒理科研究および参照情報を超える新規性がある。

 材料と方法

 被検者は整形外科学的および神経学的に異常の無いスポーツ歴7.2年の健常若年男性7名女性3名であった。平均年齢は、20.7±0.8才。体組成計(INFIELD社)にて身体機能を計測した。身長は、166.2±4.5cm、体重68±5.6kg、BMIは24.5±6.1、体脂肪率17.8±8.4%であった。本研究における対象者は大学生とした。高校生は成長期の個体差が大きく、運動機能や筋力にもバラつきがあるため、パフォーマンス評価の再現性や妥当性が下がる可能性がある。一方、大学生(20歳前後)は身体的な発育がほぼ完了しており、測定データの安定性が高く、より信頼性のある比較が可能であるためである。

図1 運動パフォーマンステストのスケジュール
CL:コントロール DS:動的ストレッチング CG:コンプレッションウェア
5つのバッテリーテストは,疲労の影響が出ないようにCL条件,DS条件,CG条件,CG+DS条件の4つを隔日に実施した。

JSPO日本スポーツ協会から報告している以下の5つのバッテリーテストを実施した(文部科学省ホームページ「新体力テスト実施要項」 2019)。バッテリーテストは、体力を多角的、総合的に評価するための新体力テストである。テストは、立ち幅とび、上体起こし、腕立て伏せ臥腕屈伸、時間往復走、5分間走の5項目からなる。

1.立ち幅とび:瞬発力

両足で同時に踏み切って、できるだけ前方に跳び、踏み切り線から直角に、もっとも近い着地点までの距離を測定する。

2.上体起こし:筋力

床に仰向けに寝た状態で、膝を直角に曲げ、指を組んだ両手を頭の後ろにあてる。「用意―始め」の合図で、両肘が両膝にふれるまで上体を起こし、再び背中が床に触れるまで倒してもとの姿勢に戻る。この動作を出来るだけ早く、正しく30秒間繰り返し、上体を起こして両肘が両膝についた回数を数える。

3.腕立て伏せ臥腕屈伸:筋持久力

実施者は、両足をそろえて補助者の背中に乗せた状態で、腕立ての姿勢からアゴが両手の間の床に触れるまで両腕を曲げ再び伸ばす。これを2秒に1回くらいのリズムで繰り返し。屈伸出来た回数で評価する。

4.時間往復走:敏捷性

5mの平行線間を往復して走り、折り返すたびに両側の平行線の外側50cmにひかれたタッチラインに片手を触れる。15秒間実施し、走った距離で評価する。

5.5分間走:全身持久力

5分間に走った距離を測り,記録とする。

テストとテストの間は15分間の休憩を挟んで実施した。

条件設定は、CL条件、DS条件、CG条件、CG+DS条件の4つとした。各評価は、疲労の影響が出ないように各条件を隔日に実施した。研究のスケジュールを図1に示す。計測は、熱中症警戒アラートが発表されている時間帯での実施は行わず、暑さ指数(WBGT)が25以上になれば中止することとした。熱中症予防対策では、可能な限り水分補給を休憩の合間に実施した。実施場所と実施時間は屋内および夕方の時間に実施した。本研究は、研究内容を説明したうえで、同意書および同意撤回書を準備し同意を得て実施した。本研究で得られた結果は、JSPO日本スポーツ協会運動適正テストの平均年齢を基準にして算出した。

本研究は関西医科大学の倫理審査委員会の承認(2024197)を得て実施した。

統計学的解析にはIBM SPSS Statistics 30を用いた。反復測定による一元配置分散分析では、Friedman検定を実施し統計学的有意を確認した後に、事後検定としてBonferroni検定にて分析した。有意水準は5%未満とした。

図2 本研究で実施したダイナミックストレッチ
ダイナミックストレッチは,10年目以上のセラピストが監視した下で膝関節伸筋群および屈筋群,足関節の背屈筋群,底屈筋群のストレッチングを2セット10回実施した.実施方法は,1セット目は2秒上げ2秒下げの動作を各10回繰り返し,2セット目は1秒上げ1秒下げの動作を10回繰り返した.セット間の休憩は20秒とした。

