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2022-1h(一般情報)線虫研究に興味のある高校生・教師のみなさまへ ― 線虫の入手方法と安全対策(改訂版)

Seitonorika 2022-1h, 2022年1月20日掲載, Pdfダウンロード

辻村秀信
生徒の理科研究所 〒623-0342 京都府綾部市金河内町奥地 22 番地,
tsujmr@seitonorika.jp

要旨:土壌線虫Caenorhabditis elegansはさまざまな生物学・生命科学研究に用いられるモデル生物である。ここでは、この線虫をもちいて生徒理科研究を行うために必要な情報をまとめた。内容は以下のとおり。線虫C.elegansの入手方法、実験における安全対策、線虫を用いた実験方法、線虫の生物学、日本の線虫研究者。
類別:一般記事、分野:生物、キーワード:線虫、実験方法、安全対策、モデル生物


線虫Caenorhabditis elegans(N2株)と大腸菌OP50株の入手方法

 モデル生物の土壌線虫C. elegans(野生型:N2株)と餌の大腸菌OP50株の入手は、高校教師を通して線虫を研究する大学研究室に依頼すると多くの場合応じてくれます。以下は分譲依頼に応えていただける線虫研究者です。ホームページから連絡方法を調べてメールや電話で依頼します。
三谷昌平 先生(東京女子医大)
飯野雄一 先生(東京大学)

実験に必要な安全対策

①線虫C.elegansはヒトにも動植物にも寄生しない無害(バイオセーフティレベル1、BSL1)な土壌線虫です。日本にも住み、たとえ野外に逃げたとしても外来生物による汚染とはなりません。

②餌の大腸菌OP50株はヒトに無害(BSL1)な大腸菌です。

③高校レベルの研究・実験では野生型と変異体は用いるが、遺伝子組み換え体は用いません。

④実験には一般微生物学実験レベル (BSL1) の安全対策をとります。具体的には高校教師の指導の下に「高等学校などで遺伝子組み換え実験を行う皆様へ:遺伝子組み換え実験を行う際に注意すべきルール」(文科省ライフサイエンス課)を準用し、ルールの「遺伝子組み換え生物等」を「微生物・線虫」に読み替えて行います。
https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/9_12.pdf

この他に、実験は白衣を着て行う。ピペット操作は安全ピペッターを使い、口づけはしない。微生物・線虫を扱う実験はゴム手袋をつけて行う。実験中は手で口・鼻・目を触わらない。実験区域で飲食をしない。微生物・線虫を保存する冷蔵庫等に人の飲食物を保存しない。

⑤野外の土壌から採取した線虫(未同定)を培養・増殖する実験は高校レベルでは推奨しません。土壌中には様々な種類の線虫が住んでおり、ヒトや哺乳動物に有害な線虫(BSL2以上)を意図せず殖やしてしまう危険性があるからです。なお、外国の土壌や線虫を無許可で国内に持ち込むことは禁じられています。

線虫を用いた実験方法

線虫C.elegansを用いた実験方法は公表されています。以下の①と②は特に役立つ情報です。①は高校生のための実験方法です。②は研究者向けの方法ですが生徒理科研究にも役立ちます。③は英語で書かれた研究者用の方法です。

①鈴木恵子: 線虫C.elegansの教材化, In啓林館 生物授業実践記録アーカイブ一覧,
https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kou/science/seibutsu-jissen_arch/201411/

②三谷昌平(編)(2003): 線虫ラボマニュアル、シュプリンガー・フェアラーク(線虫の研究方法)

③WormMethods: In WormBook,
http://www.wormbook.org/toc_wormmethods.html、(線虫の研究方法)

線虫C.elegansの生物学

①広津崇亮(2019): がん検診は線虫のしごと、光文社

②飯野雄一・石井直明(編)(2003): 線虫 究極のモデル生物、シュプリンガー・フェアラーク

③松浦哲也(2006):線虫の化学感覚と行動、比較生理生化学, 23(1),10-19.

④WormBook:
http://www.wormbook.org/index.html(線虫C.elegansの研究情報のまとめサイト)

⑤Kanzaki et.al.(2018): Biology and genome of a newly discovered sibling species of Caenorhabditis elegans, Nature Communications, 9-3216.(野外から採取したC.elegansの近縁種の研究)

日本の線虫研究者

 虫の集い: http://www.wormjp.umin.jp/jp/index-j.html

その他関連情報

①ES Dolgin1 , M-A Fe'lix and AD Cutter(2008):Hakuna Nematoda: genetic and phenotypic diversity in African isolates of Caenorhabditis elegans and C. briggsae, Heredity 100, 304–315.(C.elegansが日本にも生息すると記載している。)

②文部科学省ライフサイエンス課:高等学校などで遺伝子組み換え実験を行う皆様へ―遺伝子組み換え実験を行う際に注意すべきルール
https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/9_12.pdf

③WHO実験室バイオセーフティ指針第3版 (生物安全対策のレベルとガイドライン)
https://www.who.int/csr/resources/publications/biosafety/Biosafety3_j.pdf
バイオセーフティレベル(BSL):実験に必要な生物安全対策のレベル

④個々の微生物等の実験に必要な安全対策は大学教員にお聞きください。バイオセーフティレベル(BSL)は各大学で定められています。またそのレベルは固定的なものではなく、研究の発展に応じて変化します。

⑤Antoine Barriere and Marie-Anne Felix:Isolation of C.elegans and related nematodes, In Wormbook.
http://www.wormbook.org/chapters/www_nematodeisolation.2/nematodeisolation.2.html  (野外のC.elegansと近縁種の採取・培養・種同定法。p14にヒトに有害な土壌線虫の報告3例が紹介されている。)

⑥横浜植物防疫所 「植物防疫制度について」
https://www.maff.go.jp/pps/j/introduction/japanese.html
(土や病害虫の日本への持ち込みを禁止)

2022年2月2日 改訂