2-1).DSの方法

DSは、筋の伸張のために用いる比較的新しい方法である。DSは脊髄反射の一つである相反神経支配を利用し、伸張したい筋の拮抗筋を動的に収縮させることで伸張したい筋を相反抑制により弛緩させる方法である(山口ら2007、市橋1978、山本ら2013)。本研究では、山本ら(山本ら2013)の報告に従って、図2に示す3種類の膝関節伸筋群および屈筋群、足関節の背屈筋群、底屈筋群のストレッチングを2セット10回実施した。実施方法は、1セット目は2秒上げ2秒下げの動作を各10回繰り返し、2セット目は1秒上げ1秒下げの動作を10回繰り返した。セット間の休憩は20秒とした。尚、ストレッチングは、10年以上の経験豊富なセラピストの監視指導のもとに実施した。

図3 本研究で用いたコンプレッションウエア:着圧式弾性のロングタイツの形状
被覆範囲は腰から足首までのロングタイツの形状のものを用いた。

2-2).CGの着用方法

CGウエア(ニューバランス社製)は、着圧式弾性のものとした。図3のように被覆範囲は腰から足首までのロングタイツの形状のものを用いた。

結果

 得られた結果は、文部科学省新体力テストにおけるテスト項目別得点表を用いて、各項目について1〜10点の10段階で算出した。結果を図4に示す。

図4 バッテリーテストの結果
× 平均値 上バー:最大値から第三四部位数 下バー:最小値から第一四部位数
バッテリーテストの結果は,文部科学省新体力テストにおけるテスト項目別得点表を用いて,1〜10点の10段階で評価した。

立ち幅跳びは、CG条件が6.2±0.7点、次いでDS条件が5.2±1.1点、CL条件が4.8±0.9点、CG+DS条件が4.7±0.9点であり、各条件において差は認めなかった。上体起こしに関しては、DS条件は7.3±0.9点、CG条件が6.8±0.7点、CL条件が6.8±0.7点、CG+DS条件が7.3±0.5点であり、各条件において差は認めなかった。次に腕立て伏臥腕屈伸に関しては、DSが8.3±1.1点、CG+DS条件が7.2±0.7点、CL条件が7.3±0.7点、CG条件が8.2±0.7点であり、各条件において差は認めなかった。時間往復走に関しては、CG条件(6.3±0.7点)と比較してDS条件(8.2±0.7点)において有意に高かった(P=0.032)。また、CL条件(6.7±0.7点)と比較してもDS条件において有意に高かった(P=0.021)。CG+DS条件は7.7±0.9点で各条件との差は認めなかった。最後に5分間走では、DS条件7.8±0.7点、CG条件6.2±0.7点、CL条件6.3±0.9、そしてCG+DS条件が6.8±0.7点であり、各条件において差は認めなかった。

考察

 本研究結果から、DS条件は5つのバッテリーテストの中で時間往復走では、CL条件(未装着)およびCG条件よりも有意に高い結果となった。時間往復走は持久力や筋力に加えて敏捷性を必要とするテストである。山口ら(2012)は、DSの実施回数、実施時間などについては、実施合計回数は10から30回(10回×1セットから15回×2セットまで)が運動パフォーマンス向上のための適切なストレッチングの量として報告している。本研究結果においてもDSの実施回数は、20回として同様に実施したため、DS条件は他の3つのテストでも数値的には最高値を示す傾向があり、今回の結果は先行研究と一致している。また、先行研究より(新谷ら 2019)敏捷性と運動パフォーマンスは高い相関関係にあることから、DSは敏捷性を向上させる効果もあることが推測される。

時間往復走のCG条件については,CL条件とは差が生じずDS条件と比較して有意に低い結果となった。松本ら(2013)は、着圧が20mmHgの条件でのみ膝関節伸展トルクが増加し、それ以上やそれ以下の場合は、運動パフォーマンス効果はえられず、逆に阻害することがあると報告している。本研究では、CG条件の着圧力は測定しておらず、装着サイズも小さくフィット感がえられていなかった。そのため20mmHgを超えていた可能性があり、着圧効果が得られなかったのではないかと考えられる。一方、立ち幅跳びは、最高得点を示す傾向にあった。細谷ら(2009)やMacRae BA(2011)は、着圧によって筋や組織が圧迫されることで、筋組織の振動の抑制と静脈還流の亢進効果によってパフォーマンスは向上し、運動中や運動後の疲労を軽減する。また,加圧による短時間の血流制限によって速筋繊維が活性化すると述べている。以上のことから、立ち幅跳びなどの下肢筋力の瞬発的な筋力を要する動作に効果が生じたのではないかと考えられる。

CG+DS条件の運動パフォーマンスは、バッテーリーテスト5つの項目でDS条件よりも低い結果となった。DSは相反性抑制効果を利用して筋機能の向上を目的として利用される。しかし,本研究で用いたCG条件は,着圧が20mmHgを超えていた可能性があるため、DS条件で認められる相反性抑制効果がえられにくかったのではないかと推測される。

得られた結果からはDS条件とCG条件を併用による顕著な相乗効果は確認されなかった。

結論的には、本研究では新規に運動パフォーマンスのみならず敏捷性の向上においてはDS単独の実施が有効である可能性が示唆された。さらに,CG条件の効果についてはサイズや装着感が個人差により大きく異なることが明らかとなり、不適切なサイズのCGを着用することは、かえってパフォーマンスを低下させるリスクを伴うことが示唆された。従って,当初の仮説は支持されず,DS単独での実施の有効性と、CG使用における個別性の重要性が示された。

 今後の課題

本研究ではいくつかの弱点があった。まず、ストレッチについてはDS条件のみしか計測しておらず、他のストレッチ方法については、検討できていない。また、CGの着圧力も計測出来ていない。最後に、本研究のサンプルサイズ(n=10)は統計的検出力の観点から限界がある。Cohen(1988)の基準では、中程度の効果量(d=0.5)を検出するために必要なサンプルサイズは各群15名以上とされており、本研究の結果を一般化す際には慎重な解釈が必要である。統計的有意差は時間往復走のみに認められたが、DS条件は他の4項目でも数値的には最高値を示す傾向があった。これは統計的検出力の不足による可能性がある。今後は、より大きなサンプルサイズでストレッチの種類やCGの着圧計測を行い検証することが必要である。

利益相反

本研究においての利益相反はない。

役割分担

中山大地:研究企画、材料準備、実験実施、データ処理、図表作成、論文作成
砂川耕作:研究企画、技術指導、データ処理
中山淳:技術指導、データ処理

引用文献

 市橋則明編集(1978):運動療法学 第2版、文光堂、 東京、192-104。
細谷聡、他3名 (2009):サポーターの装着圧と伸縮性が上腕の筋疲労に及ぼす生理的効果、日本感性工学会論文集、8(2):279-283。
松本奈々、他2名(2013):大腿部への圧迫が電気刺激による誘発膝関節伸展トルクに及ぼす影響、トレーニング科学、25(1):5-60。
山口太一、他1名(2010):運動前のストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響について、JSA 1-10.
山口太一、他1名(2007):運動前のストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響について-近年のストレッチング研究の結果をもとに-, Creative stretching 5:1-18.
山口太一、他1名(2012):研究結果からウォームアップにおけるより良いパフォーマンス発揮のためのダイナミックストレッチング方法を考える、JSA 1-6。
山本忠志、他2名 (2013):静的及び動的ストレッチによる筋力発揮への影響について、兵庫教育大学 42:53-57.
文部科学省ホームページ「新体力テスト実施要項」(2019):https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/stamina/03040901.htm
竹内亮、他1名(2023):下肢圧迫下における跳躍運動による筋疲労自覚症状への影響―コンプレッションタイツを用いたトレーニング方法の検討―、大阪体育大学教育学研究 7:35-45。
新谷健、他6名(2019):高校男子サッカー選手における体幹筋機能と競技パフォーマンスとの関係性、日本臨床スポーツ医学会誌 27(1):20-26.
MacRae BA,Cotter JD, et al.(2011):Compresion Garments and Exercise, Sportsmed, 41:815-843.
Cohen, J. (1988): Statistical power analysis for the the behavioral sciences 2nd ed., Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.

(英文)表題・著者名・要旨

Seitonorika 2025-1
The Effects of Combining Dynamic Stretching and Compression Garments on Athletic Performance

Daichi Nakayama1, Kosaku Sunagawa2, Jun Nakayama2

Abstract: Dynamic stretching (DS), which increases joint range of motion through movement, has been shown to enhance explosive performance. Compression garments (CG), commonly used in sports, apply localized pressure to the body, and are expected to provide physiological benefits such as reduced muscle and joint strain, improved blood flow, and injury prevention. However, there is limited research on the timing of CG application, the presence or absence of CG, and the combined effects of CG and DS on athletic performance.
Therefore, this study aimed to clarify how different combinations affect performance by comparing four conditions across five athletic tests: (1) no stretching and no CG (Control: CL), (2) DS followed by CG application, (3) CG application during DS, and (4) CG application alone. The results suggest that DS alone was the most effective not only in improving overall athletic performance but also in enhancing agility. Additionally, the effect of CG was found to vary greatly depending on individual differences in size and fit. Improperly sized CG may carry the risk of decreasing performance rather than enhancing it.